244話
244話
マリナと別れて遅めの昼飯を済ませた俺らはアリアの案内で神殿までやってきた。
俺がこの町で知っている数少ない場所である噴水広場。その先の並木道を抜けたところに開けた場所があり、その中心に佇む大きな建物が神殿らしい。
噴水広場の先は行ったことがなかったし、ちゃんと見てなかったから、こんなところに神殿があることを今日初めて知った。
いや、もしここを通ったことがあったとしても、これが神殿だとはわからなかっただろうな。
ぶっちゃけちょっとデザインに凝ってるだけのただの大きな建物だからな。
神殿といわれれば確かに厳かな感じがしなくもないが、いわれなきゃ金持ちが趣味で作った豪邸だろう程度にしか思わない。
一応、神殿の目立つところに神教のシンボルマークがついてはいるが、さっきアリアに教えてもらうまであれがシンボルマークとは思わなかった。
なんか丸の中に模様のようなものが描かれたやつがシンボルマークらしいんだが、ぱっと見じゃ何を表してんのかさっぱりわからん。
アリア曰く、変な模様が人間領と魔族領を合わせたこの大陸で、丸が太陽と月と世界を表しているらしい。
いわれれば大層なマークだ。
こんなことを思ってたらバチが当たるかもな。
確か神殿は創造神が祀ってある場所らしいし。
アリアについて神殿に入ると、神官たちが着ているものにもちゃんとあのマークが入っているから、あれがシンボルマークで間違いないだろう。べつにアリアを疑ったわけではない。
「…この2人のジョブ変更をお願いします。」
入り口近くにいた神官っぽい人にアリアが声をかけて銀貨を渡していた。
けっこうな枚数渡しているが、ジョブを設定するだけでそんなに金取るのかよ。
というか、一応この金も神へのお供え的な意味だと思うんだが、なんかアリアの渡し方がお店に料金を支払っているようにしか見えない。いや、店員に対する態度よりも視線が冷たいように見えるが、さすがにそれは気のせいか。
「ありがとうございます。それでは、神の奇跡をお受けになる方はこちらへ。」
ニコリと笑顔を作った神官がクレハとユリアに声をかけてから奥へと歩き出し、2人は慣れているのか疑問を持つことなくついていった。
神官が進んでいく先には開けっ放しにされている扉があり、その奥の部屋はホールのような場所になっている。部屋の中では人が膝を折って祈りを捧げている姿が見える。
クレハとユリアを連れた神官は部屋に入ってすぐに曲がっていったから、祈りを捧げてジョブ変更をするというわけではなさそうだな。
祈ってる人たちは普通にお祈りに来ている神教徒だろう。
ここからだと信者たちが祈りを捧げているであろう石像が足しか見えない。
ちょっと神がどんな顔なのか気になり、扉まで近づいてみたが、勝手に移動してもとくに文句はいわれないようだ。
近づいたことで全体像が見えるようになった石像は想像していた姿とだいぶ違った。
勝手な神のイメージは長髪で髭もじゃのお爺ちゃんだったんだが、祀られている石像は短髪オールバックのダンディーなおじさんだ。
服装はここの神官が着ているものをもうちょい豪華にしたもので、左手に持った本を脇に抱えている。
正直、見た目はあんまり神様って感じじゃねぇな。
「…ジョブ取得とジョブ設定が神の奇跡なら、リキ様はやっぱり神様というわけですね。」
俺がホールの中を見渡していたら、アリアがボソッとわけわからんことを呟いたのが聞こえ、驚いてアリアを見ちまった。きっと今の俺はなかなかなアホヅラを晒しちまっただろうな。
「何いってんだよ。そんなのSPさえあれば誰でも出来んだろ。というか、神教徒どもしかいないような場所でふざけたこというな。聞こえたら面倒なことになんだろ。」
「…ごめんなさい。世界を創る以外に何もしていない存在を神と称し、信じれば救われると信者を騙してお金を取る神殿の空気にあてられてしまったみたいです。」
とりあえずアリアがここが嫌いなことはわかった。だが、場所を考慮して発言してほしい。いくら小声で話しているとはいえ、もとが静かな空間だから、聞かれる可能性が十分あるし、聞かれた場合に面倒なことになる可能性が高そうだからな。
アリアがそんなこともわからないとは思えないから、理由はわからんがよっぽど嫌いなんだろう。
「人が何を信じようと自由だし、納得して金出してんならいいじゃねぇか。神殿の維持にも金はかかるんだしさ。もちろん嫌うのも自由だが、わざわざ敵をつくる必要はねぇだろ。」
「…はい。何もしてくれなかった存在ではなく、実際に救ってくれたリキ様をわたしたちが神様だと思うのも自由ですね。」
「勝手に思うのは自由だが、祈ったり崇めたりされても俺は誰も救ってやれねぇからな。」
「…わたしたちは既に救われました。ありがとうございます。」
「私も救われたよ!ありがと!」
「イーラも救われた?よくわかんないけどありがとう!」
…。
「いってろ。」
ホールを見飽きた俺は入り口近くに戻り、クレハとユリアを待つことにした。
アリアはいつも通りのほぼ無表情だし、イーラがニコニコしてるのもいつも通りだからいいんだが、ニヤニヤしているセリナがムカつくな。
睨むと慌ててそっぽを向いたから、ニヤニヤしてたのはわざとみたいだ。
説教が必要かと一歩セリナの方に踏み出したところで、クレハとユリアが戻ってきたのが見えた。
「もう終わったのか?ずいぶん早かったな。」
「はい。既に変えるジョブは決めていましたから。」
「本当に『精霊術師』になれました!ありがとうございます!」
2人は予定通りのジョブになれたようだ。
ならあとはレベルを上げるだけだろうし、こいつらの訓練が失敗するってことはもう起こりえないだろ。
情報だけもらって訓練失敗とかさすがに悪いからな。アリアに任せて正解だったみたいだ。
「…それでは村に戻りましょう。」
「そうだな。」
町でのやることも終わり、俺らは神殿を出るとそのまま村へと向かった。
「…ジョブを変えるさいにどういったことをしたのですか?」
北門を出て少し進んだところでアリアがクレハを見ながら質問した。
今まで俺らがてきとうに話している間、アリアだけはずっと無言だったのは人が周りにいなくなるタイミングを待ってたのかもな。俺が神教信者のいるところで下手なこというなっていったからか?
「神に…。」
「…そういうのはいいので、わたしたちと別れてからの行動だけ教えてもらっていいですか?」
アリアがクレハの言葉を遮った。
そんなに神が嫌いなのかね。まぁアリアの最初の状態を知ってる俺からしたら神なんて信じられないのはわかるが、神を恨むのはお門違いだろ。といっても俺自身神様をあまり信じてないから何もいう気はないが。
「………はい。あのあと一度神殿から出て、隣の塔に入り、いくつかあった部屋の1つに入りました。ユリアとは別の部屋です。部屋の中には大きな水晶があり、その前で祈りを捧げてから水晶に触れ、頭に思い浮かんだジョブから1つを選び、ステータスに反映されているのを確認してから感謝をし、終わりです。」
神殿でジョブチェンジしようとしたらそんなに面倒なんだな。しかも金かかるし、わざわざ神殿でジョブチェンジする魅力がねぇな。
「…やはり神の奇跡などではなさそうですね。神官は部屋にも入ってくるのですか?」
「中には別の神官が既にいて、案内した神官は外で待っていました。」
「…神官は魔法やスキルを使っていましたか?」
「スキルはわからないですが、魔法は使っていないと思います。」
「…その水晶の大きさとどの魔物の素材であるかわかりますか?」
「大きさはこのくらいでしたが、どの魔物の素材かまではわかりません。」
クレハが両腕でサイズを表現したが、けっこうデカそうだな。
前にアリアが重くて持てないからとヴェルに運ばせていた水晶と比べられないほどにデカい。
「…そうですか。ありがとうございます。」
アリアの質問にクレハが淡々と答えるのが続いていたが、聞きたいことを聞き終えたらしいアリアが礼をいってからは無言となり、歩きながら何かを考えているようだ。
「…魔法でないなら魔道具……それなら再現が出来るかも………ソフィアさんに手伝ってもらって教会にも設置すれば神殿は不要に……。」
「一応アリアにいっておくけど、あの魔道具は作っちゃダメだよ。」
途中からブツブツといい始めたアリアにセリナが忠告した。
アリアがやることにセリナが口出しするなんてなんか意外だな。
「…なぜですか?」
「えっと…クレハちゃんとユリアちゃんはこれから聞く話も訓練内容だと思ってね。だから人に喋ったら契約魔法が発動すると思うから気をつけてね。」
「「…はい。」」
なぜかセリナがクレハとユリアにわざわざ口止めをした。それほどその魔道具とやらはマズイものなのか?
「ジョブ変更の魔道具の製造と設置は神殿のみが許されてるんだよね。だから勝手に作った人間は罪に問われるし、作った魔道具も没収されちゃうよ。といっても製造方法は神殿関係者の一部の人しか知らにゃいから作られること自体が稀にゃんだけどね。」
「…稀ということは過去にも作った人がいるんですか?」
「私が王女だった頃に作ってた人はいたよ。完成させてたのかは知らにゃいけどね。その人たちは作ることが罪ににゃることを知らずに作ろうとしていたみたいだね。まぁ神殿に置かれているあれが魔道具だということやその魔道具を神殿以外が製造したり設置したりしちゃいけにゃいことは神殿関係者の一部の人と王族や一部の貴族しか知らにゃいから、一般人が知らにゃいのは当たり前だよね。」
「…知らなかったのに罪に問われるんですか?」
「そうだよ。知ってて作ろうとしたら即死刑だけど、知らずに作ったのにゃらその魔道具に関わる全てのものを没収されて、一晩かけて話を聞いて解放ってところかにゃ。」
なかなか重い罪だな。まぁ神の奇跡としてるのだから、魔道具だと知られるのはいろいろとマズイんだろう。ただ、周知徹底させてねぇんだから、知らずに作ったのなら仕方がないと思うんだが、それでも全て没収されて一晩拘束されんのかよ。
「…それなら、セリナさんに黙っていてもらって、ローウィンス様には伝えなければいいのではないですか?もしリキ教徒経由で知られたとしたら、知らずに作ったといい通して一晩我慢することになりますが、神殿関係者に知られるまでの間にジョブ変更をしているのが魔道具だということを多くの人に知らせることが出来ます。」
なかなかな過激派発言だな。そこまでして神殿を潰したいのか?
「アリアが罪ににゃるとわかっていることを強行しようとするにゃんて珍しいね。そんにゃに神殿が嫌いにゃのか、リキ教を大きくしたいからにゃのかはわからにゃいけどさ、私の話はまだ続きがあるから、最後まで聞いてほしいにゃ〜。」
「…続きですか?」
「そう。さっきの話は魔道具を作るのに直接関わった人たちに対する国が行うことね。そして、その人たちが一晩拘束されている間にその人たちの家族や間接的に関わっていた人たち、魔道具を作っていることを知らされた人たちは偶然にも全員が事故にあって亡くなっちゃうんだってさ〜。怖いよね〜。あとその魔道具を作ってた場所や関係施設も運悪く火事にあうみたいだよ〜。不思議だよね〜。ちにゃみに一晩で解放された人たちのほとんどが家族が亡くなった悲しみで後追いしちゃうんだって。死体は見つからにゃいんだけどね。この意味をアリアならわかると思うけど、アリアはそこまで責任持てるの?あの魔道具関係の話をしてるのを聞かれるだけで狙われるんだよ?クレハちゃんとユリアちゃんが話しちゃいけにゃいと知らずに誰かにあれが魔道具らしいって話しただけでリキ様に迷惑かかるんだよ?アリアが知らにゃいことだったから仕方にゃいし、嫌いにゃものがあるのも仕方にゃいけど、宗教を甘く見ちゃダメだってことは覚えておいてね。」
この世界の宗教は碌なのがねぇな。
ルドロイ教といい、神教といい過激なやつらが多すぎんだろ。そういやカザエル教もか。
まぁ全員がってわけではないんだろうけどさ。
「…ごめんなさい。知らないこととはいえ、危ない発言をしてしまいました。リキ様が神殿でいっていたのもこのことだったのですね。気づけず皮肉をいうのをやめなかった自分が恥ずかしいです。セリナさん、わかりやすく教えてくれてありがとうございます。」
…ん?俺はただ単にわざわざ信者を煽るなって意味でいっただけなんだが…というか王族や神殿関係者しか知らないことを俺が知るわけねぇじゃん。
訂正するべきかとも思ったが、なんかそんな空気じゃねぇからいうのはやめた。
べつに勘違いされたところで困るわけじゃねぇしな。
「私もたまたま知ってただけだからあんま偉そうにゃこといえにゃいんだけどね。でも宗教だからとかじゃにゃくて、敵を作るようにゃことは極力避けた方がいいよ。ただでさえ多いんだから。」
「…はい。余計なことはしないように気をつけます。皆さん、ごめんなさい。」
アリアがちょっと落ち込んでいるように見えたから、なんとなく頭を撫でてみたら、アリアが恐る恐るといった感じで顔を上げて俺を見てきた。
撫で方が雑だったから、怒られるとでも思ったか?
「失敗なんて誰にでもある。アリアは優秀過ぎるから今までほとんど失敗してこなかったせいで一度の失敗を気にしちまってるんだと思うが、同じ失敗をしなきゃいいんだよ。気にすんな。」
そもそも知らなかったことなんだから失敗とはちょっと違うか。
見当違いな言葉をかけちまったかもしれねぇ。…恥ずい。
「…ありがとうございます。」
アリアの頭を最後にくしゃくしゃっとしてから手を離し、見当違いのことをいっちまったことに対するアリアたちの反応を見ないように俺が先頭を歩き、村まであと少しの道をわずかに速度を上げて振り向かずに歩いて進んだ。