252話
252話
文字の勉強は前半と後半にわかれていたみたいで、前半があいうえお表の暗記、後半が数字と簡単な足し算引き算。あとは通貨が100枚ごとに繰り上がるとかの、わりと当たり前なことの説明と、残った時間は自習といった感じだった。
そのあとはまた休憩を挟み、最後にテストだ。
出題範囲は前半で習った文字だけで、答案用紙を配られて、サラがいった言葉を何も見ずに書くというだけだ。
面倒がって覚えようとしてなかったが、覚えてしまえば使い方は日本語と変わらないから簡単だな。
むしろ漢字とかない分、日本語より簡単だろう。
テストが終わるとサラが回収して休憩時間となり、その間にサラが教卓で採点をしていた。
俺はもともと日本語の知識があったから余裕だと思ったが、祈るように手を組んでるやつとかいるから、一から覚えるのは大変なのかもな。
「テキーラくんは自信があるみたいだね。」
やることがなくて、サラが採点する姿をぼーっと眺めていたら、リスミナが声をかけてきた。
「先生の教え方が上手かったから、だいたいは覚えられたよ。」
「本当にそうだよね!ビックリしたよ!今まで苦手意識があってちゃんと覚えられなかったのに、今日はすんなり覚えられちゃった。あんな小さな子が人に教えられるくらいになるまで教育したリキさんってきっと凄い人なんだろうね!」
いや、教えたのはたぶんアリアだ。もしくはサラの本当の親だろう。なんせ俺は今勉強しているんだからな。
「リキ様、凄い、当たり前。」
「もう喋っていいの?」
なぜかテンコが賛同し、イーラが珍しく喋っていいのかの確認をしてきた。
そういや黙ってろっていったんだったな。
ん?なんでテンコの声がイーラに届いてるんだ?
イーラは念話だからテンコにも送ってるんだろうけど、テンコは合体してるからこそ意思が伝わってきてる感じだ。もしかして今ってイーラも俺と混ざってる感じなのか?だとしたらちょっと怖えな。
「リキがどんなことをしたのかは知らないけど、凄いのはサラ先生だと俺は思うな。もし教わったにしても本人がやる気がなければ身につかないはずだし。」
「おぉ…。テキーラくんは大人だね!」
いや、たぶん歳変わんねぇだろ。
というか、当たり前のことをいってそんな返しをされるといつもだったら馬鹿にしてんのかと思っちまうはずなのに、こいつが嫌味をいう姿を想像出来ないからか、本気でいってるんだとわかって地味に恥ずかしい。
「ただ、みんながいうほどリキは凄いやつではないんじゃないかと思ってるだけで、そんな大層なことをいったわけじゃないよ。」
「テキーラくんってリキさんの知り合い?」
リスミナに首を傾げられてドキッとした。
もちろん可愛いとかの胸の高鳴りではなく、バレたのかという驚きだ。
「知り合いではないよ。なんでそう思ったの?」
本人だから知り合いではないし、嘘はついてない。
「あんまりリキさんのこと好きじゃないみたいだから、知り合いなのかなって思っただけだよ。でも、たしかに素手で黒龍を殴り殺したとか、ゴブリンキングを欠伸しながら引きちぎったとか、本当かな?って思うような噂もあるから、疑う気持ちもわかるけど、こんな学校を作る人なんだから、凄い人なのは間違いないと思うな。」
もともとおかしな噂ではあったが、尾ひれがつきすぎだろ。誰だよそのリキってやつ。本当は俺じゃないリキってやつがいるんじゃねぇの。
あと、ここまでの学校を作ったのは俺じゃなくてアリアだから、凄いのは俺じゃなくてアリアだっていいたいが、今の俺はテキーラだから、何もいえん。
「まぁ、思いがけない結果だとしても、始まりがリキなら、凄いといえなくもないのかもね。」
「テキーラくんは大人だけど、素直じゃないね。」
リスミナに笑われたが、自分を認めるのってそんな簡単に出来ることじゃねぇから仕方ねぇだろ。実際俺が思ってたこと以上にしてんのはアリアだし。
だから俺はリスミナの笑顔に対して苦笑いで返した。
「…採点が終わったのです。名前を呼ばれた方は前に来てほしいのです。」
一度話に一区切りつき、リスミナが次に何かを話そうと口を開けかけたところでサラが採点の終わりを告げ、1人ずつ名前を呼び始めた。
どうやら合格者が呼ばれているらしく、俺も呼ばれて前にいったら答案用紙とカードを渡された。その後にリスミナも呼ばれたから、ちゃんと受かってるみたいだ。
返された答案用紙を確認したら、全問正解出来てたみたいだ。何点で合格なのかは知らねぇけど、このくらいなら全員合格出来てもおかしくないだろ。
「合格者はここまでなのです。それでは、残りの答案用紙を返すので、名前を呼ばれたら取りに来て欲しいのです。」
10人くらい呼ばれてないやつがいるのに、サラが終わりを告げた。
自分が出来たからって全員が出来るとは限らないらしい。
まぁ俺の場合は下地があったから出来ただけなのかもしれない。
サラが答案を返しているのを数えてみたら、不合格者は11人いたようだから、3割近くが不合格なのか。なかなか難しい試験だったのかもな。
「カードを渡された方は今日中に門で本登録をして欲しいのです。記念に持ち帰るのはかまわないのですが、そのカードは明日以降は使えないので気をつけて欲しいのです。あと、本登録は本人しか出来ないのです。誰かの代わりに試験を受けた方は意味がないので、無駄骨お疲れ様なのです。」
サラも嫌味とかいうんだな。誰の影響なんだか。
「それでは授業は以上なのです。質問がある方は自分か受付の2人が受け付けるのです。午後の授業に出るつもりの方は早めに本登録をするのをお勧めするのです。」
伝えることは終わったようで、サラはデカい砂時計の近くにある椅子に座った。
その後は不合格者の一部がサラに質問をしに行った。ほとんどが冒険者だから、生徒に厳ついやつが多いのは仕方ないんだろうが、厳つい男どもに幼女が囲まれているのは犯罪臭がヤバいな。
しかもその中にはけっこう強いっぽいやつが2、3人混ざってるから、先祖返りしたサラでもちょっと危ういんじゃねぇか?ここで見守ってた方がいいか?
「テキーラくんは行かないの?もしかして何か質問するの?」
サラが襲われないように見ていた方がいいかと迷っていたら、リスミナが声をかけてきた。
今の俺は変装しているのにサラの心配をしてたら、さすがにおかしいか。
まぁ受付の2人もいるし、一方的にやられるってことはないだろう。少し耐えれば門番の獣人のガキどもがたぶん気づくから、平気なはずだ。
「いや、久しぶりに頭を使ったから、疲れただけだよ。行こうか。」
「うん。午後の授業も楽しみだね。」
「そうだね。」
リスミナと並んで歩き、てきとうに返答しながら教室を出る間際、最後にチラリとサラを見たら、笑顔を向けられた気がした。
え?と思って立ち止まったんだが、あの笑顔は俺に向けたわけじゃなさそうだ。サラの周りにいる男の中で歪な存在とでもいうべきか、顔のいい優男がサラに質問をしていたから、サラの笑顔はそいつに向けられたものだろう。
目が合ったと思ったんだが、この変装がバレるわけないしな。
サラはお嫁さんになるのが夢だっていってたから、ああいう優しそうな男に憧れるのかもな。まぁうちは迷惑さえかけなければ恋愛は自由だから、幸せになってくれるなら好きにすればいい。
…あれ?そういやあの優男って合格者として呼ばれてなかったか?
合格してんのになんでわざわざ人がいっぱい集まってるサラに質問に行ったんだ?受付でも質問受け付けてるっていってたのに。
…もしかしてあの優男もサラに気があんのか?
両想いなら本来ハッピーなんだろうけど、歳が俺とそんなに変わらないか少し上の男と6歳児はこの世界でもアウトだろ。せめてあと10年待て。
いや、でもサラには恋愛自由だって前にいっちまったから、下手な口出しはするべきじゃねぇか。
ちょっとあとでアリアに頼んで調べてもらって、ダメな男ならサラが気づかないところで消すのが互いのためだろ。
「テキーラくん、なんか怖い顔してるけど、どうしたの?サラ先生も嫌いなの?」
俺は優男を見ていたんだが、どうやら感情が顔に出ちまってたうえにサラを睨んでるって勘違いされたようだ。
出入り口で止まって6歳児を睨みつけてるとかヤバいやつじゃん。
というか、イーラを纏ってんのにそんな簡単に表情が表に出るんだな。気を付けねぇと。
「あんな頑張っている子を嫌いになるわけないよ。ちょっと聞きたいんだけど、18歳の男と6歳の女の子で結婚ってできる?」
「…え?」
リスミナが驚いたというかなんというか…あぁ、アリアが昔ミノタウルスの生首を見たときに一瞬見せた顔に似ていた。
急になんでそんな顔をしたんだ?俺があの2人を邪推したのが癇に障ったとか?まぁリスミナは人の悪口とかいうのも聞くのも好きじゃなさそうなタイプだから、優男がサラを狙ってるロリコン野郎だって決めつけるのはよくなかったか。
「ごめん、忘れて。そもそもあの人の実年齢がわからないから、もしかしたら意外と歳が近いのかもしれないしね。というか、入り口で止まっちゃってごめんね。早く行こうか。」
「…いや、サラ先生はどう見ても10歳には満たないと思うけどね。たぶん6歳くらいであってると思う。」
俺が歩きだすと、後ろでリスミナがボソボソと呟いた。
距離が近いから一応リスミナの声は聞こえているが、サラの年齢は知ってんだよ。男の方がわからねぇって意味だったんだが、リスミナの呟きは俺にいっているわけではなさそうだから、答えるのはやめて先に進んだ。
よくよく考えたらあの男のことなんかどうでもいいしな。
可能性は低いと思うが、サラがもし、仮に、100歩譲ってあの男の口車に乗せられて付き合うことになってしまって、彼氏や婚約者として俺に紹介してきたとしたら、とりあえず優男を一発殴ってから考えればいい。
まだ成人もしていない俺の家族を取るってことは、そのくらいの覚悟はあるはずだからな。