257話
257話
初日の授業はヒールを覚えることだけで終わった。
俺はサラが細かく教えてくれたから、あのあと自力でなんとか短縮詠唱を覚えられたと思う。正直、魔力を込めて魔法名をいうだけで発動しちまうから、詠唱と魔力の込め方が合っているかの判断が難しいが、感覚的にたぶん出来てたはずだ。
リスミナは無理そうだとかいってたくせに、なんだかんだ短縮詠唱を覚えられたみたいだし、やっぱり才能あるんだろうな。
明日の授業からは外での訓練になるらしく、武器は学校側が貸し出してくれるとのことで、俺は剣を選んだが、防具は自分で用意しないといけないらしい。
俺はチェインメイルがあるにはあるが、あれにはデカデカとグループマークが入っているから、さすがにテキーラとしては使えない。
ということで、リスミナと王都に帰りがてら、武器防具屋に行くことになった。
実際は王都に俺の帰る場所なんてないが、王都に住んでるっていっちまったからな。
ちなみに学校にも武器防具屋はあるから見てきたんだが、ほとんどなんもなかったから、わざわざ王都まできた。
リスミナはアラフミナに来たばかりで、まだ王都のことをほとんど知らないらしく、とりあえず大きな方の武器防具屋に行くことにした。
とりあえずとはいったが、たぶんおっさんのところに行くことはないだろう。あそこに行ったら、おっさんにつられて俺の素が出ちまいそうだからな。
「やっぱり主要国の王都の賑やかさはあんまり変わらないんだね。細かいところまではわからないけど、作りもあんまり変わらなそうな気がする。」
王都観光もまだしていなかったらしいリスミナは、市場をキョロキョロと見回しながら、そんなことを呟いた。
「俺も全部を見たわけじゃないけど、そんなに変わらないと思うよ。なんだったら少し寄り道していく?」
「ん〜…。武器防具屋を見たあとは冒険者ギルドにも行きたいんだよね。だからテキーラくんに付き合わせちゃうのも悪いし、観光はまた別の日にしようかな。」
まぁ観光は1人でした方が気が楽だもんな。他国といっても言葉が通じるし、常識とかもそんなに違いがあるわけじゃねぇだろうし。
「俺自身、案内できるほど詳しいわけじゃないけど、わかんないことがあったら聞いて。」
「うん、ありがとう。」
同年代とこういう普通の会話をするのもなんか凄く久しぶりな気がするな。
たまにはこういうのも悪くねぇ。まぁテキーラのキャラになり切ってるからこその関係だと思うと少し残念だが。
そこでふと、マルチを思い出した。
そういやあいつとも2人で飯食ってくだらない話をしたりと、俺はわりと楽しい時間を過ごせてるつもりでいたな。
「もしかして、リスミナって“道化師連合”と関係あったりする?」
ふと思った疑問が口から出ちまったが、もしリスミナが道化師連合のメンバーだとしても、正体隠して近づいてきてんなら、正直に答えるわけねぇじゃん。
「テキーラくんも噂話とか信じるんだね。でもあれって人前に現れることはないんじゃなかったっけ?だから姿を現してる時点で私は違うって証明になるんじゃないかな?それとも国によって噂の内容が違うのかな?」
リスミナがニコニコしながら話しているが、何をいってんだ?とぼけるにしても誤魔化し方が意味わかんねぇし、関係ないってことか?
「噂ってのがなんのことをいっているのかわからないけど、前に似たようなことがあったから確認しただけだよ。違うならいいんだ。」
「…え?…道化師連合って実在するの!?というか、道化師連合に接触されるって、テキーラくんって何かしたの!?そもそもなんで相手が道化師連合だってわかったの!?」
あれ?これは余計なことをいったか?
「俺がご飯を1人で食べてるときに接触してきただけだよ。その人がけっこう面白い人だったから楽しい時間を過ごせたのは良かったんだけど、近づいてきた理由が俺を調査するためみたいな感じでさ、ちょっと不快だったね。でも、その人とは短い付き合いでもなんか嫌いじゃなかったから、1度目は許したんだけど、もしこれが2度目ならちょっとね。まぁ関係ないなら気にしないで忘れて。噂ってことにされてるなら知らない方がいいんだろうし、ごめんね。」
「…テキーラくんって何者なの?」
余計なことをいったからフォローしようとして、さらに余計なことをいっちまったみたいだ。
「何者って、ただの冒険者だよ。」
「嘘だよね?…本当は今日防具を買いに行くのだっておかしいと思ってたんだよ。」
なぜ嘘だと思うんだ?冒険者なのは嘘じゃないんだが。
「おかしいって何が?」
「魔導師ってことはそこまでレベルを上げたんだよね?」
俺が質問したはずなのに、なぜか質問で返された。まぁいいけど。
「そりゃまぁそうだね。」
「どうやって上げたの?」
「どうやってって普通に魔物を倒してだよ?」
リスミナは何が聞きたいんだ?
「武器も防具もなく?」
あぁ…。それは確かにおかしいな。魔導師って魔法使いの次の次だもんな。さすがにそこまでいくのに防具を買わない馬鹿は少ないだろう。だが、そこは馬鹿扱いされても誤魔化すしかないだろう。
「武器はあるよ。武器だけでも魔物を倒せちゃったから、防具は後回しにしちゃったね。あらためて考えたら、死ななかったのは運が良かったんだろうね。」
あくまで最初の頃の話だが、このいい方なら嘘ではないから、嘘がわかるスキルとかを使われても大丈夫なはずだ。…たぶん。
「武器はほとんど使ったことないっていってなかった?」
「剣とかの扱い方に決まりがあるようなものはね。ロッドは振り回すだけでも使えるからさ。」
「本当かな?」
「嘘じゃないよ。」
「…………疑うようなこといっちゃってごめんね。」
ジッと俺の目を見ていたリスミナが申し訳なさそうな顔になった。なんとか誤魔化せたか?
「こっちこそごめん。最初に疑っちゃったのは俺の方だし、これでおあいこって事でいいんじゃない?」
「そうだね。」
リスミナが笑顔に戻りはしたが、けっきょく俺は本当のことをいっていないし、リスミナが道化師連合の者ではない確証は得られていないという歪な関係だ。でもまぁ気にしたところで向こうから明かされない限りわからねぇんだし、考えるのはやめよう。
俺も笑顔を作って笑いあっていたところで、武器防具屋に着いた。
何度か来たことはあるが、そこそこ人気のある店だ。おっさんのところとは店の大きさも従業員の数や接客の質も品揃えも比べ物にならないから、当たり前っちゃ当たり前だが。
「リスミナも何か買うの?」
店に入りながらリスミナに確認を取ると、リスミナは指を下唇に当てて考える仕草をした。
「予備の剣がそろそろ欲しいなって思ってるんだけど、今はあんまりお金がないから、凄くいいのがあったらって感じかな。」
よくよく考えたらリスミナは武器も防具も持っている。つまりは俺がつき合わせちまってるってことか。
「そういえばリスミナはアクセサリーはつけないの?」
「靴くらいしか持ってないね。そっちに回すほどお金が…。」
なんで靴?って思ったが、そういやこっちの世界のアクセサリーは意味あいが違うんだったな。たしか勝手にサイズを合わせてくれる装備品がアクセサリーだったか?
リスミナってべつにそこまで弱そうってわけではないのに、あんま稼げてないのか?まぁフレドたちよりは弱いだろうけど。
「じゃあ、今日わざわざ防具買いにくるのにつき合ってくれたお礼にこれあげるよ。」
俺はアイテムボックスを開こうとして、咄嗟に止めた。
そういや俺って今、魔導師ってことになってんだよな?アイテムボックスって冒険者の固有スキルだった気がするのに使ったらおかしいよな?
今さっき魔導師の話をしたから気づけただけだけど、これ以上ミスを重ねずに済んで良かった。
ん?いや、魔法は魔導師の固有スキルじゃなくて、SPで取っただけなんだし、ジョブは冒険者ってことにしておけばよくね?
覚えてないけど、もしかしたらジョブが魔導師っていっちまった可能性もあるから、この後ジョブチェンジした体にして、明日から冒険者ってことにしておこう。
だから俺はリスミナに気づかれないようにポケット内でアイテムボックスを開き、身代わりの加護付きの指輪を取り出した。
なぜかちょいちょい手に入れる機会はあるけど、滅多に消費しないから身代わりの加護付きのアクセサリーが余ってんだよな。
これはたしかカテヒムロの酒場の謝罪でもらったやつだった気がする。
身代わりの加護付きアクセサリーはいっぱいあっても困るもんじゃねぇけど、こうやって知り合った相手が簡単に死んじまうとか思うとなんか嫌だからな。これがあれば多少は生存率が上がるだろ。
「…指輪?」
リスミナが戸惑うような顔になった。
さすがにないと思うが、プロポーズだと勘違いしてねぇよな?リスミナならありえなくないかもと思えちまうから不思議だ。
「加護付きの指輪だよ。たまにもらったりすることがあるんだけど、あんまり消費することがないから余っててね。ただ余らせるよりは有効活用した方がいいかなって。指輪の方が邪魔にならないと思ったんだけど、ブレスレットの方が良かった?」
「ううん。ありがとう。私も武器防具屋に行きたかったからついてきただけなのに、加護付きの指輪なんてもらっちゃって申し訳ないなって思うけど、せっかくだから厚意に甘えさせてもらおうかな。大事にするね。」
リスミナはニコッと笑ってから右手の中指に指輪をはめ、そのまま固まった。
急にどうしたのかと思ったら、まるで逆再生のように指輪を取り外し、俺に返そうとしてきた。だが、俺はもうあげたつもりだから受け取らなかったら、リスミナが困った顔をして俺を見てきた。
「なんの加護かと思ったら、身代わりの加護じゃん!さすがにこんなに高価なものはもらえないよ!」
そういや身代わりの加護付きのアクセサリーってけっこう高いんだっけか?
リスミナが慌てたように俺の手を掴もうとしてきたから、反射で避けた。それにムッとしたリスミナがさらに掴もうとしてくるのをまた避けた。
今は軽量の加護はないが、このくらいの相手なら余裕で避けれるな。
「それはもうあげた物だから、返されても困るよ。いらないなら他の人にあげるなり売るなり好きにすればいい。」
「いやいやいや!ならテキーラくんが売ったらいいじゃん!」
「さすがにもうお金に困ってるわけじゃないのに、もらいものを売るのはちょっとね。使うにしてもわざと消費したいとは思わないし、俺としてはリスミナが有効活用してくれた方が助かるんだけど。せっかく知り合ったのに死んでほしくなんてないからさ。」
「…うぅ。」
何度やっても俺を掴むことが出来なくて諦めたのか、リスミナは複雑な顔をしながら、また右手の中指に指輪をはめた。
「…あいつってあれだよな?」
「あぁ、前に見たことがあるから間違いねぇ。もう新しい仲間が出来てんだな。二つ名持ちなだけはあるな。」
「まぁあいつのは二つ名っていっても蔑称だけどな。」
ふと男たちのクスクスという笑い声とともに聞こえた会話が気になって振り向くと、知らない男2人と目が合った。男2人は目が合うと、ニヤニヤとしながら店から出ていった。
いいてぇことがあんならハッキリいえよ。ウゼェな。
べつに他人にどう思われようがかまわねぇが、わざと聞こえるように話されんのは不快だ。せっかく楽しんでたっていうのによ。
お前らが勝手につけた二つ名をお前らが馬鹿にするってなんなんだよ?イラつくな。追いかけて絞めあげようかとも思ったが、隣のリスミナを見たら、なぜか困ったように苦笑いをしていた。
もしかしてまた怒りが顔に出てたか?
なんかリスミナの苦笑いを見たら、怒る気力を失ったから、追いかけるのはやめておくか。
「変なやつもいるんだね。まぁあんなの気にしないで、買い物済ませちゃおう。」
「…そうだね。」
その後はさっきの男たちの話には触れずに買い物を済ませ、武器防具屋の店の前で解散となった。
俺が神野力だってバレたくなかったから、さっきの男たちの話はしないようにしていたんだが、リスミナからも話をふられることはなかった。
もしかしたら気を使わせちまったかもしれない。悪いことしたな。
おかげでまだ日が落ちきる前に防具も買えたし、明日あらためてお礼をいっておくか。
そんなことを考えながら町から出て、イーラやテンコと雑談しながらゴブキン山を登り、頂上に着いたところで『超級魔法:扉』を使って屋敷の自室へと戻った。
そして、イーラの変身を解いたところで気づいた。
そういや俺は変装してたのに、あの男たちはなんでわかったんだ?
目が合ったから自分のことをいわれてると思い込んじまっただけで、もしかして俺らのことをいっていたわけじゃねぇのか?
だとしたら俺は無駄にイラついてただけじゃねぇか。