261話
261話
乙女の集いの2人はリスミナと仲良くなっただけだとわかったローウィンスは威圧のある微笑みから普通の微笑みへと変わった。
べつにやましいことはないんだが、あの笑顔を向けられるのはなんか不快だったから、まぁ良かった。
その後、サラたちが来てから昨日と同じ4人組になり、さらにその中で2人組となった。
俺とローウィンス、リスミナとデュセスだ。
何をやるのかと思ったら、その2人で戦う人と回復する人にわかれて訓練するようだ。
今回はサラたちは回復しないから、戦ってるペアが怪我したら、初日に習ったヒールを使うらしい。クレハとユリアがやっていたやつの簡易版みたいな感じか。あいつらは互いに戦いながら互いにヒールを使う練習だったが、今回の回復役は見てるだけだ。
まぁヒールの短縮詠唱文もクレハたちが使ってたより少し長かった気がするし、全体的に簡単にしてあるんだろう。
「では、テキーラさんがお先にどうぞ。」
どちらが先に戦うかを決めようとローウィンスを見たら、先を譲られた。
「ありがとう。」
とくに断る理由もなかったから、お礼をいってから空いてるスペースへと移ると、デュセスがついてきた。
「デュセスが相手ってことでいいのかな?」
「そう。あなたとは戦ってみたかった。」
こいつも戦闘狂タイプか?
「そういってもらえるのは光栄だけど、お手柔らかにお願いするよ。」
「私は本気でいく。怪我したくなかったらまじめにやってほしい。」
いや、俺は武器の練習をしたいのにあまり強すぎる相手は困るんだが。
「それでは各自、初めてほしいのです。」
全体の準備が終わったのを見計らったのだろうサラが開始の合図をすると、デュセスが速攻を仕掛けてきた。
まぁ速いが、セリナと比べてしまうとたいしたことないと思っちまうな。
ただ、相手が本気を出すといったのは冗談ではなさそうだから、木剣を構えて観察眼全開でデュセスの動きを確認する。
間合いに入る手前で加速したデュセスが木剣を横薙ぎにするために引いた。
たしかにタイミングをずらすのはいい作戦だと思うが、頭がガラ空きだぞ。
アリアがいるから大丈夫だとは思うが、念のため頭ではなく肩を狙って少し持ち上げた剣を振り下ろした。
その瞬間、デュセスがさらに加速した。でも木剣の振りが速くなったわけではないから、俺の木剣の方が速く届くだろう。いや、違う。こいつ横薙ぎに振るんじゃなくて、柄頭で突くつもりだ。
咄嗟に自分の木剣の柄から左手を離し、デュセスの木剣の柄頭を掴んで軌道をズラした。そのせいで片手持ちになった俺の剣筋は乱れて速度を失い、デュセスの肩に当たる前に退がって避けられてしまった。
「今のを初見で避けられるとは思わなかった。しかも見てから対応するなんて、あなたはやはり只者ではない。だけど、テキーラなんて名前は聞いたことがない。あなたは何者?」
そりゃこの前決めたばかりの名前だから、他で聞くわけねぇわな。だが、何者といわれてもべつに何者でもねぇよ。
「ただのFランク冒険者だよ。」
「それは最近冒険者になったばかりということ?もとはべつの仕事をしていたの?」
「たしかに冒険者になったばかりではあるけど、仕事はとくにしてないよ。一時期レベル上げを頑張ったからじゃないかな。」
バイトはしたことあるけど、いっても通じないし、日本の話をするべきではないのはさすがの俺でもわかる。
「私はこれでも冒険者ランクでいえばAランクの実力があると自負している。それなのにレベル上げを頑張っただけのFランク冒険者に負けるなんて認めるわけにはいかない。」
いつまで会話を続けるつもりなのかと思ったら、急に攻めてきた。
もちろん訓練中だから警戒していたし、セリナのような馬鹿げた速度ではないから焦らなければ余裕を持って対処できる。
これでAランクレベルなのか。たしかにクレハといい勝負が出来るかもな。まぁ相性とかがあるかもしれないが。ん?でもアリアがクレハはAランク相手ならまず負けないようなことをいっていたから、クレハといい勝負が出来そうなこいつはAランクの中でも強い方なのかもな。
俺が考えごとをしている間にデュセスが突き出してきた木剣を俺の木剣ですくい上げるように逸らし、そのままの流れを失わないように手首を返しながら斬りつけようとするが、デュセスもその流れに合わせて木剣を動かしやがるから、うまくいかない。
剣の技術は俺より数段上なんだろうな。
一度無理やり押し込んでバランスを崩させようと思い、木剣同士が接触した状態で押すと、なんの抵抗もなく押せてしまったせいで俺が若干バランスを崩した。デュセスのやつ、タイミングを合わせて木剣を引きやがった。
俺がバランスを崩してできた一瞬の隙を逃さないようにデュセスが高速で回り込んできたが、残念ながら観察眼全開で本気を出せば、デュセス相手ならこのくらいの状況は覆せるとわかっているから俺は焦らなかった。
悪いとは思いながらも、精霊術の身体強化も上乗せし、剣筋なんか気にもせずに力の限り木剣を横に振った。
どうやらデュセスは木剣が近づいてきたことには一応気づいたようだが、体が動くよりも先に俺の木剣がわき腹に食い込み、くの字に曲がって横に移動し、そのまま転がっていった。
俺はバランスを崩した状態からの無理やりの攻撃だったから踏ん張りが利かなかったせいでたいした威力は出なかったが、デュセスの反応を見るにむしろちょうどいい威力だったのかもな。
蹲るデュセスにリスミナが慌ててヒールをかけている。
剣の扱いは上手くなったと思っていたけど、咄嗟に使うと刃を立てられねぇな。あれじゃあちょっと硬い敵を殴ったら剣が折れちまうからダメだよな。
俺が今の攻撃を反省していたら、サラが近づいてきて、デュセスに『ハイヒール』をかけてから、もとの場所へと戻っていった。
どうやらリスミナがヒールを数回かけただけでは治らなかったようだ。手間をかけさせてすまん。
「デュセス、大丈夫?」
「…。」
もしかして、デュセスはプライドが高いやつだったか?だとしたらめんどくせぇな。
「そしたら今度は俺らがヒールをかける側に回るから、リスミナとロ……アインで練習始めてもらっていい?」
「わかった。アインさん、よろしくね。」
「お手柔らかにお願いいたします。」
2人が離れていくのを確認してからデュセスを見た。
「ごめんね。デュセスならあの程度は普通に避けられると思っちゃってさ。」
なんて声をかければ面倒なく済むかを考えていたんだが、けっきょく思いつかず、考えるのが面倒になったから、あえて煽ってみたら睨まれた。悔しいと思うなら座ってないで次の準備でもしろよ。
「剣の練習というよりも棍棒で殴るような攻撃になってしまって恥ずかしい限りだよ。」
「たしかに剣の使い方はもう少し学んだ方がいい。あなたが剣を覚える前に私はあなたに勝つ。」
勝つも何も明日で授業が終わりなんだが、後日挑んでくるつもりなのか?それはそれで面倒だな。まぁグチグチと文句をいわれるよりは何倍もましだが。
「デュセスならジョブのレベルが高いだけの俺なんてすぐに超えられるよ。」
「………そうなりたいと思う。…テキーラのレベルはいくつなの?教えたくなければいわなくてもいい。」
デュセスと話していたら、ローウィンスの腕にリスミナの木剣が強く当たったのが視界の隅に映った。
今は回復役なのだから、そっちをおろそかにするわけにはいかねぇよな。たしかセリナが使ってた詠唱は…。
「傷を癒せ。」
『ヒール』
腕の動きが悪くなっていたローウィンスが普通に戻ったから、もう大丈夫だろう。
「えっと、俺のジョブだったか?冒険者のレベル100だよ。」
「それでFランクの意味がわからない。視野も広いようだし、すぐにAランクの試験を受けてみるべき。冒険者でない私がいうことではないかもしれないけれど、Fランクでいる理由がないと思う。」
冒険者レベル100でAランクになれちまうのか?じゃあアリアたちは全員Aランクになれちまうじゃねぇか。いや、ソフィアとかいう例外がいたな。それに奴隷だからそもそも冒険者になれねぇけど。
あと、俺は冒険者のジョブをセットしているのもそれが100レベルなのも本当だが、ダークエルフのやつらの呪いでいまだにステータスが低いままだから、スキル以外は使い物にならねぇジョブなんだよな。まぁわざわざそんなこという気はねぇけど。
「べつに困ってないからいいかな。冒険者ギルドはあまりいい思い出がないからできれば行きたくないし。」
「だとしたら、そもそも冒険者をしている意味がわからない。」
「我願う。彼の者が負いし傷、我が力にて癒したまえ。」
『ヒール』
今度はデュセスがリスミナにたいして魔法を使ったんだが、サラが教えてたのと違うな。授業でやった短縮詠唱より微妙に短い。
「詠唱文が授業でやったのと違うんだね。」
「私は1人で行動することが多かったから、覚えさせられた。私が教わった短縮詠唱の方が授業で最初に書かれていた短縮詠唱より短かったから、こちらを使うことにした。あなたのように1日で6文字に短縮された魔法を使えるようにはなれなかったから。」
なんかすまん。俺はセリナが使っていた短縮詠唱を使えてるわけじゃなく、ただ呪文を読んでスキルで魔法を使ってるだけなんだよな。SPで覚えられるスキルだからズルではないはずなんだが、ズルしている気になっちまう。
でも、話はそらせたから、まぁいいや。
冒険者関連のことを突っ込まれるとボロが出そうだから、あんま話したくねぇからな。実際テキーラなんて冒険者はいないから、一緒に冒険者ギルドに行くなんていわれたら面倒だし。
そういやここの通行証って冒険者ギルドのカードに似てるし、作れるんじゃねぇか?
偽造はさすがに犯罪か?
まぁあとでアリアに聞いてみよう。
「もともと俺は魔導師だから短縮詠唱を覚えるのが早かったってだけだと思うよ。だから剣の扱いは下手だしさ。」
「私は魔導師に体術で負けた?…。」
「もともとはだよ。今は冒険者だ(ってことにしている)し。それに体術は魔導師だからとか関係ないんじゃない?魔導師だってロッドで魔物を殴るし敵の攻撃は避けなきゃいけないんだから。」
「…いっていることは間違いないし、あなたは出来ているのだから否定は出来ない。でも、今まで出会った魔導師で私より動ける人なんていなかった。おかげでいい目標ができた。ありがとう。」
なぜかお礼をいわれた。
こいつの思考回路はよくわからないが、文句で終わらせないで頑張ろうとするところは嫌いじゃない。
デュセスと話しているうちにローウィンスたちも決着がついたみたいだ。目に見える怪我は負っていないが、疲労はたまっていたのか、ローウィンスがリスミナに剣を弾き飛ばされたようだ。
横目で見ていた感じではリスミナの方が強いと思ったが、ローウィンスが思いのほか粘っていたから割といい勝負だったな。
「お疲れ様。」
「ありがとうございます。」
呼吸が少し荒くなっているローウィンスに声をかけたら、微笑んで返答された。
そしたら交代だな。
チラリとデュセスを見たら、頷かれた。
とくに意味はなく見ただけなんだが、何かが伝わったらしい。まぁいい。訓練時間は限られてるし、さっさと始めるか。