262話
262話
5日間というのはあっという間だ。それだけ学校が楽しかったのかもな。まぁ9割体育みたいなもんだし、楽しくて当たり前か。
基礎コースの最終日は闘技場での授業らしい。前に建設途中という話は聞いていたが出来上がっていたんだな。
いつも通り飯を食い、地図を確認してから闘技場に行ったら、驚かされた。
まさか闘技場がここまでデカいとは思わなかった。
たしかにこの辺の土地は余りまくってるのかもしれないが、こんなデカいドームが必要か?東京ドームよりデカいんじゃねぇの?いや、東京ドームがどんなもんだったか覚えてねぇけど。
俺が闘技場を遠くから眺めていたら、誰かが手を振っているのが見えた。どうやらリスミナが入り口のところで俺に手を振っているようだ。なんで入り口にいんのかはわからねぇが、手を振られてんのに無視も悪いからと軽く手を上げて応え、歩いて近づいた。
「おはよう!これが噂の闘技場だね!」
「噂?」
「午前中に闘技大会をやってるんだってよ。私も応用まで授業受けたら参加してみようかなって思ってたんだ。」
まぁいつものことだが、初めて聞いたわ。闘技場というくらいだから、そこから察しろってことで教えられなかったのかもな。
「優勝するとなんかもらえたりするの?」
「私が聞いた話だと最初に予選で勝ち抜き戦をするんだけど、それで1位になると翌日にリキさんの戦闘要員の1人と戦えるらしいよ。今はヴェルデナーガさんだったかな?その人に勝つと金貨10枚もらえるんだってさ!テキーラくんも出てみたら?ただ、参加費に銀貨10枚必要なんだけどね。」
何やってんだよ。負けたら金貨10枚ってリスク高くねぇか?ヴェルは無駄に自信家だから、負けることなんて考えてないんだろうけど、ヴェルより強いやつなんてけっこういるだろうし、それで参加費の100倍はマズいだろ。
1回俺が大会に参加して、ボコって教えてやるべきか?
「参加費で銀貨10枚は高い気もするけど、勝てば100倍と思えば夢はあるね。」
「そうだよね!だけど、ヴェルデナーガさんはまだ負けたことないらしいよ。それに最近は2回に1回は予選優勝者が同じらしいから、その人がいない予選じゃないと予選優勝すら難しいかもね。」
「毎回じゃないの?」
「予選優勝者は次の日はヴェルデナーガさんに挑戦するから、予選には出られないらしいよ。」
ようするにそいつは毎回大会に参加して、毎回予選優勝はするけどヴェルには負け続けてるわけか。
けっこうな出費になるだろうに、よくやるな。
「そうなんだ。でも、強い人と闘うならむしろその人が予選に出る日にした方がいいんじゃない?どうせその人に勝てないようじゃヴェルには勝てないんだし。」
「リキさんの戦闘要員の名前をいきなり略すとか、テキーラくんって本当に凄いよね。怖いもの知らずというかなんというか。」
やべぇ。癖でヴェルっていっちまったな。気をつけねぇと。でも、リスミナの反応的にリキが嫌いだからで全部通せそうな気もするけどな。
「今のはちょっとした間違いだから、気にしないで。」
「テキーラくんがリキさんを嫌ってるのは知ってるからもう気にしないよ。それで、テキーラくんがいうようにカミエルさんに勝たないとヴェルデナーガさんに勝てないって考えは正しいと思うよ。思うけど、私にはそっちの予選に出るのは実力が足りな過ぎるからさ。話に聞いた出場者の人たちがだいたい冒険者ランクB以上だからね…。」
「ごめん、今なんていった?」
今、聞き覚えのある名前を聞いた気がするんだが、聞き間違いだよな。
「え?私だと実力が足りな過ぎるから、そっちの予選に出るのはちょっと…。」
「いや、その前。ヴェルデナーガとしょっちゅう闘っているのが誰っていった?」
「カミエルさん?」
あいつは何やってんだよ。毎回銀貨10枚とか金の無駄だろ。
「カミエルが優勝できるくらいなら、予選はそんなに難しくないんじゃないの?」
「カミエルさんの知り合いなの?だとしてもその発言はちょっとよくわからないんだけど。カミエルさんってソロで武器も使わずにBランクになった人だよ?普通は勝てないから!カミエルさんはAランクの『豚乙女』ことピグレさんにも勝ってるんだよ!?」
あのデ……ピグレはAランクだったのかよ。体型からして戦えるとは思えねぇんだが。やっぱり冒険者のランクは見直しが必要なんじゃねぇの?
というか、あいつがAランクなら、クレハやユリアより強かったってことか?べつに訓練前のクレハもユリアも強いわけじゃなかったが、それなりには戦えていたから、それよりピグレが動けることが意外すぎる。
というか、リスミナは噂で聞いたようなことをいっていたが、それにしてはやけに詳しいな。
「詳しいんだね。」
「しばらくラフィリアを拠点にしようと思ってるから、いろいろ調べてるだけだよ。冒険者なら普通だと思うんだけど…むしろ同じくラフィリアに住んでるテキーラくんが全く知らなそうなことに驚きだよ。」
そういやマリナもそういうの詳しかったし、普通は情報収集するものなのかもな。情報が大事なのは理解できるし。ただ、アリアがなんでもやってくれちまうからって俺がそういうことを怠っていただけのようだ。
「冒険者になって日が浅いから、そういう常識を知らなくてさ。勉強になるよ。ありがとう。」
「それも疑問だったんだけど、日が浅いってどのくらいなの?」
「どのくらいだろ?6ヶ月は経ったのかな?」
この世界にきて日付を記してるようなものを見たことないから、何日経ってるかはさすがに覚えていない。日付があるんだからカレンダーとかあるのかね?もしかしたら俺が字が読めないせいでスルーしていただけで、カレンダー的なものはあったのかもな。
「思ってた以上になりたてだね!?それで冒険者レベルが100なのも意味わかんないし、その強さでランクを上げない意味もわかんないよ。ただ、冒険者の常識とかがよくわからないのは仕方ないのかもとは思えたけど。」
リスミナとはジョブレベルの話とかはしてなかったと思うから、どうやらデュセスと話していたことが聞かれていたみたいだ。
まぁ隠すことでもないからいいんだけど、聞いていたならランクを上げるのを面倒くさがる理由も聞いていたと思うんだがな。
隠すことでもないとはいえ、ヘタに話して余計なことをいっちまっても面倒だから、この話はこのくらいにしておいた方が良さそうだな。
「そういえば、リスミナはなんで入り口にいたの?」
「…なんか1人で入りづらかったから、知ってる人が誰か来ないかなって待ってたんだよね。」
俺が話題を変えるために気になっていたことを聞くと、リスミナは苦笑いをしながら答えた。
まぁこんなめちゃくちゃデカいドームに1人で入るのを躊躇する気持ちはわからなくはないが、既に知り合いが全員中に入っちまってたらどうするつもりだったんだろうな。リスミナは俺と違って腕時計なんて持ってねぇし、ここには砂時計は見当たらない。ヘタしたら待ってるうちに気づいたら時間過ぎてて、基礎コースを1から受け直しとか笑えないことになってたかもな。
「じゃあもう入っちゃおうよ。ここにいるうちに時間になっちゃったら馬鹿らしいし。」
「そうだね。」
リスミナの返事を聞いて、俺らは闘技場へと入った。
中には受付みたいなのがあり、受付を過ぎるとカーブが続く廊下が左右に続いていて、目の前には数字が書かれた扉がある。
「いや、テキーラくん。受付が必要みたいだよ。」
俺が受付をスルーして中がどうなっているのかを見ていたら、リスミナに声をかけられた。
受付に座る2人の村人は勝手な行動をする俺を見てはいるが、とくに文句はいってこないから、たぶん俺だってわかってるんだろうな。
「ごめんね。どんなところかちょっと気になっちゃって。」
かるく謝罪してから受付に戻ると、村の通行証を提示するようにいわれたから、アイテムボックスから取り出して見せた。
受付が確認している間に周りを見回すと、受付の横には地下に続く階段があり、反対側には上に上がる階段がある。
さっきのカーブが続く廊下はたぶんドームを一周しているんだと思うし、かなり立派な建物を建てていたんだな。これに気づかない俺も俺だが、この規模の建物を建てるのにとくに何もいってこないアリアの感覚もどうかと思う。まぁいいけどさ。
通行証の確認が終わると、受付横の階段を下りるように指示された。
指示通りに階段を下りると、下にも村人が2人いて、壁に取り付けられている扉に入って道なりに進むように指示された。
俺の方向感覚が狂ってなければ、この扉はドームの中心ではなく、外に向かっている気がするんだが。
まぁ、行けっていわれたら行くしかねぇけどさ。
壁の扉を開くと、薄暗い直線の道がかなり先まで続いているようだった。俺は目を凝らせば普通に見えるが、スキルを持ってないやつにはこの道は暗すぎるんじゃねぇか?
一応等間隔に明かりはあるけど、神霊スポットといわれても納得いく不気味さだ。
「テキーラくん、先どうぞ。」
「ん?あぁ。」
確かに2人並んで歩くには少し狭いかもな。並んで歩けなくはないが、常にまっすぐ歩いてなきゃ何度も肩をぶつけるだろうなってほど道幅が狭い。
俺が先に道に入り、そのあとにリスミナが入って扉を閉めたことで、さらに暗くなった。
観察眼のおかげでとくに問題なく進んでいる俺の少し後ろをリスミナがついてくる。だが、珍しく静かだ。
そのまま互いに無言のまましばらく歩くと、反対側の扉に着いた。
扉を開けると、これまた薄暗い部屋だった。ただ、今回はスキルがなくても普通に見渡せるくらいの薄暗さで、学校の体育館くらいはありそうな広さがある部屋だ。
部屋の中には既に半分以上のクラスメイトがいた。いや、クラスメイトとはニュアンスがなんか違う気もするが、そんなことはどうでもいいか。
「さっきから静かだけど、どうしたの?」
「先がよく見えないほど暗い道だったから、念のため警戒しながら進んでいたからだよ。でも、テキーラくんはいつも通りというかなんというか、普通に歩いてたね。」
「あぁ、前にもいったけど、俺は目だけはいいからさ。あのくらいの暗さなら普通に見えるからね。」
「目がいいとかいう問題じゃないと思うんだけど…暗視のスキルでも持ってるの?」
「そんな感じだね。」
「そうなんだ。それなら納得かも。それにしても、こんなところに来て何をするんだろ?」
リスミナは気づいていないみたいだが、俺の勘違いじゃなければ、俺らが来たのとは反対側の壁にある大きな扉の先から魔物の気配を感じる。たいした強さではなさそうだが、こんな部屋まで作っていることに驚きだわ。アリアは何を目指してんだ?
「もしかしたらだけど、魔物を使った実戦訓練じゃないかな。」
「え?もしかしてここってダンジョンなの?」
ダンジョンがある方向とは違うはずだ。何よりダンジョンマップが機能してないから、ここは普通の建物内だろ。いや、これを普通といっていいのかはわからねぇけど。
「違うと思うよ。ダンジョンマップが使えないからね。」
「本当だ。じゃあなんで実戦訓練って思ったの?」
やっぱり気配とかはリスミナはわからないんだな。俺も最近わかるようになっただけで、セリナとは比べものにならない程度だからデカいことはいえねぇけど。
「勘違いかもしれないけど、あそこの扉の先にけっこうな数の魔物がいると思うんだよね。弱そうだけど、40体近くいるんじゃないかな。」
「テキーラくんの弱そうは当てにならないからな〜。」
リスミナが苦笑いをしながら失礼なことをいってきやがった。でも、魔物がいることは信じるんだな。
「まぁ魔物ってのは気のせいかもしれないけどね。」
「カンノ村ならありえるだろうから、テキーラくんの直感は案外当たってるんじゃないかな。」
リスミナの中ではカンノ村はもうそんな認識になっちまってるのか。
俺らが話しているうちにほとんどの生徒が集まったようで、最後にアリアたちと一緒にローウィンスが来て、全員が揃ったようだ。
ローウィンスが挨拶とともに俺らのところにきたあと、サラが声をかけてクラス全員の視線を集めた。
「冒険者基礎の最終試験を行うのです。今回は木でできた武器ではなく、本物の武器を貸し出すので、棍棒を持ったゴブリンを1人1体討伐してほしいのです。殺せれば合格なのです。」
戸惑っているやつが何人かいるが、いつもなら即座に質問しそうな優男が何もいわずに奥の扉に視線を送った。
へぇ。あいつは奥の魔物に気づいているみたいだな。あいつは俺らのグループじゃ実力的についていけないようなことをほざいてやがったが、やっぱりそれなりに実力があるやつなんじゃねぇか。
「テキーラくん、まだゴブリンは出てきてないのに目が怖いよ。」
「…ごめんね。ちょっと気になることがあってさ。」
べつに睨んだつもりはない。あえて弱く見せてまでサラに近づく理由が気になっただけだ。
「それでは、みなさんは入り口側によってほしいのです。名前を呼ばれた方は前に出てきてほしいのです。」
いわれるがままに俺らは入り口の方に歩いていき、スペースを作った。
その後、サラが最初のやつの名前を呼ぶと1人の新人冒険者っぽさが全面に出ている男がサラから武器を渡され、スペースの中央に歩いていった。
俺らの反対側には、いつのまにか移動していたセリナが魔物がいるところの扉に入っていき、すぐに1体のゴブリンの首を掴んで持ってきた。
セリナが右手でゴブリンの首の後ろを掴み、左手でゴブリンの両手を後ろに回させて掴んでいるから、ゴブリンはジタバタと暴れるのが精一杯のようで何も出来ていない。
セリナと俺たちの間にはそこそこ距離があるんだが、セリナはゴブリンを放り投げた。
放物線を描いて飛んできたゴブリンはグチャッと音がしそうな不自然な姿勢で顔面から着地し、今度は入り口側にいるアリアが放った不恰好な棍棒がゴブリンの隣に音を立てて落ちた。
ゴブリンは鼻血をたらしながらゆっくりと起き上がり、視界に入った棍棒を手にし、周りを見渡した。
「それではそのゴブリンを1人で殺してほしいのです。」
サラが指示をした直後、周りを見回し終えたゴブリンは1番近くにいた男に向かって走り出した。ゴブリンと男の間にはまだ距離があったし、既に満身創痍のゴブリンはめちゃくちゃ走るのが遅い。それにもかかわらず、新人冒険者っぽい男はビビって一歩下がった。
ゴブリンが振り上げた棍棒にさらにビビった男が剣を振り回した。その剣がたまたまゴブリンの腹に綺麗な角度で当たり、切り開かれた腹からはドポリと音を立てて大量の血が溢れ出た。そして、さらに男の剣の側面がゴブリンの顔を殴るようにぶつかり、ゴブリンが血の虹を作りながら吹っ飛んだ。
まぁ結果としては殺せちゃいるが、この男は昨日までの4日間で何を学んだんだ?
その後も1人ずつ呼ばれては戦うを繰り返しているが、最初の男ほど酷くはなくても似たり寄ったりなやつらが続いた。
まぁよくよく考えたら、喧嘩もしたことないような本当のど素人が4日で戦えるようにはならねぇか。
そもそも俺はあいつらと関わることはねぇからどうでもいいことだし、自分のペースで強くなるのが1番だな。
俺は自分の番が来るまで、面白くもなんともない他人の戦闘風景を眺めていた。