265話
265話
休みだし、今日はゴロゴロして時間を潰そうかと思っていたんだが、イーラに邪魔されて出かけることになった。
イーラにいわれて思い出したが、俺はしばらくは日中出かける宣言したんだったな。まぁ、もう気づかれてるから意味ねぇとは思うが、とくにやることもないからイーラとテンコと一緒にラフィリアをウロウロとしている。
今日はテキーラでいる必要がないから、イーラもテンコも人型で俺の両隣を歩いている。
こいつらとだと休日に手を繋いで歩いても子守りをしている気分にしかならねぇな。まぁ子守りで間違っちゃいないんだが。
「リキ様、どこ行くの?」
隣を歩くテンコに質問され、返答に迷った。
イーラに促されるまま村を出てきたが、とくにやることねぇし、急すぎてやりたいことも思い浮かばねぇ。
「イーラとテンコはやりたいことあるか?」
「ダンジョン行きたい!」
「リキ様一緒、どこでもいい。」
とりあえずダンジョンに一票入ったが、3人でダンジョンは危なくねえか?
あんま深く潜らなければ問題ねぇとは思うが、イーラの行きたい理由次第だよな。
「なんでダンジョンなんだ?」
「ん〜?とくに理由はないよ〜。暴れたいから?」
暴れたいってなんだよ。まぁたしかに体は常に動かしてなきゃ鈍るから気持ちはわからなくねぇけどさ。
技術的なものは学校で学べるが、肉体的に強化するためにレベル上げをするってのはなしではねぇな。むしろやるべきか。
「つってもこの辺のダンジョンだとあんま魔物が残ってるイメージがねぇんだけど。どっか知ってるか?」
「テンコ、知らない。」
「少し離れたところ?…ん〜、あっ!ケモーナに行く途中にあったよ!」
「ケモーナに行く途中?ケモーナに行ったのってあのときだけだよな?よく覚えてんな。」
「イーラは記憶力がいいってアリアがいってたよ!ただ、思い出そうとしてないだけなんだって。」
それは物覚え悪いのと大差なくないか?
いや、思い出そうと思えばなんでも思い出せるなら、データベースとしては有能なのかもな。あくまでイーラの記憶を誰かが利用するならだけど。
というか、記憶力に自信があるんじゃなくて、アリアにいわれたって答え方もどうかと思うが、まぁイーラだしな。
「じゃあダンジョンに行くか。せっかく町に来たんだし、おっちゃんとこに挨拶してから行くか。」
「「は〜い。」」
とくに腹は減ってなかったが、おっちゃんのところで串焼きを食いながら移動手段を話し合い、携行食が残り少ないことに気づいて買い足してからダンジョンに来た。
近くまで犬型のイーラに乗ってきたんだが、道中けっこう人がいたから見られただろう。でも、もう隠す必要もそこまでないだろうから、あまり気にしないことにした。
道中も人がけっこういたが、ダンジョン前にも人が多いな。これだと中にもかなりいそうだ。
俺はここのダンジョンのことを知らなかったが、もしかして有名なところなのか?
「最後にもう一度だけ聞くんだが、これでダンジョンに入るのか?」
「うん!リキ様と一緒に戦うの楽しかったもん!」
「一緒、心地いい。」
ダンジョンから少し離れたところでイーラから降りたら、イーラは俺に纏ってきやがった。テンコも入ってきたし、ようするに今はテキーラ状態ってわけだ。
3人でダンジョンって危なくねぇかと思ったのに、これじゃあソロみたいなもんじゃねぇか。
…。
まぁいいか。なら俺は俺で剣の練習でもするかな。
アイテムボックスからてきとうに剣を1本鞘ごと取り出し、腰に近づけるとイーラが固定してくれた。
もともとの装備類は既に装備した上からイーラを纏ってるから、準備はこれで終わりだ。視界や体の動きに違和感はねぇし、ここでうだうだいっても時間の無駄だから入るか。
この世界に来た頃はソロで活動する気だったのに、いつのまにか仲間がいないと不安に思うようになっちまったんだな。
それがいいことなのか悪いことなのか、俺には判断出来ねぇけど。
ダンジョン前で薬や地図を売ってるやつらを無視して中に入ると、雰囲気は他のダンジョンと大差ない。
洞窟のような雰囲気ではあるが、道幅は広く、視界を確保出来るくらいに薄明るい。
「とりあえずある程度強い奴が出てくるまで、階段見つけ次第下りてくが、いいか?」
「いいよ〜。」
「リキ様一緒、なんでもいい。」
念話とも違う感じでテンコに話しかけたらイーラも返事をしてきた。これはどういう原理かわからねぇけど、イーラも感覚が混じってるみてぇだな。大丈夫なのか?
「なんでイーラにこの声が聞こえてんだ?」
「なんでって念話じゃないの?」
「テンコ、リキ様一緒、イーラも一緒、だからリキ様とイーラ、一緒。」
んん?
えっと、テンコは俺の中にいるから感覚が一緒ってのはわかるが、イーラも一緒ってのはテンコがイーラの中にも入ってるってことか?それでテンコがパイプになって俺とイーラも繋がってると?なんか違うかもしれないが、念話使う手間が省けてラッキーってことで、細かいことはどうでもいいか。
「よくわからんけど、わかった。んじゃ、しばらく走りながら邪魔な魔物だけ殴って退けるけど、イーラは捕食はなしな。」
「は〜い。」
テンコの話をてきとうに流したせいか、テンコからの返事はなかった。だが、テンコが怒ってる感じはなさそうだから、気にせず下り階段を探しに走った。
そろそろいいかなと思い、階段を下りたところで一度止まって腰の剣を抜いた。
ここはたぶん地下38階だ。
まだまだ魔物は強くねぇけど、剣の練習ならこのくらいから始めればちょうどいいだろう。まだ弱かったらもうちょい下りればいいだけだしな。
それにしてもセリナがいないだけで階段探しがこんなに面倒だとは思わなかった。ダンジョンマップのスキルがあるから一度通った道を無駄に何度も巡るということはなかったが、基本が勘で進んでいたから、遠回りしちまったりとかで余計な時間がかかった。
まぁこれが普通なんだが、セリナに頼りすぎてたせいで不便に感じちまうな。
それに、途中に隠し部屋っぽいのがあったが、中が全くわからねぇから入るに入れなくてもったいなかった。昔の俺なら間違いなく入っていたが、さすがにそれは学習した。今俺が死んだらイーラとテンコも道連れにしかねないし、下手なことはできねぇからな。
抜いた剣をてきとうに振って感覚を思い出しながら少しセリナがいない不便さを脳内で愚痴っていたら、この階層の魔物が姿を現した。
ここのダンジョンは人気があるからか、魔物が少なめだ。
地下20階あたりからは冒険者の数が減ってはいるが、今まで通った全ての階に1組以上の冒険者パーティーがいた。
この階も遠くで微かに剣を打ち合うような音がするし、魔物の数は期待できなさそうだな。まぁ練習にはちょうどいいか。
俺が剣を両手で持って横に構えながらゆっくりと魔物に近づくと、魔物は警戒体勢になったようだ。
この階の魔物はなんていうのか、水をかけると増殖するあいつを四足歩行にしたような女受けしそうな小さな魔物だ。
蝙蝠の羽のような形をした大きな耳にこれまた大きなクリッとした黒い目。三毛猫のような色合いの短い体毛に包まれた全長50センチ程度の三頭身の体はマスコットのような雰囲気を感じさせる。
そんな可愛らしい魔物が威嚇をするように牙を見せて唸っているが、俺が間合いに入る直前で唸るのをやめた。
大きさ的に攻撃時に飛びついてくるだろうから、飛んできたところを真っ二つにしようと考え、近づきながら剣を中段に構え直した直後に魔物が飛びついてきた。
予想通りだったから、振り下ろすために剣を持ち上げたら、魔物の口が異常なまでに大きく開いた。
マジか!?まさか俺を丸呑み出来るほどに口が開くとはあの体からは全く想像出来なかった。
だが、さすがにほぼソロプレイ中に油断するほど今は馬鹿ではないから、急遽サイドステップで避けながら魔物の横に回り、持ち上げていた剣を振り下ろして魔物の側面を切りつけた。
大きくなった口に対して体は小さいままだったが、焦らなければなんてことはない。真っ二つとまではいかなかったが、背中の表皮を切り裂き、背骨を砕いたところまでは確認できた。
観察眼のおかげで鮮明に見えるが、見えすぎるのも気持ち悪いな。まぁだいぶ慣れたから、気にしなければなんともなくなっちまってるんだが、改めて意識するとやっぱり気持ち悪いことに変わりはない。
「もうちょい下でも良さそうだな。まぁ通り道で見つけた魔物を剣で倒しながら下りていけばいいか。」
誰にたいしてというわけでもなく呟いてから、俺は剣を鞘に戻して小走りで先に進んだ。
その後は新しい魔物は1体目だけ立ち止まって戦い、弱かったら下り階段を探すのを優先しつつ、出会った魔物だけてきとうに殺すという感じで階層更新をしていた。
途中で昼飯を挟みつつ、52階に下りたところで、剣を持つ魔物を見つけた。
ボロボロの甲冑を身につけた骨に泥をつけたような人型の魔物。全体的に黒い見た目だけでなく、オーラのようなものまで出ていた。瘴気っていうんだっけか?邪龍のときほどではないが、本当に薄っすらと漏れ出ている。
落ち武者に見えなくもないが、身につけているボロボロの甲冑がもとは厚みがありそうな感じだからか、幽霊的な落ち武者より黒い騎士っていった方がしっくりくるような、少し強そうな雰囲気がある。
今までの階と同じように一体目は剣の練習を意識して、立ち止まって構えた。
黒い騎士が持つ剣は刃こぼれしているものの、もともと切るというより叩き潰すという使い方をするであろう大剣だと思うから、十分な殺傷力はあるだろうし、下手に剣で受け止めたら俺の剣の方が刃こぼれしそうだな。というか下手したら折れるかもしれん。
黒い騎士はそんな大剣を片手で持ちながら、ゆっくりと近づいてきた。
今までの魔物のように俺を見つけ次第走って突っ込んでくるということはなく、眼球がなくなっている眼窩の奥の薄っすらと赤く光る何かをわずかに動かしながら、間合いを測るかのように近づいてきていた。
それなりに知能のある魔物なのか?
黒い騎士は踏み出せばギリギリ剣が届くあたりで止まり、大剣を持ち上げた。右手で大剣を肩に担ぐように持ち上げて、左手を前にだすという、ずいぶん独特の構えを取るんだなと思ったら、黒い騎士が距離を詰めてきた。
カウンターを狙いたいところだが、黒い騎士の左手が邪魔で踏み出せない。仕方なく、剣の先端を黒い騎士の左手の側面に当てて、外に逸らした。
黒い騎士を切りつけるために剣を持ち上げようと思ったが、黒い騎士が片手とは思えない速度で大剣を振ってきたから、剣を持ち上げるのはやめて、突きを放った。
だが、黒い騎士は大剣を防御に回そうという仕草すら見せなかったから、咄嗟に俺は攻撃をあきらめ、体を捻って背面跳びのように黒い騎士の大剣を避け、そのままの勢いで地面を転がるように少し距離を取った。
捨て身の攻撃かよ。めんどくせぇな。
避けずに攻撃していれば黒い騎士の首の骨を砕くことは出来たとは思うが、それであの大剣をくらってたら、下手したら俺も死んじまうから避けるしかなかった。
剣って面倒だな。
ガントレットなら相手の攻撃を受け流しつつ殴りにいけるのに、剣だと……いや、俺が出来ないだけで、練習すれば出来るんじゃねぇか?セリナは出来てた気がするし。
俺はあらためて剣を構えながら集中した。
どうすれば無駄な動作をせずに相手の攻撃を受け流しつつ攻撃できるのか。
相手の動きを予測しながらシミュレーションしていたら、ふと思い出した。そういや前にダンジョンで剣の練習をしたときはそれなりに出来てた気がする。じゃあなんで今は出来ない?
…。
そうだな。あんときは一から十まで考えてなんていなかったよな。動きの見直しとかはするべきだが、そこまで細かく考えずに感覚でやっていた気がするな。
レベルが上がったせいか、動いている最中に前よりも考えごとが出来るくらいに余裕が出来ちまったせいで、余計なことを考えてたな。
俺が考えごとをしていることなどおかまいなしに黒い騎士が攻めてきた。
大剣を振りかぶって叩きつけてきたのにタイミングを合わせて、俺は剣で大剣を横に軽く弾きながら避け、一気に踏み込んで横なぎに剣を振るい、黒い騎士の胴を切りつけた。
ボロボロとはいえ、一応甲冑を着ていたからか、真っ二つになることはなかったが、けっこうなダメージは与えたと思う。ただ、これだけでは殺せていないから、一度黒い騎士を通り過ぎ、振り向きながら袈裟切りで、黒い騎士の背面肩口に深く剣を切れ込ませた。
力を入れすぎて剣を壊さないようにと考えたせいで中途半端に止まっちまったが、無理やり黒い騎士の肩から引き抜いた剣はとくに刃こぼれをした感じはなかった。それなりに丈夫な剣みたいだし、もうちょい力を込めても大丈夫そうだな。ただ、黒い騎士は崩れ落ちて起き上がる様子がないから、次の魔物を見つけなきゃなんだがな。
この階の魔物は剣の練習に適してるっぽいから、とりあえずはこの階の魔物を殺しつくすまでは下に下りずに練習だな。