270話
270話
初日の授業が終わり、教室から出ていくやつらを見ながら席を立つと、隣のデュセスも席を立った。そういやこいつ、あれから一言も喋らなかったな。余計なことをいわないために黙ることにしたのかねと思いながら顔を向けると、デュセスもこっちを見ていた。
「テキーラは明日はどの武器を使うの?」
普通に話しかけてきたってことはべつに意図的に黙ってたわけではなく、授業に集中していただけだったのかもな。
「俺は普通の剣を使うつもりだよ。デュセスは何を使うの?」
デュセスに答えながら椅子をしまい、出入り口の方に歩き始めると、デュセスが俺の横に並んでついてきた。
「私は使い慣れている短剣を使うつもり。」
「短剣ってあの短剣?秘密がどうとかいってなかった?」
「隠している技術を使っている短剣だけど、見ただけじゃわからないから問題ない。MPを通さなければ魔法陣は浮かばないから大丈夫。」
本当に大丈夫なのだろうかという心配1割、試してみたいという好奇心9割でデュセスが腰に下げている短剣に鑑定を使ってみた瞬間、顔の目の前で小爆発が起きたかのように弾かれて、頭が勢いよく仰け反ったせいで首が地味に痛い。
見えないとかじゃなく、反発されるとは思わなかった。…そういやこんなこと前にもあったな。
俺が痛めた首を左右に曲げて調子を確かめていたら、なぜか周りをチラッと確認したデュセスが近づいてきた。
「…テキーラはもしかして、鑑定も使えるの?」
腕同士が密着する距離まで近づいたデュセスが小声で確認してきた。
たぶん鑑定のことが周りにバレたら良くないと思って気を使ったんだろうが、これはこれで迷惑だ。
デュセスが密着してきたせいで、周りの注目を無駄に集めちまった。勘違いされるのも面倒だから、デュセスの頭を掴んで無理やり遠ざけた。
デュセスは本気で驚いた顔を向けてきたが、周りが見えていないのか?いや、こいつは仕事のせいか視野は広いみたいだし、ただ単に気にしてないんだろう。そんなやつにわざわざ説明するのも面倒だから無視でいいや。
「使えるけど、あんま使ってないかな。なんか使うと相手にバレるらしいし、使ったところで見えないこともけっこうあるからね。今は好奇心に負けて使ってみたけど、何も見えなかったから安心して。」
「この短剣やナイフは対策してあるから見えるはずがない。それより、テキーラこそ大丈夫?これは反撃の効果があったはず。頭が痛かったり、状態異常にかかっていたりしない?」
…え?鑑定に対してそんな対策方法があんの?もしかして無闇に鑑定して頭がバンッとかありえんの?…怖いんだが。
だが、デュセスの心配の仕方を見るにありえなくはないのかもしれない。
念のためステータスを確認してみるが、状態異常はないみたいだ。
『ハイヒール』
「状態異常はないね。首がちょっと痛いくらいで頭はなんともなかったけど、念のため『ハイヒール』を使ったから大丈夫だと思う。そんな心配するほどの反撃なの?」
「この短剣を作った人がいうにはMPを必要量込めておけば、鑑定してきた相手の脳に衝撃を与えられるといっていた。だから鑑定されないために常にMPを込めた状態にしてある。それをあなたは鑑定したようだったから心配だったけど、あなたは普通ではないから問題なさそう。良かった。」
本当に安心したかのように最後に微笑みを向けてきたが、普通ではないっていわれて微笑まれても馬鹿にされてるのか、そうではないのかわからなくて反応に困る。
デュセスはあらためて短剣にMPを流し込んでいるようだったが、今なら鑑定出来るのかもな。まぁそこまでして見たいもんでもないからやらんけど。
「2人はずいぶん仲良くなったんだね。」
リスミナたちが授業を受けていた教室の前の廊下で壁に寄っかかっているリスミナが見えていたから近づいたら、俺らに気づいたリスミナが壁から離れて笑顔で声をかけてきた。どうやら俺らを待ってたっぽいな。
「そうかな?」
「友だちになった。」
…。
「そうなんだ!テキーラくんがデュセスと凄く仲良くなってくれると、私も嬉しいな!あれ?でもそれだともしかして私はお邪魔かな?」
変な勘違いをするのはやめてくれ…。周りの人はだいぶ減っているが、それでも聞き耳立ててるっぽいやつもいるから、余計なことを口走らないでほしい。
「俺とデュセスが友だちなら、俺とリスミナもリスミナとデュセスも同じ授業を受けてる友だちなんだから、そんな変なことを気にする必要ないと思うよ。恋人とかじゃないんだし。」
「いいの?」
少し驚いた顔をしたリスミナに聞き返されて、一瞬意味がわからなかったが、一緒にいてもいいのかって意味か?
「あ、ごめん…なんでもない。じゃあ私もこれからもよろしくね!でも、デュセスは可愛いから、付き合うこととかになって私が邪魔になったらいってくれていいからね。」
「変な気を使わなくていいよ。デュセスが可愛いことは認めるけど、これと付き合うとかはさすがにないからさ。」
「これ扱いはさすがに失礼。恋愛は経験がないから素人なのは認める。でも、私は優良物件だといわれたことがある。」
「いや、そうでもないよ。」
俺が鼻で笑ったら、デュセスが無言で俺の目を見てきた。軽く睨まれてるっぽいが、全く怖くない。
「ハハハ…。2人とも本当に仲良くなったんだね。」
若干呆れたような顔でリスミナが口を挟んだから、俺とデュセスの間にあった微妙な空気が霧散した。
「…あぁ、そういうこと。テキーラはあなたに恋愛感情を持つような人間じゃないから安心して大丈夫。」
急に何かに納得したようなデュセスがリスミナに答えたが、意味がわからん。
たしかにリスミナに恋愛感情は持ってないが……あぁ、リスミナの接し方的に勘違いする男がいてもおかしくないからな。俺はそういうタイプじゃないって教えたのか。
デュセスに人の気持ちを察せる能力があったことには驚きだが、そういや2人は最初っから知り合いっぽかったから、なんか知ってるのかもな。
ただ、恋愛感情を持つような人間じゃないっていい方には少し引っかかるが…まさか本気で俺が男好きとか思ってるわけじゃねぇよな?
リスミナはいきなりそんなことをいわれても理解が追いつかなかったのかキョトンとしていたが、しばらくして微笑みを浮かべた。
「そっか。」
たった一言なのに凄く安心したといった気持ちが伝わってきた。
もし俺がリスミナに惚れていたら、告ってもいないのに振られたみたいになって、今夜は枕を濡らすことになっていただろうな。
本人が目の前にいるのに本人介さずそういう話をするのはやめた方がいいぞ。という気持ちを込めてデュセスを見たが、伝わるわけもなく首を傾げられた。
つっても全部が俺の予想であって、本当のところはわからないんだけどな。
もしかしたらデュセスが友だちを取られたくないからってリスミナに牽制しただけかもしれんし……それはないか。
「とりあえず帰りながら話そう。」
ここでずっと立ち話するのもなんだから、2人に帰ることを提案すると、了承の返事が来たから歩き始めた。
俺の隣にデュセスが並び、そのデュセスの隣にリスミナが並んで雑談しながらラフィリアへと帰ったんだが、なぜか懐かしい気持ちになった。
2日目の応用の授業はゴブキン山にある広場なんだが、基礎の時に使った場所とは違う。
広さは基礎の時の場所より1.5倍くらいに感じる。
場所を地図でしか確認していなかったから今回も少し早めに来たんだが、俺が着いた頃には先生役の村人が既に数人いるし、生徒もほとんどが集まってるっぽい。
さすがに100人越えだと人が多いな。
「おはよう!」
「おはよう。」
「「「おはようございます。」」」
「…。」
リスミナたちが見えたから近づいていくと、一番最初にリスミナが俺に気づき、デュセス、乙女の集いの4人組という順で挨拶された。ただ、クレハだけはペコリと頭を下げただけだが。
リスミナはさすがというか、クレハやユリアとも既に仲良くなっているんだな。デュセスがこの集団に混じっているのは意外っちゃ意外だが。
「おはよう。」
ひと通り視線を送ってから挨拶を返した。
というか、知り合いだからといって近づいたのはミスったな。女集団のなかに俺1人で入っていくとか完全に失敗だ。
今までそういうのはほとんど気にしてなかったが、明らかに俺はこの場で浮いている。むしろこの集団自体がこの広場内で浮いているっていう方が正しそうだけどな。
こいつらは中身が残念なやつも混ざってはいるが、見た目だけなら冒険者ってよりも女の子って感じのやつらだからな。ここだけ空気が違う。だからといって、俺には他に喋れる知り合いがいないのにここから離れるのもおかしいから、無理に離れることもできねぇ。
こういうときに限ってローウィンスはまだ来てないんだよな…。いや、ローウィンスが来ててもたぶんこの集団にいるだろうから意味ねぇか。
いっそ村人のやつらと話しでもしに行こうかと周りを見たら、他の生徒たちにめっちゃ見られていることに気づいた。…ウゼェ。
「テキーラくんはロッドじゃなくて剣にしたんだね。」
俺がこの集団から離脱しようと考えていたら、リスミナが話しかけてきた。だが、意味がわからねぇ。俺はいつロッドを使ってるなんて話をした?まぁいいか。
「剣は使えるようになっておきたいからね。」
正直慣れのせいか殴る方が楽ではあるが、打撃が効かないやつもたまにいるからな。ある程度は剣の扱いを身につけておきたい。
ちなみにこの剣はアリアから借りている。前に一度授業中に剣を壊しているからか、今回のは前より頑丈な魔鉄で作ってあるらしい。壊すつもりはないが、頑丈なのは助かる。
「たしかに剣は使えて困ることはないと思うけど、魔法を主に使うならロッドや杖の方がいいんじゃないかな?」
「魔法は補助程度にしか使わないよ?」
「…え?…いや、テキーラくんがいいならいいんだけどさ。」
なぜかリスミナに驚かれ、諦めるように微苦笑された。
俺って魔法がメインなんて話をしたっけか?そういや前は魔導師だったって話はしたな。それで勘違いされたのかもしれない。
「今は冒険者だからね。」
念のためジョブを強調してみたが、リスミナは微苦笑のままだった。
まぁいいかと視線をズラすとクレハとユリアがジッと俺のことを見ていることに気づいた。
もしかしてバレたのか?
「テキーラさんってもしかして精霊使いですか?」
なんでこの変装で気づけんのかと思ったが、べつに気づいてガン見していたわけじゃなくて、気になることがあったってわけか。
「違うけど、どうして?」
俺は今は精霊使いのジョブは使っていないから嘘ではない。だからすっとぼけてみた。
まぁ精霊術師ではあるけど。
「テキーラさんから強い精霊の気配を感じて…もしかしたら武器や防具、アクセサリーに大精霊が宿っているものがあるのかもしれないですね。…あっ、私はユリアです。よろしくお願いします。」
ユリアは最後に自己紹介をして、ペコリと頭を下げた。
そういやユリアは精霊が見えるんだったな。テンコが俺ん中に入っているのがなんとなくわかるのか?上からイーラを纏っているのにテンコの力が漏れてんのか?
さすがにその気配がテンコだとはわかっていないみたいだからいいけど。
「ユリアさんはそういうこともわかるんですね。俺はテキーラです。よろしく。」
テキーラとしてはクレハとユリアとは初対面だということを思い出し、ユリアに笑顔で自己紹介をしてからクレハに目を向けた。
「クレハです。よろしくお願いします。」
クレハは頭を軽く下げて挨拶したあともジッと俺を見ている。
なんかいいたいことでもあるのか?と思ったが、ローウィンスを連れたアリアたちが来たから、そろそろ授業の時間っぽいし気にしないことにした。
というかローウィンスはちょいちょいアリアたちと登場してるけど、ローウィンスだってことを隠す気あんのか?
俺らに笑顔を向けながら近づいてくるローウィンスを見るに、バレたらバレたでいいと思ってるのかもしれないな。クレハやユリアが驚いてるから口止めとかしてないっぽいし。
いや、バレるとかよりも身の安全の方が重要ってだけかもな。村の中なら村人がいるが、外でもしものことがあってはマズイからとアリアたちといるのは納得もいく。まぁ、もしかしたらローウィンスなりに考えあっての行動なのかもしれんし、そもそもバレたところで俺には関係ないから、俺がなにかをいうつもりはないがな。