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278話

裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚【コミカライズ】 — novelba.com · All chapters

278話

さっき使った魔物寄せの煙の有効範囲は俺らが登ってきた側にいた魔物だけだったのか、今下っている側にはけっこうな魔物の気配がある。ただ、デュセスはわざわざ狩りに行くつもりはないらしい。それどころか、襲ってきたポイッシャーは頭すら取らずに切り捨て、スライムは踏み潰して走り続けている。

そんな勢いで進んでいたからすぐに山を下り終わり、森のように生い茂る木々から抜け、整備された道へと出てきた。

道に出る手前で、革鎧を身につけたやつらがしゃがみこんでいたが、あんなところで何をしてるんだろうか?

今日初めて見かけた俺ら以外の冒険者っぽいやつらの行動を不思議に思っているうちに整備された道を横断し終え、今下りて来たのとは別の木々が生い茂る山へと入っていった。

俺のうろ覚えな脳内マップが正しければ、この山は前にフレドたちと来たところな気がする。

あの時は人が頻繁に通っているように地面が踏み固められているだけの獣道から入ったが、今回は踏まれた形跡もなく俺の脛くらいまで元気に育っている草を踏みつけながら進んでいる。というか、絶対ここは道じゃねぇだろ。

まぁ道じゃないからって困るわけでもねぇからいいかと思いながら、速度を上げてリスミナに並んだ。

話しかけようかと思ったが、リスミナはちょっと疲れた感じでデュセスについて行くことに一生懸命っぽかったから、邪魔しちゃ悪いと思い、そのままリスミナを追い抜いてデュセスの横に並んだ。

「さっきの山の麓の何もないところで冒険者っぽい人たちがしゃがみこんでいたけど、あそこって何かあるの?」

「あそこの山の外側にはスライムしか出てこない。だからFランクパーティーやEランクソロの冒険者でも比較的安全に薬草採取が出来る場所だと聞いた。」

へぇ、じゃああいつらは新人冒険者たちって感じか。

「…ん?でもサーベージボアってCランクの依頼じゃなかったっけ?」

もしかして素材回収だからただの討伐よりもランクを高く設定してあるとかか?それにしたって2つも3つもランクが変わることはないはずだ。

「奥に行かなければサーベージボアやアントラゴートと接敵することはまずない。ポイッシャーはさらに奥の山を登らなければいない。もちろん出てくることが全くないわけではないけど、突進や噛みつきしかないような魔物相手なのだから、冒険者なら逃げるくらいは出来るはず。それが出来ないなら冒険者なんてやめた方がいい。」

生息地がだいたい決まってるわけか。

スライムだったら本当にデュセスが踏むだけで死んでたし、装備を揃えられないような新人冒険者でも問題なさそうだ。

まさに新人冒険者のための採取場所って感じなのか。そこですらまともに採取出来ないなら確かに冒険者はやめた方がいいだろうな。

デュセスと話しながら進んでいたら、けっこうな速度で近づいてくる気配が複数あった。

「何か近づいてくるよ。」

「何体?」

俺の言葉を聞いたデュセスも気配に気づいたのか、立ち止まって短剣を抜いて気配の方に視線を向けた。ただ、数まではわかってないらしい。

「5体かな。」

俺が数を教えるのと同時に先頭の魔物が視界に入った。

「フォレストウルフ…。私とテキーラは2体ずつ。リスミナは1体。リスミナは倒せればいい。でも、テキーラは一撃で首を切り落として。」

デュセスがいうだけいって、フォレストウルフに向かって走っていった。

なんで俺だけ殺し方まで指定されんだよ?…まぁこのくらいの魔物なら出来ると思うからいいけどさ。

「テンコ、身体強化を頼む。」

「はい!」

念のためテンコに身体強化を頼みながら剣を抜き、デュセスを避けてこっちに向かってきたフォレストウルフとの距離を一息で詰め、先頭の首を喉から切り上げるように切断した。そして、そのまま次のフォレストウルフとの間合いを詰め、返す剣で上から首を切り落とした。

互いに進みながら切りつけたせいで、2体目のフォレストウルフは首を切る勢いで前足まで切断しちまった。…なんで首チョンパを指定したのかはわかんねぇけど、前足くらいならたぶん大丈夫だろ。

ダメなら新しいのを探しに行けばいい。

とりあえず俺の仕事は終えたから、剣についた血を振り払って鞘にしまおうとしたところで、少し遅れてきた3体目が俺に噛みつこうとして飛びついてきた。だが、俺はデュセスに2体と指定されていたから、体を捻ってフォレストウルフの攻撃を避けながらリスミナの方に蹴り飛ばした。

「え?」

リスミナが一瞬固まったように見えたが、すぐに剣をかまえ、俺に蹴り飛ばされて一直線に向かっていくフォレストウルフに合わせて、剣で切りつけて深い傷を与えたっぽいから問題なさそうだな。

そういやこいつらって討伐証明部位を取るんだったか?…どこだっけ?

尻尾だったような気がするが、余計なことはしない方がいいか。

「リスミナはテキーラが倒したフォレストウルフの毛皮を剥いで。たいした収入にはならないけど、アイテムボックスに余裕があるなら討伐部位も取っておくといい。」

デュセスは自分で倒したフォレストウルフの解体をしながら、リスミナに指示を出していた。

前にフレドは毛皮なんて剥いでなかったと思うんだが、俺が忘れているだけか?

俺が首を傾げていたら、リスミナが走って近づいてきて、俺の顔を見てから首を傾げた。

「どうしたの?」

「いや、前に知り合いの付き添いでこの魔物を倒したときは毛皮を取ったっけと思ってさ。」

「フォレストウルフはわりとどこにでもいるし、依頼として受けない限り毛皮はたいしてお金にならないから、取らなかったんじゃないかな?討伐の常時依頼があるから荷物に余裕があれば尻尾くらいは切り取るかもしれないけどね。私たちはあと1件の依頼で終わりだから時間の余裕があるし、せっかく討伐したならちょっとでもお金にしようと思ったんじゃないかな?」

もしかしたら、あんときのフレドたちは俺らに気を使ってたのかもな。いや、正確にいうならサーシャのための時間を作るために依頼以外の余計なことに時間を使わないようにしたってところか。

「そうなんだ。今回も水で洗った方がいい?」

「今回は依頼で取るわけじゃないから大丈夫かな。デュセスもそのまま取ってるみたいだし。」

リスミナは一度デュセスの方に視線を向けてから、フォレストウルフの皮を剥ぎ始めた。

やることがない俺は周りの警戒をすることにした。といっても近づいてくる気配はないから大丈夫だと思うけどな。まぁ一応目視確認もするけど。

リスミナが1体分の皮剥ぎを終える前にデュセスが2匹分を終えたようで、毛皮と尻尾を持って近づいてきた。

デュセスは毛皮と尻尾をリスミナに渡し、まだ未処理の首なしフォレストウルフの皮剥ぎを始めた。

さすがにデュセスが3体目を終える前にリスミナが1体分の皮剥ぎを終えたが、それからたいして時間がかからずデュセスも終えた。

リスミナは別に下手でも要領が悪いわけでもないと思う。ただただデュセスが速いだけだ。処理の仕方を知らない俺でもデュセスの作業が綺麗だと思うくらいだし、かなり上手いんだと思う。

「これからもフォレストウルフの毛皮を取るの?」

「もういらない。出会ったら討伐するしかないから尻尾は取るけど、毛皮はいい。」

もし取るなら首チョンパを狙わなきゃと思って聞いたんだが、どうやらもう満足らしい。

「フォレストウルフの毛皮は今回の依頼と関係なかったよね?」

「依頼とは関係ない。ただ、これからもっと寒くなるから、3人でお揃いの外套を作るのもいいかと思っただけ。」

デュセスの言葉を聞いてからフォレストウルフの毛皮を見た。

緑色の毛皮のコートか……魔物の毛皮って着色できたりするだろうか?

「いいね!せっかく仲良くなれたんだし、記念にそういうの作るのも楽しそう!」

なんかリスミナが乗り気になってやがる。

べつに俺もそこまで嫌なわけではないが、よくよく考えたらテキーラとしてもらったらあと数日しか着れねぇじゃん。いや、作るのに時間がかかるだろうし、着る機会がないんじゃね?

「それなら、冒険者ギルドに依頼達成の報告を終えたあとに一緒に服屋に行って、全員の採寸と注文をすればいい。」

「そうだね!」

なんか勝手に話が進んでいくが、まぁいいか。この世界の学校に通った記念として作るだけ作っておくか。

「じゃあさっさと依頼を終わらせちゃおうか。」

「そうだね。たしかこの辺がスメープの生息地だったと思うんだけど…。」

「テキーラはわかる?」

リスミナが周りを見渡し、デュセスは俺を見ながら確認してきた。

そういや最後の依頼はそんな名前の魔物の体毛の採取だったな。なんか注意点があった気がするが、思い出せねぇ。…まぁ実際に魔物が現れたら、デュセスが説明してくれるだろ。

「離れたところに何かいるみたいだけど、それがスメープかまではわからないかな。」

「どっち?」

俺は気配がある方に人差し指を向けた。

「手前に3つある気配はたぶんゴブリンだけど、その奥は距離があるから何かの気配が2つあるってことしかわからない。一応反対側にもいくつか気配があるけど、そっちはゴブリンだけだと思う。あとは山を少し登ったところにも何かいるよ。」

察知範囲内にある気配が1つではなかったから全部を説明したら、デュセスは迷うそぶりを見せずに最初に示した方に走っていった。

まだ目視でわかる距離ではないと思うんだが、デュセスには何かが見えたのかもな。

とりあえずデュセスについて行くと、予想通りゴブリンが3体いた。それらをデュセスが切り殺し、そのまま止まることなく進んでいった。

耳は取らないのか?と思ったが、まぁいいかとゴブリンの死体を通り過ぎると、リスミナもスルーしたようだ。

そこから少し進んだところで、デュセスが木の陰に隠れるように止まったから、俺らもデュセスと同じ木の陰に身を潜めた。アントラゴートまでちゃんと木の陰に入ってるし、空気が読める魔物みたいだな。

「一応確認しておく。スメープは精神攻撃を仕掛けてくるけど、対策はしてある?」

「私は精神攻撃抵抗の加護付きの指輪をしてるから大丈夫だよ。」

そういや俺って精神攻撃の影響を受けたことねぇけど、加護とかを持ってるわけじゃねぇんだよな。

今まで防いだ中で1番強そうだった精神攻撃ってなんだったか…。

「サキュバスの魅了が平気なら問題ないかな?」

「テキーラってもしかして不能?」

「ちげぇよ。…ゴホンッ、もしかして、精神攻撃にも種類があったりする?」

デュセスが変なことを聞いてきたせいで素で答えちまったが、すぐに咳払いで誤魔化した。

「精神攻撃に該当するものは全て同じ加護で対抗できる。不能でない男でサキュバスの魅了に対抗できるなら、精神攻撃無効かそれに近い耐性があるはずだから、スメープの催眠程度は何の問題もない。」

「問題ないなら良かったよ。」

説明を終えたデュセスが木の陰から先を見た。それにあわせて俺も先に目を向けると、白い毛玉があった。…なんか見たことある気がするんだが。

「朝にもいったけど、念のためもう一度いっておく。スメープはメープが精神攻撃を使えるようになっただけだから、対策してあればなんの脅威もない。ただ、弱すぎて素材を取るのが難しいから気をつけて。スメープの体毛は血を吸いやすく、一度血が染みると落ちないから売り物にならなくなる。加減して殴り殺す方法もあるけど、念のため生きたまま毛を刈る方法でいく。」

俺が朝の話を聞き流していたことがバレているのか、デュセスが丁寧に説明してくれた。

それを聞きながらスメープとかいう魔物を見ていたら、急に2体ともがコロンと転がり、俺の気配察知から消えた。正確にいえば死んだかのように気配が薄れて、生き物ではなく物体の気配に変わっているようだ。

…いきなり死んだ?それとも俺らに気づいて気配を消したのか?だが、さっきデュセスがやっていた気配の消し方とは違う気がするし、そもそも丸見えだから意味ねぇけど。

「血を流させないで殺したよ!イーラ偉い?」

確認に行くべきか、それとも様子を見るべきかと考えていたら、イーラが話しかけてきた。

「イーラの仕業かよ。いきなりだったから意味わかんなかったわ。何したんだ?」

「『威圧』で殺しただけだよ。」

「そういや、雑魚相手ならそれで殺せるんだったな。すぐ思いつくとか凄えじゃん。」

「エヘヘ〜。」

デュセスの話を聞いたうえで的確な判断が出来るのは素直に凄えと思ったから念話で褒めたら、だらしない笑い声とともに嬉しいという感情が流れ込んできた。…もしかして、イーラも俺に混ざってるとかじゃねぇよな?ただテンコを通して感情が伝わってるだけだよな?

「……テキーラ、何かした?」

イーラと念話で話していたら、振り向いたデュセスがジト目を向けてきた。

「血が出ないように殺しただけだけど、殺しちゃまずかった?」

「…………いや、平気。何をしたのか全くわからなかった。何をしたの?」

「それは秘密だよ。」

特に意味はないが、なんとなく秘密にしたら、なぜかデュセスは一度リスミナを見てから俺に視線を戻した。

「わかった。とりあえず毛を刈ってくる。近くに他のスメープがいるなら、テキーラにはそれらを同じように殺しておいてほしい。リスミナは念のため私の近くで、魔物の警戒をしてほしい。」

「私はいいけど、テキーラくんは1人で大丈夫?」

「スメープを離れたところから出血すらさせずに殺せるような相手を心配するだけ無駄。この辺りは強くてもオークくらいしかいないから、テキーラなら寝てても死なない。」

リスミナが俺を心配して確認してきたんだが、なぜかデュセスが答えた。しかもわけわかんないこといい始めたし。さすがに寝てるところをオークやフォレストウルフに襲われたら死ぬわ。…いや、今はイーラを纏ってるから、本当に死なない可能性が高い気がしてきた。

「さすがに寝てても平気なわけがないけど、オークくらいならどうとでもなるから大丈夫だよ。じゃあちょっといってくるね。アントラゴートは待機ね。」

早くも1体分の毛を刈り終えそうなデュセスとその後ろで立ってるリスミナとアントラゴートに一言告げて、もう少し先にいる気配のもとへと向かった。

しばらくすると4体のスメープを視界に捉えた。

俺も試しにとかなり力を入れて『威圧』を使ったら、スメープだけでなく俺の進行方向にあった気配のほとんどがなくなった。

そういやイーラは斜め前にいたデュセスにすら気づかれないようにスメープだけを殺してたよな?どうやったんだろう?…まぁ殺せたからいいんだけどさ。

とりあえず目の前の4体を拾って、もうちょい先にあった気配も確認しに向かい、死んでるスメープは全て拾ってからデュセスたちのところに戻った。ゴブリンも死んでたけど、それは放置した。

スメープは小さいからどの程度必要なのかわからんけど、この短時間で7体も倒せたから上出来だろ。

俺は7体のスメープを落とさないように抱えながらみんなのところに戻ると、デュセスはもう毛を刈り終えていたようで、リスミナと何かを話していたみたいだが、俺が近づいたらなぜか話をやめた。

「とりあえず近場にいたのは全部持ってきたけど、これで依頼分は足りる?」

「……十分。テキーラがいると魔物を探す時間がほとんどないから、依頼が終わるのが早すぎる。」

早く終わる分にはいいと思うんだが、なんかデュセスのいい方は良くないことのように聞こえるな。

「マズかった?」

「いや、リスミナがこのペースが普通だと思ってしまったら、今後の冒険者生活が大変になると思っただけ。私としては稼ぎたかったから助かる。ありがとう。」

「さすがに今日の達成速度がおかしいのはわかってるから大丈夫だよ。私からしたらデュセスの解体の速さも十分おかしいと思ってるし。」

やっぱりデュセスの解体速度もおかしいのか。

というか、早く依頼を終えられたのはデュセスの解体が異常に速いからだと思うけどな。討伐だけならこのくらいは普通だと思うし。

「リスミナがわかってるならいい。時間がだいぶ余ったけど、どうする?」

「服を作るための採寸もあるし、依頼分を終えてるなら帰るのもありじゃないかな?この時間なら受付もそこまで混んでないと思うし。2人がもっと稼ぎたいなら、夜まで魔物狩りでも大丈夫だよ。」

俺はどっちでもよかったからてきとうに提案をしたら、2人が考え始めた。

「…今日は帰ろう。上手くいき過ぎているときに調子に乗ると、取り返しのつかないことになることが多いと聞く。3人で分けても十分な稼ぎを得たのだから、無理をする必要はない。」

「そうだね。まだ体力的には大丈夫だと思うけど、いつも以上の速度で依頼を達成出来て興奮してるだけかもしれないからね。」

2人はずいぶん慎重派なんだな。

さすがにダンジョンの中でぶっ倒れるまで魔物討伐をしてた過去の俺は馬鹿だったと自覚しているが、せっかくいつも以上に稼げてるなら、もうちょい欲をだしてもいいんじゃないかと思うけどな。まぁ今回はちょっと3人で遊ぼうぜ的なノリでもあるから、このくらいがちょうどいいっちゃちょうどいいのか。

「じゃあ帰ろうか。」

俺の言葉に2人が頷き、デュセスを先頭にして走って整備された道まで出た。

そこからは3人並んで雑談をしながらラフィリアに向かうことになった。

まだ夕陽にすらなってねぇけど、久しぶりの学友との遊びも終わっちまったな。

この世界にくる前の遊びとは全然違うが、これはこれでそれなりに楽しめたし、アリアたちと魔物狩りに行くのとはまた違った感覚で悪くなかったなと思いながら、2人がしている何気ない会話に俺は相槌を打った。