300話
300話
〜♪〜〜♪〜♪〜♪〜〜〜♪
耳心地のいい鼻歌が聞こえて意識が浮き上がってきた。
昨日はジャンヌと殴り合い続けたから地味に疲れたし、もうちょい寝たいと思いつつも自然と鼻歌に聴き入っていた。
聞いたことのない歌だが、寝起きで働かない頭が不快感なく受け入れる優しい音…このまま二度寝もありだな。
いや、まぶた越しに感じる光からしてもう朝だし、せっかく起きたのだから起きるか。
「おはよ♪」
…………。
鼻歌の正体はヒトミだったみたいだな。
というか、なぜヒトミは俺の部屋にいるんだ?
「あぁ、おはよう。なんでヒトミが俺の部屋にいるんだ?」
「嬉しくて、早くお礼をいいたかったから、起きるの待ってたんだよ♪」
朝からテンション高いな。
黙っていればお淑やかで透きとおるような綺麗さを持つ見た目なんだが、喋るとここまで雰囲気が変わるやつも珍しいよな。
まぁこれはこれで可愛らしいとは思うが。
「お礼をされるようなことをした覚えがないんだが。」
「リキ様が〜♪あたしのために〜♪魔王狩りに行かせてくれる♪それがすごく嬉しいんだよ♪ありがとう♪」
予想以上に喜ばれてんな。
まぁここまで喜んでくれたら、悪い気はしねぇけど。
「ヒトミは今回頑張っただろ?だから対価としてだし、お礼をいわれるようなことじゃねぇ。むしろ俺がいうべきだろ。サラの手伝いとかいろいろありがとな。」
実際何をしてたのかは知らないが、サラの手伝いをしてたことは聞いていたからお礼をいったんだが、ヒトミは驚いた顔に変わったあと、すぐに人懐っこい笑顔へと戻った。
「知っててくれたんだね♪リキ様に気づかれないようにってアリアにいわれてたから本当は嫌々だったんだけど、やっぱりリキ様は見ててくれてるんだね♪頑張ってよかった♪」
嫌々やらせれてたのかよ。
というか、実際何をしてたのか知らないのにこんな反応されると、ちょっと罪悪感があるな。
だが、喜んでるところに水を差すようなことをいうべきではないか。
誤魔化すようにヒトミの頭を撫でながらベッドから降りると、ヒトミが右腕に絡みついてきた。
「朝の準備をするから、腕を抱かれてると困るんだが。」
「こめんね♪左腕にするね♪」
「いや、そういうことじゃねぇよ。…まぁいいか。顔洗って歯を磨くだけだし。」
なぜかヒトミの機嫌が今までにないくらい良さそうだったから、拒否するのを躊躇しちまった。
普段からニコニコしていてテンションの高いヒトミだが、今のヒトミを見ると普段のは機嫌がいいからというわけではなさそうな気がするな。
「磨いてあげよっか♪膝枕で♪」
ふと、小さい頃に母親にそんなことをしてもらってたことを思い出した。
だが、この歳で人に磨いてもらいたいとは思わねぇな。
「いや、遠慮しとく。それよりヒトミは出かける準備って出来てるのか?」
「あたしはいつでも行けるよ♪リキ様からもらったモーニングスターはいつも身につけてるからね♪アリアからのお願いも今は何もないし♪」
ヒトミが腰で俺の腰を突っついてきたから何かと思って視線を向けた。
どうやら腰にモーニングスターをつけてるみたいだな。………違和感が半端ない。
この世界で武器を携帯しているのは珍しくもなんともないが、ヒトミの容姿でこんなゴツい武器ってのは違和感あるな。
でも、モーニングスターはゲームだと神官とかが使ってたイメージだから、ぱっと見清楚なやつが使っていてもおかしくないのか?
ただ、ゲームのモーニングスターは鎖じゃなくて棒の先に鉄球がついてるやつだったが。
「なら、今日の昼にでも出発するか。誰がついてくるのかわからねぇから、他のやつにも声をかけといてもらえるか?」
「アリアが既に伝えているから大丈夫だよ♪今回はアオイは来ないってさ♪」
今出発時間を決めたのに、既に伝えてるってなんだよ。いや、伝わってるならいいんだけどさ。
今回はアオイは来ないっていい方からして、あとはこの前ドルテニアに行ったメンバー全員が行くってことか?
思ったよりも人数が多いが…まぁそのメンツなら途中ではぐれてもそうそう死ぬやつらじゃないし、いいか。
「アオイにはカレンをあんま甘やかすなよって伝えておいてくれ。」
「それもアリアが既に脅してたから大丈夫だよ♪」
ん?アリアにはカレンが怠惰の禁忌魔法を得たって話をしたっけか?
というか…。
「脅した?」
「アリアは当たり前のことしかいってないよ♪それより、リキ様に贈り物があるから、早く行こ♪」
答えになってねぇが、まぁアリアが嫌味増し増しで何かをいったんなら、10歳からしたら脅されてると思うかもな。いってる側はさらに年下の8歳児なんだが。
ヒトミに左腕を軽く拘束されながら朝の準備を終え、食堂に向かうために部屋を出た。
廊下を歩いている間もヒトミは腕を離さないんだが、いつまでこのままでいる気だ?俺が拒否るまでか?
「そういや、俺に贈り物ってなんだ?」
「それはあとでのお楽しみだよ♪リキ様の戦闘奴隷組みんなで作ったものだから、喜んでもらえたら嬉しいな♪あ、でもガルナとガルネは戦闘奴隷組ではないのか♪」
そういやあの2人は戦闘させるつもりで買ったわけじゃないが、奴隷のままだったな。
村のやつらはなんかグループ分けしてるみたいだし、奴隷なのにどこにも所属できないと居場所に困るだろうから、ハッキリさせてやった方がいいのか。
こういう狭い場所で居場所がないのは辛いだろうしな。しかも奴隷だから辛くなってもここから出て行けねぇし。
「あの2人も手放す気はねぇから戦闘奴隷の括りでいいんじゃねぇの。」
「じゃあアリアにあの2人も 戦闘 ・・ 奴隷だってリキ様がいってたって伝えとくね♪」
ずっと機嫌がいいヒトミとともに玄関まで来ると、アリアたちが集まっていた。
俺が戦闘奴隷として奴隷や使い魔にしている全員だ。
ドライアドたちや新しく入った使い魔の4人はいないが、けっこうな人数だよな。
まぁ、戦闘奴隷といっても半分くらいはあまり一緒に戦ってねぇけど。
これは話の流れからして贈り物に関係することなんだろうが、こんなに大々的に贈られるものなのか?
さすがにこのままスルーして食堂に行くのも悪いし、アリアたちの前へと移動した。
ヒトミも空気を読んだのか、俺の腕から離れてアリアたちの側に並んだ。
「…リキ様。冒険者過程の卒業おめでとうございます。」
代表してアリアが言葉を発して頭を下げると他のやつらも頭を下げた。
「そんなあらたまっていわれるようなことじゃねぇと思うが、まぁありがとう。」
俺が答えるとアリアが近づいてきて、金属っぽい素材をメインで使ってるっぽいブーツのようなものをアイテムボックスから取り出した。
「…こちらは卒業祝いとして用意しました。形はセリナさんとアオイさんとニアさんが考え、それを元にガルナさんが作成し、わたしが加護を付与して、ソフィアさんが見えない魔法陣を描き、ガルネがアクセサリー化しました。他の方々には必要な素材を全て集めてもらいました。現時点でわたしたちが用意できる最高のアクセサリーであり、世界に1つしかないものです。受け取ってもらえたら嬉しいです。」
なんか凄えものを用意してくれてたんだな。
ブーツを受け取ってみると思ったよりも軽い。このブーツ自体に軽量の加護がついてるっぽいな。
ガントレットの軽量の加護と重複して効果を発揮することはないが、身代わりの加護と違って両方の効果がなくなるわけではないからあって困ることはないだろう。
金属を使ってるからなかなかにゴツいが見た目は悪くない。
よく見ると金属じゃない?いや、金属となんかが混じってるのか?まぁいくら観察眼が優れてるっていっても俺にはそこまでの知識がねぇから、詳しくはわからん。
俺がジッとブーツを眺めていたせいか、検分してるとでも思われたのかアリアたちが変に緊張してるみたいだ。
まさかこんなものをもらえるとは思ってなかったから驚いてお礼をいうのを忘れてたわ。
「ありがとな。べつに何かをもらえるようなことはしちゃいないが、俺のためにこれだけのものを用意してくれたってのは素直に嬉しく思う。」
「…リキ様は足につけているアクセサリーが戦闘用でないために蹴りをするときに躊躇しているようでしたので、用意しました。リキ様の本気の蹴り技にもしばらくは耐えられる丈夫さになっていると思うので、遠慮なく使い潰すつもりで使ってもらえたらと思います。」
べつに蹴りを躊躇した記憶はないが、今まで殴るのと蹴るので威力が違ったのは無意識で躊躇してたのか?
自分でもわかってないことをよく見てんな。
「さっそく履かせてもらうわ。」
「…はい。」
今履いている靴を脱ぎ、もらったブーツへと履き替えた。
アクセサリー化してあるから足にピッタリフィットするな。足を上げたり軽く足首を回してみても違和感がない。見た目の割に動きが柔らかいし、履き心地も悪くねぇ。
「いいよ!」
イーラがガードの構えをして声をかけてきた。
そういやガントレットを買うたびに試し殴りをさせてくれていたが、これでもやるのか。
軽くステップしながら歩幅を調整しつつイーラに近づき、本気で中段回し蹴りをした。
イーラの身長的にちょうどよくイーラのクロスした両腕に当たり、わずかな衝撃を右足に感じつつもイーラの腕を折り曲げ、そのまま俺の右足がイーラの胸にめり込んだ。
いつもみたいに弾けさせられなかったってことは殴るほどの威力がなかったってことか?
まぁ蹴りはたまにしか使ってなかったからこんなもんか。
「リキ様はやっぱり蹴りも強いね!抑えきれなかったよ!それにちゃんと痛いから、そのアクセサリーは成功だね!」
俺の足を胸にめり込ませながら、イーラがよくわからない感想をいってテンションが上がっている。
俺が足を引き抜くと、イーラは本当にダメージがあったのかと疑問に思うほど、もと通りになってやがる。
まぁイーラがそんな無駄な嘘をつくとは思わないから、物理無効を持つイーラが痛いってことは、この靴もガントレットみたいな効果があるってことか。ムカデの素材はもうないはずなのに、よく再現したな。
「…それでは、今度はそのアクセサリーに魔力を流しながら蹴ってみてもらえますか。」
ん?もう終わりかと思って、もともと履いていた靴をアイテムボックスにしまい、食堂に向かおうとしたんだが、アリアがそんなことをいってきた。
そういや魔法陣がどうのっていってたな。
いわれるがままに足にMPを注ぎ込んでみたら、結構な勢いで吸われた。だが、ある程度吸ったところで、全く吸わなくなったから、これで満タンとかそんなところか。
満タンまでMPを注いだんだが、靴の見た目は何も変わってないな。
イーラに視線を戻すと既にガードの構えをとっていた。
このブーツに仕込まれてんのがなんの魔法かわからないんだが、イーラに向けて使って大丈夫なのか?イーラは魔法攻撃は無効じゃなかったと思うんだが。
まぁ誰も止めないってことは大丈夫なんだろう。
あらためてイーラとの間合いを測りながら歩幅を調節して近づき、さっきと同じように中段回し蹴りをイーラのクロスした両腕に当てた。
さっきは当たった際に思いっきり抵抗があったんだが、今回はほとんどなかった。
一応当てた感触はあったが、本来ある蹴りを入れた際の反動がほとんどなく、イーラの腰から上が弾け飛んだ。
下半身だけになったイーラがウニョウニョと盛り上がり始め、もと通りとなった。
イーラだから大丈夫だろうとは思っていたが、仲間の上半身が弾け飛ぶとかヒヤッとしたわ。今回は魔法が絡んでるからなおさらだ。
「痛みはさっきと変わらなかったのに、勢いがさっきよりも凄くて、体が耐えられなくてビックリした!」
イーラが驚いた顔をしているが、俺もビックリだよ。
なんつー凶悪な装備を作ってんだよ。
「…やはり物理ダメージが上がるようにしてもイーラへのダメージは増えないようですね。…使ってみてどうでしたか?」
アリアが考えるような仕草で呟いたあとに、俺に視線を向けて確認してきた。
「どうっていわれても、威力の上がり方が凶悪過ぎんだろ。」
「…それはリキ様の力がそれだけ強いからです。そのアクセサリーに描かれている魔法陣は未完成の物理反射です。外側から受ける物理的接触のいくらかを跳ね返しているだけなので、もともとの力がなければたいした効果はありません。必要魔力量も多いので、MPが有り余っているジョブでもないと防御方法としての使い方も満足に出来ないので、もっと改良しないと使い道がない魔法陣です。ですが、今のジョブのリキ様やイーラでしたら、とても有用な効果になるはずです。」
使えるやつがかなり限られてるってことか。
どの程度反射するのかは今のだけじゃわからねぇけど、本来の反動すら何割か反射してんなら、かなり使えそうだな。
たしかにMPはけっこう必要だが、あくまで予想よりってだけで俺の総量からしたらたいした量じゃねぇし、慣れればかなり使えそうだな。
今度は意識しながら軽く床を踏んでみるが、違いがわからん。一度で効果が切れたか?
いやでも、つま先でトントンと床を突くと反動が少ないし、しっかり効果が出てるっぽい。ただ、反動も一応あるから、反射の効果は半分もないか?感覚だけだとイマイチわからんな。
あと、何度か床をつま先でトントンと突いていても効果が切れないようだし、発動するのにけっこうなMPが必要だが、注いだMPを一度に全消費するわけじゃねぇみたいだな。
「…足裏まで同じ効果があると動きづらくなるようだったので、足裏には効果が及ばないようにしてあります。」
俺が無言で感覚を確かめていたら、アリアが補足してきた。
検証までしたってことか?
かなり手間をかけて作ってくれたんだな。
「いろいろと試してくれたのか。みんなありがとな。遠慮なく使わせてもらうよ。」
「…はい。」
プレゼントされたのは俺なのに、なぜかアリアたちが嬉しそうな顔をしやがった。
そんな顔をされたら俺まで顔が緩んじまうじゃねぇか。
今度こそ話が終わったようだから、俺はアリアたちから視線を外し、食堂へと向かって歩き始めた。