315話
315話
面倒ごとも片付き、今日からさっそくレベル上げでもするかと思ったんだが、先に情報収集をするという話になり、丸一日自由時間となった。
俺も冒険者ギルドあたりで少し聞いてくるかと思ったら、俺はヒトミの買い物に付き合うことが決まっているらしい。
いわれて思い出したが、そういや新しい武器を買ってやるっていったな。その場の思いつきでいったから、すっかり忘れていた。
まぁ、せっかく新しい町に数日滞在する予定なんだし、1日くらい街をぶらつくのも悪くないだろうということで、デュセスとリスミナとお揃いで買ったコートを着て、ヒトミと2人で町中を歩いていた。
「リキ様とデート嬉しいな♪」
かなり上機嫌なヒトミが俺の腕に絡みついて体重をかけてくる。べつに重くはないが、地味に歩きづらい。
買い物とかに行くときは行きたいやつを全員連れて行くんだが、今日は珍しくヒトミと2人きりだ。だからまぁ、デートっちゃデートなのか。
そもそもデートって言葉があることに少し驚いたが。
「ただの買い物でそんだけ喜んでもらえんなら、まぁよかったよ。」
一応これはヒトミへの褒美だからな。喜んでもらえてるなら何よりだ。
昨日は気にもしていなかったが、あらためてぶらぶらと歩いてみると、この町は冒険者が多い気がするな。
これから魔物狩りにでも行くのか、防具を着て帯剣しているやつらがけっこういる。もちろん剣だけでなく槍や杖なんかを持ってるやつもいる。しかもこの町の冒険者の半分以上がそこそこ強そうな気配を放っているから、この辺りに強い魔物が多いってのは嘘じゃないのかもな。
そんな風に周りの観察をしていたら、ヒトミがジッと俺を見ていることに気づいた。
「どうした?」
「見てただけだよ♪」
「そうか。…ヒトミはどんな武器が欲しいんだ?」
「それなんだけど、武器じゃなくてアクセサリーじゃダメかな♪」
「べつにかまわないが、武器はどうするんだ?」
「これからもリキ様についていくなら、そこらで売ってる武器じゃどうせすぐに壊れちゃうだろうから、壊れる前提でガルナが作る安い武器でいいかなって♪アクセサリーなら身代わりの加護以外なら一生使えるしね♪……リキ様がいなくなったあともずっと…。」
最後の部分は小声で呟いただけだったが、この距離で聞こえないわけがない。だが、ヒトミは聞かせようとしたわけではなさそうだったから、答える必要はないだろう。答えろっていわれても困るが。
「ガルナが作るやつでっていっても、すぐに用意できるわけじゃないだろうし、それまでは何かしらの武器を買わなきゃなんじゃねぇか?」
「それなら用意してあるから大丈夫だよ♪」
ニコッと笑ったヒトミの足もとに不自然に広がっている影から、十数本の剣が柄を上にしてニョキッと生えてきた。
これが影収納ってやつか。シャドウってだけあって、影を操るわけね。
それにしても、いつの間に買ったのか知らんが、これだけ武器があるならたしかにもういらないだろうな。
「そんだけあれば十分そうだな。じゃあとりあえず宝石屋にでも行けばいいのか?」
「せっかくだからいろいろ回ろうよ♪……そのために2人っきりにしたんだし…。」
だからこの距離だと呟きも普通に聞こえるんだが…もしかして聞かせてるのか?
…ん?2人っきりになれたじゃなくて2人っきりにした?聞き間違いか?
「まぁ時間があるから回るのはかまわないが…いや、なんでもない。とりあえずてきとうにぶらつくか?」
他のやつらのことを聞こうかと思ったが、情報収集をするって話だったことを思い出し、聞くのをやめた。
ヒトミが俺と2人で買い物に行けるように何か手を打ったのかもしれないが、無理して確認するほどのことでもないだろう。これでさっきのは聞き間違いなだけで、たまたま2人きりになっただけだったら俺が自意識過剰みたいだしな。
「下調べはしたから任せて♪あたしが町を案内するね♪」
俺に体重を預けていたヒトミが、今度は俺の腕を引っ張るように歩き始めた。
そういやヒトミと2人きりってのは久しぶり…いや、初めてか?なら、たまにはこういうのも悪くねぇな。
…ん?下調べっていつしたんだ?
一昨日はこの町に到着した後はすぐに宿をとって寝たし、昨日は早朝に町を出て、帰ってきてからは侯爵家に寄っただけですぐに帰ったはずだ。普通に考えたら下調べをしてる時間なんてない。
前もって調べておいたって可能性もあるが、だいぶ離れた国にある王都の店の位置みたいな細かい情報を集めることなんて、この世界で出来るとは思えない。ここに仲間がいれば以心伝心の加護とかで最新の情報を聞き出すことも出来るだろうが、その場合は今日を情報収集にあてた意味がわからん。
もしかして俺らが寝てる間に下調べをしてたのか?
「もしかして寝てないのか?」
「寝てないよ♪寝なきゃならないほど疲れてないからね♪それにもしものためにアリアが欲しがりそうな情報を手に入れておきたかったからさ♪そのおかげで今日はリキ様と2人っきりになれたし、情報収集しておいてよかったよ♪」
そういや魔族は睡眠を必要としないんだったな。
「無理はするなよ。」
「すごく疲れてるときはちゃんと寝てるから大丈夫だよ♪心配してくれてありがとね♪でも夜は暇だからさ♪リキ様が一緒に寝てくれるなら毎晩喜んで寝るんだけどね♪」
ニコニコと楽しそうに冗談をいえるくらいだから、本当に体調は大丈夫なんだろう。それならいい。
「じゃあ案内頼む。」
「はい♪」
ヒトミの案内で、武器防具屋や宝石店、途中で昼飯を挟んでの薬屋や魔道具店などいろいろと回りまくったことで、空がわずかに赤らんできた。
ヒトミの案内の仕方がうまいからか、意外と楽しかった。
正直、午前中で終わるだろうと思っていたのがこんな時間までかかったにもかかわらず、べつに悪い気がしねぇから不思議だ。
「けっこう回ったと思うが、ヒトミのお眼鏡に叶うものはなかったか?」
「本当は最初から買う店決めてたんだ♪でもリキ様と一緒に楽しみたかったから余計な店まで回っちゃったんだよね♪ごめんね♪次で買うから、あと1店だけ行っていいかな♪」
今までのは自分のためだけじゃなくて、俺を楽しませるためってのもあったのか。まぁ実際楽しかったし、途中でちょいちょい買い物もしたから俺としては全然かまわない。
服屋の片隅にあったぬいぐるみコーナーではサラ用のラビケルとかいうウサギっぽい魔物のぬいぐるみを買い、魔道具店では魔法陣集とかいうよくわからない本をなんとなくソフィア用に買ったりとお土産も用意できたからな。
いつだったか忘れたが、2人にはお土産をなんて思ってた気がするから、いい機会だった。
渡すのを忘れてアイテムボックスの肥やしにならないように気をつけないとな。
「俺は十分楽しめたし、あと1店くらいはかまわないぞ。」
「ありがと♪この町にはミスリルを専門にしてる店があるから、そこに行きたいんだ♪」
「ミスリル?初めて聞いた気がするが、そんなものまでこの世界にはあるんだな。」
「あれ?武器屋のおじさんとミスリルの話ってしてなかったっけ?もしかして勇者呼びだからわからないのかな♪もともとの名前は魔銀だよ♪魔力の篭った銀だから、あたしたち魔族が身につけていれば何百年も何千年も朽ちないらしいよ♪だからリキ様に選んでもらえるアクセサリーにはちょうどいいかなって♪」
ミスリルの話をしたことがあったかは覚えていないし、なんで魔族が身につけてれば朽ちないのかはわからないが、そんなことよりミスリルって高いんじゃねぇのか?
「ミスリルについて詳しく知らないが、高いものじゃないのか?」
「お金は貯めてあるから大丈夫だよ♪」
ヒトミも金を持ってるのかよ。というか、自分で買う気なのか?
「武器の代わりにアクセサリーを買ってくれって話じゃなかったか?」
「それはやっぱりズルイかなって思ってさ♪みんなが選んでもらっただけなのに、あたしはデートまでしたうえに買ってもらうのはさすがにね♪選んでもらえるだけで十分だよ♪」
たしかに戦闘に関係ないものをヒトミにだけ買うのは良くないだろう。だからといって、装備を安物ですませるっていってるからって全部ヒトミに用意させるのもなんか違う気がする。
どうすっかなと考えているうちにヒトミが行きたがっていた店に着いた。
…どう見ても金持ち用の店だな。
前にアリアの薬を買うために行ったラフィリアの城門通りの薬屋に似た雰囲気を感じる。
ヒトミはこんなところで買い物が出来るほどに金を貯めてるわけか。意味わからん。
稼ぎだけなら俺より奴隷たちの方が良さそうなんだが。
俺も魔物の後処理をイーラ任せにせずに討伐証明部位とか調べて換金した方がいいのか?
でも、面倒なんだよな。なによりとくに金に困ってないからやる気も起きないし。
まぁ金に困ったときに考えればいいか。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しですか。」
入店すると店員が1人近づいてきた。
この店員はさりげなく俺らの全身を観察するように目が動いたが、ジロジロ見られたわけでも表情が変わるわけでもなかったからか、とくに不快感はなかった。
店員の言葉を聞いて周りを見てみるが、店内には飾りつけ程度の物しか置かれていないから、ここは勝手に商品が見れるようになってるわけではないっぽいな。
「こいつに似合いそうなアクセサリー類を見たいんだが。」
「かしこまりました。ご案内します。」
俺がヒトミを顎で指して答えると、店員がお辞儀をしてから案内するように歩き出した。
てっきりカウンターかなんかで数点ずつ見せてくるのかと思ったら、店の奥まで案内されて、1つの部屋へと入った。
そこにはネックレスやブレスレット、指輪はもちろん靴やガントレットといったこの世界でのアクセサリーに分類されているものだけが用意されていた。
俺からするとこの中にガントレットや靴まで混ざってることに違和感が半端ない。額当てやヴェールもわりかし意味わからん。でも、この世界では同じ扱いになるんだろうな。
「こちらはアクセサリー処理がされているものになります。質問などありましたらお声がけください。」
一言だけ説明した店員がお辞儀をしてから俺らの斜め後ろに位置どりした。
あとは好きに見てくれってことか。
アクセサリーを見る前にヒトミを上から下まであらためて見た。
髪や瞳の色から日本人に見えなくはないから、俺の感覚で選んでもそこまでハズレを引かずにすむだろう。
喋ると印象が変わるからなんともいえんが、黙っていれば可愛いよりは清楚な雰囲気だし、シンプルなものの方が良さそうだな。
アリアに選んだ感じの金のチェーンが似合いそうだと思いながら、近くにあったネックレスへと視線を向けてみるが、金のチェーンのものはなさそうだな。そりゃミスリル専門店ってくらいだから、金は使われててもメインではないみたいだ。
ミスリルは白みがかった銀色か…いや、これはこれでヒトミに合いそうだな。
チェーンの太さはいろいろあるが、細い方がいい気がする。
あとはトップか…べつにチェーンだけでも似合いそうだが、いろいろあるからもうちょい見てみるか。
ゆっくりと歩きながら部屋の中にあるネックレスを見て回っているが、どれでもいい気がする。
さすが高級店というか、ハズレがない。もちろん好みとかあるんだろうけど、少なくとも俺が微妙に思うようなものは今のところない。
俺にあまりセンスがないからってだけだとは思うけどな。あとはヒトミの見た目がいいからってのもあるか。
ここにはネックレス以外もあるが、アリアたちに選んだのはネックレスだし、ヒトミもネックレスでいいだろう。これ以上選択肢が増えると選ぶのがキツい。
どれもいい中で、より気になるものを見つけた。
ネックレスの中ではそいつだけショーケースっぽいものに入っていて、隅っこに木札で見本と書かれていた。
そのネックレスのトップは黒いなにかの宝石なんだが、黒いくせに向こう側がギリギリ見えるくらいの透明度を持っていた。なんか影を閉じ込めた水晶って感じで、今のヒトミっぽい気がする。
しかもその中にミスリルで出来てるっぽいロゴみたいなのが入っていた。
チラッと店員の服を見て確認するが、やっぱりこの店のロゴっぽい。つまりはあと入れ出来るってことだろう。こういうのってなんかいいよな。
ただ、何を入れるかでセンスが問われるからかなり難しいとは思うが。
「ちょっと質問なんだが、これって好きなマークを入れられるのか?」
「はい。5日ほどお時間を頂いてしまいますが、お客様のご要望通りのものをお入れすることが出来ます。」
あまり細かいものは無理とかの注意をされないってことは本当になんでも入れられるのか?
「魔法陣とかも入れられたりするのか?」
「はい、もちろんでございます。ですが、あまりに魔力が必要な魔法陣ですと発動させることは出来ません。必要な魔力を注ぎきる前にこちらの 黒透晶 こくとうしょう が割れてしまいますので。」
「こくとうしょう?」
「はい。町の西にある鉱山から稀に発掘される鉱物です。黒いのに水晶のように透明なことから黒透晶と名付けられたそうです。黒透晶はこの国の名産品として取り扱うお店も多々ありますが、黒透晶の中に加工を施す技術はまだ当店でしか扱われていないため、ここでしか手に入りませんので、お勧めの商品でございます。」
説明を聞いただけで想像つくが、絶対高いだろ。こういうのに限って値段が書かれていないんだよな…。
べつに中に何も入ってない状態でもヒトミに似合いそうだから他の店でもいい気がするが、ミスリルを扱ってる店が他にもあるかわからんし、どうせ値段も似たようなものだろう。
「ここでは中に何も入っていない黒透晶をトップにしたミスリルのネックレスもあるのか?」
「もちろんでごさいます。そちらでしたらすぐにご用意することが出来ます。」
「そうか、ありがとう。」
店員に説明の礼をいってからヒトミを見ると、ニコッと微笑みかけられた。
「この黒透晶とかいうのがトップについたネックレスがヒトミに似合うんじゃねぇかと思うが、予算はどんくらいあるんだ?」
「リキ様は予算のことは気にせず選んでほしいな♪」
予算を気にするなっていわれても、高すぎたら買えねぇだろ。
「まぁ買う買わないはヒトミが決めればいいんだしな。この黒透晶の中に模様を入れるのは面白そうだが、ヒトミの場合シンプルなのも似合うだろうから、中に何も入っていない黒透晶でもいいと思う。影を閉じ込めた水晶みたいでヒトミっぽい気もするしな。もちろんせっかくだから何か入れるのもいいとは思うが、俺はぱっと思いつかないからなんともいえん。」
「じゃあこれにするね♪店員さん、これください♪中にはこれと同じのを入れてもらえますか♪」
まさかの即決だった。値段すら確認しなかったぞ。
ヒトミは胸元から既にしているネックレスを取り出し、店員に見せた。トップにクロスしたガントレットがついたネックレスを。
「こちらはお預かりすることは可能でしょうか?もし少しお時間をいただけるのでしたら紙に書き写して、すぐにお返しいたします。」
「出来るまで持ってていいよ♪リキ様マークは体にも刻んであるからね♪」
そういってヒトミは着ている服の胸元を下げて使い魔紋を店員に見せた。
店員は一瞬だけピクッと表情を崩しそうになったが、すぐに営業スマイルで預かる旨をヒトミに伝えて、ジャケットの内ポケットから取り出したケースに丁寧にしまった。
「それではお会計のご案内をさせていただいてもよろしいでしょうか。」
「いいよ♪」
「いや、ちょっとだけ待ってもらっていいか?もし小物類が売ってるなら少し見せてもらいたいんだが。ヒトミもいいか?」
「もちろん♪」
「それではご案内いたします。」
営業スマイルを浮かべた店員が俺らを案内するように先を歩き、違う部屋へと招き入れた。
そこでは姿見や花瓶、額縁などの大きなものが先に目につき、よく見ればペンやネクタイピンっぽいものや入れ物などの小さいものもあり、全体的に見栄え良く置かれていた。
どれもメインはミスリルっぽいな。まぁミスリル専門店ってくらいだから当たり前か。
ここでも店員は案内が終わり次第俺らの斜め後ろへと移動して控えた。
「武器とか防具じゃないんだね♪」
俺が小物を見るのが意外だったのか、隣に並んで小物を眺めていたヒトミが話しかけてきた。
ここには武器や防具もあるのか。
ちょっと見てみたい気もするが、まずは思いついた買い物を終わらせてからだ。
「あぁ。」
てきとうに相槌をうち、商品を見て回りながら、どれがいいか悩んだ。
デカいものは使われてるミスリルの量からして高そうだから却下なんだが、それ以外に決める要素がないから困る。
無難に小さめの小物入れとかでいいか?…ん?オルゴールなんてあんのか。これも悪くないな。といってもこの世界の曲はいっさい知らないから曲のタイトルを書かれていてもどれがいいのかわからん。
部屋を一周し終える手前で、手鏡を見つけた。
模様が彫られている部分と鏡になっている部分でハッキリと区別されているが、鏡部分も含めて全てがミスリルでできてるっぽいな。
正面から手鏡を見ている俺の顔がしっかり写っているから、問題なく鏡として使用できるし、簡単には壊れなさそうだ。
鏡面以外に彫られている模様も派手すぎない程度に草や花の形があるだけだから、流行り廃りの影響を受けなさそうだし、悪くないだろう。
「この手鏡をくれ。出来れば支払いはさっきのネックレスとわけてほしいんだが。」
「かしこまりました。お支払いはカウンターにてお願いしておりますので、ご案内してもよろしいでしょうか?」
他にも見るかって確認だよな。
「武器防具もあるのか?あったら最後に少し見たい。」
「かしこまりました。ご案内いたします。」
そのあと案内された部屋には色々な武器防具が飾られていたが、なぜか惹かれなかった。
間違いなくいいものなんだろうけど、武器や防具っていうより装飾品って感じに見えちまったせいかもしれないな。まぁおかげで余計な出費をせずにすんだ。
まさか鏡面部分が20cm程度の手鏡で金貨5枚もするとは思わなかった。
こんなんじゃ欲しい武器防具があったとしても高すぎて買えなかったろうから、下手に興味のある武器防具がなくてよかったかもしれん。
ちなみに隣でネックレス代の金貨18枚を普通に払っていたヒトミには驚きすぎて何もいえなかった。
どっかから奪った金じゃないかと心配になったが、ローウィンスやアリアから何も報告されていないから犯罪はしてないはずだ。…たぶん。
だから、俺の知らないところできっと頑張って稼いだんだろう。
鏡はその場で受け取ったからアイテムボックスにしまい、ネックレスは5日後に出来上がるという説明をされ、その時の受け渡しの確認に必要になるカードを受け取り、俺らは店を出た。
夕飯は宿で取るつもりだったから、ヒトミの案内でまっすぐに宿へと向かって並んで歩く。
「ネックレスの交換のこと忘れちまいそうだから、覚えておいてくれな。」
「大丈夫だよ♪リキ様に選んでもらったネックレスを忘れるわけないから♪それにリキ様は気にしなくていいよ♪あたしが自分で取りに来るから♪」
「それは助かる。あぁ、あとこれが武器代わりだ。」
さっき買った手鏡をアイテムボックスから取り出して、とくに包装もされていない状態でヒトミに渡した。
ヒトミは珍しくキョトンとした顔で受け取った。
「あたしに?」
どんなときでもだいたいニコニコしているヒトミにしては珍しく、まだ目を瞬いていた。
このタイミングにあのセリフで渡してヒトミ以外のものなわけがねぇと思うんだがな。
「あぁ。いろんな姿に変われるやつが元の姿を思い出せなくなるっていうバッドエンドの話は漫画や小説じゃよくある話だからな。それで今の自分の姿を覚えておくといいんじゃねぇか?まぁ不要だったら最悪鈍器として使えるだろうから、武器代わりというより武器として使ってくれてもかまわないけどな。」
「…。」
鏡を選んだ理由を伝えてみたが、たぶんヒトミの困惑は鏡だからってわけではないだろう。
アクセサリーを選ぶだけでいいって話だったのに物をもらえたことに驚いているんだろうが、頑張ったことへの対価が魔物の討伐やネックレスを選ぶだけとか微妙だからな。
まぁそんなこといったら対価を支払ってやれてないやつもいっぱいいるんだが。
けっきょくは気が向いたからってだけだ。あとは俺が死んだあとのためといわれたから、このくらいはしてやってもいいかと思っちまったのかもしれん。
ヒトミから返事がないからしばらく2人とも無言で歩いていたら、ヒトミが急に立ち止まったため、俺も立ち止まって顔を向けた。
「ど……大丈夫か?」
どうしたと聞こうと思ったら、なぜかヒトミがポロポロと泣いていたから、わけがわからず確認した。
「あれ?おかしいな…今は体があってないようなものだから、涙なんて流れるはずがないのに…なんでかな?」
ヒトミは袖で涙をぬぐいながら困ったように笑った。
いや、俺の方がわからん。ヒトミが泣くのを初めて見たことに驚いているのもあるが、そもそも泣くような場面じゃなかったはずだ。
まさか武器代わりに鏡を買った程度で喜んで泣いたとでもいうのか?
悲しみとか寂しさを感じるような話はしてないから、考えられるのはそんくらいなんだが、泣くほど喜ぶようなことではないだろう。
もちろん金貨5枚とか馬鹿じゃねぇのってほど高価なものだが、金貨18枚の買い物をしたやつが泣くほどに喜ばせられる価値ではねぇし。
もしかして、今の姿で一生いろっていわれたと思って悲しくなったとか?さすがにそれはねぇよな?
「べつに今の姿でいろって命令ではないからな。好きな姿でいればいい。ただ、俺の知ってる話だとそういうこともあるからってだけだから、あんま深く考えんな。」
「うん♪わかってるよ♪リキ様が優しいことも、あたしを見ていてくれてることもわかってたよ♪ちゃんと想ってくれていることを知れて、自分でも抑えられないほど嬉しかっただけだから、ありがとう♪一生大事にするね♪」
よくわからない返しをされたうえにお礼をいわれた。
スミノフみたいに表面を取り繕うのが上手いやつだったら、こんな状況でも上手い返しが出来るんだろうが、俺は当事者にもかかわらず状況を正しく理解出来ていないから、なんて返せばいいかわからん。
まぁヒトミが喜んでいるならいいか。
「そんだけ喜んでくれるなら、買った甲斐があったな。」
かるく笑顔を向けると、既に涙の止まったヒトミが微笑み返してきた。
最初から最後までわけがわかんなかったが、もう大丈夫そうだな。
「腹減ってきたし、さっさと帰るぞ。」
「はい♪」
町中をぶらついた時のようにヒトミが腕に絡みついてきたせいで歩きづらかったが、宿ぐらいまでならいいかとそのまま並んで宿へと向かった。