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316話

裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚【コミカライズ】 — novelba.com · All chapters

316話

ヒトミとの買い物を終えて宿に戻ると、アリアが先に帰っていたようで、本を読んでいた。

この感じ懐かしいなと思っていたら、アリアが俺らに顔を向けて本を閉じた。

「…おかえりなさい。」

「あぁ、ただいま。アリア1人か?」

「…はい。他の方たちはそれぞれ自由時間を過ごしているかと思います。そろそろ戻ってくると思いますが、急いで戻るように伝えますか?」

「いや、いい。腹は減ってるが無理して急ぐほどでもねぇ。全員が戻ってきたら飯にするぞ。」

「「はい。」」

今日一日自由時間にしてるのに無理に呼び戻すのもなんか悪いしな。それに俺はシャワーも浴びたいし。

「俺はシャワー浴びてくるから、アリアも遠慮せず本を読んでていいからな。」

「…ありがとうございます。」

まぁいわずとも読みたきゃ読むか。

「どうだったかな♪」

余計なことをいったなと思いながらシャワー室の方に向かっていると、ヒトミが質問を投げかけた。

一瞬俺に話しかけてきたのかと思って振り返ったんだが、どうやらアリアに話しかけたようだったから、俺は気にせずシャワーを浴びに行くことにした。

「…話通り変わった場所だったので珍しくはありましたが、ダンジョンではないので戻るのにも同じ時間がかかることを考えると、レベル上げには向かないかと思います。」

「リスタートとかが使えないってことはやっぱりただの洞窟なんだね♪どこまで行ったのかな♪」

「…セリナさんの察知能力でも最奥がわからないほど広いようでしたので、あまり奥までは行きませんでした。」

シャワー室前の更衣室に入って扉を閉めても、ヒトミの声は普通に聞こえるし、アリアの声もギリギリ耳に入ってくる。

ヒトミの声は常に元気な感じだから聞こえてくるのはわかるが、アリアの落ち着いた声すら聞こえてくるってことは、この宿の扉はけっこう薄そうだな。

「そんなに広かったんだね♪『死体漁り』には会えたかな♪」

「…はい。」

服を脱ぎきったところで声が何も聞こえなくなった。小声で話し始めたのか?

というか、これだと俺が聞き耳立ててるみたいだな。

「……あれ?アリアが好きそうな感じの人間だと思ったんだけど、違ったかな♪」

「…たしかに興味……。」

どうやらただ沈黙していただけだったみたいだが、べつに聞き耳を立ててたわけではないから、脱ぎ終わり次第シャワー室へと入って扉を閉めたら、さすがに2人の会話は聞こえなくなった。

アリアが興味を持つような相手ってのは少し気になるが、プライベートの詮索をするのもなんかな。

シャワーから出ても今の話が続いていたら聞いてみるか。

シャワーは浴び終えたが、まだ誰も帰ってきてはいないみたいだ。

そういやいつまでに戻ってくるようにとかいわなかったから、呼び戻さないと遅くまで帰ってこない可能性もあるかもな。

部屋ではヒトミがベッドに転がりながら鏡を見てずっとニヤニヤしている。

あげたものをそこまで喜んでくれるのは嬉しいが、鏡を見てニヤニヤしてるとかヤベェやつだよな。いや、ヒトミの場合は自分の顔に見惚れてるわけではないと思うが、それでも側から見ると…。

視線をアリアに向けるとアリアは難しそうな顔で本を読んでいた。アリアの表情からして難しい内容なのかもしれないが、それにしてはかなり薄い本だな。

ここからだと角度的に本の表紙のタイトルは見えないから、どんな本を読んでいるのかと思いながら、アリアの背後へとまわった。

アリアの肩越しから覗いた感じでは1ページごとに薄っすらと模様が描かれているだけの本だ。

これも魔法陣なのか?だとしたら、魔法陣集的なやつなのかもしれないな。ソフィアへのお土産と被ったかもしれねぇ。

アリアはもう解読を終えたのか、ページをめくった。

そしてまた少し見たらページをめくっていく。

…解読すんの早くね?

ページによっては1ページにビッシリ書かれている模様もあるんだが、こんな短時間で暗記してんのか?

もしかしたら既に知ってる魔法陣だったからパラ見してるだけなのかもな。

まぁ俺が見ても楽しめるものじゃねぇかと思って、部屋の1番奥の俺が使っているベッドに移動しようと思ったところで、懐かしい文字が目に入って止まった。

今アリアが開いているページには薄っすらと模様が描かれていて、その上に日本語で文字が書いてあった。

もしかしてこれもどっかの勇者が書いた本なのか?

そんなことを俺が考えているうちにアリアがページをめくった。相変わらずページをめくるのが早い。

「というか、アリアは日本語が読めるんだな。」

俺がついついアリアに声をかけてしまったら、アリアが振り向いて首を傾げた。

「…?ニホンゴとはなんですか?」

「ん?いや、今アリアが読んでた文字だよ。」

「…?」

俺が顎で本を指してもアリアは首をかしげるだけだ。

もしかして読んでるフリをしてただけなのか?

「その本の1ページ前だよ。」

アリアはわずかに目を見開きながら、本を1ページ戻した。

アリアの反応からして俺が見間違えたのかと思っちまったが、やっぱりちゃんと日本語で書いてあった。

「…リキ様が読めるような文字が書かれているのですか?」

ん?アリアの質問の仕方に違和感があったが、日本語を文字として捉えてないからわからないのかもしれねぇな。なら実際に読んだ方が早いか。アリアなら俺が一度読めば日本語くらいならすぐに覚えそうだしな。

「我求める。従順なる者。心と肉体を捧げ、我に残りの時を譲りし者。望みを捨て傀儡となる覚悟のある者。対価はひと時の救いなり。苦に溺れし者よ、救いを求めるのなら我の求めに応じ、全てを対価にひと時の幸せを掴みたまえ。」

読んでてあんま意味がわからない内容だなくらいにしか最初は思わなかったんだが、途中で魔力が持っていかれたことで気づいた。

これは魔法の詠唱文っぽい。

いや、スキルじゃないからオートで魔力を使われるなんてことはないはずなんだが、間違いなくMPが減っている。しかも日本語の書かれたページにあった模様が光り出したし、なんか発動するっぽいな。

この感じだと最後にスペースを空けて書かれてる文字が魔法名なんだろう。

何が起きるかわからない魔法を発動させるのは危険なのはわかってるんだが、何が起きるか興味がないといえば嘘になる。

MPがどんどん吸われて本の模様の輝きが増してるっぽいから、やめるにしても発動するにしても早く決めた方が良さそうだな。

観察眼で見る限りでは危険はなさそうだから、大丈夫か?

どうするべきかと思いながらアリアに目を向けてみたんだが、アリアは驚いているだけでなんの反応も返ってこなかった。

まぁいっか。

『コンヴォカツィオーネ』

噛まないように発音した瞬間、本から模様が浮き出して広がり、何かと俺の右腕が繋がる感覚があった。

不思議な感覚に少し驚いたところで、いきなり全身に激痛が走った。

あまりの痛さに意識が持っていかれそうになり、力が入らず崩れるように床に膝をつき、そのまま蹲った。そのさいにヌメッとした感触がしたことで気づいたが、俺はいつのまにか血まみれになってるっぽい。

意味がわからん。

自爆魔法だったのか?

観察眼を過信しすぎたのか?

なんとか自分に回復魔法をかけようと思ったら、右腕に感じていた何かとの繋がりが緩くなった。

この繋がりがなくなったら無駄に自爆しただけになるというのが感覚でわかり、回復魔法は諦め、意地でも離さないという気で顔を上げて右手を握りしめ、向こう側にいる何かを無理やりに引っ張った。

目の前にない何かを引っ張るという不思議な感覚ではあったが、いつのまにか体の痛みが引いていたおかげで、案外すんなり引き寄せられた。

たぶんアリアが回復してくれたんだろう。

精神の綱引きみたいなものも最後はすんなりと終わり、何かが完全にこちら側に来たという感覚がしたところで、目の前の床で女が寝息を立てていた。

今では懐かしいと思える服装である上下スウェットなんだが、なぜか左腕だけ捲っている。

手荷物は右手に握っているこの世界ではまだ見たことがないカッターだけのようだ。意識がなさそうなのに手を離さないってことはよっぽど大事なカッターなのかもな。

いや、まぁこの姿を見ればこいつが召喚される前に何をしてたかは想像つくし、俺が受けたダメージからしてたぶん間違いでもないだろうが、正直そんなことはどうでもいい。

いきなりこの世界の住人ではないやつを引き寄せちまったことも、そのせいで俺が全身血まみれになって死にかけたことも、どうでもいいと思ってしまうくらいの衝撃を頭に受け、床に座っているのすら辛いほどに視界が揺れた。

あれからもう5年くらい経っているからか、それともこいつが異常にやせ細っているからかはわからないが、見た目はだいぶ変わっている。

それでもたぶん観察眼のせいで、こいつが誰なのかを不思議とわかってしまった。

俺の目の前で気を失って倒れているのは間違いなく 横山 よこやま 奏 かなで だろう。