321話
321話
レガリアをどうするかを話しながら塔の出口へと向かい、結果的にはソフィアに纏っていたイーラの分身をレガリアに纏わせることになった。
レガリアはイーラの分身に纏われる瞬間にめちゃくちゃ怯えたような顔をしていたから騒ぐかと思ったんだが、一切声をあげることなく、今もおとなしくついてきている。
やっぱり偉い貴族なだけあって教育はしっかりされてるんだな。
レガリアにイーラの分身を譲ったことでソフィアが変装を解くことになっちまったが、ソフィアは『認識阻害』を使うから大丈夫らしい。
全員を認識しづらくすると違和感で気づかれる可能性が高いらしいが、複数いるうちの自分だけなら『認識阻害』で十分に気配を消せるとドヤ顔でいっていた。
まぁたしかに凄いんだが…凄いんだがな……。
返答に詰まった俺はソフィアの姿をあらためて眺めた。
不健康な生活を送っているとは思えない艶やかな黄色の髪を腰まで伸ばし、意味があるのかはわからないが横髪を少しだけまとめてサイドテールにしている。
セリナとは違って年相応の上から下までスリムなボディはちょっとの衝撃で簡単に折れてしまいそうなほどひ弱に見える。
あれ?そういや頭から1本だけ生えていたデカい羽がなくなってるな。引っこ抜いたのか?
「頭の羽はどうしたんだ?」
「ふふんっ。『人族化』のスキルを極めましたわ。以前は不完全なために『認識阻害』と併用しておりましたので、リキ様の特別な眼には見えてしまっていたようですが、今は完全に人族の姿なのですよ。」
スキルに極めるとかあるんだな。
スキルを極めたことで他の種族になりきれるってのはたしかに凄えと思うが、人族になるメリットってなくねぇか?
鳥人族なら空を飛べるって話だったが、人族になっちまったら飛べないだろうし、だからといって人族なりのメリットになることが思い浮かばん。
ステータスが変わるのか?
「種族を変えられるのは凄えと思うが、人族になっていいことなんてあんのか?」
「たしかに能力的な話でしたら、全くといっていいほど意味がありませんわね。意味がないどころかワタクシの種族特性を失うので、能力は低下するといった方が正しいですけれど、この大陸の人間領はほとんどを人族が支配していますから、そこに紛れるスキルはワタクシたちのような珍しい種族には必須なのですよ。それにスキルは魔力を使用しませんので、使用も解除も何度でも出来ますし、使えて困ることは何もありませんわ。」
ソフィアが困ったような笑顔を浮かべながら説明してきた。
若干人族を馬鹿にしているようにも聞こえなくないが、間違ったことはいってないんだろう。
それに数が多い種族に紛れられるスキルと考えれば悪い能力でもないし、使用も解除も自由自在なら、むしろ有用なスキルなのかもな。
そういや、ソフィアを仲間にしてからそれなりに経つが、ソフィアが人族でいようとしてる理由すら知らなかったんだな。
サラも『先祖返り』のスキルを使いたがらなかったし、この世界では同じ人間内でも種族の違いってのはかなり大きな問題なのかもしれん。まぁ、サラはこの前普通に『先祖返り』っぽいスキルを使ってたけど。
そんなの気にしなくていいとは思うが、それは俺自身にある程度対抗できる力があるからかもしれんから、なんもいえないが。
俺も差別するし、俺自身も差別されてる部分もあるだろう。何をしたって差別なんてなくならないんだから、気にするだけ無駄だ。
まぁ、差別される側が気にしないってのは普通は難しいだろうけど。
「どういう理由があるにせよ、種族を変えられるとかいう特殊なスキルを十全に使えるようになったってのは凄えことだよ。そろそろ塔から出るからお喋りはここまでだな。」
「はい。」
どう返答すればいいかが思いつかなかったが、ちょうどいいことに城のメイン部分に戻る扉の所に着いたから、思ったことだけを告げて話を終わらせた。
塔はさっきの女が俺たちに気を利かせたのか明かりを点けっぱなしで出ていったんだが、俺らには明かりの消し方がわからなかったから放置して、塔に繋がる長い廊下から出た。
その後は一度城の本殿というか、メイン部分を通ってもう1つの塔へと入り、今回は上階からではなく先に地下へと向かった。
この塔に繋がる廊下に入る寸前でセリナが明後日の方向を見ていたことが少し気になったが、それ以外は何もなく地下室の扉へとたどり着いた。
レガリアがいた塔と同じく警備も罠も何もなくな。
強いてあげるなら、暗闇の中で何も見えないというソフィアが俺にしがみついてきたせいで歩きづらかったくらいか。さすがに歩きづらすぎたから、途中からは脇に抱えたけどな。
さっきまでは暗闇だろうと普通に歩いていたのになんでかと思ったが、どうやらイーラの分身に任せてたっぽいな。イーラの分身を纏ったレガリアも普通に歩けていたし。
「ここのようですわね。」
セリナが中の様子を気配やらで探るのが終わるのを待っていたら、俺の脇に抱えられながら扉の方を見ているソフィアがそんなことをいってきた。
ソフィアも壁の向こうの気配がわかるようなスキルを持っているのか?だとしたらなんで今まで使わなかったんだ?いや、使ってたけど黙ってたのか?だとしたら意味がわからん。
「ソフィアには中が見えるのか?」
「いえ、中どころかほぼ何も見えていませんわ。扉に施されている魔法陣にある魔力の残滓がかろうじて見えているだけですわね。その魔法陣が特殊なので、ここで間違いないと判断いたしましたわ。」
「魔法陣?」
なんのことをいっているのかと思いながら扉にあらためて視線を向けた。
どれのことをいってんのかと思ったが、もしかしてこの扉の模様自体が魔法陣なのか?
たしかに模様がわずかに光ってるように見えなくもないな。
「どうやら登録された魔力以外を流すと解鍵以外の魔法陣が発動する仕組みのようですわ。ですが、魔力の制御さえすれば、誰でも罠を発動させずに解鍵できそうですわね。この魔法陣が解鍵の魔法陣かしら?でしたらあの魔法陣が罠?どんな効果かしら……でも……ということは……でしたら………こうかしら?…………ですがそうするとこちらが……。」
ソフィアは俺の脇に抱えられながら、自分の世界に入ったようだな。
魔法が関わっているならソフィアに任せた方がいいかと放置することにして、中の様子を探っていたセリナに目を向けたら、腕を組んで首を傾げていた。
「どうした?」
「ん〜…中の様子が全くわからにゃい。でも、この感じは前にどこかであった気がするんだよね……。」
セリナでもわからないのか。
ダンジョンの隠し部屋の中ですらわかるセリナにわからないってことは、これは扉があるだけで、この先は何もないとかじゃねえの?
もしかして、この魔法陣のどれかが転移とかの魔法だったりして、勇者召喚をする部屋に飛ぶようになってるとか?
「魔力、壁、ある。」
いきなりテンコの声が頭に響いて少し驚いた。
さっきまで一切会話に参加してなかったから、テンコがいることをすっかり忘れてたわ。テンコの力がだいぶ体に馴染んでるな。
前までは意識しなくても俺以外の力が体内にあるって思っていたのに、今は異物感がほとんどないせいで、他に意識が向けば忘れちまう程度の感覚しかない。
これってやばいんじゃねぇの?
たしかドラコが馴染みすぎると同化するようなことをいってなかったか?
「魔力の壁、ある。」
俺が聞き取れなかったから無視していると思ったのか、テンコが俺にわかりやすいようにいい直したようだ。
いや、べつに最初のぶつ切りでも考えればわかったが、他のことを考えて完全にスルーしちまってた。
「魔力の壁があるんだってよ。」
テンコの言葉をセリナに伝えたら、セリナは何かを思い出したような顔をした。
「精霊樹の森の中にあったのと同じ感じだ!あの時みたいに意識をそらすようにゃ感じはにゃいけど、中がわからにゃくにゃってるのは同じみたいだね。だから…私には中がどうにゃってるかも人がいるのかもわからにゃい……。」
答えがわかってスッキリしていたセリナの顔が徐々に沈んでいった。
べつにセリナが落ち込む必要はないと思うけどな。本来わかるはずのないものがセリナのおかげで今までわかってただけだし。
「気にすんな。気をつけて開ければいいだけだしな。」
「ごめんにゃさい…ありがとう。」
なんかセリナが微妙に落ち込んでるせいで空気が沈んだんだが、そんな空気を全く読めていないソフィアが俺の腿をパンパンと叩いてきた。
「リキ様。ワタクシを扉の前まで運んでいただけないでしょうか?」
連れていってくれじゃなくて、運んでくれか。今の状態をよくわかってるじゃねぇか。
もしかしたらソフィアなりに空気を変えようとしたのかもしれねぇな。…いや、それはねぇか。
とりあえずソフィアの願い通りに扉の前まで運んでおろした。そんで、ソフィアが立ち上がるのを手伝い、扉に手をつけるまでの支えとなってから、邪魔にならないように少し離れた。
俺はこの世界でいつの間にか光が一切なくても普通に見える目を手に入れていたから忘れていたが、何も見えないと目の前の扉に手をつけるだけでもこんなに大変なんだな。いや、ソフィアは扉の魔法陣に残ってる魔力が見えていてこれなんだから、本当になんも見えないともっと酷いんだろうな。
「よくここまで怖くなかったな。」
ふと思ったことをソフィアに聞いたら、ソフィアが振り返って微笑んだ。
「リキ様がそばにいてくださいましたから。」
そこまで信頼してもらえてんのは嬉しいんだが、俺のことが見えていないからかソフィアは微妙に違う方向を向いている。
この締まらない感じもソフィアらしくていいのかもな。
今までほとんど放置しちまってたソフィアに信頼されてる理由はわからんが、まぁ悪い気はしねぇな。
「そうか。なら、俺はここにいるから、解鍵作業を頼む。」
「お任せください。」
ソフィアは笑みを深めて返事をし、扉へと向き直った。
ソフィアの手から淡い光が出てきて、それらが扉の模様の一部をなぞっていく。
ソフィアは無言で淡い光の流れを目で追いながら、ゆっくりと追加の光を流していった。
あの光が魔力なんだろうな。
もともとわずかに光っていた模様がソフィアの魔力に染まっていく。
ただ、今まで何もなかったところにもソフィアの魔力が流れてるみたいなんだが、大丈夫なのか?
あれだけ慎重に魔力を流しているソフィアが気にしていないんだから大丈夫だとは思うんだが、上しか見てないソフィアが気づいてないだけっていう可能性もありそうな気がする。
「その右側に流れてる魔力は大丈夫なのか?」
「右側?何をいっていま……え?なぜですの!?そちらには流していませんのに。…ダメですわ。制御できないようですので、一度止めるしかありませんわね。…え?なんで!?」
ソフィアは驚きつつも冷静に魔力を流すのを止めたっぽい。だが、今度は既に流していた魔力が右側へと流れ始め、ソフィアがテンパり始めた。
アリアを見てみるが、動き出す気配がない。
やっぱり魔法関係はソフィアが1番詳しいんだろう。そのソフィアが対処できない事態になっている時点で他のやつが対処できるわけがないか。
ソフィアはテンパりながらもどうにかしようとしているが、どうにもならないみたいだ。
1本の線のように右側に伸びていた魔力が模様を描き始めたことで、流れた魔力の方を直接どうにか止めようと思ったのか、焦って移動しようとしたソフィアが一歩目で倒れた。
仕方ねぇか。
ソフィアを立たせるのは後回しにして、魔力の線を上から殴りつけた。
思ったより扉が硬くて腕がわずかに痺れたが、魔力が流れるための道を潰したからか、それ以上は魔力が流れていかなくなった。
一応成功っぽいな。まぁ侵入しようとした痕跡を残しちまったが、完全に壊したわけじゃないからまだギリセーフだろう。
しばらくの間、魔力がもう流れていかないのを確認してからソフィアを起こすために近づき、腕を掴んだらソフィアがビクッと体を震えさせた。
「も、申し訳ありません。」
ソフィアは土下座をしようとしたっぽいが、俺が片腕を掴んでいるせいで中途半端な格好になっている。
「ん?べつに謝ることじゃねぇから気にすんな。ソフィア以外じゃそもそも開けらんねぇんだから、このくらいの失敗でとやかくいう気はねぇよ。魔力の流れ道は潰したから、もう一度頼む。」
「許してくださるのですか?」
「許すも何もべつに怒るようなことじゃないんだが、まぁ許すから気にすんな。」
「ありがとうございます。」
そういやソフィアと会ったときはこいつが余計なことを始めたことに対して怒ったような気がするし、その後はソフィアと会話をする機会も少なかったから、俺が何にでもすぐに怒るようなやつだと勘違いしてるのかもな。
いや、勘違いってわけでもねぇか。俺が短気なのは間違いねぇし。
そんなことを考えながら、ソフィアを立ち上がらせるのを手伝っていたら、ソフィアが俺の方を向いた。
「どうした?」
「あ、あの。先ほどはどうやって魔力を止めてくださったのでしょうか?」
あぁ、そういやソフィアには見えねぇのか。
「ただ殴って扉ごと魔力の道を潰しただけだ。」
「潰したというのは物理的にということでしたのですか……いえ、おかげで今度こそ扉を開けることができるはずですわ。」
ぎこちなく笑っているソフィアが、あらためて扉に向き直って、恐る恐る手をつけてから魔力を流し始めた。
今度は変な方向に流れることなく、魔力の残滓が残っているうちの一部分の模様を光らせていった。
しばらく魔力の光の動きを眺めていたら、ズゴォォッと重たそうな石同士が擦れるような音がした。
「今度は上手くいったようですわ。」
「あっ、中がわかるようににゃった。う〜ん…。危険はにゃさそうだね。」
ソフィアが嬉しそうな笑顔で振り向いた直後にセリナが中の様子を教えてくれた。
鍵が外れると魔法の壁とやらも消えるんだな。
いや〜…目的地にたどり着くまで長かったな。マジで。
予定よりかなり時間がかかったが、なんとか夜のうちに終わらせられそうだな。
「まだ罠とかある可能性もあるから、セリナはちょっとの違和感でも注意するようにして、先行を頼む。」
「は〜い。」
気の抜けた返事をしつつも緊張しているのか、セリナがしっぽを逆立てながら、ゆっくりと扉を開いて中に意識を向けていた。
セリナがこんなことで緊張とか珍しい気がしたが、勇者召喚を行うような重要な場所に侵入しようとしてるんだから、そりゃ緊張するか。
今まであの女の姿をした魔族とやらに会う以外に何もなさすぎて、俺は完全に緩みきっちまっていたみたいだ。
ヤバいな。気を引き締めなおさねぇと。
俺が気持ちを入れ替えたところで、セリナがスッと部屋の中に入っていったから、俺もそれに続くためにソフィアを脇に抱えて中へと入った。