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324話

裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚【コミカライズ】 — novelba.com · All chapters

324話

「あれ?あなたはたしか『歩く…』…リキさんじゃないですか。どうしたんですか?」

歩くリキさんってなんだよ。たしかに今は歩いているけど。

セリナの案内でレガリアを担ぎながら屋敷まで連れてきたら、俺らに気づいた門番の男から声をかけられた。その第一声がさっきのだ。

たぶん二つ名で呼ぼうとして途中でやめたんだろうが、止めるにしても区切りが…まぁいい。

「どうしたって、レガリアの父親からの依頼を済ませただけだ。」

「旦那様の依頼?申し訳ないんですけど、旦那様はまだ帰ってきてないんですよ。ひとまずお嬢様に声をかけてきたらいいですかね?」

「は?」

「え?」

こいつがわけわかんないことをいってきたから聞き返したら、なぜかキョトンとした顔をして聞き返された。

「いや、そのお嬢様とやらを連れてきたんだから、むしろ侍女とかを連れてきた方がいいんじゃねぇか?メアリーだったか?とりあえずあいつを呼んどきゃいいんじゃね?」

「え?」

また聞き返されたんだが。

こいつは何をそんなに驚いてんだ?もしかしてレガリアの運び方か?だとしたら…たしかにお嬢様の運び方ではねぇな。

「だからこれの配達に来たんだよ。」

見せた方が早いだろうからと俺が反転してレガリアの顔を門番に見せた。

「お嬢様!?いつの間に外出なさっていたのですか!?体調が思わしくないとのことで部屋で休んでいらっしゃるとメアリーがいっていたと思うのですが……でもそのドレスって昨晩の卒業パーティーのときと同じ?あれ?どういうことだ?」

門番がレガリアを見て驚いていたんだが、途中から独り言のような呟きへと変わっていった。

その呟きの内容が本当だとしたら、もしかしてメアリーもレガリアを陥れようとしてる側の人間なのか?だが、それだとあの騎士に襲われたときにレガリアを逃したこと自体が意味不明になるな。別勢力?

そんなことを考えていたら、やけに豪華な馬車が近づいてきた。

そういやここら辺の家は偉いやつ用なんだったな。

変に絡まれても面倒だからと道の端に寄って道をあけたんだが、なぜかその馬車は目の前で止まった。もしかしてレガリアの父親が帰ってきたのか?

それなら追加報酬の話ができるからちょうどいいと思いながら見ていたら、降りてきたのは俺と同じ歳くらいの金髪のイケメンだった。

「まさか本当にイデレクーダのいう通りだとは。お前たちがレガリアを牢から勝手に連れてきたようだな。私に逆らった罪は重いぞ。こいつらを連れていけ。お前らはおとなしくしていろ。」

見た目からしてウザったそうなやつと思っていたら、第一声から意味がわからなかった。

おとなしくしてろって俺らにいってんのか?

金髪イケメンに命令されたっぽい全身鎧のやつらはさすがにその命令が理不尽だとわかっているのか、戸惑っているようだ。

「いきなり来て意味わかんねぇこといってんじゃねぇよ。」

「意味がわからないだと?白ばくれる気か?いや、それよりも誰に口を利いている?口の利き方に気をつけろ!」

こいつはどっかの偉い貴族の坊ちゃんなのか?普通にイラつくんだが。

この町にはしばらくいるつもりだから問題は極力起こさないようにと思っていたんだが、相手から絡んでこられるのは予想外だな。

「まず、イデレクーダがなんだかわからねぇし、お前が誰だかも何を勘違いしてるのかもわからねぇ。それに俺がお前に従わなければならない理由もわからねぇ。まぁそもそも知りたいとも思わねぇから関わってくるんじゃねぇよ。」

「この賊が!」

「ダカーバ様。この者は嘘をついていないようです。なので、不敬ではありますが、城の侵入者とは関係ない可能性が高いです。」

ん?俺を侵入者だと疑ってたのか。それは正解なんだが、なんか勘違いしてくれたみたいだ。

こいつらは城の関係者か……ん?ダカーバ?ダカーバってレガリアの婚約者じゃなかったか?いや、今は元婚約者か。つまり王子か。……王族か…めんどくせぇ。いや、俺はこの国の人間じゃねぇし、別にいいのか。最悪喧嘩にでもなったら、もったいないがこの辺でのレベル上げを諦めて別の国に行けばいいだけだし。

まぁそうなるのなら、腹いせに執拗に殴ってやるが。

「門番の人、レガリアも確認できたんだし、問題ないなら早くメアリーを呼んできてくれねぇか?面倒なやつに絡まれてるから早く帰りたいからさ。」

「どうやらお前は死にたいらしいな。」

俺が王子たちを無視して門番に話しかけたら、門番は言葉を発せずに固まり、その代わりなのか王子が頬をピクピクさせながら腰の剣を抜いた。

武器を抜いたってことは戦うってことか。

王族を殴るだけならまだしも殺したら面倒そうだな。塵すら残さず消せば問題ないか?いや、いなくなったらなったで捜索とかされるだろうから、最悪バレる危険があるし、極力殺さない方が良さそうだな。

まぁガントレットを外した拳で殴るぶんには殺すことはねぇか。殴れば顎や頬の骨は砕いちまうかもしれねぇが、元がかなりのイケメンだから多少崩れても許容範囲だろ。

肩に担いだレガリアをイーラの方に放り投げ、右手のガントレットも外してイーラに放った。

せっかく俺が背中を見せて隙を作ってやったのに攻撃してこないんだな。そこまで問答無用ってわけではねぇのか?

「お前はあくまでも罪を認めないというんだな?」

王子は最終確認でもするかのように剣先を俺に向けて質問してきた。

「認めるも何もお前に断罪されるような罪なんか犯しちゃいねぇよ。」

右手のガントレット以外は装備したまま構えをとってから答えたんだが、王子はまだ襲いかかってはこない。

俺から攻めても構わないんだが、ここで相手が引くならその方が面倒ではなさそうだから少しだけ反応を待つことにした。

「……ダカーバ様。やつは今のところ一度も嘘をついていないようです。」

「なんだと!?レガリアと一緒にいるのに侵入者じゃないというのか!?たしかにイデレクーダのいう犯人像とは合わないが…。」

あぁ、イデレクーダってあの魔族か。そういやヒトミがそんな名前を呼んでいたが、覚える必要を感じなかったから覚えてなかったわ。

この王子は不敬だとすぐに剣を抜きやがったが、その程度の罪で斬りかかるほど短気ではないみたいだな。まぁ剣を抜いた時点でわりかしアウトだと思うが。

…ん?というか、この騎士は答え方からして俺が嘘をついてないってことを何かで確認してるっぽいが、もしかして本人が嘘をついたと思ってなければ、嘘を見抜く加護やらスキルは反応しないのか?

「お前らはレガリアを助けたわけではなく、たまたまレガリアと会ったから一緒に帰ってきただけとでもいうつもりか?」

今度は俺に問いかけているみたいだな。

助けたとか聞いてくるってことは悪いことをしてる自覚はあるってことか?

まぁその辺りはどうでもいいか。

「あぁ、その通りだが、なんか問題あんのか?」

俺の返事に対して、王子は隣の騎士を見た。

「嘘はついてないみたいです…。」

「ふざけるなっ!!!!!」

なぜか王子がブチ切れた。

たしかにイデレクーダについては俺が忘れてたから反応しなかっただけだが、あとは本当のことしかいってねぇのに、結果に対して怒る意味がわからん。

「わかったなら帰れ。」

俺が顎で馬車を示したら、殺気を込めて睨まれた。まぁ全く怖くはねぇけど。

「まぁいい。お前の不敬はこちらの勘違いとで相殺ということにしてやる。だが、レガリアは置いていけ。」

王子は怒りを我慢するかのように荒い息を吐きながら、意味がわからないことをいい始めた。

レガリアとは婚約破棄したんだろ?ならそこまで執着する意味がわからん。

「最初にもいったが、お前に従う理由がない。それにこいつの面倒を出来る限り見るように依頼されてるからな。文句があるなら依頼主に交渉してくれ。」

「依頼主とは誰だ?」

「依頼主ってバラしていいもんなのか?まぁ今回はたいしたものじゃないからいいか。こいつの親父だよ。」

「なら問題ない。私の方が立場が上だからな。金が必要なら私が払ってやってもいいぞ。」

「依頼に立場とか関係ねぇと思うが、まぁお前が金貨2万枚をこの場で払ってくれるなら、お前の依頼も受けてやってもいいぞ。」

「調子にのるなっ!!!」

王子が剣を握る手に力を込めて踏み出そうとしたところを騎士たちが止めた。

「邪魔をするな!こんな無礼なやつは死んで当然だろ!!」

「待ってください!私たちではこいつには勝てません!」

「冷静に相手を見てください!私たちが束になっても勝てる相手ではありません!」

「た、たぶん彼らは『歩く災厄』とその仲間です!関わるべきではありません!」

「それは本当か!?ダ、ダカーバ様!落ち着いてください!今回は相手が悪すぎます!」

「ダカーバ様を止めろ!国が消されるぞ!!」

「離せっ!二つ名持ちだろうが関係ない!!」

「いけません!もし本当に『歩く災厄』とその仲間なのだとしたら、ただの二つ名持ちではありません!実力がありながら慈悲も躊躇もないやつらです!関わってはなりません!」

「ダカーバ様を馬車に乗せろ!むりやりでもかまわない!俺たちの命だけじゃなく、民の命がかかってるんだ!」

「早くしろ!やつが動き出す前に早く!!」

「お前ら、私に逆らうのか!?離さなければ騎士から除隊させるぞ!!」

「私が除隊させられるだけで済むなら構いません!お前ら、早くダカーバ様を馬車に乗せろ!責任は私が取る!」

「「「はい!!!」」」

…なんか仲間割れをしながら王子が馬車に無理やり詰め込まれて運ばれていった。マジで何がしたかったんだ?

まぁ、揉めずに済んだからよかったんだよな?

俺らに対してさんざんなことを騎士どもがいってた気がするが、おかげであっさり引いてくれたみたいだし、悪評が役に立つこともあるんだな。

馬車が遠ざかったことで静まり返った中、遠くから走って近づいてくるような足音がかすかに聞こえてきた。

門を見るとさっき対応してくれた門番とは別の門番がいつのまにかいなくなってるみたいだから、メアリーを呼びに行ってくれたんだろうな。

「……リキさんはなんなんですか?」

あとはメアリーたちの到着を待ってレガリアを引き渡すだけかと思いながら、イーラに預けたガントレットを返してもらおうと振り返ったら、レガリアに質問された。

さっきも同じようなことを聞かれた気がするが、デジャヴか?

「どういう意味だ?」

レガリアに問いかけながら、イーラからガントレットを受け取り、念のため右手にはめ直した。

「近衛騎士隊の方々に戦う前から勝てないといわせるなんておかしいです。しかもリキさんのことを知る前から勝てないと判断しているようでしたし、名前を知ったあとはもっと酷い怯え方に見えました。国を守る騎士の中から選ばれた近衛騎士すらも怯えさせるリキ様はなんなんですか!?」

「なんだっていわれてもな…。逆に聞きたいが、あれがこの国のトップクラスの実力者たちなのか?」

「…。」

俺が聞き返したら、なぜかレガリアが黙って目を逸らした。

「…冒険者には強い方々が多くいました。なので、騎士の実力上位者があの程度のはずがありません。」

黙ったレガリアを訝しんでいたら、なぜか代わりにアリアが答えてくれた。だが、冒険者と騎士の強さを比較する意味はよくわからん。

「冒険者の強さと騎士の強さは関係なくないか?」

「…冒険者が町中で諍いを起こした際に騎士や兵士が出向くこともあるはずなので、強い冒険者が多く集まるこの町の騎士にはいざというときに対抗できるだけの戦力が求められているはずです。」

騎士が強さだけで選ばれてるとは思っちゃいないが、たしかに町で暴れるやつに対抗できないんじゃ王族の護衛すらままならないわな。

「アリアがいいたいことは理解したが、実際に王族の護衛があの程度じゃ他の騎士もたかが知れてんだろ?それとも王族の護衛は下っ端が担当するもんなのか?」

「…。」

俺は思ったままに質問しただけなんだが、今度はアリアが黙った。

いや、よくよく考えたら、アリアも俺らと一緒に数日前に来たばっかなんだから、この国の事情なんてわかるわけがねぇか。

というか、話の流れでこの話題になっちまっただけで、この国のことなんかどうでもいいんだが、一応1番知っていそうなレガリアに目を向けたら、さっきまで逸らしていた目が俺を見ていた。

「ダカーバ様が大規模な騎士の入れ替えを行ったため、近衛騎士団には王と王妃の近衛騎士隊以外に古参は残っていないと伺いました。」

ダカーバ王子とやらが手を加えられる部分は総取っ替えしたってことか?

聞いた感じでは本来騎士のトップクラスが近衛騎士団になって、その中から王族それぞれの近衛騎士隊が選ばれてるっぽいけど、その王子がもともと所属していた強い騎士たちを降格もしくは除隊させたってことか?

意味わからん。さすがに俺の勘違いか?

「近衛騎士団から強いやつを辞めさせて弱いやつを新しく入れたってことか?」

「……はい。」

「ただの馬鹿じゃん。」

「っ!?」

なぜかレガリアが驚いた顔をしているんだが、どう聞いても気が狂ったか、ただの馬鹿でしかないだろ。

なんで自分を護るやつを弱くしてんだよ。

「その…。」

「なっ!?」

俺が話を続けようかと思ったら、門まで来た足音の主から驚くような声が聞こえたから、話をやめて振り向いた。

まぁわかってはいたけど、足音の主はメアリーだ。

「メアリー!!!」

「なぜお嬢様が!?いや、偽物か!!お嬢様に変装など許さない!」

レガリアが叫ぶようにメアリーの名前を呼んだのがうるさくて顔を向けたら、顔を綻ばせて走り出そうとしていた。

それに対してメアリーが驚いた声を上げてから意味のわからないことをいい始めた。

あまりにメアリーの発言が予想外だったから、俺があらためてメアリーに視線を向けると、メアリーが手にナイフを持ってレガリアに近づいているところだった。

感動の再会の最初から見ていたはずなんだが、ちょっと状況が飲み込めない。

いやまぁ、状況は飲み込めていないが、とりあえずナイフはまずいだろうという判断くらいは出来るから、メアリーに近づいてナイフを握って動きを止めさせた。

「なっ!?なぜリキさんが邪魔をするのですか!?あなたもお嬢様に害するつもりなのですか!?」

「とりあえず落ち着け。レガリアを害するつもりなら、最初に会った時に殺してるし、今だってここまで連れてこねぇよ。というか、レガリアを害そうとしてんのはお前だろ。」

「私がお嬢様に危害を加えるわけがないでしょう!お嬢様は今、自室で寝ていらっしゃいます。そこにお嬢様を騙る者が来たのだから、排除しなければなりません!」

ん?こいつってこんな戦闘派メイドだったか?

「そもそもなんでこいつが偽物だって決めつけてんだ?部屋にいる方が偽物かもしれねぇじゃねぇか。」

メアリーにいいながら、たしかにこれが本物のレガリアという確証はねぇなと思い、レガリアを見ながら鑑定をしてみたら、ちゃんとレガリア・アルバートと出た。

偉いところのお嬢様って聞いたんだが、鑑定しても弾かれるどころかなんの抵抗も妨害もなかったな。

「お部屋にいらっしゃるお嬢様は間違いなく本物です!そいつが偽物なのです!だから排除しなければ!!」

さすがになんかおかしくね?もしかしてこいつがメアリーの偽物かと思い、こいつにも鑑定を使ってみたが、名前はメアリー・トリコロールとでた。家名までは聞いていなかったが、たぶん本物だろう。

ただ、なぜか状態異常の欄に『洗脳』と書かれていた。

「洗脳されてんのかよ。」

初めてみた状態異常にちょっと驚いて言葉を漏らしたら、周りの空気が変わったような気がした。

『フェルトリカバリー』

急にアリアが魔法を使ったから目を向けたら、見返された。

アリアはそのまま近づいてきて、俺の隣に並んだ。

「…洗脳は解けていますか?」

あぁ、今のは洗脳の状態異常を解こうと思って使ったのか。

アリアの行動に納得してからメアリーに鑑定し直すが、変わってなかった。

「いや、変わってねぇな。」

『ステアラ』

『マジパラ』

『フェルトリカバリー』

『オーバーブースト』

最後のオーバーブーストだけフェルトリカバリーと重なって聞こえたが、どうやって発音したんだ?

そんなことを考えていたら、アリアが確認するような視線を向けてきた。

あらためてメアリーに鑑定を使ってみるが、変わってない。

これだけやって治らないってことは同じ状態異常の欄にあっても毒や麻痺とは違う部類になるのか?まぁ肉体的状態異常と精神的状態異常が同じ魔法で治る方がおかしいか。

ん?でも俺が前に憂鬱とかいうよくわからない状態異常にかかったときはアリアが魔法で治してくれた気がするんだが、あれも洗脳とは部類が違うのか?…わからん。

「変わってねぇな。」

アリアに答えると、アリアは右手をメアリーに向けた。

何をするのかと思ったら、メアリーが光に包まれた。

『フェルトリカバリー』

「先ほどから何をなさっているのですか?」

今まで驚いていたからかアリアにされるがままになっていたメアリーが、訝しむような顔を俺に向けてきた。

レガリアに対しては問答無用で殺そうとしてるのに、俺らには確認を取るんだな。

自分に対してよくわからない魔法を使われたら、もっと暴れてもいいと思うんだが。

「あんたが洗脳されてるみたいだから、それを解こうとしてるんだよ。まぁ、あれだけやっても解けてないんだがな。」

「?私は洗脳などされていないと思うのですが。」

さすがに自覚はないのか。

見た感じでも洗脳されてるってわかりづらいくらいだし、洗脳した側が上手いのかもな。

「…『フェルトリカバリー』の効果を上げても、『浄化』を使用しても解けないということは普通の状態異常や呪いとは違うようです。今のわたしでは洗脳を解く術を持ちません。ごめんなさい。」

アリアはなんも悪くないんだが、なぜか謝ってきた。

「べつにアリアが謝る必要はないだろ。洗脳したやつが悪いんだし、最悪メアリーにレガリアを近づかせなきゃいいだけだしな。ちなみに他に洗脳を解けるやつはいるか?」

少し落ち込んでるっぽいアリアの頭に手を乗せてグリグリしながら周りに目を向けたが、誰もいないようだ。

イーラなら何かしらスキルや魔法を覚えているんじゃないかと思ったが、洗脳を解けるようなものはないみたいだな。

「仕方ありませんわね。」

まぁべつにメアリーが洗脳されてても、俺らにはとくに害もないからいいかと諦めようとしたところで、ソフィアが前に出てきた。

「洗脳が解けるのか?」

「試してみませんとわかりませんが、メアリーさんを見る限りそこまで強力な洗脳ではなさそうですので、なんとかなるかもしれません。なので、リキ様は耳を塞いでいていただけませんか?」

「なぜだ?」

「リキ様への攻撃だと判定されてしまうと困りますので。」

よくわからないが、とりあえずいわれるまま従うことにし、メアリーのナイフを握り砕いてから耳を塞いだ。

テンコの力を借りてるからといって、ナイフ程度なら当たり前のように砕けるような握力になってることに今さら気づいて苦笑した。

そうだよな。側から見れば簡単に握りつぶしてるように見えるのだから、今のメアリーのような驚いた顔をするのも普通の反応なんだよな。

そんなことを考えていたら、耳を塞いでいるにもかかわらず、わずかに音が聞こえてきた。

ぱっと見回した感じではソフィアしか口を開いていなさそうだから、この音はソフィアの声で、これを聞かれたくなかったんだろう。

それはわかっているんだが、なぜかもっと聞きたくなり、塞いだ耳越しにわずかに聞こえてくる声に耳を澄ませてしまった。

耳を塞いでいるのに耳を澄ませるとか意味不明な行動ではあるが、耳に心地いい声は歌を紡いでいるようで、不思議と心に染み込んでくる。べつに俺は歌は人並み程度にしか聞かない人間なんだが、気づけば目をつぶって聞き入っていた。

途中から苦しげな声が混ざり始めたが、それでも損なわれない癒しの歌は意識が溶かされそうなほどに気持ちがいい。

ソフィアには歌の才能があったんだなと思いながら目を開けると、ソフィアが大量の汗をかきながら胸を押さえていた。それでも歌うのをやめないのを不思議に思っていたところで、ふと正気に戻った。

この歌が俺への攻撃になってるから、ソフィアは奴隷契約のせいで苦しんでるんじゃねぇか?

そういや『魅了の歌』とかいうスキルを持ってたな。

ソフィアが使っているところを見たことないし、途中からスキルチェックもしてなかったから、そんな危ないスキルを持ってるのを忘れてたわ。最初にそのスキルを見たときは魅了がそこまで危険な状態異常だってことを知らなかったからあんま気にしてなかったし。

とりあえず苦しませるのも悪いからと奴隷契約の俺への攻撃による罰を解除すると、ソフィアの苦しげな声が和らいだ。

ソフィアの歌が耳に心地いいのはさっきまでと変わらないが、さっきまであった脳を溶かすような染み入る感覚はほとんどなくなった。

今まで精神攻撃は何かが勝手に防いでくれていたが、なぜか今回は防いでくれなかった。

『魅了の歌』とやらは精神攻撃ではないのか?

だが、今は何かが防いでくれている感覚があるし、俺が受け入れちまうと防げないとかか?

その推測が正しいなら、歌が上手いやつには気をつけなきゃならねぇな。

聞き入っていたら魅了されちまったなんてことになったら笑えねぇし。

そんなことを考えているうちにソフィアの歌が終わっていたらしく、俺は耳を塞いでいた手を下ろし、奴隷契約の設定を元に戻した。

「終わったのか?」

「はい。あとは解除をするだけですので、耳を塞がなくても問題ありませんわ。そもそもリキ様が耳を塞ぐ必要はなかったように思います。先ほどの胸の締めつけからしてリキ様にも効果が及んでしまっていたかと思うのですが、一切の影響がないようですので。リキ様が特別なのは眼だけではないということですわね。もちろんリキ様がワタクシとは格が違うということはわかっておりましたが、今まで隠していた奥の手を使ったにもかかわらず、なんともないというのはさすがに悔しいですわね。」

ソフィアがなんともいえない顔をしながら褒めてんのか皮肉なのかいまいちわからないようなことをいってきた。

それにしても、隠していた奥の手?奴隷契約をした直後に俺がスキルを確認したことを知らないのか?いや、俺が勝手に確認しているだけだし、本人にはそのことをいっていないような気がするから、本人が確認されてることを知らない可能性はあるな。

「『魅了の歌』だったか?べつに隠す必要なんてねぇと思うがな。」

「はぇ?」

ソフィアがアホっぽい顔で変な声を出した。

反応からして俺が勝手に確認してることを知らなかったっぽいな。まぁ文句を聞き入れるつもりはねぇけど。

そもそも隠す必要はねぇとは思うんだが、味方に影響のある範囲攻撃ってのは使いどころは難しいだろうな。

なんとなしに周りを見たら、いつも通りなのはイーラくらいで、セリナが苦笑いをしていて、アリアとヒトミは不快そうに顔を歪めていた。他のメアリーやレガリアや門番たちは惚けたようにとろんとした目をソフィアに向けていた。

俺の仲間は魅了されてはいないみたいだが、不快そうな顔を見るに影響が全くなかったわけではなさそうだな。

「いつまで固まってんだよ。早く魅了を解いてやれよ。」

「……え?あ、はい。いや、あの…1つだけお伺いしてもいいでしょうか?」

「なんだ?」

「なぜ、リキ様はワタクシが『魅了の歌』を所持していることをご存知なのでしょうか?」

「俺は奴隷にしたときに全員のスキルや加護を確認してるからな。今じゃ最初以外は確認してねぇが、ソフィアは俺の奴隷になった時から『魅了の歌』を持ってただろ?だから知ってるだけだ。」

「リキ様の奴隷契約には魔法での介入が出来ないとは思っておりましたが、まさかスキルにかけていた『認識阻害』の効果すら無効にされていたとは驚きですわ。そういえばワタクシが鳥人族だということもバレていましたものね。」

なんか1人でうんうんと頷きながら納得したようだ。

べつに俺がスキルや加護を確認していたこと自体にはとくに何も思ってはいないようだな。

「納得したならさっさと解除してやれ。アリアたちは治ったみたいだが、門番たちにあんな蕩けた視線を向けられても気持ち悪いだけだからな。」

正確には俺ではなくソフィアを見ているんだと思うが、それでも気持ち悪いことに変わりはない。

「も、申し訳ありません。」

少し慌てたソフィアが落ち着こうとしてなのか一度目を閉じて息を吸い、大きく口を開けた瞬間に耳がキーンとした。

とくに痛みも何もないが、ちょっと耳鳴りしたような感じだ。

これが解除の方法だったのか、メアリーたちがハッとした顔をした。

「わ、わたしはお嬢様になんてことをしようと…。」

メアリーが崩れるように膝をつき、顔を両手で覆った。

正気に戻ったっぽいから、もう問題はないだろう。それにこの反応からして、洗脳されていた間の記憶があるようだから、誰に洗脳されたかとかを聞き出すことも出来そうだな。

「もう問題なさそうだから俺らは帰るな。依頼の追加報酬はレガリアの父親が帰ってきてからでいいから、帰ってきたら連絡してくれ。宿は変えてないからよろしくな。」

「え?」

レガリアに報酬の件を告げてから、セリナに顎で指示して宿屋への案内を任せたところで、ソフィアが疑問の声を漏らした。

「なんだ?」

「あ、いえ、てっきり黒幕を見つけるために洗脳を解いたのかと思いまして…。」

「黒幕なんてどうせ王族とかあの魔族とか隣国とかだろ。そんなあからさまに面倒そうなことにこっちから首を突っ込みたかねぇよ。洗脳を解いたのはレガリアを襲おうとしてたからってだけだ。レガリアの父親とはレガリアに何かがあったらって話だったからな。」

「今さら関わらないのは難しいと思うのですが…いえ、余計なことをいって止めてしまい、申し訳ありません。帰りましょう。」

困った顔をしたソフィアだったが、謝罪をした後は笑顔で帰ることに納得したようだ。

レガリアたちはなぜか呆けた顔で口を半開きにしてこっちを見ていたが、別れの挨拶は既に済ませたからいいだろう。

「もう面倒に巻き込まれんなよ。」

「え、あ、は、はい。あ、ありがとうございました!」

一応最後にレガリアに声をかけたら、やっと正気に戻ったのか、レガリアが噛み噛みながらも礼をいってきた。

たまたま助ける形になっただけだし、追加の報酬ももらうつもりだから、べつに礼は必要ないんだが、まぁ感謝されんのは悪い気分ではねぇからいいか。

既にだいぶ遅い時間だから、明日は朝からダンジョンは厳しそうだなと考えながら、セリナの案内で宿屋へと向かった。