327話
327話
今回は意識して足技をメインに使っていたから、多少は様になってきただろう。もともとたまに使ってはいたから、ウサギほど上手くはなくともそこまで不恰好にはなっていないはずだ。
本気で蹴っても足を痛めないブーツを身につけたことで遠慮なく蹴り練習が出来たため、いくつかのことに気づけた。
今までは回し蹴りなら足の甲、後ろ回し蹴りなら踵を相手に当てるようにしていたが、ブーツなら回し蹴りの時に脛やつま先を使ったり、後ろ回し蹴りならアキレス腱あたりで当ててもしっかりとダメージを与えられた。
しかもこのブーツは足首をちゃんと動かせるようになっているから、今まで通り回し蹴りを足の甲で狙うこともできる。
足技も使ってみればそれなりに楽しいな。
足技にも慣れてきたし、ちょうど地下18階に下りる階段も見つけたから、今日はこのくらいにしておくか。ガントレットを外して腕時計を確認したら、時間的にもけっこういい時間になってるし。
実際にここのダンジョンを体験してみたことでわかったが、たしかにここの魔物は他のダンジョンの同階層の魔物よりは強いみたいだ。
今回は足技メインで戦ったり、仲間との連携を意識したりと攻略速度は意識せずに進んでいたとはいえ、丸一日かけて3階層しか攻略できなかったのだから強かったということだろう。
休憩は昼に一度とっただけだし、戦闘以外で途中で立ち止まることもなく、階段を見つけ次第下りてこの時間だからな。
まぁ1つの階層が広かったってのもあるとは思うが。
「今日は地下18階に下りて、もう帰るぞ。」
俺が全員に声をかけ、地下18階まで階段で下りてからリスタートを発動し、顎で通るように指示をすると、最初にセリナが潜り、1人ずつ順番に全員が通った。最後に俺も潜ろうとしたところで、視界の隅にこの階層の魔物が映った。
牛頭にマッチョな肉体。
片手に馬鹿でかい斧を持った人型の巨体。
ミノタウルスが遠くを歩いているのが見えた。
俺らにとってはもう苦戦するような相手ではないが、最初に会った時は地下40階層辺りに稀に現れるような魔物だと聞いた気がするのにこのダンジョンでは地下18階層で出現するのか。
そう考えたら、このダンジョンが他より魔物が強いっていうのは間違いないのだろう。
だが、正直メタルウルフの方が厄介な魔物な気がする。それは俺がミノタウルスとの戦闘を経験済みだからか?
まぁいいや。
ミノタウルスから視線を外してリスタートの空間を通り、地上1階へと戻った。
「…何かありましたか?」
俺が戻ってくるのが遅かったからか、アリアが少しだけ心配そうな顔で聞いてきた。
「いや、地下18階の魔物はミノタウルスみたいだったが、それならメタルウルフの方が面倒そうだなって考えてただけだ。」
「…たしかに群れのメタルウルフでしたら、今日戦った他の魔物やミノタウルスより戦いづらいかもしれません。ですが、単体のメタルウルフでしたら対策さえ知っていればそこまでの脅威ではありません。単純な強さでしたらミノタウルスの方が強いと思います。もちろん相性もあるので、セリナさんのように攻撃を性能のいい剣に依存している速さに特化した方でしたら斬撃の通りづらいメタルウルフより打撃耐性持ちのミノタウルスの方が倒しやすいかもしれませんが、ミノタウルスの武器を避けながら近づくのは普通は難しいので、近接戦闘に持ち込みづらい相手です。だからといって半端な魔法攻撃では斧で防がれるので、遠距離から倒すにはそれなりの攻撃力が必要なため、先ほどのメタルウルフのように口から吐き出した炎程度ではミノタウルスを倒せないと思います。そのため、一般的にはミノタウルスの方が強い魔物です。そのミノタウルスをレベルの低い冒険者ジョブで1人で倒したリキ様にとってはどちらも弱すぎて差がわかりづらいかもしれませんが。」
「んん?にゃんで今私が口撃されたのかにゃ?」
「僕の『龍の息吹』がそこらの魔法より弱いっていってるのかい?」
アリアがやけに饒舌に喋り出したと思っていたら、途中のディスりのようなセリフに2人が反応した。
もしかして最後のは俺への皮肉だったりするのか?
「…セリナさんは剣が使えない相手に対しての戦う術を最近練習しているのは知っていますし、たとえ剣の使用を禁止したとしてもカンノ村でセリナさんに勝てるのはリキ様だけなので、性能のいい剣に依存しているは間違いでした。…ごめんなさい。」
アリアはセリナに対しては即座に謝ってペコリと頭を下げた。
素直に謝罪されたセリナは苦笑いしながら頰を掻くだけでとくに何もいい返さなかった。
まぁセリナも努力はしているが、才能も人一倍あるから、アリア的には思うところがあるのかもな。俺から見たらアリアも十分才能の塊だと思うが。
この世界はレベルを上げれば能力差を埋めることは出来るが、それでも才能があるに越したことはないから、いくら努力しても戦闘力で追いつくことができないセリナに嫉妬でもしたのかもな。正直、気持ちはわかる。
俺も観察眼がなけりゃ、セリナに惨敗してるだろうし。
そんなことを考えていたんだが、アリアはセリナに謝罪はしたのに、ヴェルには何もいわなかった。
そのせいでヴェルが目を細め、それに気づいたアリアがヴェルを見た。
「…ヴェルさんは種族的に恵まれているのは確かですが、総合的な戦闘能力はそれなりであることを自覚した方がいいです。せめて傲慢な態度を取るのならイーラに勝てずとも負けないくらいになってからにしてください。」
「…。」
今日のアリアは機嫌が悪いのか?
ヴェルは不機嫌オーラ全開で黙っちまったし。
まぁイーラと1対1で戦えば普通にヴェルが負けるだろうし、何もいい返せないんだろう。それでもムカつくのはムカつくから不機嫌オーラ全開って感じか。
「なんでアリアは怒ってるの〜?イーラに勝てないなんて普通じゃん?イーラはリキ様の次に最強だし!」
空気を読んでか読まずにかはわからんが、イーラがいつも通りな感じで会話に入っていった。
ただ、自分より上がいるのに最強ってのはおかしいことをそろそろ気づくべきだと思うぞ。
「…イーラは最強ではありませんが、イーラに勝てないのは仕方ないことかもしれませんね。わたしがいい過ぎました。ごめんなさい。」
イーラを見たアリアの表情がわずかに緩んだと思ったら、ヴェルに向き直り謝罪した。
だが、ヴェルは納得いっていないのか、目を細めてアリアを見たままだ。
「べつにアリアがいってることは間違っていないから謝罪なんていらない。僕はセリナやアオイには手も足も出ないし、イーラにだって勝てる気もしない。認めたくはないけど、アリアが本気を出したら、僕はアリアにすら勝てないんだろうね。あぁ、知ってるよ。リキ様の奴隷になってから嫌というほどわからされたさ。龍族が最強?はっ、笑えるよね。たしかに恵まれた肉体は持っているけど、優れているのは力と硬さだけだ。それだってまだ幼龍の僕じゃ中途半端でしかない。だから、いい武器を持たれるだけでそんな能力差なんてほとんどあってないようなものだ。それでも僕は最強だった父さんの娘だ。だから僕が弱いだなんて認めたくなかった。それなのにアリアは僕にその事実を突きつけて何がしたいの?僕を惨めにさせたいんなら、もう十分味わっているよ。強がってでもいないとこんな異常な強さのパーティーになんていられないくらいにね。そんなに僕が気に入らないなら、アリアなら追い出すことだって出来るだろう?なのにそんな素振りはないし、アリアが何をしたいのか、僕にはわからないよ。アリアは僕にどうしてほしいんだい?」
ヴェルが泣きそうな顔で悲しそうに笑った。
そんな顔は初めて見たが、それよりもヴェルの返答の内容に驚かされた。
てっきり鼻で笑って「なら力を見せてあげるよ。」みたいな返事をすると思っていたんだが、予想以上に心が脆かったみたいだ。
いったアリア自身もまさかの返答に驚いている。
でも、よくよく考えたら俺より年下の女の子なんだよな。
自分が最強だと思っていたのに自分より強いやつがゴロゴロいたら、思うところもあるだろう。だからといって8歳児に泣かされそうになるのはどうかと思うがな。
「………ごめんなさい。ヴェルさんは実力を把握できずに周りを見下しているのかと思っていました。ヴェルさんは弱いとは思いませんし、努力をしているのも知っています。だからそれで慢心しているのかと思ってしまっていました。わたしは……ヴェルさんの恵まれた才能が羨ましく……そんな才能があるのにもったいないなどと勝手に思い、考え足らずに酷いことをいってしまって、本当にごめんなさい。」
「いや、いいんだ。僕が見栄を張っていたのも悪いんだし。でも、アリアは僕の恵まれた才能が羨ましいといったけど、アリアだって十分恵まれているじゃないか。魂を削って得た部分もあるのだろうけど、その異常な頭の良さはとても恵まれた才能じゃないのかな?どの程度がもともとの才能かはわからないけど、セリナの話では最初から記憶力が良かったらしいし、見ただけで人の戦闘の真似が出来たんだろう?それだけでも十分な才能じゃないか。もちろんアリアが誰よりも努力をしていることは知っているよ。そんなアリアだから、僕はアリアのお願いには従ってきたんだしね。」
「…。」
今度はなぜかアリアが黙り込んだ。
というか、この空気はなんなんだ?
こんな重い空気にしやがってどうするつもりだよ。
これが俺と関係ないなら放置するんだが、パーティー内の揉め事を放置すると命の危険があるからな。
人数も増えてきたから性格が合う合わないはあるだろうから全員仲良くしろとはいわねぇが、わざわざ喧嘩を売るとかどんだけ嫌いなんだよ。
「人のものは良く見えるものなんだから、そんなことで喧嘩するんじゃねぇよ。俺からしたら2人とも羨ましいくらいなんだからよ。」
「リキ様に羨ましがられても困るんだが。」
「俺にも才能があるっていいたいのか?まぁ頭も悪くねぇし力も弱いわけじゃねぇ、運動神経はわりといい方だったから、それを才能だっていうならそうなんだろうな。それ以外で才能っていえば眼の良さくらいだろうが、この観察眼だってスキルとして出てるくらいだから、条件を満たせば誰だって得られるんだろうし、2人みたいにスキルに現れない才能は持ってねぇから、いってしまえば俺くらいなら努力で誰にでもなれるってことだな。戦い方だって喧嘩で覚えただけだし、この力だってレベル上げで得ただけだ。あぁ、SPで取れるスキルが多いみたいだから、それが俺の才能かもしれねぇな。人の才能が羨ましく思うのは仕方ねぇが、文句をいったって奪えるわけじゃねぇんだから、気にするだけ無駄だ。それでもまだ思うことがあるなら明日のダンジョン探索は昼飯食ってからにするから、徹底的に話し合え。2人だけだと話が進まねぇかもしれねぇから、セリナ任せた。」
「ここで私!?……まぁ2人がいいにゃら私はいいけどさ。」
俺の話を聞いても2人とも黙っているだけでけっきょく完全にもと通りにはなっちゃいないが、そんなすぐに仲直り出来るならそもそもあんな遠回りに喧嘩売ったりしねぇわな。
あとは女同士で話し合って、明日また様子を見るくらいにした方がいいだろ。もしかしたら生理で機嫌が悪くなってるだけかもしれないから、男の俺が出しゃばっても碌なことにならなそうだし。まぁアリアが既に始まってるのかは知らんし、全く違う理由かもしれないが、俺がいると話しづらいこともあるだろうから、付き添うならセリナの方が適任なはずだ。それでダメなら俺が仲裁すればいい。
「…リキ様ごめんなさい。セリナさん、お願いします。」
「僕からもお願いするよ。」
「あぁ〜…うん。まぁ2人は必要最低限の会話しかしてこにゃかったし、たまにはちゃんと話し合った方がいいのかもね。」
2人で話し合うことに異論はないようだし、2人ともセリナがいた方がいいみたいだから、人選は間違えていなかったみたいだ。
ただ、セリナが苦笑いしているから、あんま乗り気ではないのかもしれないな。セリナにはあとで何かしらの褒美を用意しておいた方がいいかもしれん。
話にひと段落ついたはずなのにまだ残っている重い空気を壊すために、俯いてるアリアとヴェルの頭をぐしゃぐしゃにしてから上を向かせた。
「とりあえず帰って腹いっぱい飯食うぞ。そしたら多少は落ち着くだろ。そんでそのあとゆっくり話し合え。明日の探索は最悪休みでもいいしな。」
「…いえ、昼からに変更してもらえるだけで十分です。」
アリアが自分のせいで予定を変更するのが悪いと思っているのか、そんなことをいってきた。
「そうか。まぁその辺の判断は今回はセリナに任せるわ。アリアとヴェルは無理する可能性があるしな。」
「え!?」
驚いてるセリナに近づいて、肩に手を置いた。
「悪いが頼むな。」
「ずるいにゃ〜……まぁ頑張ってみるよ。」
俺が面倒ごとを避けたのがバレたのか、ずるいという返事をセリナにされたが、セリナに背を向けてそれを聞き流しながらダンジョンの出口へと歩き出した。
背後で小さくため息をつくのが聞こえたが、聞かなかったことにした。