328話
328話
宿屋の1階にある食堂で夕食を食べ終えたリキたちは3人だけを食堂に残し、2階にある部屋へと戻るために階段を上っていった。
残されたのはアリアローゼとヴェルデナーガ、そして、淡い期待を抱いて階段を見つめ続けているセリナアイルの3人だ。
なんだかんだといいながら、いざという時には助けてくれることもあるリキが、もしかしたら戻ってくるかもしれないというセリナアイルの淡い期待は、リキたちが寝室へと入って扉を閉めた音が聞こえたところで、予想通り裏切られたことを認めるしかなかった。
そう、予想通りだ。だから悲しんでも仕方ないとセリナアイルが気持ちを切り替えた。
全員でまとまって食事ができるようにくっつけていた4人席を元の位置に戻し、テーブルの上の飲み物以外の食器類を店員が片付けやすいようにもう一方のテーブルにまとめた。
「とりあえず座ろうか。」
テーブルの上を片付けた4人席の片側にセリナアイルが座ると、セリナアイルの正面にアリアローゼが座り、アリアローゼの隣にヴェルデナーガが座った。
セリナアイルが逆側に座る2人の顔を眺めてから、小さく息をついた。
「これから話すことは他に聞かれたらまずいことも含まれそうにゃ気がするから、周りに聞かれにゃいように魔法を使ってもらってもいい?」
「我願う。秘する言の葉を逃す道を塞ぎ、音を隔てる壁となせ。」
『サウンドアイソレイション』
セリナアイルがアリアローゼに確認を取ると、即座にアリアローゼが魔法を使用し、3人が座るテーブルを四角く囲むように膜が張られた。
他を巻き込むことのないよう最小限のサイズに調節された膜は透明とはいえ光の反射で丸見えだが、食堂にいる他の者たちは一瞥するだけで、特に気にした様子は見せなかった。
「ありがとう。…それじゃあ始めようか。えっと、ヴェルちゃんもいいたいことはいろいろとあるとは思うんだけど、先にアリアに質問してもいいかにゃ?」
「…。」
「僕はかまわないよ。」
セリナアイルが2人に確認の視線を向けると、アリアローゼは頷き、ヴェルデナーガは了承の返事をした。
2人の返答を受けたセリナアイルはアリアローゼへと視線を向けた。
「どうしたの?」
「………ごめんなさい。」
セリナアイルのどうとでも捉えられるような曖昧な質問に対して、アリアローゼは少しの間を開けて謝罪をした。
「たしかに今回はアリアが悪いから謝罪も必要だとは思うけど、私が聞きたいのは謝罪じゃにゃくて、アリアがイライラしてる理由にゃんだよね。」
「…イライラしているわけではありません。ヴェルさんに対しては勘違いで酷いことをいってしまい、本当に申し訳ないと思っています。」
アリアローゼが申し訳なさそうに俯き、セリナアイルがそれを見て難しそうな顔をした。
「リキ様がいにゃければ話してくれるかと思ったけど、アリアからはいいたくにゃいみたいだね。いや、認めたくにゃいとかかにゃ?それとも私の勘違い?」
セリナアイルが話しかけているのか独り言なのか判断に困る話し方をしたせいか、アリアローゼは俯いていた顔を上げてセリナアイルを見た。
そして、アリアローゼと目が合ったセリナアイルは優しく微笑んだ。
「ヨコヤマカナデさんのことでしょ?」
アリアローゼがビクッと肩を跳ねさせたのを見たセリナアイルが、困ったように苦笑を浮かべた。
「やっぱりそうにゃんだね。タイミング的にそうかにゃって思っただけだったんだけど、ヨコヤマカナデさんが原因だとしたら嫉妬だよね。私は禁忌魔法を持ってにゃいからわからにゃいけど、私の発情期みたいにゃものだとしたら、仕方にゃいのかもね。あれは理性でどうにかにゃるものじゃにゃいし、そもそもあれだけみんにゃに迷惑をかけた私には何もいえにゃいしね。でもさ、ソフィアちゃんと作った魔道具はどうしたの?私にくれたときにアリアもつけてたよね?」
「…。」
セリナアイルの質問に対して、アリアローゼは無言でテーブルに金属のかけらを置いた。
これは禁忌魔法のデメリットを抑えるものとしてソフィアランカによって作られた試作品の魔道具だったものだ。
「うわ〜…。完全に壊れてるね。壊れるにしてもこんにゃ破裂したようにゃ壊れ方するものにゃの?」
「…感情が一度に溢れたために魔力調整がうまくいかず、破裂したわけではありませんが、修復不可能なほどに砕けてしまいました。そもそも、ただの精神安定作用では禁忌魔法による悪感情の増幅には効果がほとんどないようでした。そのせいで効果が出るまで魔力を込めようとして込めすぎてしまったのだと思います。」
「そうにゃんだ。私は禁忌魔法じゃにゃいけど、壊れるまで魔力を込めても全く効果がにゃかったのにゃら、もしかしたら繁殖期の欲を抑えようとしても効果がにゃいのかもね。私は魔力自体がそんにゃににゃいからそこまでは壊れずにすみそうだけど。…まぁそのことはあとでソフィアちゃんと話すとして、ヨコヤマカナデさんに強い嫉妬をしたことは認めたね。」
「…。」
アリアローゼが一度目を見開いた後に顔を歪めた。
「べつに嫉妬自体がダメっていってるんじゃにゃいから、そんにゃ顔しにゃいで。ただ、アリアがにゃんでそこまで嫉妬したのかがわからにゃいんだよね。ヨコヤマカナデさんが来たからって、アリアとリキ様の関係は揺らがにゃいと思うのに何が心配にゃの?」
「………わたしはセリナさんみたいに人に好いてもらえる性格ではありません。」
アリアローゼが話し始めたことに反論しようとしたセリナアイルだったが、話がまだ続く気配を感じて口を閉じた。
「…だから、わたしにとってはリキ様と1番最初に仲間になれたということがとても大事だったんです。それだけは他の人がどんなに頑張っても奪われることのないわたしとリキ様の関係だったので。ですが、ヨコヤマカナデさんはリキ様がこの世界に来てくださる前からの知り合いです。わたしが出会うより前のリキ様を知る方。そのうえ親しい関係であり、リキ様もとても気を使っていました。間違いなくこの世界に来る前の仲間だったのだと思います。ヨコヤマカナデさんが現れた時点で、わたしがリキ様の1番最初の仲間ではなくなってしまいました。その関係がなくなってしまったら、リキ様にとってのわたしがいる必要がなくなってしまうかもしれない。戦闘ではセリナさんやアオイさんには敵わないし、考える力はローウィンス様より数段劣ります。わたしが誇れることなんて…。」
「にゃにいってんの?」
途中から徐々に早口のように話し始めたアリアローゼの言葉を遮るようにセリナアイルが低い声を出した。
止められたことで少し冷静になれたのか、アリアローゼは口を噤んで目を伏せた。
「アリアにとって最初の仲間ってのが大事だったんにゃら、それを否定する気はにゃいけどさ、アリアより前から仲間だった人が現れたらリキ様がアリアを捨てるとでも思ったの?」
「…。」
「リキ様がそんにゃことしにゃいってわかってるよね?たとえアリアが最初の仲間じゃにゃかったとしても、間違いにゃくリキ様はアリアを必要としてると思うよ。そもそもアリアの自己評価がそこまで低い意味がわかんにゃいから。リキ様もそういうとこあるけど、にゃんでアリアはそんにゃとこばっか影響されるかにゃ…。いや、アリアが自己評価が低いのはリキ様に関することだけか、じゃあ悪いのはリキ様かもね。」
「…リキ様は悪くありません。わたしがもっと誇れる力があれば他の方に迷惑をかけずにすみました。」
「それだけ才能があって誇る力がにゃいとかいっちゃうのも意味わかんにゃいから。いや、それもリキ様のせいでしょ。リキ様の周りは才能ある人が集まりすぎだから勘違いしちゃうんだし、リキ様が思ってることをあまりいわにゃいから力があることを自覚出来にゃいんだろうし、リキ様が面倒くさがりだから私が…。」
いきなり機嫌が悪くなり始めたセリナアイルに驚いてしまったアリアローゼはただただセリナアイルを見ていることしかできなくなっていた。そのことに気づいたからか、セリナアイルはアリアローゼを見て微笑んだ。
「まぁいいや。とりあえずアリアの嫉妬心が溢れたのはリキ様のせいだからリキ様ににゃんとかしてもらうとするよ。」
「…リキ様に迷惑はかけたくないです。」
「いいんだよ。私たちはまだ子どもにゃんだし、リキ様はそんにゃに心が狭くはにゃいからね。アリアは遠慮しすぎにゃんだよ。イーラみたいに空気を読まにゃいのはハラハラすることもあるけど、リキ様は嫌にゃときはハッキリいってくるから、もっと甘えて大丈夫だよ。ニアちゃんを見てみにゃよ。あれだけど直球で好意をぶつけてるのにリキ様は距離を置いたりしにゃいでしょ?アリアだったらもっといろいろ許されると思うよ。」
「………でも、リキ様はみなさんのことはよく見ているのに、あまりわたしのことは見てくれません。それはあまり興味がないからではないのですか?」
アリアローゼの発言を聞いたセリナアイルが深いため息をつくのをアリアローゼは恐る恐るといったように見ていた。
「にゃんでそうにゃるかにゃ…。じゃあ逆に聞くけど、アリアはサラのことをどう思ってる?」
「…なんでそこでサラが出てくるのですか?」
「いいから。」
いきなりこの場に関係ない名前が出てきたことに不思議に思いつつも、セリナアイルにいわれるままアリアローゼは考え、口を開いた。
「…わたしより年下にもかかわらず、とても努力している真面目な子だと思います。」
「アリアはサラにカンノ村のことをほとんど任せてるよね。アリアにとってカンノ村のことはたいして大事じゃにゃかったりする?」
「…そんなわけありません。カンノ村はリキ様の村でわたしたちの居場所です。リキ様の次に大事だと思っています。だからこそ、真面目なサラに任せています。」
「それはサラが他に任せられることもにゃくて暇そうだからとかじゃにゃくて、信用してるからでしょ?」
「…はい。性格も含めて他の方々よりも適していると思ったからです。」
けっきょく何がいいたかったのかわからなかったアリアローゼは伺うようにセリナアイルを見つめると、優しげな笑顔を返された。
「アリアもいってるように大事にゃことを任せるのは信用してるからだよ。だから、リキ様が大事にゃことをほとんどアリアに任せてる時点で気づこうよ。リキ様にとってはアリアが1番信用できる相手にゃんだって。でもまぁ、頭でわかってても、せっかく頑張ってるんだからもっと直接褒められたいし、構ってもらえにゃいと寂しくにゃる気持ちもわからにゃくはにゃいけどさ。私たちが裏でやってることはリキ様は気づいてにゃいから褒めてもらうにゃんて出来にゃいけど、それを除いても褒めてもらえるだけの仕事はしてるし、リキ様にはもっと甲斐性を見せてもらわにゃいとね。といってもリキ様相手に待ってるだけじゃ何もしてもらえにゃいから、アリアから甘えにゃきゃダメにゃんだけど…アリアにはまだ難しいよね。でもいつまでもイライラされても困るし、仕方にゃいから今回は私がリキ様との添い寝権を取ってきてあげるよ。」
リキがアリアローゼを大切にしてくれていることを本人も本当はわかっていたため、何もいえなかった。ただ自信がなかっただけで、頼ってもらえているのはわかっていたし、必要とされていて嬉しく思っていた。
それに、セリナアイルにいわれたことで、アリアローゼはただ褒めてほしかっただけということに気づいてしまい、少し恥ずかしくなっていた。
リキのためになれば、褒めてもらう必要なんてないと思いながらいろいろと隠れてやってきていたにもかかわらず、褒めてもらえずに拗ねているだけだと気づかされ、いたたまれない気持ちになっていた。
そのせいで、途中から話の方向がおかしな方を向いていることに気づくのが遅れていまい、なぜかこちらからリキに要求をすることで話がまとまってしまったことに焦った。だが、添い寝権の魅力に屈したアリアローゼには口を噤むことしか出来なかった。
「とりあえず嫉妬対策はこんにゃものかにゃ?私も気をつけるけど、人の感情にゃんて気をつけててどうにかにゃるものじゃにゃいし、ある程度は許容するしかにゃいね。」
「…ごめんなさい。」
「じゃあ嫉妬自体は仕方にゃいにしても、その矛先が仲間に向くのは困るから、アリアが思ってることについて話そうか。それとも先にヴェルちゃんからいく?」
「僕はとくに思っていることはないけど、そういうわけにもいかないだろうから、少し考える時間をほしい。」
セリナアイルの確認にアリアローゼが答える前にヴェルデナーガが答えたことで、順番が決まってしまった。
「じゃあ、アリアがリキ様の奴隷組について思っていることを全部いってもらおうか。」
「…なぜですか?」
「さっきいった通り、仲間に矛先が向いたら困るからだよ。そりゃあ好き嫌いがあるのは仕方にゃいかもしれにゃいけどさ、口撃するほど不満を持ってるのはさすがに良くにゃいと思うんだよね。生理的に受け付けにゃいとかだとどうしようもにゃいけど、改善できるにゃらするべきだろうしさ。もちろん改善するのが指摘された側の行動にゃのか、指摘してる側の考えにゃのかは話を聞いてみにゃいとだけど。」
「……………リキ様の仲間に嫌いな方はいません。」
「本当に?アリアはカレンが嫌いでしょ?あとアオイさんとかガルナちゃんやガルネもあまり好きじゃにゃいよね?それともそれは私の勘違いで、私とヴェルちゃんだけが嫌いだったの?」
アリアローゼは何かをいいたそうにしたが、言葉を発することなく口を閉じた。
「今のはいい方がズルかったね。もしかしたら、アリアは本当に嫌いと認識はしてにゃいのかもね。ただ好きにはにゃれにゃいって感じかにゃ?それに自分でいうのも恥ずかしいけど、私のことはわりと好いてくれてるのはちゃんと伝わってるよ。それにゃのに今みたいにゃ聞き方をしちゃってごめんね。」
少しだけ照れながら、そして申し訳なさそうにいうセリナアイルに返す言葉をアリアローゼが迷っていたら、拗ねたように口を尖らせたセリナアイルが言葉を続けた。
「まぁアリアの気持ちはわからにゃくはにゃいけどね。私だってカレンの戦闘訓練だけ優しかったのはズルイと思ったし、結果的に生きていたとはいってもリキ様を殺したアオイさんのことは恨んだよ。初めのソフィアちゃんの空気の読めにゃさには驚いたし、ガルナちゃんとガルネは戦闘以外で重宝されていたのを羨ましいと思ったこともある。最初は好きににゃれにゃいかもって思った相手は私にもいるもん。でも、私は一緒に暮らしているうちにそんにゃ気持ちはにゃくにゃったけどね。それは今のところ私と相性が悪い人がいにゃいってだけだろうから、みんにゃ仲良くしにゃきゃダメとはいわにゃいけど、自分が相手をどう思っているのかは自覚しにゃきゃ、また禁忌魔法の影響を抑えられにゃくにゃったときに迷惑をかけることににゃるよ。」
セリナアイルの言葉を聞いたアリアローゼは無表情で目を閉じた。そして、しばらくしてから目を開き、思っていることを吐露し始めた。
「…わたしは……カレンさんは甘やかされていることを自覚せず、怠惰に生きているのが許せません。」
「たしかに禁忌魔法を得るほどに怠惰に生きてたんだから、そうだったことを否定は出来にゃいね。でも、カレンはちゃんと変わったよね?まだアオイさんには甘やかされてるけど、それでもやることはやってる。いや、アリアに指示されたこと以上のことをやろうと頑張ってるよ。それはアリアだってわかってるでしょ?」
カレンが不名誉な禁忌魔法を得ていることは奴隷組で情報共有されている。そのせいで、もともとアリアローゼにあったカレンに対する苦手意識は憎悪に近いものへと変わっていた。だが、カレンが禁忌魔法を得たことを機にいろいろといい方向に変わったことも事実だ。
アリアローゼは認めたくはなくともカレンの変化に本当は気づいているからか、セリナアイルへの返答はせずにただ頷いた。
「…アオイさんはリキ様を殺しただけでなく、わたしがリキ様からいただいた指輪を壊しました。あの時は敵対していたから仕方ないのかもしれませんが、わたしは忘れられそうにありません。だから、どうしてもアオイさんを好きになれそうにありません。でも、今はアオイさんの人となりを知っているので、苦手ではありますが、嫌いではないです。」
「あぁ〜…。それはどうしようもにゃいかにゃ…。」
セリナアイルはアリアローゼがリキからの貰い物を大事にしていることを知っているため、フォローが出来なかった。さすがにセリナアイルでも大事なものを壊された相手に許すように促すのは気が引けた。
「…サーシャは何も考えずに発言出来ることが理解できません。リキ様に怒られても直そうともしないのが嫌いです。それでいて、なぜかリキ様に嫌われないのが許せません。いえ、本当は羨ましいだけかもしれません…。」
「たしかにサーシャと話してるリキ様って楽しそうにしてる時あるよね。バカにゃ子ほど可愛いっていうけど、ただ馬鹿にゃだけだとリキ様は怒るか興味を失うはずにゃのにサーシャとは仲良くしてるから、羨ましいってのはわからにゃくにゃいかも。それにアリアとは正反対な性格にゃ気もするし、サーシャは嫌いのままでいい気がする。でも、だからこそアリアはサーシャに対しては遠慮せずにいられるのかもね。サーシャにゃら嫉妬して口撃しても許してくれるだろうし、そう考えたらアリアとサーシャは意外に相性いいんじゃにゃい?」
普通に考えれば性格の合わない2人であるが、アリアローゼがサーシャに遠慮があまりないのは事実であり、捉え方によっては気を許した関係ともいえるのかもしれない。
アリアローゼがサーシャを嫌っている部分があるのは間違いないが、誰に対してもある程度の気を使うアリアローゼがサーシャにだけ遠慮のない態度をとることもあるため、セリナアイルは2人の仲をうまく把握出来ていなかった。
その後もアリアローゼから漏れ出る不満をセリナアイルはしっかりと聞きつつ、アリアローゼの考え方を少しだけ変えるようにアドバイスしたり、あとで本人に伝えて改善を試みようと決めたりと話を進めていった。
中にはアリアローゼの中で感情の整理が済んでいる不満もあったが、セリナアイルは全てを流すことなく聞いていた。
「…セリナさんのことは好きなんだと思います。でも、わたしにはない社交性の高さを羨ましく思い、嫌な気分になることがあります。セリナさんのせいではないのにごめんなさい。」
「いいんだよ。私だってアリアの有能すぎるところに嫉妬したりするけど、大好きだからお互い様だね♡」
セリナアイルが照れ隠しとして、ふざけたような言葉を返しながら席を立ち、アリアローゼに近づいて抱きついた。だが、ふざけたようにいってはいるが、いった言葉は本心である。
それに、ニヤニヤを隠せていないので、セリナアイルの表情がハッキリと見えているヴェルデナーガにはバレバレであった。
2人の仲睦まじい様子を見ていたヴェルデナーガは、その微笑ましい様子に自然と頬を緩めていた。
もともとヴェルデナーガはあまり人間に興味がなかった。堕ちる前の父親が人間を好いていたため、父親とともに人の街に紛れるために人族化のスキルを覚えはしたが、それはあくまで父親と出かけるために覚えただけでしかなかった。
何度もともに人の街へと行ったにもかかわらず、父親が人との触れ合いを求める意味がわからなかった。
そんなヴェルデナーガだったが、今では人間も悪くないと思うようになっていた。
むしろ、同族と住んでいたあの頃よりも今の環境の方が心地よいと感じるようになっていることを自覚していた。
切っ掛けは最強だと思っていた父親を劣等種族であるはずの人族のリキが殴り飛ばしたことだった。ただ顔の向きを変えただけではあるが、普通の人間に出来ることではない。だからこそ普通ではないリキにヴェルデナーガは興味を持ち、近くでもっと見てみたいと思った。そのためなら人間の寿命が尽きるまでくらいは奴隷になってもかまわないと思うほどに強く惹かれていた。
そして、実際に奴隷となって仲間たちと切磋琢磨していくうちに人間にも尊敬できる相手がいることをヴェルデナーガは知ることが出来た。
その内の1人がアリアローゼだったために先ほどの言葉はヴェルデナーガの心に深く突き刺さっていた。
ヴェルデナーガがリキたちと過ごしたことで得たのはいいことばかりではなかった。
龍族は最強種族であり、その中で最強だと思っている父親の娘である自分は間違いなく強者であると信じていた心を見事にへし折られ、劣等感を植え付けられていた。
いくら努力をしても上に追いつくことが出来ず、自分より下だと思っていた者たちが戦闘以外の才能を開花させていく。
自分には戦闘しかないのに、それですら序列を決めたとしたら真ん中辺りにしかならない。
それでも努力を続ければセリナアイルやアオイに勝てるようになると無理やり信じ、弱気にならないために常に強者であるよう虚勢をはって、なんとか周りに置いていかれないようにとヴェルデナーガは食らいついていた。
それなのに、先ほどのアリアローゼの言葉を聞いた後から、ヴェルデナーガの中にあった熱が冷めつつあるようだった。
どうせ期待されていないのなら、頑張るだけ無駄なのではないかという考えがよぎることすらあった。
だが、べつにヴェルデナーガはアリアローゼを憎んだり恨んだりなどは一切していない。
むしろこんな子どもに気を使わせてしまっていたことを申し訳なく思ってすらいた。だからこそ、仲良い2人が抱き合っている姿を見て、あの完璧超人のアリアローゼにも心を許せる相手がいて良かったと心から思えていた。それなら自分の父親のようになる心配はないだろうと。
「ヴェルちゃんはアリアのことを怒ってにゃいんだね。」
ヴェルデナーガが微笑ましく2人を見ていたら、急にセリナアイルが声をかけてきた。
急だったこともあり、一瞬聞かれた意味を理解出来なかったヴェルデナーガであったが、少し考えたことで理解し、セリナアイルと目を合わせてから答えた。
「当たり前だよ。僕はアリアを認めているから、どんなに僕が認めたくなかった内容だとしても事実をいわれたことで怒るわけがないだろう。悲しくはあったが、それは僕の力が足りなかっただけで、種族的優位に胡座をかいていた僕の自業自得だから仕方がない。」
「…。」
「それに、この話し合いのおかげで、アリアがまだ子どもであることをあらためて知ることが出来た。そう、アリアはまだ子どもだというのに人一倍努力も我慢も出来ているのだから、たまに不満をぶつけるくらいは普通のことだろう。だから、なおさら怒る理由がない。もちろん悲しくはあったから、あの時は僕も取り乱してしまったが、僕は今でもアリアを尊敬しているし、僕なんかのために気に病まないでほしいと思っている。」
「ヴェルちゃん。それはよくにゃいよ。」
アリアに微笑みかけたヴェルデナーガに対して注意するようにセリナアイルが言葉を発した。だが、ヴェルデナーガは何を注意されたのかがよくわからなかったようで、首を傾げた。
「わかってにゃいってことは自然に出てきたのかにゃ?今さ、自分にゃんかっていったよね?それがただの謙遜にゃらいいけど、自分を卑下するのは良くにゃいよ。それにゃら今までみたいに傲慢にゃヴェルちゃんの方が私は好きだよ。」
ヴェルデナーガは自身の態度のせいでアリアローゼを不快にさせていたというのに、そのままの方がいいといわれても意味がわからなかった。これではどちらを選んでもどちらかに不快な思いをさせてしまうだけではないかと思い、返答できずにいた。
「伝わってにゃいみたいだね。簡単にいえば、ヴェルちゃんは今までのままでいいと私は思うよ。ヴェルちゃん自身は態度に実力が追いついていにゃいって思ってるのかもしれにゃいけどさ、それはリキ様のパーティーにいるから勘違いしてるだけだしね。ヴェルちゃんは間違いなく強いよ。これは慰めてるとかじゃにゃくてね。」
「僕より強いセリナに強いといわれてもね…。」
ヴェルデナーガが苦笑いをしながら答えると、セリナアイルも苦笑いで返した。
「う〜ん…ヴェルちゃんが納得いくいい方だと……ヴェルちゃんってさ、まだ幼龍にゃんだよね?」
「あぁ、そうだよ。20歳になる頃により硬い鱗に生え変わって初めて成龍と認められるね。それがどうしたんだい?」
「ん〜…本当はさ、傲慢にゃ態度ではあっても周りに触発されて慢心せずに努力し続けてるヴェルちゃんには伝えるつもりはにゃかったんだけど、その周りの影響が悪い方向に向き始めちゃってるから、やっぱりちゃんと教えておくべきにゃんだろうね。」
セリナアイルが話すことを躊躇うような態度を取っていることにヴェルデナーガは訝しんだ。
セリナアイルから話を振ったにも関わらず迷うような態度を取る意味がわからなかったからだ。
「だから、どういう意味なのかな?」
「冒険者のランクってさ、討伐対象の脅威度と合わせてるのは知ってるよね?」
「あぁ。べつに詳しくはないけど、魔物の脅威度と冒険者のランクが同じだと強さも同程度ってことだろう?」
「そうだね。討伐対象は魔物に限らにゃいんだけど、討伐対象がDランクだったら、Dランク冒険者と同じくらいの強さで、それを余裕をもって倒すためにDランクのパーティーで挑むって感じだね。もちろん実力で判断されて適正にゃランクの冒険者に限った話だけど。」
「強いのにFランクのままのリキ様や、弱いのにグループの貢献度で高ランクになれてるやつらが例外だってことは僕も知っているよ。それで、セリナはけっきよく何がいいたいのかな?」
「冒険者でのはぐれ幼龍の脅威度はBランクにゃんだよ。」
セリナアイルの言葉を聞いたヴェルデナーガが固まったことで、時間が止まったかのような静寂が訪れた。
アリアローゼの魔法により周りの音が聞こえないことで、心音や息遣い以外の音はなくなり、その音すらセリナアイル以外には聞こえていないだろうから、ヴェルデナーガにとっては本当に時間が止まって感じただろう。
「…え?」
しばらくの静寂の後、ヴェルデナーガが一言だけ漏らした。
それは意図あってのものではなく、ただただ漏れでた言葉でしかないが、時間が動き出すきっかけとしては十分だったようだ。
セリナアイルが虚をつかれたような顔をしているヴェルデナーガを見てわずかな苦笑を浮かべた。
「龍族は人間ではにゃく龍族だと思ってるヴェルちゃんは人間に興味がにゃいから調べようとすらしてにゃかったと思うけど、一般的にゃ幼龍はその程度の強さでしかにゃいし、成龍だって弱ければAランク程度しかにゃいんだよ。ヴェルちゃんのお父さんは邪龍に堕ちて力が増していたとはいえ、あれだけ人数を揃えたSランクのパーティーでも全く歯が立たにゃかったのだから、本来の力ですらSランク上位にゃんだろうね。そりゃあヴェルちゃんが最強だったっていいたくにゃる気持ちもわかるよ。だから、そんにゃお父さんと一緒にいたことで強さの基準がおかしくにゃってるのも理解はできる。その後はリキ様と一緒にいたから、基準が修正されにゃいのも仕方にゃいね。でも、今まではその基準の中で最強ににゃろうと頑張ってたから放置してたけど、今のヴェルちゃんにははっきりいわにゃきゃ伝わらにゃさそうだからはっきりいうね。」
セリナアイルがあえて言葉を止め、ヴェルデナーガの目を数秒見つめた後、口を開いた。
「ヴェルちゃんは強いよ。慢心はしちゃダメだけど、自信はもっていいよ。」
セリナアイルの言葉を聞いたヴェルデナーガは理解しつつも納得しきれないといった微妙な表情を浮かべた。
その表情を見たセリナアイルはニッコリと笑顔を向け、言葉を続けた。
「私に上からいわれても嬉しくにゃいだろうけど、今の私はヴェルちゃんのもともとの強さの基準の最強の上にいるんだから仕方にゃいよね?」
「なっ!?」
「だってさ、ヴェルちゃんの中での最強はお父さんにゃんでしょ?でもね、今の私だったらヴェルちゃんのお父さんに1人で勝てるよ。もちろんこの双剣ありきだけど、自惚れでもにゃんでもにゃく、時間さえかければ無傷で完勝できる自信があるよ。そんにゃ私に上からいわれるのは仕方にゃいよね。嫌にゃら私を超えるしかにゃいよ?それともさすがに最強だと思っていたお父さんより強い私には勝てにゃいって諦めるの?ヴェルちゃんの最強への憧れってそんにゃもん?」
「僕は…。」
「逆にいえばさ、今は私たちに負けてるのも仕方にゃいんじゃにゃいかにゃ?ヴェルちゃんが私たちの仲間ににゃったときには既に強さに差があったんだから、同じ速度で力を増したところで追いつけるわけにゃいじゃん。私たちはみんにゃ子どもで成長期にゃんだから、加速度的に成長するのが当たり前だし、一気に差を縮めようとする方が無謀だと思うし。だからといって諦めちゃうのはもったいにゃいと思うにゃ。もちろん手を抜いて私の今の立ち位置を譲る気はにゃいけど、ヴェルちゃんが努力し続けたら、今後どうにゃるかにゃんてわからにゃいしね。」
今のセリナアイルは『一条の光』の中でリキ以外には無敗の存在であり、見方によっては奴隷組最強とも取れる。
あくまで無敗というだけで、本気の戦闘でイーラに勝てるわけではない。それでも無条件の勝負であれば負けることもない。なぜなら、速度特化の本気のセリナに攻撃を当てられるのがいろいろなことを犠牲にして本気を出したアリアローゼ以外ではアオイくらいしかいないからだ。その2人に勝てる実力があり、唯一の脅威であるイーラにはたとえセリナアイルの攻撃が一切のダメージを与えられずに勝てなくとも、攻撃を当てられなければ負けることもない。ゆえに無敗。
それが『一条の光』の中で共有されている今のところの認識であった。
だが、このままヴェルデナーガが成長し、誰の攻撃でもダメージを受けないほどの強固な肉体を得れば、無敗はセリナアイルだけのものではなくなる。場合によっては速度特化のセリナアイルに速度で追いつけるようになる可能性のあるヴェルデナーガは最強にだってなれる存在だ。それを理解しているからこそ、セリナアイルは諦めようとしているヴェルデナーガに思うところがあった。
無敗の座を譲る気はないが、ヴェルデナーガが諦めてくれたおかげでその座に居座り続けることが出来るなどとは思いたくないし、思われたくない。それに切磋琢磨して成長し、リキの役に立てるグループでありたいという気持ちがあるせいもあるだろう。
セリナアイルが何を思って何をいおうとも、けっきょく決めるのは本人かその主のリキしかいないとわかっているセリナアイルは、とりあえずのいいたいことをいい終えたこともあり、それ以上は続けるのをやめた。
「にゃんかごめんね。ヴェルちゃんの話を聞くつもりだったのに私ばっかり話しちゃって。」
「…いや、セリナがそんな風に思っていたとは知らなかったから、話を聞けて良かったとは思ってる。ただ、予想外なことが多すぎて、理解しきれていないかもしれない。」
「私としてはヴェルちゃんが強いことをちゃんと自覚して、自身を卑下にゃんてせずにこれからも強さを求めてくれたら嬉しいにゃ。」
「…………そうだね。まだ鱗も生え変わっていないくせに自惚れていたよ。成長途中でしかないのに周りに追いつけないからって努力をやめようだなんて僕は馬鹿だな。目を覚まさせてくれてありがとう。やっぱりセリナは凄いよ。戦闘だけじゃなくて周りに気も配って、空気を読むだけじゃなく、ちゃんと相手を自分の言葉で納得させられる。本当に大きな壁だけど、部分的にでも越えられるように頑張ってみるよ。」
何かが吹っ切れたように爽やかな笑顔を向けたヴェルデナーガを見て安心したセリナアイルが優しく微笑んだ。
「私を見て越えようと頑張ってくれるにゃら、私は壁であり続けにゃきゃだね。」
「そうしてくれると嬉しいよ。いつかは本気のセリナに勝ちたいからね。」
「期待してるね。あと、ヴェルちゃんはもっと周りに目を向けてみるといいかもよ。今は周りに全く興味がにゃいわけじゃにゃさそうだし、周りの人のことを知って学ぶのはいい勉強ににゃるし。自分より弱い相手にだって学べることはあるからね。」
「そう…だね。今回だって周りをちゃんと見ていなかったから起きた諍いだから気をつけるべきだろう。それにせっかく広い世界に出たのに、自分から狭めてたらもったいないしね。…あぁ、ちょうどいい見本がいるんだ。セリナを見習わせてもらうとするよ。」
「ニャハッ。いくらでも見本にしてくれていいよ!」
不敵に笑ったヴェルデナーガに対して、ニコッと笑ったセリナアイルが答えた。
「本当にありがとう。」
優しげな笑顔へと変えたヴェルデナーガを見たセリナアイルが内心で安堵の息をついた。
いろいろといいたいことをいっていたように見えたセリナアイルであったが、本当は2人の表情を含めた流れる空気を意識しつつ言葉を選んで話していた。だからといって話し合いに正解などないし、あってもセリナアイルは知らない。そのためセリナアイルはそれなりに気を張り詰めていたのだが、ヴェルデナーガの笑顔を見てひとまずは穏便に収まったと判断して安堵した。
「私でよかったらこれからもいくらでも話くらいは聞くよ。それで、2人はもう大丈夫にゃの?いい足りないことがあるにゃらまだまだ付き合うよ?にゃんにゃら1人ずつ別で話すでもいいし。」
「僕は十分話せたと思っているから大丈夫だ。もしアリアから僕に何かあるなら、遠慮なくいってほしい。僕はまだいってもらえないと気づけないことも多いから、話し合って直していきたいからさ。」
「…わたしも今のところはとくにありません。むしろ、八つ当たりのようなことをしてしまって、ごめんなさい。」
「僕も周りがどう思うかも考えずに見栄なんてはってしまってごめんよ。」
「…いえ、わ……。」
「はーい、終了!2人は十分謝ったからもう大丈夫だよ。あとは気持ちを切り替えて、リキ様に報告に行くよ。」
2人が謝り合戦をしかねない空気を読んだセリナアイルが強制的に終わらせ、この後の行動予定を告げた。
「こんな時間にかい?さすがに寝てるんじゃないかな。」
「…もう遅い時間なので、明日にした方がいいと思います。起こすのは迷惑です。」
「大丈夫大丈夫。まぁ2人が納得いかにゃいにゃら、まずは起きてるかの確認ってことで部屋に戻るよ。」
「あぁ。」
「…はい。」
2人はリキが寝ているところを起こされるのを嫌っていることを知っているから納得は出来ていないが、話し合いが終わったのだから部屋に戻るしかないのも理解しているからひとまずは頷いた。
アリアローゼが防音の魔法を解き、なぜかやけに上機嫌になって部屋に戻ろうとしているセリナアイルを訝しみながら2人は後についていった。
先頭を歩いていたセリナアイルが勢いよく扉を開いて中へと入っていった。
勢いよく開かれた扉は音を立てはしなかったが、アリアローゼは真夜中にもかかわらず、そんな行動を取るセリナアイルが理解できずに不思議がっていた。
空気を読めるセリナアイルがリキの不興を買うようなことをしている意味がわからなかった。
「リキ様〜話し合い終わったよ〜。」
セリナアイルがリキのベッドに潜り込み、横になっているリキに絡みつくようにしながら報告をした。
それを見たアリアローゼが少し驚きつつ、わずかに不快な表情をした。
「…ん?あぁ、ありがとな。」
部屋の明かりは既に消されていて、リキはベッドに横になっていたから普通なら寝ているように見えるが、まだ寝ていなかったようで背中から抱きついているセリナに顔だけ向けて礼をいった。
セリナアイルはアリアローゼの防音の魔法が解けた瞬間に超人的な聴力を発揮して、リキの呼吸がまだ寝る前のものであることを確認していたために起きているとわかって取った行動であるが、他の者にはわかるわけもなく、アリアローゼは出入り口付近に立ったままなんともいえない顔を向けていた。
「ねぇねぇリキ様。リキ様はヴェルちゃんの性格をどう思う?」
「は?話し合いは解決したんじゃねぇのか?」
セリナアイルがリキの背中に抱きついたままの状態でした質問に対して、リキはわずかに不快感を滲ませた質問で返した。この不快感はまだ寝ていないとはいえ、寝ようとしてるのを邪魔されてることにたいするものだ。
「解決したよ。でもリキ様がどう思ってるかも知っておきたかったからさ。」
「べつに俺がどう思うとか関係ねぇだろっていいてぇけど、主だからそういうわけにもいかねぇのか。といっても、べつにどうとも思わねぇけどな。」
リキの返答を聞いたヴェルデナーガが少し悲しそうな表情を浮かべた。だが、そんなことは気にしないというかのようにセリナアイルが質問を重ねる。
「それってどういうこと?」
「あぁ?どうっていわれてもな。強いていえば、多少傲慢なところがあるとは思うが、それだってそれ相応の実力があるんだからべつに気にするほどのことでもねぇだろ。他は協調性が他のやつよりは低いかもしれねぇが、俺自身あんまねぇからなんもいえねぇし、その程度の欠点なんて補って余りあるくらいの努力をしてるみたいだから、いいんじゃねぇか?というか半分寝てる今聞かれても頭が働かねぇよ。聞きたいことがあんならそんな曖昧な聞き方じゃなくてはっきりいえよ。」
「聞きたいことは聞けたから大丈夫だよ。そういうことだよ、ヴェルちゃん。」
セリナアイルがヴェルデナーガに投げかけた言葉への返答はなかった。
それは、にやけそうな口元を右手で抑えていたためにヴェルデナーガが言葉を発せなかったからだ。
まさか認めてもらえてると思っていなかった相手に実力を認めてもらえてることが嬉しく、さらにそれが不意打ちだったためににやけそうになってしまった表情をなぜか咄嗟に隠すことに全力を注いでしまっていた。
「聞きたいことが聞けたならさっさと離れろよ。俺はもう眠いんだよ。」
「え〜、私は頑張ったんだよ?リキ様の無茶振りに応えてちゃんと話し合ってきたんだよ?ご褒美があってもいいと思うんだよね〜。ご褒美は添い寝がいいにゃ〜。このまま寝れば私の褒美ににゃるんだからそのままでよくにゃい?そうすれば引き剥がす労力も必要にゃいんだよ?リキ様は面倒にゃことをせずに済むようににゃって、私は褒美をもらえる。誰も損せずすむんだよ?もうこのまま寝ちゃおうよ。」
「いや、その意味わからん理論はなんだよ。…でもまぁセリナだから大丈夫だっていっても強制したのは確かだから、今日くらいいいか。もう考えんのも抵抗すんのもめんどいし。だが、後ろから抱きつかれんのはなんか落ち着かねぇから、こっちこい。」
「ニャハッ!喜んで!」
セリナアイルはリキの背中側から抱きついたまま前へと移動し、リキの腕の中に収まった。
月明かりのもとで行われていたその一連の流れを見ていたアリアローゼは呆気に取られていた。
自身が出来ないことをこうも簡単に成し遂げるセリナアイルを羨ましく思いながら、嫉妬の炎が芽生えかけた。
リキの胸元に顔を埋めて十数回の深呼吸を終えたセリナアイルが満足気な顔を上げ、もう寝る気満々で目を閉じているリキの顔を見た。
「アリアも頑張ってるんだよ。」
「ん?あぁ、知ってるよ。」
「にゃらよかった。じゃあ明日はアリアと添い寝だね。おやすみ〜。」
「…は?いや、まぁいいか。おやすみ。」
リキは目を開けて目の前のセリナアイルを睨みつけたが、もう寝たかったリキは深く考えずに了承し、再び目を閉じた。
こんなにあっさりと了承されたのはリキが考えるのを面倒くさがったからという理由が大きいが、その相手がアリアローゼだったからこそ、まぁいいかですまされたというだけだ。だが、そのことがわかっていないアリアローゼはただただ予想外であり、セリナアイルの交渉術に戦慄を覚えていた。
セリナアイルは自分の仕事を終えた時点でアリアローゼを放置したまま褒美を満喫することに全力を尽くし始めたため、アリアローゼはしばらく出入り口付近に立ったまま固まっていた。
しばらくして、先に立ち直ったヴェルデナーガがアリアローゼの背中を押してベッドへと促したことで、我に返ったアリアローゼがやっと自分のベッドへと移動し、眠りについた。
早く寝て、少しでも早く明日の夜がくることを願いながら。
セリナアイルに対して芽生えかけていた嫉妬の炎は完全に消えていた。
セリナアイルがアリアローゼの添い寝をリキに了承させたとき、イーラは目を覚ましていた。そして、いつも通り反射的に「イーラも!」といおうとしたはずなのに、なぜか横になったまま動かなかった自分を不思議に思っていた。
顔をリキの方に向け、しばらくリキの姿を見ていたが、けっきょく声をかけることなく、寝返りを打つように元の姿勢へと戻った。
自分が便乗することでリキが面倒くさがり、アリアローゼの添い寝自体がなくなるかもしれないと無意識に思って行動出来なかったことに気づかないまま、イーラは必要のない眠りへとついた。