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329話

裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚【コミカライズ】 — novelba.com · All chapters

329話

何かを感じて意識が浮き上がり始めたところで、その何かが誰かによる視線な気がして目を開けた。

目の前にはセリナの顔があり、長い睫毛に縁取られた大きな猫目が俺を見ていた。

「おはよ〜。」

なんでセリナが俺のベッドで寝てるのかと思ったら、そういや昨日一緒に寝るとかいう話になったんだったな。

「あぁ、おはよう。」

セリナから視線を窓の外へと向けて、明るさからだいたいの時間を確かめようとしたんだが、太陽がだいぶ低い位置にあるのが見えた。

「今日は昼からの予定なのに起きんの早くねぇか?」

「近づいてくる人がいるから目が覚めちゃった。」

近づいてくる?ここの宿の前は普通の道なんだから、そんなん気にしてたら寝れねぇだろ。

「もっと静かな場所にある宿の方が良かったか?」

「ん?あぁ、そういう意味じゃにゃいよ。この辺りにいるはずがにゃい人の気配のせいで起きちゃったってだけ。ちゃんと寝てるから大丈夫だよ。気にしてくれてありがとね。」

ニコッと笑ったセリナが顔を俯かせて、俺の胸に額をグリグリと押しつけてきた。

昔、妹が頭を撫でられたいときに取る行動に似ていたせいか、気づいたらセリナの頭を撫でていた。

この程度で満足そうに息を吐くセリナの滑らかな髪をなんとなく撫で続けながら、寝起きであまり働かない頭でセリナがいっていたことをなんとか理解した。

今の話を聞くに、セリナは寝ている時も常に警戒していて、その警戒範囲に異物が入ったから起きたってことか?

セリナは猫の獣人なのに犬みたいなことしてんだな。

「敵か?」

「どうにゃんだろ。敵意はにゃさそうだけど、先触れもにゃくいきにゃり本人が来るってのは何かあったのかも?」

「というか、誰が向かってきてるんだ?」

「レガリアちゃんだよ。」

「レガリア?」

「え?嘘でしょ!?」

俺の胸に顔面をピッタリくっつけていたセリナが急に顔を上げたせいで少し驚いた。

セリナの驚きようからして、俺が知ってて当たり前な相手っぽいな………あぁ、地下牢に閉じ込められてた侯爵令嬢がそんな名前だったか。

「まだ頭が働いてなくてな。もちろん覚えてるよ。侯爵令嬢だろ。父親から依頼の追加料金をもらうまではさすがに忘れねぇよ。」

「けっこうにゃ関わりを持ったと思うんだけど、リキ様の中ではその程度にゃんだね。まぁいいけど。それでどうするの?馬車が宿屋の前に止まったから、たぶんリキ様に用があるんだと思うよ。」

は?意味がわかんねぇ。命狙われてんだから、家で大人しくしてろよ。めんどくせぇな。

……とりあえず歯くらいは磨くか。

仕方ないからセリナを引き剥がしながら上体を起こした。

「アリ…いや、セリナでいいや。ちょっと歯を磨いてくるから、その間の相手をしといてくれねぇか?」

「私でいいやって酷くにゃい?」

「すまん、言葉の綾だ。セリナの方が歳も近いだろうし、互いに話しやすいかと思っただけだ。出来れば頼みたいが、面倒だったら廊下で待たせておけばいいよ。」

唇を尖らせて不満顔をしているセリナの頭を最後にくしゃくしゃにしてから洗面所に向かった。

「……わかったよ〜。相手して待ってるから、早く戻ってきてね。」

セリナの声には不満が滲んでいるっぽいが、なんだかんだと引き受けてくれたようだっから、遠慮なく任せることにした。

歯を磨いたついでに顔も洗ってから戻ってきたら、レガリアと執事っぽい男がテーブルについていた。反対側に座っているのはセリナだけみたいだ。

ん?なんか空気が重い?

もしかして面倒な話なのかと思いながら周りを見てみると、なぜかニアが心配そうな顔でアリアを見ていた。

アリアはベッドに座っていつものように本を読んでいるみたいだが、よく見るとアリアが少し不機嫌そうに見える。急にどうした?

俺がアリアじゃなくてセリナに任せたことで不機嫌になったのだとしたら、俺が洗面所に向かう前に不機嫌になっているはずだが、そのときは特に変わった様子はなかったと思う。つまりはレガリアたちが持ってきた話が原因なんだろうが…まぁまずは話を聞いてみなきゃわからんな。

「既に話は聞いてたりするか?」

俺がセリナの隣に座りながら確認したら、セリナが頷いた。

「簡単にいうとレガリアちゃんを今から3日くらい預かってほしいんだって。一応護衛依頼って感じかにゃ?」

「は?」

意味がわからなくてレガリアを見ただけなんだが、目が合ったレガリアは肩を跳ねさせて目を逸らしやがった。

ふと視線を感じて目を向けたら、執事と目が合った。

「急な訪問なうえに無理な依頼を頼んでしまい申し訳ありません。ですが、失礼を承知でお願いいたします。既に屋敷内に洗脳された者がいるため、屋敷内も安全とはいい難く、お嬢様の安全を考えるのであれば、リキ様の側にいさせていただくことが1番だと判断いたしました。報酬は前金として金貨10枚、達成報酬として追加で40枚で受けてはいただけないでしょうか。」

3日間でそれなら報酬は悪くないのかもしれないが、それだけ面倒ってことだよな。

「預かるってのはレガリアが俺らと一緒に行動するっていう意味か?」

「はい。」

「俺らはこの国にレベル上げや戦闘訓練のために寄っただけだから、この依頼を受けたとしても関係なくダンジョンに行くつもりだ。その分死ぬ危険がつきまとうから、依頼を失敗する可能性もある。その場合はどうなるんだ?罰金になったりするのか?」

「そ、それは…。」

当たり前の可能性の話をしているんだが、執事は言葉に詰まったようだ。

ようするにこいつは俺にレガリアの護衛のみに専念してほしかったのだろう。もしくは俺らが依頼を失敗するなんて思ってもいなかったか。

「嫌なら諦めろっていいたいところだが、レガリアの父親からの依頼は既に受けちまってるからな。このまま帰して死なれても寝覚めが悪いし、3日間だけなら依頼自体は受けてやってもかまわない。だが、条件を2つ付けさせてもらう。1つは俺らがダンジョンや魔物狩りに行くことに口出しはするな。もう1つは不意の攻撃で死なれたら困るから、身代わりの加護付きアクセサリーをこいつに使う。その代金は報酬と別で負担してもらう。1つにつき金貨1枚だが、一度も死ななければ払う必要はない。壊れた数だけ支払ってもらう。どうする?」

「その条件を飲むことは問題ないのですが、その場合はお嬢様が最悪の事態になる可能性はどの程度なのでしょうか。」

「そんなのわからん。これから行くダンジョンに詳しいわけじゃねぇからどうなるかわからんし。ただ、いくらレガリアに戦闘能力が皆無だとしても二度続けて死なせちまう可能性はそんなにねぇんじゃねぇか?ダンジョン内ではイーラに運ばせるつもりだし。」

「お、お願いします!」

執事が返事を迷うように黙っていたら、隣のレガリアが乗り出すように頼んできた。

さっきまでちょいちょい俺から目をそらしていたのに、いきなりどうした?…いや、勢いよく頼んではきたけど俺と目が合うと逸らしやがった。

「じゃあ契約成立だな。…ん?屋敷が危険だから3日間俺らと行動するってことは寝るのも俺らと一緒ってことか?」

「はい。お願いいたします。」

俺の確認に執事が深く頭を下げてきた。

俺以外が女とはいえ、お嬢様なのに歳の近い男がいる部屋で寝ることに抵抗はねぇのか?

「まぁそっちがいいなら俺はかまわっ!?」

一瞬ゾクッとして周りを見るが…勘違いか?

特に変わったところもなさそうだし、寒気も既にない。

隣のセリナがなぜか苦笑いをしていて、目の前のレガリアと執事は顔を青くしていた。

セリナが苦笑いをしている理由はわからんが、前の2人の反応からして、寒気がしたのは俺だけではなさそうだ。

他のやつらも感じたのかとあらためて周りを確認すると、何人かがなぜかアリアを見ていた。見られているアリアは気にせず本を読み続けているみたいだが、今の寒気はアリアのせいなのか?だとしたらなぜ?

不思議に思いながらアリアを見ていたら、セリナに腕を引かれたから、隣のセリナに視線を移した。

「ねぇ、リキ様。さすがに婚約者でもない貴族のレガリアちゃんにリキ様と同じ部屋で寝てもらうのは良くにゃいから、追加で一部屋取った方がいいんじゃにゃい?護衛は私が…あとサーシャがやるから、追加で3人部屋を借りるにゃんてどう?」

元王族のセリナが気にするってことはやっぱりよくはないんだな。

執事としては安全のためなら仕方ないって思いだったのかもしれんが、セリナとサーシャが護衛につくなら安全だろうし、別の部屋の方がいいだろう。

「そうだな。ってことで、もう一部屋借りることになったが、その金も報酬と別でもらえるんだよな?ちなみに安全については気にしなくて平気だ。超遠距離からこの辺一帯を吹っ飛ばされでもしない限りはどうとでもなるはずだ。」

「お気遣いありがとうございます。宿代に関しましては報酬と別で、2部屋ともにこちらが負担いたします。手続きも私がしておきますので、旦那様がお戻りになられるまでのお嬢様の護衛をよろしくお願いいたします。…それではこちらが報酬の前金になります。」

執事がまた頭を下げたあと、小さな巾着袋のようなものをテーブルに置いた。

その袋の中身をチラッと見て、金貨10枚入っているのを確認してからアイテムボックスにしまった。

「交渉成立だ。今日は昼からダンジョンに行くから、レガリアはそれまで好きにしててくれ。ただ、1人にはなるなよ。ここにいるやつらの誰かしらと常にいるようにしとけ。」

「ありがとうございます。」

レガリアの礼を聞きながらベッドのところにいるサーシャを見ると、視線に気づいたサーシャが不思議そうに見返してきた。

「サーシャも悪いがよろしくな。」

「ん?何かはわからぬが、承知した。」

「いや、承知してねぇじゃねぇか。こいつの夜の護衛だよ。」

「う、うむ。任せるがよい。」

サーシャは俺の命令は絶対だからと了承したんだろうが、内容くらいは聞き返すなりして確認してくれよ。いや、同じ部屋にいるからって聞いてるとは限らないんだから、俺からあらためてちゃんというべきだったか。…すまん。

「セリナもよろしくな。」

「は〜い。」

話も終わったからともうひと眠りしたいところだが、さすがにそこまでの時間はなさそうだし、早めの昼飯でも食うとするかな。