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330話

裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚【コミカライズ】 — novelba.com · All chapters

330話

早めの昼飯を食べたあとは特にやることもなかったし、アリアたちも準備を終えているようだったから、予定より少し早いがダンジョンに向かうことにした。

だからレガリアには持ってきた着替えの中で1番動きやすい服に着替えさせたんだが、1番動きやすい服と指定したにもかかわらずドレスに着替えてきたレガリアを見るにダンジョンに行くのは予想外だったようだな。

まぁドレスといってもシンプルなドレスだし、アリアのワンピースと大差ないだろう。そもそもレガリアはイーラに運ばれるだけだから服装とか関係ないか。

レガリアと一緒に来た執事は既に帰っている。

俺らが飯を食っている間に宿の手続きやらを終わらせてくれたようで、俺らが飯を食い終わる前にあらためて挨拶にきて、そのまま帰ったようだ。

最後にアリアが用意してくれた身代わりの加護付きの指輪をレガリアに装備させてから、ダンジョンへと向かった。

このダンジョンではミノタウルスが地下18階に出現するようだが、今まで出会ったことのある2ヶ所のダンジョンでは40階くらいだった気がする。だからここのミノタウルスは他より弱いのかもしれないなんて思いながら戦闘をしてみたが、そんなことはなさそうだ。

俺は基本の攻撃が打撃だから、ミノタウルスは殴り殺すのに少し力が必要なくらいには強く感じる。1対1なら今さら苦戦する相手ではないが、地下18階だからって今まで出会ったミノタウルスと強さは変わらなそうだ。つまりそれだけこのダンジョンの魔物が強いってことなんだろうな。

昨日はダンジョンの攻略速度的に階層にたいして魔物が強いんだろうくらいの感覚だったが、比較対象がいたおかげでわかりやすい。

ここは浅い階層から強い魔物が出るとは聞いていたが、こんなペースで魔物が強くなっていたら、最深層はどんな魔物がいるのかね。

「こ、怖くはないのですか?」

俺がミノタウルスの膝を蹴り砕き、バランスを崩して目の前に下りてきたミノタウルスの顔を殴って首の骨を捻り折ったところでレガリアが声をかけてきた。

体の慣らしもかねてしばらく1対1で戦うためにレガリア含めたアリアたちに距離を取らせていたから、話しかけるタイミングをはかっていたようだな。

レガリアには間違ってもミノタウルスの斧が届かないところまで退がらせたうえにセリナやニアを近くにいさせていたんだが、それでもミノタウルスが怖かったのか少し怯えていた。

「ミノタウルスは何度か戦ったことがあるから、今はもう怖くはねぇな。さすがに最初はビビったが。」

「こんな大きな魔物が怖くないくらいにリキさんは強いんですね…。」

パーティーどころかチームすら組んでいないレガリアは一切レベルが上がっていないから、既に3体目になるミノタウルスがいまだに化け物にしか見えないのかもな。

「俺がっていうか、このメンバーなら全員がミノタウルスくらいは倒せるぞ。」

「え?……え!?」

レガリアは正直なんだろうな。

アリアをチラッと確認して二度も驚いていた。

たしかにアリアは見た目からして戦えそうにないから、気持ちはわからなくない。

「アリアもミノタウルスくらいなら、物理攻撃だけで倒せるんじゃないか?」

「…ミノタウルスは耐性持ちではありますが、打撃耐性のみなので斧などを使ってもいいのであれば倒せるとは思います。」

「………………。」

アリアの返答を聞いたレガリアが若干引いた顔で言葉を詰まらせていた。

レガリアからしたら異常に見えるのかもしれないが、俺らは冒険者なんだからそんな反応をされてもな。

「まぁだから大人しくしていればそうそう危険はないだろうし、さっきアリアから渡されたその指輪だけちゃんと装備してイーラに運ばれとけ。イーラは引き続きよろしくな。」

「は〜い。」

「あ、あの、イーラさん、よろしくお願いいたします。」

「いいよ〜。リキ様の命令だからね〜。」

イーラがレガリアに答えながら、ヒョイっと軽々とお姫様抱っこをした。

見た目だけでいうならイーラの方がレガリアより小さいから違和感があるが、一切苦を感じていなさそうな表情の通り、イーラにとって人を抱っこしながら走るくらいはたいしたことではないはずだ。

レガリアは初めは手の置き場に迷っていたようだったが、今では迷いなくイーラの首に両腕を回している。

もう抱かれて移動するのに慣れ始めているみたいだし、イーラが多少無茶な動きをしても落ちることもないだろう。

「セリナ、次はどっちだ?」

「1番近いのはこっちだね。」

「そんじゃ、案内を頼む。」

「は〜い。」

セリナが走り出し、俺らも続いた。

交代しながら十数体のミノタウルスを倒したところで地下19階への階段を見つけたから、少し迷ったが下りることにした。

主な攻撃手段が打撃の俺とウサギとヴェル、あとは大盾を使うニアにとっては、打撃耐性があるうえにそれなりに力もあるミノタウルスはいい訓練相手になるんだが、他の奴らにとってはたいした訓練にもなってなさそうだったから、階段を見つけたなら早く先に進んだ方がいいだろう。俺らも既に十分練習出来たと思うし、ミノタウルスにこだわる必要もないからな。

地下19階に下りてすぐに、直線通路のだいぶ先に1体の魔物を見つけた。

あれは何度か見たことがあるし、たしか学校の授業で倒すときに名前も聞いたはずだ。

なんて名前だったかと考えていたら、魔物も俺らに気づいたようで、丸まって転がりながら近づいて来た。

思い出した。アーマーラットだったな。

アルマジロのような見た目をしていて、俺らを見つけるととりあえず転がってくる魔物だ。というか、何体か倒したことあるが、転がる以外の攻撃方法は見たことない気がする。

背中側の皮膚がけっこう硬いから普通の剣だと折れる可能性があるくらいだし、ほとんど身体強化をしていない今の俺だと高速回転しているこいつを殴って倒すのは難しそうだ。

「連携の練習をするぞ。ニア、まずは盾であいつの突進を止めてくれ。」

「はい!」

「あいつが止まったら、俺とヴェルでひっくり返すから、ヒトミとサーシャでトドメを刺せ。他は見学だ。」

「はい。」

俺の大まかな指示に対して全員が返事をしてそれぞれの判断で位置取りを始めた。

1番前まで出たニアが半身の姿勢で大盾の内側に肩を当てて構えた。

魔物とはけっこうな距離があったせいでアーマーラットの速度がかなり上がっているっぽいが、ニアはかまわず真正面から受け止めるつもりのようだ。まぁニアならたいした問題じゃないのかもな。

俺とヴェルがそのニアの後ろの左右に控え、さらに後ろにヒトミとサーシャがそれぞれの武器を用意して出番を待っている。

ヒトミは2本の剣を影から生やして両手に持ち、サーシャは血の短槍を複数宙に浮かせている。

アリアたちは俺らから距離をとった最後尾で見学だ。

「ヒィッ……。」

アーマーラットがあと少しでニアと接触するというところで、短い悲鳴が聞こえた。

その声はアーマーラットとニアの大盾の激突音ですぐにかき消えたが、聞き間違えではなくレガリアの悲鳴だろう。

たしかに対抗策のないやつからしたら、あのサイズの塊が勢いよく近づいてきたら怖いかもな。

レガリアの反応に1人で納得しながら、力技で回転を止められたアーマーラットに近づき、わずかに解けた丸まりを殴ってさらに開かせる。そこにヴェルが追撃し、アーマーラットの柔らかい内側の皮膚があらわになった。

柔らかいといっても外側の硬い部分よりはというだけで、たしかローウィンスの剣は通らない程度には硬かった気がする。だが、ヒトミの剣とサーシャの血の短槍はしっかりと皮膚を貫いてアーマーラットの腹に深く刺さっていた。

どう見ても重傷だと思うんだが、それでもアーマーラットはもう一度転がるために体を丸めようとした。だが、丸まりきる前に生き絶えたようで、中途半端な姿勢で地面へと倒れた。

練習のためにまだスキルとかでの身体強化は使っていないから、念のため連携を使ってこいつを倒したが、やっぱり力ずくで倒すより面倒だな。

というか、俺とヴェルの役割はいらなかったか?

デュセスたちとこいつを狩ったときは俺が盾で受け止めて、デュセスとスミノフが斬り殺して終わりだった気がする。セリナなら同じことができると思うが、セリナの場合はそもそも盾で受け止めなくてもそのまま切り殺せていた気がするから、練習にもならねぇか。

やっぱりヒトミとサーシャの練習を優先的にした方がいいだろう。せっかく2人の練習相手にちょうど良さそうな魔物なんだし。

「次は俺とヴェルは手を出さねぇから、ヒトミとサーシャは動きが止まったアーマーラットの硬い皮膚と皮膚の間を狙うように攻撃してみてくれ。それが上手く出来るようになったら、今度は俺とヴェルだけで強化せずに倒す練習をするから、よろしくな。」

「「「はい。」」」

「セリナは悪いけどこの階層では探索のみで頼む。」

「は〜い。次はこっちだね〜。」

セリナは次のアーマーラットの位置を把握しているようで、小走りで移動を始めたから、俺らも走ってついていった。

ニアが軽々とアーマーラットを受け止めるから、完全に動きを止められたアーマーラットはしばらく無防備になる。だから、もともとそれなりの戦闘力のあるヒトミとサーシャが硬い皮膚と皮膚の間を狙って切りつけられるようになるまでにたいして時間がかからなかった。しかも2人とも肉体がある敵ならば傷さえつけられれば殺せるらしいから、コツを掴んだ後は作業のように殺していた。

そのあとに俺とヴェルでアーマーラットを殴り殺す練習をしたんだが、こっちはコツを掴むまでけっこうな時間がかかった。

俺らは2人とも素の身体能力と常時発動しているスキルのみで練習していたからか、硬い皮膚にはダメージが通らなかったし、硬い皮膚と皮膚の間が狭すぎて拳を通すことも出来なかった。

だから外側に比べて柔らかい腹を狙わなきゃならないんだが、そうすると丸まりを強制的に解除させなきゃならず、手間が増えた。まぁその分ヴェルとの連携は上達したようだから悪くはなかったが。

ただ、ウサギよりヴェルの方が強いだろうから先にヴェルと連携の練習をしたんだが、思いのほか苦戦したな。これだとウサギとの連携練習はもっと時間がかかるかもしれん。

まぁ近接戦闘同士で連携を取るのは大事だし、時間がかかるとしてもウサギとの連携練習もするべきだろう。それが終わったら下の階層を目指すか。

「じゃあ次はヴェルとウサギが交代で……。」

「あの…。」

俺が次の指示を出していたら、レガリアが申し訳なさそうに声をかけてきた。

「どうした?」

「えっと…お手洗いはどちらにあるのでしょうか?」

こいつは何をいっているんだ?ダンジョンにあるわけねぇだろ。あぁいや、そういやダンジョンの出入り口に公衆トイレっぽいものがあったところもあった気がするな。ただ、ここのダンジョンは町から近いからか、出入り口にそんなものはなかったが。

「待っててやるからその辺で済ませてこい。放置しておけばダンジョンがそのうち吸収してくれるから問題ない。臭いが気になるなら燃やせばいい。念のため護衛にセリナかサーシャはつけるけど、それは我慢してくれ。」

「え…………。」

イーラに抱かれたままのレガリアが引きつった顔で固まった。

たしかに用をたすときに人が近くにいるのは嫌だろうが、死ぬよりはいいだろう。それが魔物に襲われて肉体的に死ぬにしても、我慢しきれず漏らして社会的に死ぬにしても。

「リキ様、さすがに貴族の子にそれはキツいと思うよ。私も奴隷ににゃったばかりの頃は人に見えるところでバケツにするのとか、かにゃり抵抗あったし。というか今でもしたくはにゃいけどね。」

見られてることだけでなく、トイレ以外ですることにも抵抗があるわけか。…まぁわからなくはないが、背に腹はかえられないと思うんだが。

「この階層を探索したのと同じくらいの時間を我慢できるなら、時間もそこそこいい時間だろうし、今日は下の階に下りたら帰ってもいいけど、レガリアのためにここでリスタートして帰って、明日また下の階層に行く階段を探すなんてことまでしてやる気はない。そんで、レガリアは我慢出来るのか?」

「えっと…たぶん大丈夫かと思いますので、宿泊施設のお手洗いを使わせていただきたいです。」

「漏らさないでよ!イーラはそんなの吸収したくないからね!」

「ぜ、善処します。」

「明日は途中で帰ったりしねぇから、ダンジョン入る前に済ませておけよ。それでも途中で我慢できなくなったら、諦めてダンジョンの窪みとかで済ませてもらうからな。」

「は、はい。申し訳ありません…。」

べつに責めたわけではないんだが、レガリアがあからさまに落ち込んだ。

「知らなかったんだろうから仕方ねぇよ。あと、一応いっておくが携帯トイレとかあったとして、それを使ってダンジョンに捨てるつもりなら、捨てる前に燃やした方がいいぞ。前に魔物の素材をトイレとして使ってたやつがいたんだが、それはダンジョンに吸収されてなかったからな。」

前にニータートの甲羅の中をトイレにしてたやつがいたが、あの甲羅はほぼ全く吸収されずに残っていたから、ダンジョンが吸収する速度が物によってだいぶ変わるんだろう。液体や灰なんかは気づけばすぐに吸収されているんだが、死体やらがしばらく残ってたりすることもあるから、硬いものや大きいものは吸収されづらいのかもしれん。まぁいずれは吸収されるだろうから、本人がいいならそのまま放置でいいとは思うが。

「は、はい。気を、つけます。」

やけに緊張しているような返事が返ってきた。もしかしてわりと限界が近いのか?

「セリナ、階段探しを優先的に頼む。」

「は〜い。こっちに階段があるようにゃ気がしにゃくもにゃい!」

さすがにまだ見つけていない階段の場所はセリナにもわからないようで、かなり曖昧なことをいいながら進み始めた。

それについていこうかと思ったら、やけに不機嫌そうなウサギが視界に入った。

「どうした?」

「べ、べつにリキ様との練習を邪魔されたのが嫌だったわけじゃないから!」

「お、おう。」

ただの練習をそこまで楽しみにされてたのは予想外すぎて、微妙な返答をしてしまった。

アリアたちが俺らを気にして立ち止まっていたが、先に行くように手振りで伝えたら、アリアたちは頷いてセリナを追いかけていった。

「い、いや、その、ごめんなさい…。リキ様との連携がやりたかったです。」

どうするかと考えているうちにあらためていい直されたが、さっきので伝わってんのに素直にいい直されると反応に困る。

「悪いな。今日は午後だけの短い時間なうえに出てきた魔物が練習に使えそうだったから戦闘訓練を優先的にやったが、明日は丸1日ダンジョンに入る予定だから、出来るだけ一気に深いところまで行く気なんだ。まぁでも、時間があったらどっかで連携の練習を取るようにするよ。」

「はい!」

こんなことで嬉しそうな顔をしているウサギへの返答に迷い、なんとなくクシャクシャっと雑に頭を撫でてから、既にけっこう離れた位置にいるセリナたちを2人で追いかけた。