332話
332話
ケルベロスという名前らしい3つ首の巨大犬を1人1体ずつ倒してみてるんだが、とりあえず今のところは全員倒すことはできている。
セリナは苦笑いしていた割にはあっさり倒していたし、イーラはセリナのような技術的な凄さはなくとも大鎌を振り回して一方的に殺していた。サーシャも血の槍を打ち続けて遠距離から一方的に殺していたな。
意外だったのはヒトミが予想以上に強くなっていたことだ。シャドウとやらに進化することに拘っていた理由が理解できるほどに強かった。
ヒトミは近づいてきたケルベロスに対して同じケルベロスの姿となって襲いかかった。ヒトミの急な巨大化に少し驚いた様子のケルベロスだったが、立ち止まることなく噛みついてきたために互いに噛みつきあう形となった。
ヒトミがあんなでかい魔物と同じ姿になったことには俺も驚いたが、あくまで同じ姿だったからか力は拮抗しているように見えた。それなのにしばらく互いに噛みつきあったあとに急にケルベロスが絶叫を上げ、血を吐きながら首を項垂れさせて静かになった。
その様子を確認して元の姿に戻ったヒトミは無傷で、機嫌良く俺のところに戻ってきた姿からして余裕だったんだろう。
前みたいにモーニングスターだけだと倒しきれなさそうな相手すら苦もなく倒せるようになっているようだ。なによりもどうやって倒したのかわからない方法で一方的に殺せるようになっているのだから、かなり強い種族なんだろう。ヒトミみたいな魔族が普通にいるなら、魔族が恐れられるのも納得だな。
というかあんな戦い方が出来るのなら、わざわざ大量に剣を買う必要があったのかは疑問だな。まぁ自腹で買い揃えたみたいだからいいんだけどさ。
逆に意外だったのはヴェルが苦戦していたことだ。
ヴェルは相手の攻撃を受けないように避けることを意識しながら戦っているようだったからか反撃回数が少なく、倒しきるのに少し時間がかかっていた。ただ、たまに避けきれずに攻撃を受けていたにもかかわらず無傷だったから、防御無視で力づくで倒そうと思えばもっと楽に倒せてたんだろうけど。
ニアはよくいえば堅実って感じだった。大盾で攻撃を受け止めて、衝撃爆発のハンマーで反撃するのを繰り返し、ヴェルより早く倒していた。
ウサギは相手の攻撃は苦もなく躱せていたんだが、決定打となる攻撃を持っていないからかなり時間がかかっていた。相手の攻撃を躱しながら、ひたすら同じ部位を蹴り続けてなんとか倒していた。
本人は悔しそうにしてはいたが、武器もなしに倒せてんだから十分だろ。時間がかかっているから一般的基準としてはAランクになっちまうんだろうが、戦ってる姿を見た限りデュセスにも勝てそうだし、今回が相性悪かっただけでAランク上位の実力なんじゃないか?
よくよく考えたらステータスがないってことはスキルもないだろうに、よく倒せるな。
実は才能の塊なんじゃねぇか?
今のところ全員がケルベロスを倒せている。あとはアリアとテンコだけか。
「アリアはどうする?」
「…………やります。」
アリアは直接的な戦闘はあまりしないからどうしようかと思って本人に聞いてみたんだが、少し考える仕草を取ってからコクリと頷いた。
「次のケルベロスが向かって来てるから、準備があるにゃらもう始めた方がいいよ〜。」
セリナに声をかけられたアリアが1人で俺らより前へと歩いていき、アイテムボックスからアリアよりも重そうな斧を取り出した。
柄の短い両刃の斧だが、片側の刃の部分だけで俺の肩幅くらいありそうだ。その刃の側面にはビッシリと模様のような溝があるのが見えた。
アリアはその斧の柄を両手で持って低い位置に構え、体を捻りながら自身の右斜め後ろまで引いた。
その姿勢のままボソボソとアリアが呟き始めた頃に通路の先からケルベロスが1体現れた。
最初はアリアは魔法で倒すんだろうと思っていたが、斧を取り出したから物理で戦うことにしたのかと思ったら、アリアは呟くだけで動く気配がない。
斧はいざという時のために用意しただけで、やっぱり魔法で倒すのか?
よく見るとアリアの体の周りに何かが纏わりついているなと気づいたとき、アリアがバットでも振るかのように斧を下から振り上げ、そのまま手放した。
クルクルと回る斧が高速で、まだ少し距離のあるケルベロスのとこまで飛んでいき、ケルベロスの両前脚の間を通って胸のあたりを抉るように食い込んだ。そして、すぐに背中から飛び出した斧が天井に弾かれ、壁や床やらに何度も当たって轟音を響かせながら奥へと吹っ飛んでいった。
もし通路の先に他の冒険者がいたら悲惨なことになってそうだな。
…いや、どんな馬鹿力で投げつけたんだよ。
ケルベロス自体は胸から背中に穴が空いていることに気づいていないのか、変わらず向かってきていたんだが、急に目と鼻と口から煙を吐いて、アリアの目の前で頭を垂れるかのように伏せの姿勢で微動だにしなくなった。
「凄えな。」
予想とあまりに違ったせいで、端的な感想が口から漏れた。
「…あれはリキ様へお贈りしたアクセサリーのブーツに刻む魔法陣を決める前に練習として作ったものです。ただ、衝撃とともに刻んだ魔法が暴発して持ち手にもダメージを与える上に武器の耐久値を大幅に下げるようなので、使い捨ての投擲武器としてしか使えない失敗作です。」
いつのまにか戻ってきていたアリアが説明してくれたんだが、その失敗作の効果が判明してるってことは誰かが試したのか?
しかも今持ってたってことは使い手もダメージを受ける可能性があるとかいう危険なものを投擲武器用に複数作ったのか?
「……同じのをまだ持ってるのか?」
俺の質問に対してアリアが首を傾げた。
「…持っていませんが、作っておきますか?魔法陣の関係であの大きさの武器になってしまいますが、それでもよければソフィアさんに頼んでおきます。」
「いや、大丈夫だ。俺はあんまり武器は使わないしな。」
色々気にはなったが今聞くことではないかとてきとうに話を流した。まぁアリアも補助だけでなく、かなりの戦力になるとわかっただけで十分だ。
ウサギとヴェルが少し悔しそうな表情をしているが、あんな危険な武器は使える場所と相手が限られるから、単純な比較は出来ないだろ。だから2人は悔しがる必要はないと思うけど、補助特化のアリアにこんなの見せられたら思うところがあるってのもわからなくはないからそっとしておくか。
「テンコもやるか?」
「テンコ、べつにいい。やった方が、いい?」
「いや、無理してやる必要はないから大丈夫だ。」
「はい。」
体内にいるテンコに確認を取ったら断られたが、まぁ無理してやらせる必要はないだろう。今後強い敵と戦うときは俺の戦力アップのためにテンコには俺の中にいてもらうしな。
「じゃあ、思ったより時間使っちまったが、ひとまず訓練は終了だ。この階まではAランク冒険者がくるかもしれないらしいから、とっとと下の階に下りて、そのあとはレベル上げメインで走ってマップ埋めながら魔物狩りをしていくぞ。全体のステータスアップ系の魔法を使うかどうかはアリアの判断に任せる。セリナは先頭で索敵を頼む。」
「はい。」
レガリア以外全員が返事をし、セリナが走り出し、俺らも続いた。
しばらく走ったところでさっきアリアが投げた斧だと思われる金属の残骸が散らばっていたが、アリアが気にしてなさそうだからスルーした。まぁそのうちダンジョンが吸収してくれるだろう。
その後もけっこうな速度で走っているが、セリナが索敵してくれているから、敵からの不意打ちなどは一度もない。
やっぱりセリナがいるとこの速度で探索できるから楽だよな。