335話
335話
レガリアはローウィンスのおかげで落ち着いたようで、今日は普通に朝食を食べている。
これなら問題なくダンジョンでレベル上げが出来そうだ。
まぁレガリアが立ち直ってなくても予定を変更するつもりはなかったけど。
「…リキ様、カリンさんが来たようです。」
そろそろ朝食も終わりに近づき、飯より話に比重が傾き始めたところで、アリアがよくわからないことをいってきた。
「カレンがここに?なんで?いや、そもそもどうやって来たんだ?」
イーラはここにいるし、俺が『超級魔法:扉』を使ったのはローウィンスを呼び出した時と帰したときだけだから、カレンは通っていないはずだ。
「…カレンさんではなくカリンさん…カリントナ・クリセルファさんです。この町ではなくカンノ村に来ているとサラから連絡がありました。リキ様に会いに来たようです。」
カリントナ?…あぁ、あのフレンドリーコミュ障か。
「あいつのいた国ってかなり遠いんじゃなかったか?前回会ってからたいして時間も経ってないのにわざわざ何しに来たんだ?」
「…リキ様に会いに来たとしか聞いていないそうです。門番がリキ様が出かけていることを説明したらどこかに行ってしまったそうですが、探して理由を確認させますか?」
「いや、あいつのことだからたいした理由もないだろうし、そこまでして聞かなくていい。レガリアの護衛が終わった後に横山に話をしに1回戻るから、急ぎじゃないならそれまで待ってろって次に来たときに伝えといてくれ。たいした用があるわけじゃなくて立ち寄っただけとかだったら、無理に待たせないで好きにさせればいいから。」
「…はい。サラにはそう伝えておきます。」
アリアとの話を終えて前に向き直ったら、テーブルを挟んで正面に座っているレガリアが俺らを見ていた。
「もう帰ってしまうのですか?」
「一度帰るだけだ。まだたいしてレベル上げとか出来てねぇから、また戻ってくると思うが、何かあるのか?」
「いえ、カンノ村はアラフミナ王都ラフィリアに近い村だとお聞きしていたので、簡単に行き来出来る距離ではないため、一度戻るというのは帰られるという意味かと思い、突然のことで少し寂しくなってしまっただけです。ですが、リキさんのお話を聞く限り、私が無知なだけでそこまで離れてはいないのでしょうか?」
寂しくなったって、レガリアとはたいした関係は築けていないと思うんだが…もしかしてレガリアが泊まった部屋では親睦を深めていたのか?まぁセリナなら空気が読めて気を使えるタイプだし、仲良くなっていてもおかしくはないか。
「ここからカンノ村まではけっこう遠かったと思うぞ。まぁ俺の仲間には龍族がいるからな。」
その龍族であるヴェルには一度も乗ったことがない気がするけど。
まぁでも、嘘をつかずに聞き手が勝手に勘違いしてくれるから便利な言い訳だ。
「そうなのですか!?もしかして最初にお会いしたときに森の中にいらしたのは龍族での移動を隠すためですか?そのおかげで私はリキさんと出会えて、私とメアリーが助かったのですね。…でしたら龍族の方は今もあの森の中に1人でいるのでしょうか?あっ、もしかして昨夜ローウィンス様をお送りしたことで、今はカンノ村に戻っているのでしょうか?」
「何いってんだ?たしかに無駄に騒がれないように乗り降りは森とかでやるようにしているが、龍族はずっと一緒にいるじゃねぇか。」
俺が答えると、レガリアは本当にわかっていないようで首を傾げた。
「ヴェルちゃんが龍族だよ〜。人族化が完璧すぎていわれにゃきゃわからにゃいよね〜。」
レガリアの隣に座っているセリナが教えてやったんだが、レガリアは一瞬理解出来なかったようだ。そして、少し間をあけてから驚きながらヴェルを見た。
そういやレガリアには自己紹介とかしてなかった気がするし、ぱっと見じゃヴェルが龍族だなんてわからねぇか。
「まぁそういうことだ。もう全員食い終わってるみたいだから、とっととダンジョンに行くぞ。」
これ以上余計なことを聞かれる前に俺が席を立つと、アリアたちも続いて席を立ったため、レガリアも何かいいたそうな顔をしながらも席を立った。
既に準備は済ましているから、俺らは会計だけ済ませて宿屋を出た。そしてそのままダンジョンへと向かって少し歩いたところで、セリナにズボンをクイっと引かれた。
「どうした?」
「気をつけた方がいいかも。近くに勇者がいるっぽい。」
…昨日話題に上がったと思ったらさっそく登場か?
べつに俺は会いたくないから、どっか行ってくんねぇかな。
「どの辺にいるんだ?」
「ごめんにゃさい。そこ。」
勇者に会わないように回り道してダンジョンに行こうと思ってセリナに勇者の位置の確認を取ったら、セリナはなぜか謝りながら指をさした。
どういう意味かとセリナが指をさした方に目を向けたら、少し離れたところに見覚えのある顔がいた。というか、この国の勇者たちだ。
向こうは俺らに気づいているようで、真っ直ぐ向かってきてるっぽい。つまりセリナが気づくよりも早く俺らに気づいていたってことか?
「セリナがこんな距離まで気づかないなんて珍しいな。」
「ごめんにゃさい。宿屋を出るまでにゃぜか全くわからにゃかった。宿屋を出た後も近づかれるまでこれが勇者様たちの気配だって気づけにゃかった。いや、目視するまで確証出来にゃかったってのが正しいね。何かのスキルか加護を使ってるのかも。」
気配を隠して近づいて来るとか、戦う気満々なのか?町の中で?スラム街ならまだしも、ここは市場の近くだから、ここで戦闘なんかしたらかなりの一般人が巻き込まれると思うんだが…もしかしてこの国の勇者もバカなのか?
いや、正義の味方のはずの勇者がそんなことをするなんてさすがにあり得ないだろう。だが、念のため腰につけていたガントレットを装備した。
「セリナが謝ることじゃないし、気にすんな。むしろスキルかなんかで気配を消してる相手に気づけるだけ凄えよ。俺なんて顔もうろ覚えだったから、いわれなきゃ目視出来ても気づけたか怪しいしな。」
「…。」
さすがに励ましがてきとうすぎたからか、セリナがなんともいえない顔をした。
あらためて近づいてくる勇者たちを見ると、あの夜にいた1人だけ毛色の違った黒ずくめのやつがいないみたいだ。代わりなのかこの前いなかった女が2人ほど増えている。かるく周りを見回してみても黒ずくめは見当たらないから、実はあいつは勇者パーティーのメンバーではなかったのかもな。
そんなことを考えながら立ち止まって勇者たちを見ていたら、少し離れたところで勇者たちが止まった。
「やれやれ、レガリアは少し目を離すとすぐに変な男に絡まれるね。でももう大丈夫。さぁ、こっちにおいで。」
勇者がいきなり訳のわからないことをいい始めた。
さすがに俺にいってるわけではないだろうからと勇者の視線の先を追ったら、どうやらレガリアにいっているようだった。
この国での勇者の立場がよくわからんが、侯爵令嬢相手にずいぶん子ども扱いした接し方をするんだな。まぁたしかにレガリアはまだ子どもだが、勇者もそこまで歳が変わらないだろうに…まぁ俺にとってはどうでもいいか。
「お気遣いありがとうございます。ですが、リキさんはアルバート家から依頼して護衛をしていただいていますので、心配ありません。私たちは急ぎの用がありますので、お会いしてすぐに申し訳ありませんが失礼いたします。勇者様は引き続き町の散策をお楽しみください。」
レガリアがニコリとあからさまな作り笑いを勇者に向けた。それに対して、勇者が爽やかに微笑んだ。
「急ぎの用とはなにかな?手伝えることなら手伝うよ。俺が手伝えば大抵のことはすぐに終わるだろうから、遠慮せずに頼ってくれていいんだよ。」
「ありがとうございます。ですが、勇者様のお手を煩わせるようなことではありませんので、お気になさらないでください。」
レガリアがいうだけいってすぐに歩き始めようとしたら、勇者が指をパチンと鳴らした。
指を鳴らした意味はわからなかったが、けっこういい音がしたせいで、レガリアは立ち止まって勇者に目を向けちまったみたいだ。
「それならなおさら俺が手伝って早く終わらせた方がいい。そうすれば一緒に町の散策も出来るしね。俺とレガリアの仲なんだから遠慮なんてしなくていいんだよ。」
「いえ、既にリキさんに依頼を出していますので…。」
「やれやれ、レガリアは騙されていることに気づいていないようだね。」
レガリアが拒否ろうとしたセリフに勇者が被せてきやがった。
なんだろう。俺が話しているわけじゃねぇのになんかイラッとくるなこいつ。
カリンも話が通じない系だったが、ここまでイラッとはしなかった気がするし、もしかしたらこいつはカリンの上位互換かもしれん。悪い意味で。
「……私が騙されているとはどういう意味でしょうか?」
「そのままの意味だよ。そんな見るからに悪党面したやつについていくなんて正気じゃない。騙されているんじゃないなら脅されているんだろう?たしかにレガリアのように可憐な女の子だとそいつみたいなやつが恐いのは仕方がない。でももう大丈夫だ。そいつ程度は俺の敵じゃないからね。だからこっちにおいで、俺が救ってあげるから。」
勇者の爽やかスマイルにウインクが追加された。
今の攻撃はなかなかだったな。初めてゴブリンキングに会った時と勝るとも劣らないほどに背中がゾワっときたからな。怖気の種類が違うが。
さすがにどうすればいいかわからなくなったのか、レガリアが助けを求めるような顔を俺に向けてきやがった。
勇者が助けてくれるっていってんだから、勇者に助けを求めりゃ万事解決だろうに、俺の方を見るってことはレガリア的にもあの勇者は受け付けられないのか。
護衛の依頼を受けてなけりゃレガリアを放置してダンジョンに向かうのが1番楽なんだが、さすがにそれは護衛としてアウトだろう。
仕方ないから次善策を取るか。
「人を顔で判断するとか今回の勇者はなかなかにクソ野郎だな。」
「キサマ、今なんていった?」
あえて見せつけるようにレガリアの肩を抱きながら勇者を挑発したら、簡単に乗ってきた。俺より沸点低いんじゃねぇか?
「さっきから人の話を聞かないやつだと思ってたら、ただ単に耳が悪いだけか。まぁ悪いのは耳だけじゃなさそうだけどな。」
「キサマ、死にたいらしいな。」
「先に人を侮辱したのはお前なんだが、もしかして死にたいって意思表示だったのか?気づけなくて悪いな。」
鼻で笑いながら謝ったら、勇者が剣の柄に手を置いた。
やっぱりこいつは町の中とか関係なしに戦闘を始めようとする馬鹿だったみたいだな。まぁ俺が挑発しているせいだろうけど。
「殺す。」
「おいおい、こんな人が沢山いるところで戦闘を始めるつもりか?正義の味方の勇者様がそんな馬鹿なことをするのか?」
「…………場所を移すぞ。東門から出たところで待っている。遺書を書くくらいは待ってやるが、逃げるなよ。」
「お前程度の相手から逃げる必要性を感じないんだが。いや、もしかして今のは笑うところだったか?」
「…。」
勇者は最後は返事をせずに仲間を連れて東門へと向かっていった。
勇者が短気で良かった。思った以上に早く終わったわ。
「やっと勇者がどっかに行ってくれたし、やつらがまた難癖つけてくる前にダンジョンに行くぞ。」
「え?東門に行くのではないのですか?」
俺が北門に向けて歩き出すと、レガリアが驚いたように聞いてきたから、足を止めてレガリアに向き直った。
「なんで俺が勇者に合わせなきゃいけねぇんだよ。もしあのまま剣を抜いたら戦うしかねぇから殺したかもしれねぇけど、わざわざこれ以上あいつに無駄な時間を使う気はねぇよ。どうしても戦いたきゃまた来るだろ。」
レガリアが驚きながら周りを見回したから、俺もなんとなく周りを見てみたが、驚いているのは通行人とレガリアだけだ。
アリアたちは何人かが不快そうな顔をしているが、それは俺に対してではなく勇者に対してっぽいし、1人だけ苦笑しているセリナはアリアの頭を撫でてるから、俺に対してってよりも勇者に不快感をあらわにしているアリアに対するものだろう。
「…。」
レガリアはその周りの反応を見て気にしても無駄と悟ったのか黙ったから、北門に向けてあらためて歩き出すと、レガリアが小走りで近づいてきて俺の隣に並んだ。
まだ何かあるのかと目を向けたが、レガリアは俺と目を合わせて何かをいおうとして、躊躇うように俯き、また何かをいおうとして目を合わせては俯きと繰り返し始めた。
今度は歩きながらだから、時間を無駄にしてるわけでもねぇし別にいいかとスルーしていたんだが、さすがに何度も繰り返されると鬱陶しいな。
「どうした?」
「あ、あの…も、もし勇者様と戦闘することになったとしても………………い、命は奪わないでいただけないでしょうか?」
レガリアが真剣な顔で俺を見つめてきた。
もともと勇者は殺すと面倒そうだったから極力殺さないつもりではあったが、あっちがあれだけ殺す気満々だと生かした方が面倒なことになりそうだし、レガリアの頼みについては迷うところだ。そもそも勇者の本気がこの前と比較にならないほど強かったら、殺さないようにとか考える余裕があるかもわからんしな。
だからといって、ここまで真剣な目で頼まれたら、理由も聞かずに断るのもさすがにな。
「なぜだ?」
「……あの様な方でも、この国には必要なのです。制御しきれていない私たちが悪いのは承知しています。それでもどうか…お願いいたします。」
レガリアが立ち止まって深く頭を下げてきた。
俺が少し歩いてから立ち止まって振り返っても、レガリアはまだ頭を下げている。
…。
「……わかったよ。もし向こうから仕掛けてきても殺しはしない。だから代わりに俺が勇者をぶちのめしても罪にならないようにレガリアがどうにかしてくれな。」
「……………………はい。」
もし勇者を殴って罪になってもアラフミナに帰ればなんとかなりそうだが、頭をあげたレガリアが神妙な顔で返事をしたから、任せても良さそうだな。
あとは勇者の実力が殺さずに対応できる程度であることを願うだけだ。たぶんさっき見た感じでは大丈夫だろうけど。
まぁ勇者が諦めてくれれば1番なんだが。
「アリアも俺が殺しそうになったら勇者のフォローをよろしくな。」
「…はい。」
朝からいろいろ面倒くさいことになったが、やっとダンジョンに行けそうだ。