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338話

裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚【コミカライズ】 — novelba.com · All chapters

338話

昨日は勇者からわけのわからない面倒な絡み方をされたが、思ったほどこの国の勇者が強くなかったおかげで、レガリアとの約束は破らずに終わらせることが出来た。

レガリアは俺らと一緒に勇者に殺されかかったというのに、帰りに勇者の回収を北門の騎士たちに頼んでいた。子どもなのに真面目というか、気を使いすぎというか…まぁ高位な貴族だから子どもでも責任感的なのがあるのかもな。

そんなことを思い出しながら宿の食堂で朝飯を食べていたら、レガリアがチラチラと俺を見ていることに気づいた。

「なんだ?」

「あ、…あの……昨日は申し訳ありませんでした。」

突然謝られたが、何について謝っているのかがわからん。

「なんか謝るようなことがあったか?」

「昨日は私のためにしてくださったにもかかわらず、怖がってリキさんを不快にさせてしまい、本当に申し訳ありません。」

「何をいってるんだ?」

たぶん昨日の勇者との戦闘を見てドン引きしてたことについてなんだと思うが、あれについてはもう昨日の時点で謝罪された気がするんだが。そもそもレガリアの反応は普通の人としては間違ってないだろうから、謝る必要すらないだろう。

「ローウィンス様がおっしゃった通り、リキさんは誤魔化されるのですね。リキさんは私に気を使わせないようにしてくださっているのかもしれませんが、そのため愚かな私では気づけませんでした。ローウィンス様に教えていただかなければ、ずっと気づけなかったでしょう…本当に恥ずかしいです。」

こいつは昨日もローウィンスと連絡を取ったのか?というか、もうローウィンスに思考を侵食されてやがるのか?

「マジで意味がわかんねぇよ。レガリアがローウィンスと仲良くなるのはかまわねぇし、あいつは頭がいいから色々と教えてもらうのもいいとは思うが、俺に関してのあいつの話は9割くらいは聞き流した方がいいぞ。…ちなみにローウィンスはなんていってたんだ?」

「リキさんが執拗に勇者様を痛めつけたのは復讐を考えさせないためであり、私との約束を強調することにより、リキさんと一緒にいた私に憎悪ではなく感謝を抱かせるために必要な行為だから、そのことに嫌悪感を抱くのは考えが足りないといわれてしまいました。リキさんは自ら悪役となってくださったのだから、感謝こそすれ、あのような態度を取るのは貴族として以前に人として恥ずべきことだったと反省しています。」

しゅんと落ち込んだレガリアをなんともいえずに眺めた。

いや、ローウィンスの人の印象を改変する能力は凄えな。

たしかに俺がいなくなってから俺のせいでまたレガリアに面倒がかかっても悪いと思って、レガリアに感謝するようにと強調はしたが、それ以上に何かを考えてはいなかった。なのにレガリアの話を聞くと俺がレガリアのことを思って行動したみたいだな。俺はただ単にムカついたからやり返しただけなのに不思議だ…。

「良い方に考えすぎだ。俺がそんなことまで考えて行動してるわけがねぇだろ。ローウィンスは俺の話を盛るから、あいつとは俺の話はしねぇ方がいいぞ。とりあえず昨日の件はもう終わったことだから気にすんな。既に昨日謝罪を受けてるし、そもそもレガリアの反応は間違っちゃいねぇからさ。」

「……やっぱりローウィンス様がおっしゃったことは本当なのですね。」

「は?」

おかしい。レガリアはわりと常識人だったから今まで普通に会話が出来ていたはずなのに、今日は会話が噛み合わない。

「いえ、ローウィンス様が予想されていた返答とほぼ同じでしたので、昨晩のローウィンス様のお話は本当のことだったのだとあらためて納得しました。」

「…。」

これは喋れば喋るほどローウィンスの思い通りになりそうな気がしたから、これ以上続けるのはやめた。

べつにレガリアがローウィンスに洗脳されたところで、護衛が終われば滅多に会わないだろうし、気にするようなことでもねぇしな。

「ローウィンス様に教えていただくまで気づけなかったことはお恥ずかしいかぎりですが、お礼をいわせてください。ありがとうございます。」

「あぁ。」

真剣な表情で心のこもった礼をいわれたせいで、否定しづらくなったから、諦めててきとうな返事をした。

ローウィンスに先手を打たれた時点で生半可な否定じゃ意味がないだろうし、だからといって本腰入れて訂正するのも面倒だしな。

まぁレガリアが納得出来てんなら好きに思わせておけばいいだろう。

レガリアとのよくわからない話も終わり、しばらくは雑談を交わしながら朝食を楽しんでいたら、朝食も残り少しとなったところで、この前レガリアと一緒にここに来た執事っぽいやつが現れた。わざわざ顔を出したってことはレガリアを引き取りに来たとかか?

「お嬢様、リキ様、皆様方、おはようございます。早朝に申し訳ありませんが、少々お時間よろしいでしょうか。」

「えぇ、おはよう。」

あらたまった態度を取られたせいで何か面倒ごとでもあったのかと少し警戒したが、レガリアが普通に返事をして、アリアたちも軽く会釈を返していたから、これがこいつのいつも通りの態度なのかもな。

「あぁ、おはよう。少しならかまわねぇけど、ここでいいのか?部屋の方がいいなら飯を食い終わるまで待っててくれ。」

「お食事をしたまま聞いていただけたらと思います。旦那様が昨夜遅くに国境を越えたという連絡がありましたので、お嬢様の護衛は夕方以降に屋敷までお送りいただき次第完了ということでお願いいたします。」

そういやもうレガリアの護衛を始めてからそんなに経つのか。むしろ初日もカウントしたら今日で4日目だから予定より長いくらいだな。

ほとんどダンジョンに潜ってただけだったからか、あっという間だったな。

レガリアはダンジョン内では足手まといではあったが、この世界では珍しくまともなやつだったからか、一緒にいるのも苦ではなかったし。

「夕方以降ならいつでもいいのか?」

「はい。夜でも明日でも、お嬢様を無事にお連れいただけるのでしたら問題ありません。リキ様の予定もあるかと思いますので、お任せいたします。」

最初は俺らがレガリアをダンジョンに連れて行くことを渋っていた気がするのに今回は完全にお任せなんだな。

現時点でレガリアが無事な姿を見て、俺らのことを信用してくれたってことかね。

「ダンジョン探索が終わったら連れていくから、多少は遅くなるかもしれないが、一応夕方を目安にはしておく。」

「ありがとうございます。よろしければ、本日の夕食に招待させていただけないでしょうか。もちろんお連れの方々もご一緒に。」

恭しく頭を下げた執事が頭を上げてから、俺やアリアたちに視線を向けて確認してきた。

正直マナーとかわからねぇから俺は行きたくねぇんだが、最近料理のレシピを集めてるらしいアリアは興味があったりするのかね。

行きたいかの確認の意味を含めた視線をアリアに向けてみたんだが、目が合ったアリアは首を横に振った。

「…わたしたちは奴隷なので、貴族の家にあがるべきではありません。リキ様は興味があるようでしたら、わたしたちには遠慮せずに楽しんできてください。」

首を振られたことでアリアも行く気がないことは伝わっていたんだが、アリアはわざわざ以心伝心の加護を使って理由を伝えてきた。

レガリア自体はアリアたちが奴隷であることを気にしている感じはなかったが、全員がそうとは限らないもんな。嫌な思いをする可能性があるくらいなら行かない方がいいだろう。

アリアたちが行かないなら俺も無理に行く必要もねぇな。

「招待してくれるのはありがたいが、気持ちだけもらっておくことにする。どのくらいに屋敷に行けるかわからねぇし、飯は先に食っていてくれ。俺らは俺らで飯を食ってからレガリアを連れていくから。」

「かしこまりました。依頼達成後に報酬についてのお話で少々お時間をいただくことになってしまうかと思うのですが、大丈夫でしょうか。」

あぁ、本当は飯を食いながらそういった話もしたかったのか。

「俺はかまわねぇよ。むしろその日のうちに終わらせてくれるのは助かる。あとに回すと面倒なことになる場合が多いからな。」

「ありがとうございます。それでは、本日もお嬢様をよろしくお願いいたします。」

「あぁ。」

執事は深く頭を下げてから、食堂を出ていった。

今のを伝えるためだけにこんな朝早くに宿屋まできたのか。昨夜のうちにわかっていたなら、宿屋に伝言でも頼んでおけばよかっただろうに律儀なやつだな。

「というわけで、レガリアの護衛は今日までで、夕方には屋敷まで送ることになった。だから昼休憩は取らずに夕方までぶっ通しでダンジョン探索をすることにする。レガリアには携行食を渡しておくから、腹が減ったら自分のタイミングで食ってくれ。今日は時間が短いから、戦闘以外では止まらないと思うからな。べつに絶対に止まらないって意味ではないから、何かあったら遠慮なくいってくれればいい。いわれなきゃ判断するも何もないからな。」

「は、はい。」

寂しそうな顔をしていたレガリアが慌てて返事をした。

たった4日の付き合いでそんな顔すんなよと思ったが、この歳じゃ出会いや別れの経験がそんなにないだろうから仕方ねぇのか。

レガリアは俺と違って薄情ではねぇみたいだしな。

「べつに死別するわけじゃねぇんだから、会おうと思えばまた会えんだろ。ローウィンスとは連絡しあえる仲になってるんだし、気が向いたらカンノ村にでも来いよ。飯と泊まる場所くらいなら用意してやるから。」

なぜかレガリアが驚くように目を瞬いたが、すぐに柔らかい笑顔に変わった。

「ありがとうございます。ぜひ伺わせていただきます。」

切り替えの早いやつだなと思っていたら、隣から視線を感じた。

何かと思って目を向けると、アリアがじっと俺を見ていた。

「どうした?」

「…いえ、なんでもありません。」

あんだけガン見しておいてなんでもないことはないと思うが、アリアが何をいいたいのかが全く想像つかん。

俺が訝しんだ目を向けると、アリアがアイテムボックスから何かを取り出して見せてきた。シンプルな指輪が2つとリキ教のネックレスか…冗談だよな?

「…対になる以心伝心の加護の指輪とグループマークのついたネックレスです。必要であればお使いください。」

必要であればって、このタイミングで渡してくるってことはレガリアに渡せってことだよな?なんで俺が自ら俺を祀り上げてる宗教のネックレスを渡さなきゃならねぇんだ?嫌がらせか?でもアリアはグループマークのネックレスっていってるから、仲間としてってことなんだろう。アリアがレガリアのことを仲間だと思ってたのは意外だが。

さすがに俺にそのネックレスを渡す度胸はねぇわ。だから、指輪だけを手に取った。

「指輪はありがとな。ただ、そのネックレスはアリアから説明して、受け取るかどうかはレガリアに選ばせてくれ。」

「…はい。」

アリアが返事をしたのを確認してから、レガリアに向けて指輪を1つ放り投げた。

正面に座っているレガリアは驚きつつもその指輪を掴んだ。

「指輪?」

「以心伝心の指輪だ。俺に連絡するようなことなんて滅多にないと思うが、一応渡しておく。基本はローウィンスを通してくれるとありがたいが、なんかあったら使ってくれ。」

「……嬉しいです。ありがとうございます。」

一瞬レガリアが固まったから余計なことをしたかと思ったが、瞳を潤ませながら微笑んだところを見るに喜んではいるみたいだ。というか、そこまで喜ばれるのは予想外だったから、反応に困る。

そういやこいつは友だちがいないんだったな。だから、いつでも連絡してもいいって意味のものをもらえて嬉しかったのかもな。

レガリアは左手の中指に指輪をはめた。

ただの鉄の指輪だから、必要時以外はどこかに保管しておく感じかと思ったが、普通に指にはめたな。

高位な貴族がただの鉄の指輪をはめているとか変に目立ちそうだが…あぁ、身代わりの加護の指輪もただの鉄だし、今さらか。

なんか変な空気になっちまった気がするし、食堂からとっとと出るか。

俺は残っていたスープを飲み干してから、まだ食べているやつがいるかと周りを見たが、俺らが話しているうちに全員食い終わっていたようだ。

レガリアは俺らより食う量が少ないからか、執事が来たときには食べ終わってたっぽいし、どうやらみんなは俺を待ってたようだな。

「もう全員食い終わったみたいだし、少し休憩したらダンジョンに行くから、準備があるやつは終わらせておけ。」

「はい。」

全員の返事を聞いてから、一度部屋に戻るために席を立った。