339話
339話
準備を終えてダンジョンに向かう際にレガリアがリキ教のネックレスをしているのを見たときは何ともいえない気持ちになった。
アリアがあのネックレスについてどういった説明をレガリアにしたのかは知らないが、庇護対象だろうと護衛対象だろうと護ることに変わりはないし、気にしないのが1番だろう。
今日はレガリアが最後までバテずに済んだから、予定通り休憩なしでダンジョンでレベル上げをすることが出来た。ただ、レガリアは移動しながらの飯に慣れていないからか、渡しておいた携行食は食べなかったようだ。
レガリアが飯を食えていないことをわかってはいたが、そのために休憩をしないことは最初に伝えていたから、気にせず最後まで走りきった。まぁ、レガリアはイーラに抱えられているだけだから、レベルを上げた今なら疲れることもないだろうし、一食抜いたくらいで死にもしないから問題ないはずだ。
地下38階に下りたところで左のガントレットを外して腕時計を確認したら5時10分だった。もう夕方とはいえない時間かもしれないが、まぁちょうどいい時間だな。地下37階に着いた時に確認したら3時ちょい前だったからまだいけると思ってちょっと無理した感はあったが、ペースを落とさずに進めたおかげでこのあと飯を食ってからレガリアん家に行っても許される時間に終わることが出来た。
さすがにレガリアを送って報酬をもらうためだけにもう1日使いたくなんてないからな。
「……え?」
ガントレットをはめ直しながら振り向き、帰ることを告げようとしたらレガリアが驚いたような顔で声を漏らした。
小さな声ではあったが、今は地下38階に下りてきてすぐのところに全員が集まっているから普通に聞こえた。
一瞬気配を消した敵が近づいてきてんのかと思って振り向こうとしたが、レガリアは俺の背後ではなく、俺の左手を見ているっぽいことに気づいた。
左手はガントレットをしているだけで、ガントレットの表面にはぱっと見傷も汚れもない。
「どうした?」
「あ、いえ、見間違いかと思うのですが、今は何を確認していたのでしょうか?」
考えるより聞いた方が早いかと思って確認したら、なぜか質問で返された。まぁいいけど。
「時間を確認してただけだ。そろそろ…。」
「ということはやはり先ほど左腕にしていたものは時計なのでしょうか?」
そろそろ時間だから帰るぞといおうと思ったら、質問を被せてきやがった。
レガリアが食い気味に話しかけてくるなんて珍しいな。
「そうだが、だからどうした?」
「それはこの国のでしょうか?…もしかして、以前城にいらしていたのはそれを得るためだったのでしょうか?」
なぜかはわからんが、レガリアが悲しそうな顔でさらに質問をしてきた。
意味がわからん。
「何をいいたいのかわからねぇけど、この腕時計は俺のだし、城に侵入したのは魔法陣を見るためだ。まぁ不法侵入自体が犯罪だろうから説得力は皆無だろうが、物は何も盗んじゃいねぇよ。」
「う、疑って申し訳ありません。アラフミナでは時計が完成していたのですね。」
「…リキ様が所有している時計は勇者の国で作られたもので、アラフミナでも時を刻み続ける時計は売られていません。ローウィンス様から時計の存在自体は伺ったことがありますが、普通の人が手に入れられる時間を計るものは砂時計のみであり、時を刻み続ける時計というものがあることはアラフミナでも一部の方以外には知られていません。リキ様が所持出来ているのはリキ様が特別だからです。」
レガリアとの話がなんか噛み合ってない気がしていたら、アリアが俺の代わりにレガリアに答えてくれた。
やけに丁寧な返答内容からして、俺にもこの世界での常識を教える意図も含まれてるのかもな。そして最後は特別ってことでうやむやにしようとしてるってところか。
時計がない世界と思ってたのにレガリアの反応からして実はあるのかと少し驚いたら、本来俺らが知ることがないようなものって扱いなことに再度驚かされた。
レガリアやアリアの台詞からして実物があるっぽいのになんで再現しないんだろうな。
まぁ、俺は持ってるからどうでもいいんだけどさ。それにダンジョン内でくらいしかとくに必要ないし、時間に追われない生活ってのも悪くないから、時計なんてなくてもいいんだろう。
「そんなことより、もういい時間だし、とっとと飯食ってレガリアん家に行くぞ。レガリアと飯を食うのも最後になるかもしれねぇし、なんか食べたいのとかあるか?」
「そ、そんなこと…いえ、そうですね。えっと…食べたいものですか?食べたいものというわけではないのですが、冒険者の方々が普段食事をするような酒場?食事処?に行ってみたいです。」
レガリアはアリアの説明では微妙に納得してなかったっぽいが、俺が話を終わらせたからか諦めたようだ。
「冒険者が行くようなところはだいたいうるせぇし、晩飯どきだと汗臭いと思うけどいいのか?間違いなくお嬢様が行くようなところではねぇぞ?」
「はい。騒がしさや匂いについてはたぶん大丈夫だと思います。二度と伺える機会がないかと思いますので、冒険者であるリキさんと一緒にいられるうちに行ってみたいと思いまして…。」
「まぁ俺はどこでもかまわねぇよ。アリア、良さげな場所を知ってたりしないか?」
「…わたしは食べていないので実際にはわからないのですが、この町の冒険者ギルドの食堂のシチューとラビケルの香草焼きがとても美味しいという話を伺っています。」
「冒険者ギルド!行ってみたいです!」
ダメ元でアリアに確認してみたら普通に答えが返ってきた。しかもレガリアが食いつくほどの答えが。俺から聞いといてなんなんだが、なんでほとんど俺と一緒に行動してるアリアが知っているんだよ。まぁ、探す時間が省けるからありがたいんだけどさ。
「冒険者ギルドか…。」
「冒険者ギルドの食堂はあまり良くない場所なのでしょうか?」
俺が渋るように呟いたら、レガリアが申し訳なさそうに質問してきた。
いや、良くない場所ならそもそもアリアが提案しないだろ。ただ単に俺があんま行きたくないだけだ。
「この町のギルドは知らんが、冒険者ギルドは面倒が起きることが多い気がしてな。まぁ面倒が起きたら起きたで対処すればいいか。」
レガリアは意味がわからなかったようで首を傾げていたが、ここで無駄な時間を使うくらいなら、一度行ってみて面倒ごとが起きたら店を変えた方が早いだろうと話を終わらせ、リスタートを発動させた。
いつも通りセリナを先に潜らせてから順にリスタートを通り、ダンジョンを後にした。
冒険者ギルドに着いた時には完全に陽が落ちていたせいか、ギルド内がかなり騒がしい。
受付にはけっこうな行列が出来ているが、食堂の方はまだテーブルがそこそこ空いてるな。
俺らは人数が多いからテーブルが3つ並んで空いているところを確保した。
テーブルにメニューが置いてあるみたいで、それを目の前に座るレガリアに渡した。
「ウチはイーラがいるから残す心配がないし、気になったものを頼めばいい。冒険者ギルドの食堂ならたいして高くもないだろうし、遠慮せずに好きなだけ食っていいぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
レガリアは礼をいってからメニューに視線を落とした。
なんとなしにギルドを見回してみたが、俺らに視線を向けるのがチラホラいるな。ただ、悪意を向けてる感じではないというか、セリナやヒトミやニアあたりが気になってるだけっぽいな。俺と目が合うと気まずそうに目を逸らすから間違いないだろう。
他は見向きもしてこないし、ここはまともな冒険者ギルドなのかもな。
そろそろ注文が決まったかとレガリアに目を向けると、セリナと話しながら楽しそうに悩んでやがる。
このあとまだ予定があること忘れてないよな?
……まぁいいか。
レガリアのせいで遅くなる分には向こうも文句はいわないだろう。
けっきょくメニューを絞りきれなかったレガリアがセリナの助言のもと大量に注文したんだが、さすがはアリアたちというべきか、イーラに頼ることもなく食べきっていた。
レガリアも雰囲気を楽しめたのか満足そうだ。ただ、テーブルマナーが最初より少し乱れているような気がしなくもないが、俺が心配することではないな。今だけ俺たちに合わせようとしてるだけかもしれんし。
俺らの騒がしい食い方に文句をいうやつも現れることなく、レガリアとの最後の晩飯は誰にも邪魔されることなく終えることができた。
楽しんで腹も満たして満足したレガリアは1日中運ばれていた疲れもあってか船を漕ぎ始めているし、ちょうどいいから寝たあとに担いで持って行くか。
別れるときにまたしんみりした空気を出されて、それがセリナとかに伝播したりしたら面倒だしな。
今にも寝そうなレガリアが少しでも多くアリアたちと会話をしようと頑張っている姿を眺めながら、俺は時間を潰すために追加でデザートの注文をした。