364話
364話
気を利かせてくれた食事係が急いで片付けてくれているテーブルのところに座ると、アリアたちも順に席についていった。
イーラは訓練にはほとんど参加していなかったから、飯が終わったところで膝の上から一度降ろしたんだが、またオギャオギャ泣き始めて鬱陶しかったから、諦めて今も膝の上に乗せている。
テンコも食堂に残りはしたが会議に参加する気はないらしく、狐形態で俺の膝の上のイーラの膝の上に乗って丸まった。
さすがに食事係が片付け終わる前に話し始めたら片付けづらいだろうからと暇つぶしにテンコの背中を撫でていたら、なぜかイーラがテンコの尻尾を掴んで引っ張りながら顔を上げて俺を見上げてきた。
…………。
……なんだよ。
無言で見上げ続ける意味もわからんし、その間ずっとテンコの尻尾をみょんみょんと引っ張っているのもわけわからん。いや、尻尾を引っ張りたくなる気持ちはわからなくはないか。
前に獣人の尻尾に触ることについて聞いたときに尻を触られる感じといわれてからは諦めていたんだが、イーラに尻尾を引っ張られているテンコは気にしていなさそうだから、4本ある内のイーラが握っていない尻尾を掴んでみた。
見た目通りふわふわとした毛の塊のような尻尾は触り心地がかなり良く、ただ握るだけでも癒される。
少し手を滑らせれば柔らかい毛がサラサラと手のひらを撫でる。
もう一度尻尾を握り、引きちぎらないように気をつけながらかるく引っ張ってみた。だが、実際に尻尾が伸びるわけではないからか、これは思ったほど楽しくはなかった。
まぁ興味は満たされたからいいけど。
テーブルの上の食器類が全て片付けられ、食事係がテーブルを拭きに来たから邪魔しないように椅子ごと少し下がったところで、イーラが俺の目の前にいる食事係をガン見していることに気づいた。
もしかしてこの子が無言の圧力で俺を退かしたように見えて怒ってんのか?いや、さすがにねぇか。たぶん獣人族が食事係をやってるのが珍しいからなんとなく見ているとかだろう。
獣人族はほとんどが門番とか村の周囲の見回りとかをやってるイメージだからな。
それにしてもすごいボリュームの髪の毛だな。よく見ると頭に巻きツノっぽいのがあるし、羊タイプの獣人か?というか、獣人にもツノを持ってる種族もいるんだな。
ふと視線を感じて下を見ると、イーラがまた見上げていた。どうやらイーラは獣人族の子を睨んでいたわけではなかったみたいだな。
「ねぇリキ様。やっぱりリキ様も触り心地がいい方がいいの?」
いきなりなんだ?
というか、もう赤ちゃんごっこはやめたのか?
「何についていってんのかはわからんが、そりゃあ触るなら触り心地がいい方がいいんじゃねぇか?」
「わかった。」
何がわかったんだ?と思ったら、イーラがサイズはそのままで目の前の獣人の子のような髪型になった。髪のボリュームがありすぎて真上からじゃほとんど髪しかわからんが、巻きツノまで再現してるし、この感じだと全体的にこの子に似せたんだろう。まぁ巻きツノの形が微妙に違うっぽいし、髪の毛質も目の前の子よりさらに羊っぽくなってるから完全一致ではないみたいだが。
でもなんでこの子に似せたんだ?
たしかにちょっと触り心地が気になる毛質ではあるが、俺は一度も羊タイプの毛に興味を示した姿を見せたことはないと思うんだが。
「何してんだ?」
「バブー!!」
今日のイーラは本当に何がしたいんだよ。
まぁ今の話の流れと後頭部を俺の腹に押しつけてくる行動から撫でろって意味なのはなんとなくわかるが、普通にいえばいいだろうがよ。面倒くせぇな。
というかツノがあるんだから首を振りながらグリグリと押しつけてくんじゃねぇよ。イーラのパワーだと地味に痛い。
仕方なしにイーラの頭に手を置いたんだが、なんだこれ!?
すっごいモフモフしていて温かい。
テンコの体毛の触り心地とは違うし、昔着たことのあるウールとも違う。ただボサボサなだけかと思った髪の毛の異様な膨らみは程よく空気を含んでいるだけのようで、手触りは柔らかく滑らかだ。
夏とかだと暑苦しいかもしれないが、今みたいな寒い時期だと悪くないな。ケモナーとかいう異常性癖者の気持ちが一部わからなくもないかもしれん。
しばらくイーラの髪の毛を撫でていたんだが、いつになったらテーブルを拭き終えるんだ?と目の前の獣人の子を見たら目が合った。
……なんで顔を赤らめてこっちを見てるんだ?0歳児の頭を撫でてるだけで変なことをしてはいないと思うんだが。まぁ、イーラが0歳児のサイズになってること自体が変なことではあるけども。
「あ、あの!きょ、興味があるのでしたらどうぞ!」
獣人の子がさらに顔を赤くして頭を突き出してきた。
……は?意味がわからん。
こいつは何を思ってそんなことをいったのかがわからなくて周りを見てみたら、既に他の食事係がお茶の用意まで終わらせているようだ。つまりこいつがずっと俺の前にいたせいで話し合いが始められない状態だったわけか。まぁ俺がイーラの髪の毛を堪能していたせいもあるにはあるだろうが、この空気は俺のせいではないだろう。
俺がマイペースなのはいつものことだから、俺のせいで予定が遅れるのは周りも慣れているし、そもそも話し合いは急ぐ必要もないからな。
だが、俺以外のやつにわけわからないことで待たされてるのは気に食わないのか、アリアたちの一部が不機嫌な空気を発しているんだが、こいつはこの空気がわからないのか?それともわかっててやってるのか?
「か、髪は毎日洗って、手入れも出来るだけしているので、汚くないです!」
……ん?
もしかしてイーラが勝手に変身したのを俺が命令して変身させたと思ってるのか?そんで本人の代わりをさせて我慢してるとでも思ったのか?だからこの空気でも俺が求めているなら応えなきゃならないと思って勇気を振り絞ったとか?
いや、俺をなんだと思ってるんだよ。そこまで羊毛に飢えてねぇし、そもそも本当に触りたかったらそんな遠回りな要求をしないで直接いうわ。
だが、これでお前の勘違いだっていったらこの空気の責任が全部こいつに向かうんだろうな。まぁ間違ってはいないが、さすがに可哀想か。もしかしたら前の主人がそういうやつだったから俺の行動がそうとしか思えなかったって可能性もあるからな。こいつがもともと奴隷だったのかは知らんけど。
突き出された頭を軽く撫でながら持ち上げ、目線を合わせた。
数回撫でた感触はイーラの髪の毛とはだいぶ違う感触だった。
イーラの毛より細いのか、それともクセが弱いのか、見た目のボリュームほどのモフモフ感はなく、意外とサラッとした手触りで、手が髪の毛に抵抗少なく沈み込んだ。
イーラが羊系の獣人を食べた記憶はないし、吸収したことある魔物で代用したから少し違うとかなのかもな。
「ありがとな。たしかに触り心地の気になる髪の毛だとは思ったが、イーラが真似したのは俺の命令じゃねぇから気にすんな。気を使わせちまってすまん。気持ちだけもらっておくから、仕事に戻っていいぞ。」
「あ、はい!ごめんなさい!失礼します!」
獣人の子が慌ててその場を去ったことで空気が和らいだから、やっぱりこのせいだったのだろう。実際はイーラが余計なことをしたせいだが、まぁいい。
話し合いを始めるために椅子を定位置に戻し、目の前のアリアに目を向けた。
「それじゃあ午前中の訓練についてみんなの意見を聞かせてくれ。今回は1人ずつ受け持ってもらったから、担当したやつがどんな感じだったかを聞かせてほしい。まずはアリアからいいか?」
「…はい。ヨコヤマカナデさんですが、物理で攻撃を加えることにも受けることにも忌避感があるように思いました。そのため、今の状態が続く場合は前衛や中衛は難しいかもしれません。魔法であれば攻撃するのに躊躇したのは最初の一度だけで、受けることについては全く怯んだ様子がありませんでした。なので、後衛で魔導師や巫女…ではなく神官などが適しているかと思いました。ヨコヤマカナデさんはリキ様と同じくSPで取得できる魔法の種類が多いようでしたので、詠唱を覚える必要もないため、後衛であれば位置取りを覚えるだけで即戦力となります。あと、物理攻撃はするのもされるのも忌避感があるように見えたのですが、実際に攻撃を受けても怯むのは攻撃を受けるまでだけで、痛みや血を流すことは慣れているように感じたので、前衛や中衛が向いていないと断言することも出来ませんでした。今回の訓練では一通り試すために広く浅い訓練内容となってしまっているため判断が難しいです。武器の扱いは慣れていないようでしたので、初めのうちは前衛なら斧か槌か棍棒、中衛なら剣と小盾と魔法、後衛なら杖に魔法がいいかと思います。」
思った以上にしっかり返ってきたな。
横山はまだほとんど何も出来ない状態だろうから、もっとフワッとした評価が返ってくると思っていただけに驚いた。
まぁ日本じゃ虫以外の生き物を殺すことも自身が殺されることも普通はないから、忌避感があるのは当たり前だわな。俺みたいにわりとすぐにこの世界に適応できる方が現代日本人としては異常だろうし。ただ、普通の日本人は痛みや流血にも忌避感があるはずなんだが…まぁいい。
「聞いた感じだと俺も後衛が向いてると思うが、カリンパーティーは既に後衛が2人いるから3人になっちまうし、バランス悪くねぇか?」
「…他の人の訓練を少し見ましたが、カリンさんとラスケルさんとパトラさんは複数の役割をこなせるようなので、ヨコヤマカナデさんがどのジョブになっても戦力になるかと思います。」
「たしかにラスケルとパトラは前衛も中衛も出来そうだが、カリンが支援以外を出来るのか?」
「…はい。カリンさんはリキ様にいわれた通り、終わりといわれるまで休みなくヴェルさんと接近戦を行っていました。ヴェルさんが手加減していたとはいえ、杖と支援・回復魔法だけで休憩を挟まず受け続けられるのであれば、あのパーティーならどの役割でも戦力になるはずです。もちろん接近戦の最中に周りを見る余裕まではなさそうでしたので、支援以外を担当する場合は他に支援を担当する方が必要になりますが。カリンさんは攻撃魔法も少し覚えているそうなので、後衛は支援としても攻撃としても担えるかと思います。」
マジか…あんなんが実は万能タイプだったのか?
「ヴェルはカリンの相手をしていてどう思った?アリアを疑うわけじゃねぇんだが、カリンがそこまでなんでも出来るやつとは思えねぇんだよな。実際、アリアのいう通りなのか?」
「アリアがいってることは間違ってないと思うよ。ただ、リキ様が思ってるほど万能ってわけではないけど。」
「どういうことだ?」
「えっと…次は僕が話しちゃっていいのかな?」
ん?俺が聞いてるのに何いってるんだ?
もしかして話す順番にもこいつらの中では決まりとかがあるのか?
もしあるんだとしても、ヴェルがその辺を気にするのはちょっと意外だな。
「俺が聞いてんだから気にすんな。この流れでカリン意外の話にいく方がおかしいだろ。」
「たしかにそうだね。じゃあ僕がカリンと訓練して思ったことだけど、カリンは頭がおかしい。僕とカリンではさすがに力に差があるから殺そうと思えば殺せるけど、一撃で殺せるほどの戦力差がない相手からしたら、カリンみたいな前衛は脅威だろうね。そういう意味では前衛が向いているともいえるけど、近接戦の強さだけでいうなら前衛が向いているとはいい難いかな。」
なかなか頭がおかしいやつらが集まっているこの村で生活してるヴェルが頭がおかしいと思うほどってどんだけだよ。
「たしかにカリンが接近戦で強いイメージは全くないが、ヴェルと戦い続けていたんだろう?それともそれだけ手加減してたってことか?そんなに手加減していたんなら、戦い続けても凄くはねぇか。まぁ体力は思った以上にあるみたいだが。」
「カリンが支援で自身の身体能力を上げたうえで上手く避ければ受け流せる攻撃をし続けたんだけど、カリンの戦闘技術はそこまででもないから何度も攻撃を受けることになっていたよ。でも、カリンは攻撃を受けても倒れないように耐えてすぐに回復魔法で回復して、また戦闘体勢を取るんだよ。それでMPが心許なくなってくると僕の攻撃に合わせて強攻撃を仕掛けてくるんだ。しかも僕の攻撃を避けるのを諦めて受ける前提でね。さすがに僕が鱗を纏ったら練習にならないかと思って纏っていなかったから、カリンの力任せに振った杖なら少しダメージが入るんだけど、それでマジックドレインで回復されて、またやり直しという感じだったね。僕は自然治癒があるから最終的にはなんのダメージも残っていなかったけど、普通の相手なら徐々に疲弊しながらいつ終わるかわからない持久戦をしなきゃならないとか、体力より先に心が折れるかもね。そういう意味では前衛に向いてるというのは間違いじゃないかな。実際この短時間で避けるのが少しだけど上手くなっていたから、前衛が向いていないってことはないと思うしね。カリンは弱いけど、リキ様の教えに応えるためにあそこまでやって、技術を体で覚えるを実践出来るのは素直に尊敬するよ。」
訓練を始める前にカリンに伝えた「攻撃を受けつつ回復」ってのは杖で受けて、手に残ったダメージの回復って意味だったんだが、体で受けて回復してまた攻撃を受けながら相手からMPを奪いつつ回復なんていうゾンビアタックじみたことしてたのか。まぁそのくらいの気概でやれってつもりでヴェルをつけたんだが、マジでやったのか。凄えけど、たしかに頭がおかしいのかもな。俺らと同じく。
「思った以上に頑張ってるみたいだし、このままヴェルに任せていいか?」
「あぁ、もちろんさ。」
自分の意思でそこまで頑張れるなら、あとでカリンが弱音を吐いたりしなければ続けても問題ないだろう。カリンが無理っていったら考えればいい。
次は…セリナが相手したのはたしかパトラだったよな?
「パトラはどうだった?」
「パトラちゃんは凄いよ。にゃんであれでCランクにゃのかわからにゃいけど、万能っていっていいんじゃにゃいかにゃ?特化した能力はにゃいみたいだけど、器用貧乏ってほどどっちつかずにゃ感じではにゃいからね。たぶん速さ以外の技術は私より上にゃ気がする。でも、その速さで大差をつけてるから、もしレベル差がにゃくにゃったとしても私の方が強いけどね。」
なんで最後に実力を誇示した?
べつにセリナが強いのは知ってるからわざわざいう必要がないし、そもそもパトラの話を聞いてんのにそんなこといわれたら、パトラが速度に難があるみたいじゃねぇか。
「速度が足りないんじゃ短剣での戦闘は厳しいんじゃねぇか?」
「べつに私が速すぎるだけで、パトラちゃんの速度が足りないわけじゃにゃいし、パトラちゃんは短剣を最大4本使うから、互いにけっこういい訓練ににゃったと思うよ。」
「4本?」
「そう!私がクナイを使うときみたいに短剣やナイフに糸がついてるのをたまに混ぜて使ってるみたいにゃんだよね。しかも凄く細い糸だから意識しにゃいと見落としちゃいそうだし、その糸自体がナイフみたいに切れるみたいにゃんだよ。それにナイフや短剣を投擲した直後にゃのに両手にそれぞれ短剣を持ってるのを見たときは私の頭がおかしくにゃったのかと思ったね。投擲しても常に両手に短剣やナイフを握ってるのはまるで魔法だったよ。あ、パトラちゃんは万能っていったけど、魔法は自分の身体強化が少し使える程度のMPしかにゃいからほとんど使えにゃいらしい。でも遠距離は弓が使えるから欠点ではにゃいと思う。弓も上手かったしね。まぁパトラちゃんは弓使いだと思って接近したら、実は接近戦の方が厄介ってタイプだけどね。パトラちゃんはレベルを上げるだけでもクレハちゃんより強くにゃれるんじゃにゃいかにゃ?ただ残念にゃことに短剣やナイフに塗ってある毒草の匂いのせいで、せっかくの糸を使った死角からの攻撃が無意味ににゃっちゃってたね。」
カリンパーティーの実力を知るための戦闘のときにパトラに近づいたけど、毒草の匂いなんて俺にはわかんなかったがな。セリナにしかわからないレベルの匂いなら残念がるほどの欠点ではないだろう。というか、そんな武器を使ってることに驚きだわ。デュセスも武器に細工していたし、命懸けで戦う身としては普通なのか?
それにしてもパトラはカリンパーティーで1番強いとは思っていたが、ここまで高評価なのは予想外だな。
セリナは速度に特化させたとはいえ、刃物を使う技術も高いと俺は思っていたんだが、それより上ってことは俺が思っている以上にパトラは強いのか?
パトラの技術がランクよりは高いだろうとは思ったし、戦闘慣れしてんなとは思ったが、基本的にはジョブやレベルを含めた強さしか俺にはわからんからな。まぁレベル上げをしてみればわかるから、パトラはセリナに任せておけばいいか。
「ならパトラはセリナに任せた。」
「は〜い。」
総合的に1番強いのはパトラだが、力だけなら1番強いのはラスケルではあるんだよな。もともと獣人族は力こそパワーって種族だったらしいし、ラスケルが目指してんのはそっちなんだろう。ただ、セリナと出会ったことでいい意味でいろいろ考えが変わったみたいだが。
「サーシャはラスケルとの訓練で何か思ったことはあるか?」
「楽しかったぞ。」
……。
「…それは良かったな。だが俺が聞いてんのは技術につい……いや、ラスケルの攻撃でどのくらい傷を負った?」
「リキ様が相手をしておった女子の悲鳴の回数よりは少なかったと思うのぅ。最初の方は力任せに大剣を振り回すだけだから受けるのは楽だったんじゃが、時間が経って疲れたのか、速度が落ちた頃に変則的に大剣を動かしてきてのぅ。気づくと我の脇腹あたりに突き刺さったりしておったわ。途中からは開始直後から振り方を変えたりしておったよ。ただ、振り回さないと力が足らんのか、剣が軽かったがの。でも、上段から振り下ろしてきた剣を横に構えた剣で受け止めたら、そこからさらに回転して、我の頭の上から後ろに回りながら背中を斬りつけてきたのは面白かったぞ。大剣と自身の重さに差があまりないからこそ出来る芸であろう。まぁそんなふざけた回転斬りでは我の背は切れんかったがの。」
ラスケルも戦闘を重ねることで工夫するようにはなったようだ。
遠心力を利用した回転斬りの連続は重さはあっても予測しやすい攻撃だから避けんのは難しくはないし、力さえあれば簡単に受け止められちまうからな。
でも工夫したところでサーシャに傷をつけられるような攻撃はそんなにすぐには出来ないだろうと思っていたが、サーシャの話し方からしてけっこうな回数切られてたっぽいな。
まぁ上手くいったならいいか。
「ちなみにサーシャはラスケルにどの程度攻撃出来たんだ?」
「さすがに覚えておらんよ。大体の攻撃は防がれたが、骨でも折れない限りは我慢しておったのにポーションを使いすぎたと嘆いておったから、50回は当てたのではないか?休憩中は傷薬しか使っておらんかったしのぅ。」
攻撃を当てることにばっか頭がいって防御が疎かになったのか?
まぁそのあたりは慣れるしかねぇか。死なないからって捨て身で攻撃する癖がつきそうになったらサーシャには刃ありの大剣を使わせる必要があるかもだが。
「明日からも同じ方法で訓練を続けてほしいんだが、もしラスケルがサーシャの攻撃を受ける回数が増えたら教えてくれ。増えたかどうかは感覚でいい。」
「わかった。」
あとはピリカールか。
「ニアはピリカールとやってみてどんな感じだった?」
「盾を使う技術は自分より上でしょう。自分と同じく盾の向こう側を見るスキルを持っているので、立ち位置を間違えることも少ないと感じました。ですが、力が全く足りていないです。盾で受け流すのが下手なわけではないのですが、盾の真ん中あたりに少し力を込めて攻撃を加えると力を流しきれずに後ろに転がることが何度もありました。あれでは守るべき仲間を巻き込むので、同じ攻撃を繰り返し受け流す練習をしたのですが、本日の訓練だけではあまり上達はしていなかったと思います。転がり方は上手くなっていたように見えましたが、大盾を使う者に必要なのは攻撃を後ろの仲間に向かわせないことなので、自身が転がって仲間に怪我をさせるなんて論外です。」
今まで褒め言葉が続いていたのにいきなり辛口だな。
大盾を選んだニアにはニアなりの拘りがあるんだろうから、ニアに全てを任せた俺が余計なことをいうべきではないだろう。
ただ、俺はそんなピリカールの盾使いに翻弄されたから、ピリカールの盾使いは上手いと思いたかったんだがな。まぁいい。
「盾のことは俺にはよくわからないから、このままニアに任せたいんだが、ピリカールは成長出来そうか?」
「はい。逆にいえば力が足りないだけなため、レベルを上げれば問題なくなります。ですが、出来ればレベルを上げる前に対処できるように訓練したいと思っています。そうでなければ自身よりレベルが高い相手の攻撃には意味をなさない盾になってしまいますから。」
たしかに強い相手の攻撃は抑えられないんじゃ盾として信用出来なくなるかもしれないわな。レベルを上げたって上には上がいるからレベル任せじゃどんだけレベルを上げても安心できないだろうし。
「じゃあピリカールは引き続きニアに任せるからよろしくな。」
「はい。期待に応えてみせます。」
これで全部か?
そういや横山の話の途中でカリンの話になっちまったから、アリアに今後の横山の訓練。頼んでなかったな。
「アリアには引き続き横山の訓練を任せていいか?ど素人の訓練を任せられるのはアリアしかいないからさ。」
「…はい。早めに適した役割を見つけて伸ばせるように努めます。」
「よろしくな。……リッシーは明日からも俺が相手するからこれで全員か。なんか他に今回の訓練について意見はあるか?聞いておきたいことでもいいが。」
聞きながら全員の顔を見てみるが、誰も口を開かない。
よくよく考えたら、実際の訓練はそれぞれに任せているが、今回は俺が訓練をするっていってやり方も俺が決めたから、思っていることがあっても下手なことをいえば俺を否定することになるからいえないって可能性もあるのか。さすがにそこまで考えてはいないと思うが……困ったときのアリアだな。
「アリアは何かないか?ユリアとクレハの訓練のときに効果があったこととかあれば教えてほしい。」
「…今回の訓練は今の内容で十分かと思いますが、レベルを上げるのを後にするのであれば、せっかくなのでニータートの装備をするのはいかがでしょうか。レベルを上げる前に筋力を上げておくとレベルが上がったさいの恩恵にも差があるようなので。レベルを上げてからですと筋肉に負荷を与えるための重りを用意するのも難しくなってしまいますが、今ならニータートの装備をするだけで十分な効果があるかと思います。」
やっぱりあるのか。聞いておいて良かったわ。
そういやあのときはよくわかっていなかったが、ユリアとクレハもそんなのつけさせられてたな。あれって筋力を上げるための重りだったのか。というかレベルアップ前に筋力を上げるといいってのは初耳な気がするんだが……まぁいい。
「それはいいな。だが、ニータートの装備は6つもあるのか?」
「…新しく入る村人が訓練時に着用出来るように用意しているので、問題ありません。」
村人ってだいたい入ってくるのはレベル1桁の子どもだよな?
そんなやつらがクレハでも意味をなしていた重りをつけて訓練させられてんのかよ。この村やべぇな。そりゃあ村長の俺がヤバいやつと思われても仕方ないわ。
まぁ実際この世界で生きるのに力は必要だし、聞いたうえでもやめさせる気はないのだから、俺がヤバいやつなのは間違いないか。
「じゃあ使わせてもらうとするよ。」
「…はい。あとは鑑定対策のアクセサリーも用意できているので、後で部屋まで一緒に来ていただいてもいいですか?」
ん?アリアはアイテムボックスがあるのに部屋に置いているのか?
「それはむしろありがたいが、こんな短期間で作れるものなのか?」
「…いえ、村人用に順次作製しているのですが、まだ渡していない分があるので、そこからカリンさんたちに優先してお渡ししようかと思います。」
「村人用?」
俺も持っていないのに村人は支給されてんのか?
「…はい。村人の方々ではリキ様とは違い、どんな相手でも対抗できるとはいい難いので、目をつけられないための対策が必要になります。そのため、対策できるまでは訓練以外では村民区画から出ない仕事についてもらっています。」
いや、俺も誰でも相手にできるほどの力はねぇんだが…まぁ今まで隠してないんだから今さらだわな。
というか、リスミナとかには鑑定対策の話をしていたのに村のやつらにスキルの話をしたときは何も考えてなかったわ。いや、そのときはそもそも知られると危険なスキルがあること自体を知らなかった気もする。なら仕方ねぇな。
「何から何まで悪いな。あと、今日は夕飯後にカリンたちと今後どうするかの話をするつもりだから、装備やアクセサリーはそのときで……。」
「この後、部屋まで来ていただけますか?」
珍しくアリアが話に被せてきた。
まぁ断るようなことでもないからいいんだけどさ。
「あぁ、わかった。じゃあ話し合いは終わりだ。みんなありがとな。明日からもよろしく頼む。」
「はい。」
全員の返事を聞きつつ、膝の上のイーラをどうするかと目を向けたら、見上げてきたイーラと目が合った。
たぶん今日のイーラは自分も行くとかいうんだろうな。まぁこのサイズのイーラは重くないし、アクセサリーとかを取りに行くだけだからいいか。
「リキ様、ありがとう。いっぱい撫でてもらえたからイーラはもういいよ。」
「お、おう。そうか。」
イーラからもういいっていわれるのは予想外だったから返答につまっちまった。
たしかに思った以上に触り心地が良かったから、話し合いの間はずっと撫でていた気もするが、1時間もせずに満足するのは意外だったな。
「アリアの邪魔はしたくないからね。」
イーラが立ち上がるのに合わせてテンコも降りて人型になり、イーラは俺の膝から飛び降りてからいつものサイズに戻った。
いきなり赤ちゃんになったと思ったら、戻るのもいきなりだな。
アリアの邪魔をするようなわがままをいわなくなったのは成長したってことなのかもしれんが、成長したなら俺に迷惑をかけるわがままも我慢してくれって話だがな。