LNCrawler

372話

裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚【コミカライズ】 — novelba.com · All chapters

372話

カリンたちが本格的な訓練を望んだ翌日から5日ほど経ったんだが、技術的な訓練はほとんど出来なかった。まさかニータートの装備をしたら訓練どころではないほどに動きが鈍くなるとは思わなかった。だからといってせっかく筋力を上げる機会を逃すのももったいないからと今回はニータート装備をしたまま普通に動けるようになることを目標とした。

ニータート装備の重さに慣れるまではただの走り込みすら満足に出来ていなかったが、カリンたちが午後の授業に行かなくなってからはほぼ1日中訓練に時間が使えたから、筋力と体力はけっこうついたとは思う。

訓練初日は午前中のみだったから走り込みしか出来なかったが、俺が後ろから威圧をかけて強制的に走らせ、倒れたらアリアが魔法で回復して、また倒れるまで走らせるってのを繰り返した。

アリアはなんかヒール系じゃない魔法を使っていたんだが、カリンたちは倒れるごとに体力や筋力が増してたっぽいから、日本にいた頃に聞いた超回復的な効果がある魔法を使っていたんだろう。

2日目以降は丸一日訓練が出来たが、3日目までは走り込み、筋トレ、素振りしか出来なかった。

4日目は午前中にゴブキン山の頂上まで走らせても誰も一度も倒れなかったから、ニータート装備をつける前と同じ訓練を行ったんだが、アリアが容赦なかった。

ニータートの装備をつける前の時ですら訓練後は寝落ちするやつが出るくらいだったのだから、ニータート装備をつけたうえで走って山登りをさせられたカリンたちがまともに訓練できるわけがない。なのにアリアは横山の訓練相手をヒトミに任せて、全体を見て回りながら倒れて休むなんて許さないとばかりに魔法をかけて休む時間を与えないようにしていた。おかげで効率的に訓練を行えはしたが、魔法をかけても疲労はあまり回復できていないようだったからさすがにやり過ぎじゃないかと思っちまった。まぁ俺が出来る限り教えるといったせいだろうから何もいえなかったけど。

そんで5日目の今日も昨日と同じ訓練を終えたあとに威圧で強制的に最後の気力を振り絞らせて山下りをさせたせいで屍が出来上がっている。

もちろん実際に死んではいないが、カリンたち全員が地面に四つん這いになって涎を垂らしながら荒い息を吐いている。

本当は無理にでも歩かせたりとかしてクールダウンさせた方がいいんだろうけど、日本にいた頃と違って何かあっても回復魔法でなんとかなるからとそのまま休ませてやっている。

今回はせっかくだからと俺もニータート装備をアリアから借りてみたんだが、既にレベルが上がっているせいかカリンたちの訓練に付き合う程度だと少し疲れるくらいにしかならなかった。これじゃあたいした筋トレになっていないだろうから、アリアがレベルを上げる前に筋肉をつけた方がいいといっていたのは正解なんだろう。

もともとカリンたちはそこまで技術がないわけでもなかったし、技術については今後鍛えることも出来るから後回しでも大丈夫なはずだ。

今回の訓練で意外だったのはニアによるピリカールの評価が上がったことだ。

ニータートの装備で重くなったことで安定感が増したおかげか、技術的な面でも良くなったらしい。

あとはレベル上げだな。

筋力や体力をつけてからレベルを上げたらどの程度違いが出るのかは正直まだよくわかっていないが、カリンたちならレベルを上げておけばAランク上位の実力とかいわれてたデュセスやクレハとパーティーでなら戦えなくはないくらいにはなるだろう。もともとセリナがパトラはレベルを上げればクレハより強くなるようなこともいってたしな。パーティーでならよっぽどの強敵相手でもなければ死なないようにはなれるはずだ。

「とりあえずはここで一区切りだ。お疲れ様。そんで、明日からのレベル上げについてだが、それぞれなりたいジョブとかはあるか?」

「……ハァハァ……ッ…狙って……ハァ……なれる…んッ……ですか?」

疲れすぎて顔も上げられていないカリンが息切れの合間に言葉を絞り出すように質問してきた。

「全ては無理だが、俺らが取得条件がわかるジョブなら教えてやる。だけど、カリンは巫女のままがいいと思うぞ。いや、まぁカリンも一応成人してるんだったな。今のは忘れて、なりたいジョブがあるならいってくれ。」

「……ハァ…ハァ……ォェ……。」

……カリンからの返事はない。

まだ屍のようだ。

「『獣王』はわかりますか?」

呼吸が整い始めたラスケルが顔を上げて確認してきたが、王級ジョブはわからないんじゃねぇか?

もちろん俺はわからないからとアリアに視線を送るとアリアはセリナを見たから俺もセリナに目を向けた。

セリナは困った顔で頬をかき、ため息をついた。

「リキ様が本気にゃのに私が隠すのはよくにゃいよね……。ジョブの『獣人族』と『戦士』と『獣戦士』のレベルを最大にして、『獣化』と『咆哮』のスキルを覚えればたぶん『獣王』のジョブを取得出来ると思うよ。」

前に話したときは王様が得る『王』以外の王級ジョブの取得方法はわからないようなことをいっていたと思うんだが……。

「もしかしてセリナは『獣王』のジョブを得てるのか?」

「……うん。」

セリナがなぜか気まずそうに視線を逸らした。俺に黙ってたのを悪いとか思ってるのか?べつに強くなる分には問題ないと思うけどな。

「凄えな。現時点でかなり強いのにレベル上限なしの王級ジョブまで手に入れてたのかよ。」

「私の強さはこの双剣ありきだったから、双剣なしでも強くあれるように最近は訓練してて、この前『咆哮』のスキルを覚えたら『獣王』のジョブが取得できるようににゃってたの。だからまだレベルは低いんだよね。もっとレベルを上げて使えるようににゃってから報告しようと思ってたんだけど、こんにゃ形で伝えることににゃってごめんにゃさい。」

やっぱりさっきの気まずそうな顔は俺に黙ってたのがこんな形でバレたからか。まぁ黙ってたのも裏切る予定とかではなく強くなってからドヤ顔で報告するため程度の理由ってだけだろうから、そんなに申し訳なさそうにしなくていいと思うけどな。

いや、気落ちしてるのはそれだけじゃなくて、せっかく自分で見つけた王級ジョブを無条件で教えることに対するものもありそうだな。

試行錯誤して得たものを簡単に教えるのがなんか嫌だっていうのはわかるから悪いことしたか。

「べつに報告しろとはいってなかったし、『獣王』は俺が得られるジョブでもなさそうだから気にしなくていい。それとラスケルは『獣王』のなり方を他のやつに教えるなよ。それはセリナが試行錯誤してやっと見つけたジョブなんだから感謝しておけ。」

「はい!もちろんです。……セリナも教えてくれてありがとう。『獣化』はSPでは取れないみたいだから簡単には『獣王』を取得出来なさそうだけど、必ず取得してみせるから。」

「せっかく王級ジョブを教えてあげたんだから、頑張って私より強くにゃってね。」

セリナにニコッと笑顔を向けられたラスケルが一瞬驚いた顔をした後に頬を染めた。

「もちろん!」

思った以上にセリナはラスケルに気があるのか?

そういや告白とかされるとその相手のことが気になるようになったりするらしいし、おかしくはないのか。

「他になりたいジョブがあるやつはいるか?」

「『魔王』になりたいです!」

今度はリッシーが勢いよく手を上げて答えた。

1番体力がなくてほぼ死んでいたはずなのにもう喋れるのか。

「前にもいったが『魔王』は7種類の超級魔法を全て使うかスキルとして取得すればなれると思うが、超級魔法をスキルとして取得する方法がわからねぇんだ。悪いな。」

「いえ!超級魔法が7種類と教えてもらえただけでも嬉しいです!しばらくは『魔導師』のレベルを上げつつ魔導書を探してみようと思います。」

そういや超級魔法の魔導書をこの前写させてもらったんだったな。ただ、あれは既にソフィアにあげちまったから取り上げるのも悪いし、俺が内容を覚えているわけもないから、リッシーには悪いが自力で探してもらうとしよう。

そもそもリッシーの今のMPじゃ発動できないだろうしな。

「超級魔法を使うつもりならかなりMPが必要になるから、MPを増やす方法も考えておいた方がいいかもな。」

「はい!ありがとうございます!」

「あの〜『聖盾士』は知っていたりしないでしょうか〜?」

せいじゅんし?

どんなジョブかの想像すら出来ないんだが……まぁアリアなら知ってるか?とアリアを見たら頷かれたから知っているみたいだな。

「ピリカールは『せいじゅんし』だな。他は?」

「あたしは『聖弓士』か『錬金術師』になりたいです。」

せいきゅうし?

もしかして聖弓士か?ってことはせいじゅんしは聖盾士か?発音だけじゃわからねぇよ。

盾を使うタンク職なら普通は騎士とかじゃないのか?……あぁ、そういや騎士は王族に仕えるやつのことらしいから、一般的な冒険者じゃ取得出来ないのか。

それにしても2人とも聖が付くジョブになりたいのか。クレハもたしか『聖戦士』だったよな?漫画とかでよく見る剣聖とか弓聖みたいなかなり上位のジョブなのか?その割にはアンデッドに攻撃するだけでなれていたような気がするが……。

「…『聖弓士』でしたら問題ありませんが、『錬金術師』は今回の訓練中に取得するのは難しいと思います。取得条件だけは後で伝えます。」

「ということらしいから、『聖弓士』でいいか?」

「ありがとうございます。」

あとはカリンと横山なんだが、横山はいきなりいわれてもジョブなんてよくわからないだろ。

カリンは……そろそろ息も整ってそうだな。

「カリンはどうする?」

「私は『巫女』のままにします!」

まぁしばらくは巫女のジョブを失う予定がないなら問題ないだろう。

「一応聞くが、横山は何かなりたいジョブってあるか?」

「えっと……あまりよくわかっていなくて……何になったらいいとか教えてもらってもいいかな?」

「だよな。……アリアは訓練をした感じでは何が向いてそうとかあったか?」

「…ヨコヤマカナデさんはリキ様と同じくSPで取得出来るスキルが多いようなので、今回は『魔法使い』と『魔術師』と『魔導師』のレベルを上げつつ、『神官』のジョブを取って、攻撃魔法と回復魔法を主に使うようにするのがいいと思います。装備はメイスにしておけば、いざという時の前衛も担えます。」

巫女じゃないのか?と思ったが、わざわざ確認を取るようなことでもないだろうからやめておこう。生娘限定のジョブだから余計な確認はするべきではないだろうしな。

「ということらしいが、どうする?」

あらためて横山に視線を向けると微笑まれた。

「ありがとう。それでお願いします。」

カリンたちは全員息は整ったようだし、そろそろ歩けそうなくらいには回復したっぽいから屋敷に帰るか。

「それじゃあそろそろ帰るぞ。いつまでも這いつくばってないで早く立て。」

「はい。」

カリンたちは疲れているからか動きは遅いが、俺の呼びかけにはちゃんと答えて立ち上がった。

それにしてもよく不満も漏らさずにこんな訓練を続けられるよな。

やってる側の俺がいうのもおかしいが、弱音の一つや二つは吐くだろうと思ってたのに誰も文句をいわずに今日までやってきた。

こんなに根性があるのは意外だったが、まぁ悪くはねぇな。