373話
373話
5日間の訓練が終わり、あとは飯食って寝るだけだと思っていたんだが、食後になぜか教会に連れてこられた。カンノ村の住民区画の門のすぐ近くにある俺を崇める意味不明な宗教の教会に。
「…それではリキ様は壇上にてヨコヤマカナデさんの宣誓を聞いた後に認めると一言お願いします。ヨコヤマカナデさんはそこに跪いて、先ほど伝えた内容の宣誓を神であるリキ様に向かって行ってください。」
横山が神官のジョブを得るために必要な行為らしいが、俺がここに立つ必要があるとは思えないんだが。
神への宣誓が必要な条件だとして、他の宗教は神が実際にはいないんだから、認めてるのは教祖とか司祭とかそういうやつらだろ?ならアリアがここに立てば問題ないはずだ。
べつにたいした手間ではないからいいっちゃいいんだが、横山に跪かれて神として扱われるのはアリアたちに神扱いされるよりなんかキツい。
俺が半ば諦めて死んだ目でどことはなしに眺めていたら、横山が1人で広間の真ん中に跪き、両手を合わせて祈りのポーズを取った。
「いつも見守ってくださり心より感謝申し上げます。これからも清廉であることを心がけ、授かったお力に慢心することなく精進することを誓います。どうか、私がリキ教の神官となることをご承認いただけないでしょうか?」
……ん?
リキ教の神官?
聞いてないんだが……。
これって横山が神官になることを認めるイコール俺がリキ教の神様であることを認めるってことじゃねぇのか?
俺は神なんかじゃないんだが……。
俺の知らないところで勝手にやるのはかまわないが、俺自身で自分が神だなんて認めたくねぇ。だけど、ここで認めないって俺がいってしまった場合、後でアリアが代わりに認めたとしてもリキ教の神官にはなれなさそうな気がする。
ただ一言「認める」というだけで済むのを拒否したせいで横山の強化が足りなくて死んだりしたら後味が悪すぎる。
これは俺が断れない状況で神だと認めさせるというアリアの作戦か?
俺がわざわざ呼ばれたことに違和感を抱いたときに断るべきだったな……たいした手間ではないからと了承した時点でアリアの術中だったわけか。
本当にそこまで考えて頼んできたのかは知らないが。
「……………………認める。」
「ありがとうございます。」
礼を告げた横山がゆっくりと立ち上がり、しばらく虚空を見つめてから少し驚いた顔をした。
「本当に『神官』を取得出来るようになってる。」
そうか……ならよかったよ。
「…それでは儀式は終わりです。パトラさんとピリカールさんは今夜中に『ホーリーピラー』を使えるようになってもらわなければならないため、ついてきてください。リッシーさんもまだ使ったことのない上級魔法の詠唱文を教えますので、こちらも今夜中に済ませてもらおうと思うのですが、いいでしょうか?」
「ありがとうございます!お願いします!」
「「お願いします。」」
元気よく返事をしたリッシーに遅れてパトラとピリカールもアリアに答えた。
「ということで解散だ。用のないやつはさっさと寝とけよ。俺もなんか疲れたからもう寝る。おやすみ。」
今度から教会に呼ばれたら断ろうと決め、背後の布をかけて隠されている大きな像のような何かには目を向けないようにして教会を後にした。
昨日はあの後疲れてるなか遅くまで魔法の練習をしていたのか、ピリカールが死にそうな顔をしている。リッシーだけはなんか元気に見えるが、他は多少眠そうなくらいといった感じだ。
リッシーは1番体力がなかったと思うんだが……そういやリッシーは魔法が使えるんだから自分で回復したのかもな。
「もしかしてリッシーは自分で回復魔法とか使ったのか?」
ふと疑問に思って聞いただけなんだが、なんでそんな質問をされたのかわからないというように不思議そうな顔をされた。
「いえ、アリアさんに使わないようにといわれたので特に使ってません。」
若さによる回復力の高さか……。
まぁ実際は幼く見えるだけでたいして歳は変わらないだろうけどな。
というかアリアから回復魔法を禁止されていたんだな。ヘタに魔法を使うと筋肉が成長ではなく元の状態に戻ったりでもするのかね?
「そうか。まぁ元気ならそれでいいんだ。」
「はい。たくさん寝たので大丈夫です!」
リッシーの元気な返事を聞き流しながら周りを確認した。
朝食を食べ終えて、これからアヤレジ王国のコヤハキに向かうためにゴブキン山の人気のないところに集まっているんだが、カリンたちのレベル上げついでに魔王討伐に向かう魔族も連れて行くことにしたからけっこうな人数がいるな。
俺が全体を眺めていたら、近くにいた仙狐と目が合い、妖艶な微笑みを向けられた。
「今回は魔王討伐にお誘いいただきありがとうございます。」
「仙狐が来ることになったんだな。」
「はい。勝ち取りました。」
勝ち取ったって勝負でもしたのか?
力ずくで勝ち取ったのだとしたら、ラフィリアに住んでる魔族4人の中ではこいつが1番強いってことなんだろう。
「強いんだな。」
「リキ様にいわれると肯定はしづらいですが、これでも長く生きていますので。本日はどちらに向かうのでしょうか?」
ん?サーシャは何もいっていないのか?
そもそも俺がサーシャにどこに行くかをいってなかった可能性もあるな。
「アヤレジ王国の王都コヤハキってところだ。魔王がいるのはそこから少し離れたところだが。」
「アヤレジ王国……あぁ、そういえばあそこはそんな名前の国となったのでしたね。懐かしい。」
「知ってるのか?」
「アヤレジ王国となってからは詳しくはありませんが、その前まではしばらくそこを拠点として活動していたので、多少でしたら。」
「あそこを拠点にしていたのにわざわざアラフミナに移ってきたのか?」
「はい。当時所属していた組織的な魔族の集まりがあったのですが、勇者にボスや幹部のほとんどを殺されてしまったため、残る意味もなくなり拠点を移しました。」
ボスや幹部なんていうくらいだから、魔物の集まりではなく仙狐と同等以上の魔族が複数いた集団ってことだろうに勇者1人で潰したのか?
「昔の勇者は強かったってことか。よくそんなのに狙われて生き残れたな?」
「女のような見た目をした魔族には甘い勇者でしたので逃げるのは難しくありませんでした。」
あぁ……まぁ美人を殺すのを躊躇する男はいるだろうな。俺は敵なら気にせず殺すと思うが気持ちはわからんでもない。
「勇者が出張るような魔族の集団ってかなりデカい組織だったのか?」
「そうですね。私が把握していただけでも魔族が30体はいましたね。ボス含め幹部のほとんどは魔王でしたし。そのうえボスが過激派だったのもあり、人間には大災害として認定されていたそうです。あの頃は私もまだ若くて派手に暴れる方が楽しく、王族殺しなども率先して行っていたにもかかわらず、この見た目のおかげで勇者に見逃してもらえたのは運がよかったのでしょう。王族は別に強いわけでもないのに殺して悦に浸っていた頃を思い出すと恥ずかしい限りです。そのせいで討伐依頼を出されたのを人間にとって脅威的な存在となったと勘違いして仲間に自慢していたのも懐かしい思い出ではあるのですが、やはり恥ずかしいですね。」
仙狐が恥ずかしげに頬を染めているが、共感できる内容じゃねぇんだよな。まぁだいぶ昔のことらしいから俺には関係ないし、別にいいんだけどさ。
それにしても魔族にも若気の至りみたいなのがあるのか。
そりゃ何十年も生きていれば考えが変わることもあるか。
なんともいえずに仙狐を見ていたら、俺の背後を見て何かに気づいた仙狐が困った顔をした。
「どうやら長く話し過ぎてしまったようですね。申し訳ありません。」
「べつに……どうした?」
長話って程でもないだろうと思いながら仙狐の視線を目で追ったら、ドライアドたちが近くまで来ていた。
どうやら俺に用があるみたいだな。
「先日は私しかいなかったので、あらためてお礼を。今回の魔王討伐にお誘いいただきありがとうございます。」
代表と思われるドライアドが頭を下げると後ろの4人も頭を下げてきた。
わざわざ礼をいうタイミングを待っていたわけか。
「ついでみたいなものだから気にするな。」
「リキ様にとってはついでだとしても私たちにとっては住む場所と安全を与えてもらったうえに強くなる機会もいただけて感謝しています。」
善意でやったわけでもないことであらたまって感謝されると対応に困る。
住む場所を俺が与えたっていっているが、あそこはもともとこいつらが住んでいた場所で、村の近くに魔族を野放しにするわけにはいかないというこっちの勝手な理由で使い魔になるか出ていくか殺し合うかを無理やり選ばせたんだからな。
今回に関してもどうせなら魔王になりたいやつに倒させるかと思っただけだし、とくにこいつらのためを思ったわけではない。
「感謝されるようなことではないんだが、まぁ気持ちは受け取ったからそろそろいくぞ。」
反応に困ったときはさっさと流すに限る。
あらためて頭を下げたドライアドたちと仙狐から視線を外してリッシーに向けると首を傾げられた。
「これから超級魔法を使うから参考になるかはわからんけど見ておけ。詠唱文はわからないが、どういう魔法か知ってるだけでも意味があるかもしれないからな。」
「え?……っ!はい!」
そろそろ出発する空気を読んだっぽいイーラが全員が空けているスペースへと踏み出そうとしたところで俺の発言を聞いたようで、人の隙間を縫って俺の左腕に絡みついてきた。
「イーラに乗って行くんじゃないの?」
「あぁ、今回は魔法で行く。コヤハキには行ったことあるし、こいつらには既に俺の魔王のジョブのことも超級魔法のことも教えてあるから偽装する必要がないからな。」
「ふーん。」
質問に答えたのに左腕から離れる様子のないイーラは放置して、全員が空けているスペースに扉が出るように意識を向ける。
『超級魔法:扉』
魔法の発動とともに大人が4人横並びで通れる程の大きな扉が現れ、カリンたちが不思議そうな顔で眺めているのが視界に入った。
まぁ、扉が閉まってる状態だとただの大きなドアでしかないからな。この状態で効果を推測するのは難しいだろう。
「これは一度行ったことがあるところに移動できる魔法だ。」
簡単に説明しながら扉を開けたが、扉の向こう側も森だから見ただけだと違いがわかりにくい。だからカリンたちにもわかるように扉を潜ってから見えなくなる位置まで進んだところで驚きの声が聞こえてきた。
真っ先にカリンが扉に近づき顔だけこちら側に出したり戻したりして驚いていた。
続いて近づいてきたリッシーは魔法で作られた扉を凝視している。もしかして俺が気にしていなかっただけで魔法陣でも掘り込まれていたりするのか?と思って俺も近づいて確認してみたが、とくに魔法陣っぽい模様は見当たらなかった。
ただの模様に魔法的な意味があるかは俺にはわからんから、真剣に見続けているリッシーの邪魔をしないように離れると、他のメンバーもぞろぞろとリッシーの脇を通って扉を潜り始めた。
リッシー以外はキョロキョロと周りを見てはいるけど扉自体にはあまり興味がないようで立ち止まることなく潜ってきたが、リッシーはまだ真剣に扉を確認している。
全員が通った後もリッシーの確認作業は終わらず、それを俺が止めないのを見てちょうどいい機会と思ったのかアリアまで扉を見に行った。アリアも気になっていたなら見たいっていえばいいのに。
まぁ扉の確認だけならそんなに時間がかかることはないだろうと気が済むまで好きにさせることにした。