374話
374話
満足したのかリッシーが扉を見るのをやめて振り向き、俺らが待っていることに気づいて慌てて走ってきた。どうやら隣でアリアも一緒に見ていたことには気づいていないようだ。
アリアもリッシーに合わせて小走りで向かってきたから、もう必要ないだろう扉は消した。
「お待たせしてごめんなさい!」
「いや、たいして時間はかかってないから大丈夫だ。それで、何かわかったか?」
「あ、ありがとうございます。えっと、あの扉はあるのにないみたいなので、土系統の魔法は使われてなくて『上級魔法:空間』を強化した先にある魔法かなって推測出来たくらいです。他は見たり触ったりしただけではわかりませんでした。」
あるのにない?存在してるけど物体ではない的な意味か?
「見ただけでそれだけわかれば十分だろ。魔法に関してはたいしてアドバイス出来ないから、いろいろ試してみてくれ。」
「はい!」
リッシーの気もすんだみたいだし、さっそく魔王退治にでも行くか。
「とりあえず前にレガリアに会った森に来たんだが、ここから近いところだと前回オーガがいたのとは反対側に同じくらい進んだところだったよな?」
アリアに向かって一応確認を取ると頷かれた。
「…はい。そこにはゴブリンキングがいるそうです。そこからさらに奥に行ったところにオークキングがいます。」
ゴブリンキングか……。今なら死にかけずに倒せるか?
「そしたらその2体を倒してから時間次第では町に行って宿を取るか。余裕があるならもう1体って感じか。」
俺がてきとうに予定を立てると、セリナが先頭に立って進みだし、俺らはそれについていく。
「今回はカリンたちのレベル上げを優先するから、カリンたちはパーティーにはせずに1人ずつチームとして組む。だからパーティーはいったん解散してくれ。」
歩きながらカリンに話しかけるとカリンはよくわかっていないような顔を向けてきたが、いわれた通りにパーティーを解散したようだ。
「パーティーを解散しましたが、何か意味があるんですか?」
「たしかチームは余程何もしていないとかでない限りチームに加わっているパーティーに等分で経験値が分けられるはずだ。パーティー組んでるとそれをさらに貢献度で分けられるらしいから、レベル上げをするなら1人ずつでチームを組ませた方がいいからな。他のやつらだといちいち冒険者ギルドでチームを組んだり外したりしなきゃいけないのが面倒だが、カリンたちなら既にチーム編成もスキルで出来るのは知ってるだろうからな。」
「そういうことですね!チームは組んだことが一度もなかったので忘れてました!」
まぁチームを組む機会なんてそうそうないだろうからな。
とりあえず俺がチーム編成を行い、ちゃんとカリンたちが1人ずつ組まれていることを確認してステータス画面を閉じた。
セリナの先導で迷いなく進んでいたところで、2体のゴブリンがいるとセリナから声がかかり、とりあえずその2体を倒したところで足を止めた。
「この少し先にゴブリンキングがいるね。言葉は聞こえにゃいから全員魔物にゃのかにゃ?全部で50体くらいだと思う。」
「50体か。その程度なら作戦も必要なさそうだな。今回のゴブリンキングは俺が1人でやるからアリアたちは手を出さないでくれ。他のゴブリンは任せる。カリンたちは念のためパーティーで固まってゴブリンに囲まれない位置で戦闘するようにな。」
俺の指示に全員が了承したのを確認した後にイーラとセリナに目を向けたんだが、さすがに目を合わせただけでは察してもらえず首を傾げられた。
「……あと、イーラとセリナは極力戦闘には参加せずに俺の側で待機だ。」
「「はい!」」
イーラとセリナは一瞬理解できなかったのか不思議そうな顔をされたが、すぐに元気な返事が返ってきた。
俺もあの頃からだいぶ強くなったとは思うが、その確認のために死んだら馬鹿らしいから念のためだ。
あらためて全員を見回し、準備が出来ているのを確認してからゴブリンキングのもとに向かうようセリナに指示して先行させた。
セリナが走り出したあとについていくと、少し離れたところにゴブリンたちが見えてきた。
「俺たちはまっすぐゴブリンキングがいるところに向かうぞ。途中にいるゴブリンはセリナに任せる。」
「はい!」
返事をしたセリナが加速してゴブリンの群れに突っ込んで死体の道を作り始め、俺より二回りほど大きなゴブリンが見えたところで引き返して俺の隣に戻ってきた。
前にゴブキン山にいたゴブリンキングとは見た目がけっこう違う気がするが、セリナが戻ってきたってことはあれがゴブリンキングなんだろう。
せっかくセリナが作ってくれた道がまた雑魚ゴブリンで塞がれる前にPPを過剰消費して一気にゴブリンキングとの距離を縮め、そのまま殴りかかろうとしたタイミングでゴブリンキングが吠えた。
かるくではあるが体に衝撃があったから、ただ吠えたわけではなく、何かしらのスキルなんだろう。
さすがはゴブリンキングといったところか。
PPの過剰消費による加速に対しても普通に反応してくるとはな。
最初の一撃を避けられたあとの行動をミスらないようにゴブリンキングの動きを注視していたことで気づいたんだが、こいつ俺を見てなくないか?俺を脅威とは思っていないってことか?じゃあ誰を見てる?セリナか?いや、気配察知でわかるセリナの位置とも微妙にズレているし、そもそもセリナは俺とともに移動しているのにゴブリンキングの視線は固定されている。……もしかしてセリナがさっきまでいた場所を見ているのか?つまり、俺の攻撃行動を見て吠えたわけではなく、セリナに仲間を殺されたことに遅れて気づいて吠えただけ?
さすがにそれはないだろうと殴りつけるギリギリまでゴブリンキングの動きを見ていたが吠える以外の動作に移る気配がなく、俺の右拳が左頬に触れ、食い込み、埋まり、ゴブリンキングの顔が傾げ、歪み、膨れて弾けた。
………………。
「……マジか。」
「どうしたの?」
あまりにあっさり殺してしまったことに驚いて言葉が漏れてしまったようで、セリナが心配したように顔を覗き込んできた。
「これってゴブリンキングなんだよな?」
「そうだと思うよ?」
俺があらためて確認したことでセリナの自信がなくなったのか疑問形で返されたから、念のため解説で確認してみたらちゃんと『ゴブリンキングの死体』と出た。
「弱すぎじゃねぇか?」
「ゴブリンにゃんだからこんにゃものじゃにゃい?」
俺ら以外はまだゴブリン退治をしているなか、セリナとイーラは俺の指示通り戦わずに俺のそばで待機しながら俺の呟きに答えてくれているが、俺とセリナでは認識が違う気がする。
「ゴブリンキングって少し前の俺らが全員で対応したのに殺されかけたはずなんだが…俺らがそん時より強くなったといっても今回はスキルも魔法も使ってないのに1撃だぞ?さすがにそこまで強くなってはいないと思うんだが?」
「……?……あっ!そういうことね!ゴブキン山にいたゴブリンキングと比べているんだとしたらそりゃ弱いよ。この国で生まれる魔物は他に比べて強いとはいってもゴブリンじゃたかが知れてるし、たぶん生まれた後は人間を殺して強くにゃるわけでもにゃく同族が増えたことで魔王ににゃっただけだからね。大量の人間を殺して体から瘴気が漏れ出るほどに強くにゃったゴブキン山のゴブリンキングとは比べるまでもにゃいよ。」
「あぁ、そういうことか。あいつが特別だったんだな。」
「そうだよ〜。リキ様は前に魔族に昇格してるゴブリンジェネラルすら苦もにゃく殺してたんだから、レベルを上げてすらいにゃいだろう魔物のゴブリンキングにゃんて片手間で殺せる程度の強さでしかにゃいだろうね。」
ゴブリンキングという種族が強いんじゃなく、あの化け物が異常だっただけか。
魔族のゴブリンジェネラルについてはよく覚えていないが、覚えていないってことはたいした強さではなかったんだろう。
セリナと話しているうちにゴブリンたちは皆殺しにされたようだ。魔王以外は逃げたら逃げたでいいと思っていたが、逃げる間もなく殺されたみたいだな。
「……そういや、ゴブリンキングが弱すぎて首から上がなくなっちまったんだがドライアドたちは魔王になれるのか?」
「大丈夫にゃんじゃにゃい?イーラはわかる?」
「ん〜?頭がないなら心臓だけで大丈夫だよ。」
さっきから会話に参加せずに暇そうにしていたイーラが答えたが、信じて大丈夫だろうか?……まぁ実際に食べさせて確認すればいいだけか。
「今回の魔王は誰が食う?」
「私がいただきたく思います。」
戦闘を終えて近づいてきたドライアドたちに確認を取ると、ドライアドの代表的なやつが前に出てきた。
ドライアドやトレントは名前がないから呼ぶときに面倒だな。だが、普段連れ歩かない魔族に名前をつけたところで覚えられるかわからないんだよな。村人の名前も一部しか覚えてねぇし。……とりあえず名前はまだいいか。
「そしたらゴブリンキングの死体はドライアドにやるからゴブリンキング以外の掃除はイーラに任せる。そういや血はサーシャだったか?」
「ゴブリンの血はいらぬ。」
「じゃあイーラがもらっちゃうね。」
好みがあるらしいサーシャは嫌そうな顔で断り、イーラが走って掃除に向かった。
サーシャはたしか血のストックがあればあるほど強くなってた気がするんだが、好みで断るってことは最大まで血のストックが貯まってるのか?それともよほどでもなければ飲みたくないほどに不味いのか。……ゴブリンは見た目的に不味いって可能性が高そうだな。
ゴブリンの死体の掃除に向かったイーラからドライアドに視線を戻すとゴブリンキングの横で片膝を地に着けるように屈み、右手をゴブリンキングの胸の位置に置いていた。
ヒトミは素手で胸を開いて心臓を掴み取っていたが、ドライアドは戦闘が得意ではないらしいから心臓が取り出せなくて困っているのかもしれねぇな。そう思って短剣を渡そうと一歩進んだところでゴブリンキングの死体が萎れ始めた。
徐々に皺が増え乾燥し、ミイラのようになったかと思えば、表面がチリのように風に飛ばされていく。
そういやドライアドはトレントの進化先なんだったか?それなら口で食べるより根から吸収するような食べ方ってのも納得ではあるか。
胸を開いて心臓を取り出して食べるのもなかなかグロいが死体がチリになるまで養分を吸収されるってのもエグいな。
ゴブリンキングだったものが骨に積もるわずかなチリになるまでなんとなく見ていたところでドライアドから進化申請がきた。
今までも奴隷や使い魔からくるスキル取得申請や進化申請はほとんど意識すらせずに許可しているから、今回も何も考えずにほぼ反射で許可を出した。
目の前のドライアドが淡く光り、すぐに光が収まった。今の演出からして進化を終えたんだろうが、進化前との違いがよくわからない。
比較のために他のドライアドと見比べるが……やっぱり違いがよくわからん。胸が少し大きいか?いや、元から他の個体より少し大きかったような気もするから進化で変わったわけではないか。
使い魔の画面からステータスを確認するとちゃんとドライアドクイーンLV1となっているから首から上がなくても問題なく魔王になれてはいるみたいだ。
「ドライアドも進化できたし、次はオークキングだな。セリナ、先導頼む。」
「は〜い!」
返事をしたセリナが小走りで次に向かう後ろをついていく。
魔王のくせに思ったより弱くて戦闘訓練にすらならないから、次も同程度の強さなら俺が戦っても得られるものはなさそうだな。
もともと魔王討伐はさっさと終わらせる予定だったから仲間が魔王に進化する以外に得られるものがなくてもいいっちゃいいんだが、せっかくだしカリンたちの練習相手にするか。カリンたちにとってはちょうどいい相手かも知れないしな。