377話 感傷
377話 感傷
東門の外で待っていたら、セリナが戻ってくるよりも早く門の内側から知っている気配が馬車の音とともに近づいてきた。
今日俺らがこの町に来ることは連絡していないはずなんだが、どこかから聞いてわざわざ来たのか?それともたまたま来ただけか?
知っている気配の人物が門を出て来るようだからと目を向けると、護衛に囲まれて進んでくる馬車が門から現れた。その馬車の御者が俺らを見てから進路を変えて真っ直ぐ俺らに近づいてきたから、たまたま出かけるところだったというわけではないみたいだな。
貴族とは関わりたくねぇからあんま会いたくなかったんだが、べつに敵ではないから来ちまったものは仕方ねぇか。
俺らの目の前で馬車が止まり、護衛の騎士と思われるやつが開いた馬車の扉から降りてきたのは気配通りの人物だった。たしか名前はレガリアだったはずだ。前回この町にきたときに関わりをもった侯爵令嬢だ。
「ご無沙汰しております。その後お変わりは……そんなに嫌そうな顔をされると悲しいです。」
騎士の手を借りて馬車を降りたレガリアが笑顔で俺らに声をかけてきたのに、俺の顔を見た途端に悲しそうな顔へと変わった。
どうやら面倒だというのが顔に出ちまったみたいだ。
「悪い。なんか用か?」
「先ほど勇者様からご連絡いただいたので、今回の神薬の代金をお支払いにきました。また、大変申し訳ないのですが、こちらの手違いで以前にも勇者様にご使用いただいた神薬の代金と私がいただいた身代わりの加護付きの指輪の代金をまだお支払いできていませんでした。お支払いが遅れてしまった分も含めて金貨250枚を用意しましたのでお受け取りください。」
レガリアのセリフの後にメイドが金貨の詰まった袋を持って前に出てきた。
たしか名前はメアリーだったか?
「やけに多いが、また次の依頼の前金だとかふざけたことをいうつもりか?」
「今回はこちらの不手際によるお支払いの遅延なので、そんなことはいたしません。内訳は神薬の現在の相場に合わせ金貨120枚を2本分、身代わりの加護付きの指輪の現在の相場に合わせ金貨5枚、遅延金として金貨5枚の合計金貨250枚となっています。お渡しが遅れてしまい申し訳ありませんでした。」
そういうことなら遠慮なくもらうか。
ずっしりと重さのある袋をメアリーから受け取り、アイテムボックスにしまった。
この国では貴重なのか一時的な値上がりなのか俺が指定した金額より神薬も身代わりの加護付きアクセサリーも高いが、払う本人がそれで納得しているなら断る理由がないしな。
「たしかに受け取った。わざわざこのためだけに悪いな。」
「いえ、リキさんとはまたお話がしたかったので、戻ってきてくださったと教えていただけて助かりました。昼食はもうお済みでしょうか?」
用は終わったのに帰らないのか。
俺と話したいってのは社交辞令……じゃなさそうなのが意味不明だ。
「まだ食ってないな。」
俺の答えを聞いたレガリアが嬉しそうに微笑んだ。
「それではご一緒にいかがでしょうか?」
そんな純粋な微笑みを向けられたら断りづれぇじゃねえか……。
「一緒にって時間的にレガリアの分は既に家で用意されてんじゃねぇのか?」
「はい。追加する分には問題ないと確認は取っていますので、リキさんたちもどうでしょうか?」
「悪いがウチはほとんどが奴隷と使い魔だから遠慮するわ。飯食うのにこいつらに気を使わせたくねぇからな。」
「私の家に客人を見下す者はいません。それに私とメアリー以外は食堂から外させますので気を使わなくて大丈夫です。」
気を使わなくていいといわれて本当に気を使わないのなんて俺や使い魔たちくらいじゃねぇか?と思いつつ確認のためにアリアを見たら見つめ返された。首を縦にも横にも振らないってことは任せるってことか?いつもなら貴族邸に行くってときは拒否してたと思うんだが、今回は肯定こそしなかったが拒否もしないってのは珍しい。
カリンたちは明らかに貴族なレガリアからの誘いを聞いて驚いてはいるが、ローウィンスで耐性がついたのか忌避感はなさそうだ。他の仲間も見てみるが、誰もあからさまに嫌な顔をしているやつはいないみたいだな。
というかレガリアはそこまでして俺らと一緒に飯を食いたいのか?
もしかして飯を食わせて恩を着せてから頼み事でもする気か?だとしたら残念ながらそんなことで頼みを受けるかどうかを変えるつもりはねぇから、レガリアからしたら飯代の無駄でしかないんだがな。俺らにとっては得でしかないから行ってもいいっちゃいいんだが……。
「……今はセリナを待ってるから無理だ。」
少し迷いはしたが、やっぱり貴族との付き合いは面倒だからと断った直後に森の方から凄い速さで近づいてくるセリナの気配を感じた。
タイミングの悪いやつだな。
「遅くにゃってごめんにゃさい!」
そのまま俺らのところまで走ってきたセリナが申し訳なさそうに頭を下げた後、レガリアと俺を交互に見てからニコリと笑顔を向けてきた。
どこからかはわからないが、これは話を聞いてたっぽいな。
そんでこの笑顔は自分を言い訳に使うなってことか?いや、さすがにそんなことに今さら文句つけるとは思えねぇからセリナ的には行ってもいいって意味かもな。
前は断っていたアリアも今回は拒否してないし、俺もどうしても行きたくないわけではない。カリンたちも問題ないなら今回は誘いにのって美味いタダ飯をいただくとするか。
「セリナさんも合流できたようですので、いかがでしょうか?」
「……そうだな。せっかくだしご馳走になろうと思う。」
「嬉しいです。それでは少々お待ちください。」
レガリアがメイドのメアリーに目配せをするとメアリーが門の方に早足で向かっていった。
「リキさんたちは食べられない物などはありますか?」
俺がメアリーを目で追っていたら、レガリアが声をかけてきた。
俺はとくにないからアリアたちに確認するように目を向けたが誰も反応はなかった。
今まで気にしていなかったが、レベルとかで体が強化されたり加護で耐性をつけられるようなこっちの世界にもアレルギーとかあったりするのかね?
「とくにないから任せる。」
「それなら良かったです。肉料理を多めに追加してもらえるように伝えてありますので、楽しみにしていてください。」
「それはありがたいな。」
レガリアとそんなやりとりをしている間にメアリーが馬車を5台連れて門から出てきた。
門の裏に待機させていたのか?
今回はカリンパーティーやドライアドたちも連れてきてるから前回より大人数なのに対応できるように用意していたんだとしたら、よほど俺たちと飯を食うのを楽しみにしていたのかもしれねぇな。
レガリアは友だちがいねぇのか?……まぁそこまで楽しみにされていたんだとしたら悪い気分ではねぇけど。
「用意ができましたので、馬車で向かいましょう。」
微笑みかけてきたレガリアはここに来るときに乗っていた馬車のところに戻り、メアリーの手を取って乗り込んだ後に俺の方を見てきた。
これは俺もその馬車に乗れってことか。
俺が歩き始めるとアリアとセリナとイーラとテンコがついてきた。そこそこデカい馬車だから7人くらいは大丈夫か?もし無理ならテンコは俺の膝の上か体内にでも入れておけばいいか。
他は御者の案内によっててきとうに振り分けられ、全員が乗ったところで馬車がレガリアの家に向かって進み出した。
レガリアの家に着いてからはレガリアの両親にかるく挨拶はしたが、その後はすぐに食堂に案内されてレガリアと俺らだけで昼食を食べることになった。そして本当にそれだけで何か他に用事があったり頼み事をされたりということはなかった。
食べる場所と飯の豪華さが変わっただけで、前に宿屋で食べたときと同じように雑談しながら飯を食っただけで終わった。
いや、同じじゃねぇな。あの時は腹を満たすついでに話していただけだったが、今回は会って話をするって方がメインだったように思う。今回みたいに特に用があるわけでも何かのついででもなく会話を楽しむ目的で集まって飯を食うってのは久しぶりな気がする。そのうえ飯が食い終わったのに茶を飲みながら雑談を続けたのなんて、この世界に来てからは初めてかもしれない。
べつにレガリアとは特別仲が良いわけでもないどころか、貴族だからあんま関わりたくねぇなって思っていたはずなんだがな……。
でもまぁ、たまにはこういうのも悪くねぇか。
特に目的もなく集まって飯を食って雑談するっていうのが、中学時代に仲良かったあいつらとファミレスで集まって騒いだことと重なったからかもしれねぇな。
ずいぶん懐かしい記憶を思い出させてくれただけでもレガリアの誘いに乗って良かったと思う。
懐かしいっていっても中学卒業してからまだ1年程度しか経ってねぇはずなんだけどな。
帰りは馬車を断って歩きながらそんなことを考えていたんだが、横を歩くアリアが俺を見ていることに気づいて誤魔化すようにアリアの頭を撫でた。
べつにこの世界に不満があるわけじゃねぇから心配すんな。ただ、もう少しだけ感傷に浸らせてくれ。