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378話 有効活用

裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚【コミカライズ】 — novelba.com · All chapters

378話 有効活用

レガリアとの昼食後にゆっくりしていたとはいえ、まだまだ宿で休むには早すぎる時間だ。だからといって暗くなるまでそれほど時間があるわけでもないんだよな。

とりあえず宿は取ったが、どうするか。

「今からトロールキングを倒しに行ったとして夜までに帰ってこれると思うか?」

さっきトロールを数体倒したセリナならだいたいの強さを知っているから討伐時間とか予測できるだろうと聞いてみたら、セリナは窓から空を見たあと少し考える仕草をとった。

「みんにゃで走って行ってトロールキングはリキ様が倒して、他は私たちがさっさと片付けてすぐに走って戻ってくるにゃら夕方頃には戻ってこれると思うけど、勇者パーティーや騎士の人たちがまだいるかもしれにゃいよ?」

そういや俺たちが帰ってきたときに勇者たちがトロールのところに向かってたんだったな。

「…勇者が今どのあたりにいるか、セリナさんでもわかりませんか?」

「さすがにこれだけ人がたくさんいる町中だと匂いや音が雑多すぎるから、せめて外壁より中に入ってきてくれにゃいとわからにゃいよ。」

アリアは今から行くのに乗り気のようだ。

というか、セリナは壁の中に入りさえすれば勇者の位置がわかるのかよ。ここが門からそこまで離れていないとはいえ、こんだけ人が多い中でスキルも使わず区別がつくのは凄いというか怖いな。俺は気配察知を使っても門のところまではわからねぇのに。

これって俺が前に花街通りとかいう風俗街に行ったのも香水の匂いとか関係なくセリナにはバレてたんじゃねぇか?

セリナなら歳のわりに理解してそうだし、気づいてもそこまで気にせず戦闘に支障はでなさそうだから、まぁいいか。

セリナの感知範囲を気にしたら色々と出来なくなりそうだしな。

「トロールキングのいるところだけ残りの魔王の居場所と離れてるから行けるならこの微妙な空き時間で行っときたかったんだが、勇者たちがいるならやめとくべきか。そもそも勇者たちがこの時間まで帰ってきてないならトロールキングを討伐した可能性もあるから、行っても無駄になるかもしれないしな。」

「勇者パーティーだったらトロールキングを倒せるとは思うけど、トロールが集団でいる気配のある場所は騎士たちが戦ってたところからけっこう離れていたから、たぶん大丈夫だと……帰ってきたみたい。」

なぜかセリナは今の勇者パーティーの実力を知っているらしい。もちろん俺は前回戦った時の実力しか知らん。

そういう情報はいつどこで手に入れて、どこで止まってるんだ?それともあの時の勇者の実力でもトロールキングは倒せるってことか?

あの時の勇者はあまり強いイメージはなかったが、負けてるくせにまだ本気じゃないようなことをいってたから、魔物相手ならもっと強いのかもしれねぇな。

「帰ってきたって勇者たちか?」

「そう。勇者パーティーと騎士たちもみんにゃ帰ってきたと思う。」

「じゃあちょうどいいし行くか。トロールキングを討伐したか聞きたいから勇者のところに案内してくれ。」

「はい。」

「今回は時間がないし、さっさと終わらせたいから全員で行くぞ。」

セリナ以外の全員も強制参加させると告げたが、とくに嫌がられることもなく、全員からの返事を聞いて宿屋を出た。

セリナの案内で道を進むと他の通行人が勝手に道を空けてくれる。

レガリアの家から宿屋を探しに向かうときにも思ったが、この人数で歩くと威圧感があるのかもしれない。出来るだけ邪魔にならないよう横に広がらないように気をつけてはいるが、勇者たちのいる方に最短距離で向かうために裏道を使ったりしてるから、道幅を考えたら普通に邪魔だろうな。すまん。

しばらく進んで大通りに出ると俺にも勇者たちが見えるようになり、そのタイミングで勇者パーティーの弓を背負ってる女が俺らに気づいて振り返った。そして、勇者に俺らのことを伝えたようで勇者も俺らに気づいた。

今回の勇者は嫌な顔はせず、騎士のやつらに何かを伝えてから勇者パーティーだけ俺たちの方に走ってきた。

「俺の仲間を助けてくれて本当にありがとう。」

「あ、ありがとうございます。」

俺らの目の前まできた勇者が俺に深々と頭を下げ、ヒーラーっぽい女はなぜかちょっと怯えながら礼を述べて頭を下げてきた。

この女が死にかけてたやつか。

他のパーティーメンバーは微妙な顔をしながらも一応感謝はしているのか、軽く頭を下げてきた。

「俺は許可を出しただけで、そいつを助けようとしたのはこのセリナだから、感謝ならこいつにしろ。俺はセリナにいわれなきゃ助けるつもりはなかったし、神薬については金をもらってるから気にしなくていい。」

「ありがとう!」

「本当にありがとうございました。」

ヒーラーはセリナに直接助けられたからか、俺の時よりも礼に心が籠っている気がする。

「にゃはは……。私はリキ様の奴隷にゃんだけど……リキ様がこういってるから感謝の気持ちはもらっておくね。だからもう頭を上げてほしいかにゃ。」

「君が助けてくれなければ俺らが到着する前に全滅していたと聞いている。感謝してもしきれない。」

勇者は頭を上げたが、さらに感謝の気持ちを込めて真剣にセリナを見ていた。その眼に耐えられなかったのか、セリナが苦笑しながら俺を見てきた。

「感謝は十分伝わったからもういい。戻ってくるのにずいぶん時間がかかったみたいだが、追加でトロール討伐でもしてたのか?」

「いや、亡くなった方々を運ぶ手段がなく、道具を取りに戻る時間もなさそうだったから、騎士団が明日の朝に回収に行くまでに魔物に食い荒らされないよう一度埋葬することになって、その間の護衛として残っていたんだ。」

ということはトロールキングはまだ討伐されていないってことだな。

「そうか。じゃあ俺らはもう行くが、せっかく助かったんだから無理はすんなよ。」

「あぁ、もう効率を優先してパーティーを分けるなんてことはしないようにするよ。本当にありがとう。」

また頭を下げてきた勇者に付き合っていたらいつまでも終わらなそうだから、頭を下げてる勇者を置いて東門へと向かった。

森の中をセリナを先頭にして走っていたら、以前オーガキングがいたところを超えたところでアリアが隣に並んできた。

何かあったのか?

「…リキ様、少しこの先でやりたいことがあるのですが、いいでしょうか?」

この先ってのがどのあたりかわからないからとりあえず走るのをやめて歩き始めると、セリナが気づいて少し先で止まり、他のやつらも俺に合わせて歩きだした。

夜になる前に帰りたいんだが……木々の隙間から見える空の色的にまだ時間に余裕はありそうだな。

「まぁ少しだけならいいか。」

「…ありがとうございます。セリナさん、騎士が戦闘していた場所に案内してもらえますか?」

「いいよー。」

セリナが走りだしたので俺らもまた走ってついていくと、すぐに目的の場所についた。

俺でもわかるほど血の匂いがまだしているし、明らかにこの辺りだけ荒れているから、ここで騎士団がトロールやオーガと戦ったんだろうとわかる。

おそらく素材を回収したあとに焼いたと思われるトロールやオーガだったものの残骸っぽいものもあるから、ここで間違いないだろう。

森の中で燃やすのはどうかと思うが。

「カリンたちは今のうちに休んでおけ。」

「はい。」

けっこう疲れているっぽいカリンたちに声をかけたら、座り込みこそしなかったが、膝に手をついて荒い息を吐き始めた。

ゴブリンキングたちとオークキングたちを倒してそれなりにレベルが上がってると思うんだが、まだこの程度で疲れるのか。

まぁアリアはここで何かしたいみたいだから、その間に回復するだろう。

「…セリナさん。亡くなった騎士の方々がどのあたりに埋められているかわかりますか?」

アリアは周りを見回してからセリナに目を向けた。

そういや死体を埋めたとかいってたなと見回すと土が微妙に周りと違うところがあった。おそらくあそこに埋められているのだろうが、アリアにはさすがに見ただけではわからなかったみたいだ。俺は観察眼のスキルのおかげで気づけただけだしな。

それにしてもなんでわざわざそんなことを確認するんだ?

ジョブが巫女だけあって、死者に黙祷でも捧げたいのかね。

俺が場所を確認する程度の時間が経ったのにセリナの返事がないなと目を向けると、セリナは訝しんだ目でアリアを見ていた。

「……にゃにするつもり?」

「…ちょうどいいので、わたしたちが去ったあとにアンデッド化しないように処置をしようと思っています。」

そういや人間の死体は魔力が残ってるからアンデッドになることがあるんだったな。

ちょうど巫女のアリアがきたから浄化的なことをしておこう的な意味か?

「………………あそこだと思うよ。」

なぜかセリナはかなり嫌そうな顔で渋々と死体が埋められてる場所を指差した。

やっぱり俺が思った場所であっていたようだな。

「…ありがとうございます。」

アリアがセリナに礼をいったあとにカリンパーティーの方に振り向いた。

「…パトラさんとピリカールさんは『ホーリーピラー』の詠唱を始めてください。」

「「……え?」」

「…ここはとても魔力が濃いといわれている森の奥なので、埋めた人間の死体がすぐにアンデッド化する可能性があります。あくまで可能性なのですが、今回は既にアンデッド化が始まっている気がするので、合図とともにすぐに『ホーリーピラー』を撃てるように準備をしてください。まずはパトラさんが1体の魔物を狙って撃ったあとに違う魔物を狙ってピリカールさんが撃ってください。必ず『ホーリーピラー』のみで魔物をそれぞれ1体倒してください。他はわたしが『浄化』します。」

パトラとピリカールは困惑しながら互いにどうするかと目配せしていたが、アリアが2人を見続けていたからか、疑問は一度置いといて従うことにしたようだ。

それにしてもアリアはそんな気配とかわかるんだな。

巫女のスキルなのか?

でもカリンは何もわかってなさそうだが。

「「我求む。彷徨える者を包み、救済せよ。」」

2人が詠唱を始めたのを確認したアリアが騎士たちが埋められている方向に向き直ってからアイテムボックスから何かを取り出し、その何かを投げた。

放物線を描いて騎士が埋められてるところに向かう何かは僅かに黒い靄を纏っているようで、軌跡をたどるように黒い靄の線が引かれる。

この世界での線香みたいなものか?

視界の端ですごい嫌そうな顔をしているセリナが見えたから振り向くと、セリナも俺に見られたことに気づいて悲しそうな苦笑を向けてきた。それはどういう意味だ?

セリナを見ていたが何もいうつもりはないようで視線を逸らされたから、あらためてアリアが投げた何かが落ちたところに目を向けた。そしたら地面から腕が生えてきた。

意味がわからずしばらく見ていたら他にも何本か腕が生えてきたんだが、もしかして死んでなかったのか?

たまに海外だと土葬だから埋めたあとに生き返るってことがあるって聞くがこの人数が生き返ることってあるのか?……いや、違うな。上半身が這い上がってきて顔や胴体が見えたら間違いようがない。見るからに生きてる状態ではないわ。

「…ゾンビです。パトラさん、今のうちに撃ってください。」

『ホーリーピラー』

光の柱に呑まれたゾンビの上半身は力なく項垂れ、動かなくなった。

前にクレハがスケルトンに撃った時は消滅していたと思うが、今回はアンデッドになりたてだからか死体はそのまま残るみたいだ。それともスケルトンとゾンビの違いなだけか?

「…ピリカールさんはパトラさんが撃った位置から少し離れたところにいるゾンビを狙ってください。」

『ホーリーピラー』

追加で這い出てきたゾンビがピリカールの魔法を受けて動かなくなった。

それを確認したアリアがアイテムボックスから取り出した杖を振るったら、キラキラとした何かがゾンビたちに降り注ぎ、全てのゾンビが動かなくなった。

魔法名すらいっていなかったから、何かしらのスキルを使ったんだろう。

「今のは『浄化』ですか?」

アリアが複数のゾンビを一撃で倒したのを見たカリンが驚いた顔で質問していた。

「…はい。」

「ゾンビって『浄化』で倒せるんですね。」

「…人間の死体がアンデッド化したばかりであれば効果がありますが、魔物になってから時間が経っていると効果がないと思います。」

「へぇー。そうなんですね。死者の埋葬時以外で使う機会がなかったので知りませんでした。勉強になります!」

同じ巫女のカリンが知らなかったってことは

『浄化』ってのはアンデッド特効ではないんだな。

「…イーラ。」

「なーに?食べちゃっていいの?」

「…いえ、埋め直してください。」

「……はーい。」

イーラがアリアの命令で動き出すと、なぜかドライアドたちも手伝いに行った。

それと入れ替わるようにセリナがアリアのところまで行き、アリアを連れてカリンパーティーから距離を取るように離れていった。

これはカリンたちには聞かせたくないような何かの話し合いが始まるくさいな。

「カリン、もしかしたら浄化漏れがあるかもしれないから、埋めるときに念のため全ての死体にあらためて浄化をしてやってくれ。パーティーメンバーはカリンの護衛だ。」

「はい。」

俺が急に指示を出したせいでカリンたちは驚いていたが、素直に従ってくれた。

あらためてアリアとセリナを確認すると、セリナがアリアの両肩に手を置いて、真剣な顔で目線を合わせていた。

「アリア、今回はたしかにアンデッドににゃっちゃう可能性が高いから止めにゃかったけど、もうやっちゃダメだよ。」

「…なぜでしょうか?アンデッド化したということはユリリンさんは『浄化』を使えなかったと思うので、むしろいい結果になったのではないでしょうか?結果としていいなら多少利用しても問題はないかと思います。」

「リキ様が亡くなったあとに同じことをやられて許せるの?」

「…………ごめんなさい。」

「悪人に対してやってることには目を瞑るけど、それ以外で人の尊厳を弄ぶようなことはたとえ死後でもやっちゃダメだからね。奴隷の私たちがリキ様に大事にしてもらっているのにその私たちが敵でもにゃい他の人たちを奴隷のように物として扱うのはおかしいってわかるでしょ?」

「…はい。」

「リキ様は一線越えるとたぶん怒ってすらくれにゃいから、気をつけにゃきゃ後悔しちゃうよ。」

「…………はい。」

あれは巫女のスキルでアンデッド化する気配がわかったとかじゃなくて、パトラとピリカールのジョブ取得条件を満たすのにちょうどいいからって意図的にアンデッド化させたのか。いや、発想がおかしいだろ。というか、なんでアンデッド化させるようなアイテムを持ってるんだよ。

それにアンデッド化させるなら、これからトロールを殺しに行くんだからせめてその死体を使えよって思ったが、わざわざ人間の死体を選んだってことは魔物の死体じゃ無理ってことか?いや、だとしたらなんで無理だって知ってるんだ?検証したのか?

俺がドン引きしていたら、セリナが説教を終えたようでアリアを連れてきた。

アリアは基本無表情なんだが、今回は珍しく泣きそうな顔をしていた。俺に捨てられるとでも思ったのか?

まぁこれが奴隷として買ってすぐだったら可能性はあったが、今さら捨てるつもりはない。捨てはしないが、教育は考えないといけねぇかもな。

アリアは生まれた時から奴隷だから常識が歪んでいるだろうし、その後は俺といたせいで生死感も狂ってるかもしれない。だからといってこの世界の常識を知らん俺が教えると余計に歪みそうな気がする。

まぁ一応アリアはセリナに聞かれたときやパトラとピリカールに説明するときに誤魔化していたし、もしかしたらいけないことかもしれないくらいの自覚はあったんだろうから手遅れではないはずだ。

とりあえずアリアの頭を撫でながら目線を合わせた。

「セリナがいってる意味は理解できたか?」

「…はい。」

「今後もセリナからの指摘なら聞き入れられそうか?」

「…はい。」

「ということで、今後もアリアが踏み外しそうになったらセリナが教えてやってくれ。」

俺が教えられないなら常識を知っていて人の気持ちを理解できるやつが教えればいい。

前にもアリアのことをセリナに丸投げしたことがあった気がするが、そもそもセリナはアリアの世話役にちょうどいいと思って買ったんだから問題ない。

ということで、セリナに丸投げしたらジト目を向けられた。

「いいけどさー。にゃんだかにゃー。」

「頼ってばっかで悪い。いつもありがとな。」

「………………仕方にゃいにゃー。」

セリナに顔を向けて頭を撫でながら礼をいったら視線を逸らしながら了承してくれた。

感謝してるのは本心だが、ずいぶんと簡単に機嫌が直ったな。

まぁ俺としては助かるが。

「アリアも次から同じようなことをしなければいいだけだから、あまり気にすんな。間違ったときはセリナが都度教えてくれるから、少しずつ学んでいけばいい。」

アリアの頭を両手でわしゃわしゃと撫でたあとにアリアの頬を両手で挟んでから摘んで無理やり笑顔を作った。

「…はい。」

アリアはされるがままで俺を見つめながら返事をした。

まだ落ち込んでそうではあるが、もう泣きそうな顔ではなくなったから大丈夫だろう。

そのタイミングでイーラが走って近づいてきた。

「埋め終わったよー!」

「よし。じゃあ休憩は終わりだ。」

「はい。」

全員からの返事を聞き、あらためてトロールキングのところへセリナに先導させて走り出した。