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379話 トロールキング

裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚【コミカライズ】 — novelba.com · All chapters

379話 トロールキング

しばらく走ったところでセリナが何かの合図のようなことをして減速し始めた。

合図の意味はよくわからなかったが、セリナに合わせて徐々に減速して止まり、木の陰からセリナが促した方に視線を向けた。

「……あれがトロールか。」

おそらく木々の生え方的に見やすい場所に陣取ったんだろうが、それでも木々が多くまだかなり距離があるから、目を凝らしても部分的に人型の生物が数体見える程度でわかりにくい。それでもこの眼のおかげで見えてはいるあれがトロールなら、正確なサイズはわからないが縦にも横にもなかなかにデカい気がする。この距離であのサイズだと普通のトロールの腕だけで俺1人分と同じくらいの体積がありそうだな。

「この辺りにいるトロールはあそこに集まっているので全部みたいだね。奥の方に周りよりも頭2つ分くらい大きいのが1体いるから、それがトロールキングにゃんじゃにゃいかにゃ。」

奥の方といわれても木が邪魔で全体は見えねぇよ。まぁ行けばわかるか。

「奥にいるなら俺はまわり込んだ方がいいのか?」

今回は時間がないからなる早で終わらせる予定だから一応確認をしたんだが、何故かセリナに首を傾げられた。

「トロールじゃ動きが遅いから私たちの戦闘訓練相手には微妙だし、今日は時間もにゃいからリキ様の『超級魔法:隕石』である程度潰しちゃった方がいいんじゃにゃいかにゃ?こんにゃ奥まで人が来ることはにゃいだろうから多少森が荒れても問題にゃいだろうしさ。」

……あぁ、だからやけに遠くで立ち止まったわけか。

これだけ離れていて、処理するだけなら高火力の魔法をぶつけるのが手っ取り早いわな。トロールはタフらしいから魔法で殺せずともまとめて弱らせておけば処理がかなり楽になるだろうし。

普段使わないから全く考えてなかったわ。

それにしても『超級魔法:隕石』なんてだいぶ前に一度使ったきりだったと思うが、セリナはよく覚えてたな。

たしかケモーナとの戦争時に使ったときは着弾時に爆発してそこそこの範囲を……森の中で使って大丈夫か?俺の魔法のせいで山火事とか洒落にならんぞ。

そういやあの時は山火事とか気にせず森にも撃ち込んだが、とくに問題はなかったし、宇宙からの隕石とはまた違うんだろう。たぶん。

「そうだな。とりあえず数発撃ってみるから、セリナは逃げたトロールがいたら教えてくれ。」

「はい。」

一応他のやつらも聞いていたかを確認するために見回したが、全員ちゃんと聞いていたっぽいな。

あらためてトロールたちに目を向けて位置を確認する。

トロールのサイズが大きいせいで遠近感を間違えないように周りの木の位置も確認してだいたいの距離を測る。まぁ魔法だけで全滅させる必要はないから多少ズレても問題ないだろう。

『超級魔法:隕石』

魔法名をいっている間に隕石の大きさや数、落とす場所などが求められた。

木に当たったとしても木々ごとトロールを押し潰すために大きめ…直径10メートルもあれば十分か。数は5個、トロールの群れの中心辺りに1つと念のため爆風で飛ばされた勢いのまま逃げられたりしないように群れの範囲を予測して、その範囲の端の4隅に落として囲う感じと決めつつ魔法名をいい終えると、思った以上に多くのMPを消費して空の5ヶ所に魔法陣が浮かんだのが木々の隙間から見えた。

その魔法陣から光の線が地上まで伸び、その光を目で追っていたら地面に到達したタイミングで光が爆発し、地面が揺れた。予想外の規模の爆発に死を予感したからか、視界に映るものが急にスローになった。

光の眩しさで目を閉じそうになったが、隕石の落下地点から広がるように木々がゆっくりと外側へと折れたり倒れたり吹き飛ばされたりし始めたため、驚きで目を閉じずにしばらくの間ただただ見ていた。いや、このままだと俺らもその衝撃に呑まれるんじゃねぇか?どうする!?

『上級魔法:土』

MPを大量に注ぎ込んで俺ら全員が隠れられる大きさの分厚い土壁を近場の木々を巻き込みつつもドーム状に作り、出来る限り硬化させた。

俺らを完全に覆う土壁が完成した瞬間に時間感覚が元に戻ったようで、壁越しでもわかるデカい衝撃が襲ってきた。木々のせいで隙間があったからなのか、デカい衝撃とほぼ同時になかなかの爆音も響き、その後も何かが連続して壁にぶつかる衝撃が続いた。

壁が少しでも欠けたらすぐに修繕するためにMPを注ぎ続けて崩れないように気をつけていたが意外と衝撃自体はすぐに収まった。それでも念のためしばらく様子見をし、土壁に何かが当たる感覚が全くない状態が続いたから土壁をどけて周りを確認した。

隕石が落下した辺りはここから見た限りでは木々どころか地面すらなくなっていて、そこから離れるほどに木々や地面が荒れまくって悲惨な状況に見える。

爆発地点からだいぶ離れている俺らの周りでも木々が倒れ、飛んできたっぽい木や破片やらが辺りに散らばり、ぱっと見無事な木々も枝が折れたり表面が削れていたりとボロボロになっていた。異世界の木々は太くて丈夫なのか、土壁越しでもあれだけの衝撃があったのに俺らより爆発地点から離れた場所の木々は意外と生き残っている。それでもけっこう先の方まで被害自体はあるみたいだが。正直、爆風と飛来物だけでこんな被害が出るのは予想外だ。

それに衝撃は土壁で防げたはずなんだが、体が若干痺れてる気がするうえに耳が変な感じがする。

隣ではセリナが頭を抑えて蹲り、苦しそうに呻いていた。

土壁の内外の被害差を見れば土壁のおかげで衝撃をかなり防げたのは間違いないだろうが、耳がいいセリナには俺ら以上のダメージがあったんだろう。実際なかなかの爆音だったから俺も耳が変な感じするし。

まぁあれだけの爆発があったのに山火事にはなっていないのが唯一の救いか。前に森で『超級魔法:溶岩』を使ったときはヤバかったからな。

他のやつらは大丈夫かと後ろを見たら全員が呆然としているようで、なかには尻餅をついているやつすらいる。いつも冷静なアリアすら珍しく半開きの口のまま周りを見ていて、セリナがダメージを負っていることには気づいていないみたいだ。まぁ俺が治せばいいか。ついでに自分にもかけておこう。

『ハイヒール』

『ハイヒール』

「大丈夫か?」

セリナに声をかけながら手を差し出したら、セリナがしゃがみ込んだまま俺を見上げてきた。その顔は涙と鼻水と涎で酷いことになっていた。

「……大丈夫じゃにゃいよ。」

「だろうな。酷い顔だ。」

セリナが出した手を握って立たせ、アイテムボックスからタオルを出してセリナの顔に被せるように投げ渡した。

セリナはタオルで顔を拭いたあとに鼻をかんで、自分のアイテムボックスにタオルをしまった。

「酷いのはリキ様だよ!トロールが逃げてもわかるように感覚を強化してるときにあんにゃ爆音を聞かされたらぶさいくにゃ顔にもにゃるよ!今のって戦争の時に使った『超級魔法:隕石』にゃんだよね?前と威力が違いすぎじゃにゃい?」

せっかく顔を拭いたのにまた涙目になって文句をいってきた。

そんなんいわれても俺も驚いたわ。

たしかに前より隕石のサイズを大きくしたが、ここまでの威力になるとは思わなかった。

「トロールはタフだって話だったし、木々が邪魔するだろうからと隕石を大きくしたら地面に激突したさいの衝撃が強くなり過ぎたみたいだ。ジョブレベルが上がってたせいで威力が上がったとかもあるかもな。」

「リキ様はいつも武器もにゃしに近接で戦ってるから勘違いしちゃうけど、魔法向けのジョブだったと再認識したよ。こんにゃ魔法が使えたら小国程度にゃら簡単に潰せるだろうし、そりゃ危険視されて当たり前だよね。」

セリナが苦笑しながら明後日の方を見て呟いた。

たしかに10メートル程度の隕石でこの威力なら今の俺のMPを使い切ればアラフミナの首都くらいの範囲なら更地というかクレーターにできそうな気がするからヤバい魔法なのは間違いない。だが、首都なら簡単に魔法攻撃を受けないような防衛手段があるだろうし、そもそも俺は無差別殺人なんて理由がなければやりたくねぇから危険視するほどではないと思うんだがな。

「とりあえずトロールキングがどうなったかの確認に行くぞ。アリアたちは怪我とかしてねぇか?」

「…大丈夫です。」

どうやら正気に戻ったようだな。

アリアが口を半開きにして驚いている顔も珍しくて悪くなかったが、陽が落ちるまでにそこまで時間があるわけじゃないから、早々に正気に戻ってくれたようでよかった。

「イーラは倒れた木がもったいないから使えそうなやつは全部回収してからきてくれ。枝が折れてるだけとか斜めってるだけとか表面が炭化してるだけとかのまだ生きてる木は放置でいい。」

「は〜い。」

イーラが返事をして木々の回収を始めたのを確認してからトロールたちがいた場所に障害物を避けながら走って向かい始めたんだが、木々がなくなって見やすくなっても隕石落下地点はがっつりクレーターになっているせいで、ここからだと全くトロールの姿が見えない。

近づくにつれてトロールだったと思われる腕やら足やら肉片やら炭化した何かやらがクレーターの浅いところに散らばっているのが見えてきた。

クレーターの端まで来てクレーター内を覗き込むと、トロールがタフな魔物だったせいかなかなかにグロい光景が広がっていた。

だが、もともといたトロールの数よりも肉片の量が少ない気がする。

「おっ、一体生き残ってるじゃねぇか。もしかしてトロールキングか?」

1体だけクレーターから出ようともがいているのがいた。

下半身はどこかに吹き飛んでるみたいだが、上半身だけで俺の倍くらいありそうだからたぶんトロールキングだろう。

この規模の爆発の直撃を受けただろうに体の大半を残したうえで生き残ってるとか本当に丈夫なんだな。まぁなんの抵抗もせず直撃してる時点で所詮は魔物なんだろうけど。

再生スキルのおかげか腹の傷は既に塞がっているようで、上半身だけで逃げようともがいているように見える。

腕もよく見ると再生途中なのか歪に曲がっているから咄嗟に頭を腕でかばって生き残ったとかか?まぁどうやって生き残ったかなんてのはどうでもいいな。ウチの魔族が魔王になるための部位が残ってるなら問題ない。

「たぶんね。あの爆発で生き残れた丈夫さと体の大きさからしてトロールキングだと思うよ。」

普通のトロールを見たことあるセリナも肯定してるし間違いないだろう。

「次は誰が魔王を食うんだ?」

「私がいただきたく思います。」

今回もドライアドが食べるみたいだ。

「トドメを刺した方がいいか?」

「いえ、あそこまで弱っていれば私1人で大丈夫です。行ってきます。」

ドライアド3号がクレーターを下りていくのをなんとなしに眺めていたら、隣にサーシャが並んできた。

「あきらかに死体の数に対して流れている血が少ないようじゃが?」

「たぶん隕石の熱で蒸発しただけで俺が意図的にやったわけじゃねぇよ。文句は肉片すら残さず消滅したトロールにいえ。」

「……ま、まぁ文句をいったわけではなく、ただ気になっただけなんじゃがな。では、体が残ったトロールの血でも吸ってくるとしようかのぅ。」

俺がてきとうにあしらったらサーシャは怒られたと思ったのか、視線を泳がせて逃げるようにクレーターを下りていった。

……誰もこのクレーターに対しては何もいわないんだが、これはおかしいとは思わないのか?

5つの隕石の落下位置が近すぎたせいでクレーターが重なっていてかなり広範囲で地面が陥没している。

おそらく化け物どもなら対処できるだろうから『超級魔法:隕石』自体が効果的な攻撃手段かはなんともいえないが、直撃した場合の結果だけ見るなら個人が出していい火力じゃねぇと思うんだよな。しかもこれが最大というわけでもないっていう……。

これは「歩く災厄」といわれても否定できねぇかもしれねぇわ。

でも、なぜだかこの程度では爆風ではなく隕石そのものが直撃したとしても人狼皇帝レベルの化け物だと殺すどころか深い傷すら負わせることも出来ないんだろうなと思っちまった。

そもそも魔法を発動してから魔法陣が浮かんで隕石が真っ直ぐ落ちるって流れじゃ余裕をもって躱されるだろうし、近接戦闘中に使ったら俺自身が大ダメージを食らうから使えない魔法だけどな。

人狼皇帝とやりあうなら近接攻撃でこの程度の火力を出せなきゃ話にならねぇ気がする。

殺すならさらに高火力をガードを避けて当てられる攻撃手段が必要だろう。

今のレベルなら『一撃の極み』を最大までタメればいけるか?

ちょっと試してみるか?

既にこんだけ地面が陥没してるなら追加でもうちょい凹んだところで大差ないだろうし、本気で一発地面を殴ってみるか?

いや待て!ガントレットが壊れたらもう直せねぇんだった。

黒竜素材を手に入れるまでは戦闘以外でガントレットを壊すようなことは避けなきゃなんねぇんだわ。すっかり忘れてた。

「…リキ様。終わりました。」

俺が魔王討伐と関係ないことを考えていたら、倒れた木々の回収も魔王の吸収も肉片の掃除も終わったらしい。

……。

『上級魔法:土』

さすがにこのまま放置はまずいような気がし、クレーターを埋めるために魔法で土を生み出した。

クレーターの縁に盛り上がった土だけでは穴を埋めるには全く足りず、無から土を生み出しているからかMPが馬鹿みたいに減っていくが、なんとかMPがなくなる前に直径数百メートルはあり1番深いところで十メートル以上も陥没していたクレーターを埋めることが出来た。

そのまま魔法で地面をある程度均して、ぱっと見元通りにしておいた。まぁ周りの木々が広範囲でなくなっているから何かあったのはバレるだろうけどな。

これ以上はどうしようもないから、証拠隠滅は諦めて、暗くなる前にさっさと帰ることにした。