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歓迎会(1) 2022年7月15日 公開

【連載再開 5月20日5巻発売!】平民出身の帝国将官、無能な貴族上官を蹂躙して成り上がる — kakuyomu.jp · All chapters

歓迎会(1) 2022年7月15日 公開

「ここのチョモ曹長と同じ曹長は君たちか?」

ヘーゼンは監督していた4人を見る。そのうちに一人、痩せた小柄の男が近づいてきた。

「はい」

「君。名前は?」

「ディケットです」

痩せた小柄の男は答える。

「この訓練の目的は?」

「そりゃ、戦闘のためです」

ディケット曹長は、軽くふて腐れたように言った。

「そうか。ならば、変更だ。全員、今から日が暮れるまで走ってもらう」

「……わかりました。ほら、お前たち。早くやれ」

「勘違いするな。君たち曹長もやるんだ」

「……はっ?」

「戦闘のために、こんな低レベルの訓練しか実施できないのだったら、走って体力向上に努めた方がマシだ。そして、走るだけならば、監督者など一人で十分だ」

「……」

ディケットや他の曹長たちの瞳に敵意の色が入る。しかし、ヘーゼンは気にしない。

「返事は?」

「……はい」

「他の者は?」

ヘーゼンが見渡す。曹長たちは悔しそうな表情を浮かべながらも、一応は返事をした。

「僕の見える範囲で、そことそこの木の間を30往復だ。1時間のタイムを切れ。できない者は、もう30往復追加だ。不正は許さない。発覚した場合は、このチョモ曹長と同じく、杖刑に処す」

「……っ」

次々と厳しい指示が飛び、曹長以下全員がこちらを睨みつけるが、ヘーゼンは気にしない。無機質に開始の合図を告げて、走らせる。

日が暮れ、訓練が終了した。下士官の大半は、1時間を切ることができた。恐らく、身体を酷使するのに慣れているのだろう。しかし、日頃、監督と称してサボっていた曹長たち、また日々の訓練を怠けていた少数の兵たちは、余分に草原を走ることになった。

「走ることは歩兵戦闘の基本だ。基本的な体力がつくまで毎日行うから、そのつもりでいてくれ。以上だ」

そう告げて、颯爽と訓練所を去る。後ろからついてくるカク・ズが下士官たちを眺めながら口を開く。

「全員が、こっち睨んでるよ? 特に曹長のチョモってやつ」

「睨むことは軍規違反ではないから問題ない」

「……そう言うことじゃないと思うんだけどな」

と言いつつも、それがヘーゼンの性格であることを熟知している巨漢の戦士は、それ以上なにも言わなかった。

部屋に戻り、支給された日用品を置く。歯ブラシ、コップ。寝癖直し用のヘアブラシ。魔杖(まじよう)以外は持って来なかったので、かなり簡素な内装になった。堅めのシングルベッドに寝転びながら、隊員の名簿を眺めていると、ノック音が響いた。

「誰だ?」

ヘーゼンは廊下にいるカク・ズに尋ねる。

「チョモ曹長だよ」

「……入ってもらえ」

扉が開くと、小太りの中年がうすら笑みを浮かべて入ってきた。

「あの、歓迎会の準備ができたのでお誘いしようかと思いまして」

「歓迎会? とても、歓迎してるようには見えなかったが」

ヘーゼンは、隊員名簿に目を通しながら言う。

「いや。俺らも、別にあんたと敵対しようとしてる訳じゃないんだ。少し、お互いに誤解があったと思うんだ。だから、美味しい酒と料理で親睦をさ」

「……」

無駄だな、と口から出そうになったが、こらえる。チョモ曹長の瞳からは、ありありと敵意が見て取れた。ヘーゼンはため息をつき、起き上がる。

「……わかった。食堂でやっているのか?」

「いえ。曹長が集まってる部屋があるんで」

「わかった、ありがとう。では、そこへ行けばいいんだな?」

「へへ。ご一緒しますよ」

「ヘーゼン。俺も行こうか?」

カク・ズが申し出ると、チョモ曹長の顔色が曇る。

「護衛なんて、必要ないって。俺たちは同じ第8小隊の仲間なんだから。まさか、仲間を疑おうってのか?」

「……はぁ」

ヘーゼンは思わずため息をついた。こうも、あからさまなアホが曹長の地位にいるなんて。下の者を虐げて、ずいぶんと図に乗ってきたのだろうと推察した。

「いいよ。僕、一人で行こう」

「おっと。そんな物騒なものは置いてくださいよ」

チョモ曹長はヘーゼンが 魔杖 ( まじょう ) を持ち出そうとしていたところを制止する。

「護衛用だ。いつ、なにがあるかわからないからな」

「だから、心配ありませんって。曹長が集まってるんで、敵襲が来ても俺たちが護ります。それとも、怖いんですか?」

「……わかった。では、行こう」

あからさまな挑発に乗ったフリをして、ヘーゼンは、 魔杖 ( まじょう ) を置いて部屋の外を出た。

チョモ曹長に案内された部屋の中に入ると、そこには曹長が5人、すでに席に座っていた。全員が嘘くさい笑みを浮かべている。

「……」

机を見渡すと、ワインの瓶が6本ほど置かれていた。料理は肉、魚が両方豪華なものが並べられている。自慢げにチョモ曹長がワインの瓶を一つ手に取る。

「へへっ、凄いでしょ? 料理人に言って作らせたんだ」

「……ああ」

恐らく無理矢理なんだろう。まったくもって無駄だと、ヘーゼンは思う。まあ、開かれたイベントを無下にはできないと、あきらめて席に座った。

「さっ。俺たちの気持ちです。グイッといきましょう」

チョモ曹長がワインのコルクを抜き、ヘーゼンの杯に注ぐ。

「……」

「ほら、どうしたんですか? 毒なんて入ってませんよ。まさか、怖いってこたぁないでしょうね?」

チョモが挑戦的な瞳を向ける。ヘーゼンは彼の瞳を見続けながら、別のワイン瓶を選び、コルクを抜いた。途端に、その場にいた全員がギョッとした表情を浮かべる。

「いや、僕だけじゃ悪いな。乾杯にしよう。全員、飲めるクチだろ? 君たちにもついであげよう」

「えっ!? いやいや、俺たちは少尉殿が飲んだ後、適当にワインを注いで飲みますよ」

「なにを遠慮している? 歓迎会なんだ。『最初は一緒に乾杯』が世間の常識だろう」

ヘーゼンは強引にチョモ曹長の杯を取って注ぎ、他の曹長たちにも順番に注いでいく。

「では、これからよろしく。乾杯」

端的に挨拶をして、ヘーゼンは一気に杯を傾ける。

「いいワインだな。美味しいよ……あれ、どうした? 浮かない顔をして。上官のついだ酒が飲めないのか?」

「……」

「安心してくれ。毒など入っていないよ。当たり前だ。 こ の ワ イ ン は 君 た ち が 用 意 し た も の だ ろ う ?」

「……っ」

漆黒の鋭い瞳で。青ざめたチョモの顔を、覗き込む。曹長たちは、顔面蒼白で杯を持つ手を震わせる。

「……ある時期、毒の研究に没頭した時期があってね。わかるんだよ。どのワインに毒が入ってるかどうかなんて……一目でね」

「ひっ」

「なーんてね? 冗談だ」

ヘーゼンは満面の笑みを浮かべた。