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甘い香りと共に

林檎転生 ~禁断の果実は今日もコロコロと無双する~ — novelup.plus · All chapters

甘い香りと共に

「…… 嘘 ( うそ ) だろ? トラックって!」 目の前には、 横滑 ( よこすべ ) りしながら、こちら目掛けて突っ込んで来るトラック。 荷台には、先日、猛威をふるった台風で、収穫直前に落ちてしまった、廃棄処分のリンゴ。山のようなリンゴ。「ああ、終わった……」 トラックはそのまま横転。俺は、荷台いっぱいに積まれたリンゴに押しつぶされた。 一瞬にして途切れる意識。しかし不思議な事に、リンゴの甘い香りだけは、細く長く、ゆっくりとフェードアウトして行くのだった。 σσσ  σσ  σ 微 ( かす ) かに、甘い香りが鼻の奥を刺激している。 ……いや、妙だぞ。 そもそも息を吸っている感覚がない。『……津さん』 見渡せど、ただ白く光る、何もない空間が広がっている。ここは……? 足元も、これまた 真綿 ( まわた ) のように真っ白。 〝足〟元? 自分の足が見えないんだが。『 古津 ( ふるつ ) さん』 あ、失礼。自己紹介が遅れてしまった。 俺は〝 古津大輔 ( ふるつだいすけ ) 〟33歳。彼女ナシ。しがないサラリーマンだ。 ……なんてな。 気付いてるさ。もうこれ死んでるだろ、俺。『すみません、私が少し目を離した 隙 ( すき ) に』 あーあ、やっぱり。 もしかして、あんた神様?『そう……ですね。あなたから見れば、そうなります。本当に申し訳ございません……』 ひたすら謝り続けてるって事は、死ぬはずじゃなかった俺が、何かの手違いで死んでしまったってパターンだろう。『はい。あなたは、寿命半ばにして、亡くなりました。あなたの世界の〝生命〟を管理している私の部下が、あろう事か居眠りをしてしまい……あなたはトラックに押しつぶされてしまったのです』 居眠りって……! 手違いどころじゃないぞ。 ……だが、そうか。なるほどなるほど。 と、なると、もう元の世界では生き返れないから、どこか別の世界に転生! だよな?『……なぜご存知なのですか?』 ふふふ。俺はこう見えても読書家でね! とくに最近は〝転生モノ〟に凝っていた。 死に方にも様々なパターンがあるが〝トラック〟はテッパンだ。むしろ、トラックに 轢 ( ひ ) かれたら、異世界転生できなきゃ詐欺だぞ、詐欺!『何を 仰 ( おっしゃ ) っているのか、よくわかりませんが、お詳しいようですので助かります。あなたは異世界に転生して頂くことになりました』 よぉし! キタキタキタ! で、能力は? 何か特別なスキルとか、すごいパワーとか、天変地異が起こせるような魔法とか、もらえるんでしょ? ね? ね?『……驚きました。そこまでご存知でしたか』 イエスっ! やっぱチートが無きゃね! さてさて、どんなのがもらえるのかなー? 死因がド直球だから、ここは定番なヤツかな? それとも結構な変化球パターンか? さあ、バッチコイ!『クスクス……あなたが前向きな方で助かります。一般的な転生の場合は、基本能力の底上げと、伸びしろの強化に加え、ひとつだけ〝運命のカード〟を差し上げるのですが……』 おおっ! 〝運命のカード〟!? もしかして、何か特別な能力をもらえるパターンか?『今回の失態は、全て私の責任ですので、あなたには特別に〝運命のカード〟を5枚、差し上げます』 結構な大盤振る舞いだコレ! やったぞ! 無双でチートでハーレムで俺TUEEEだぜ!『……ただし、この裏返した100枚のカードから5枚選んで頂き、どんな運命が訪れても、受け入れなくてはなりません。よろしいですね?』 キャンセル不可?! ちょっと怖いんですけど。 ……まあ、大丈夫だろう。トラックに轢かれただけでもラッキーだったんだから、今日の俺は絶対にツイてるって!『本当に前向きですね……私、逆にちょっと引いてます。えっと……いいですか? 選んだカードが、あなたの今後を決めます。そのほとんどが、とても役に立つ能力や物品ですが、そうでない物もあります。後悔の無いように、じっくり選んでくださ……』 これと、これと、これと、これと、これ!『早っ! 思い切りも良いのですね……! 本当によろしいですか?』 もちろんだ。こんなのはアレだよ。勢いとノリだ! 絶対いいの引いたぜ! 俺スゲーぜ!『クスクス……では、確認しましょう』 5枚のカードが、順番に開かれていく。『一枚目は……す、すごい! 初めて見ました!』 カードには、筋骨隆々の男が、両腕を曲げて、力こぶを作ったような絵が描かれていた。『これは〝 力 ( ちから ) 〟のカード。得た者は、筋力の上限が取り払われたうえ、向上に大きな補正が掛かります』 うおお! いきなりスゴイのが出たな! マッスル万歳!『二枚目……そ、そんな! これもすごくレアですよ! 信じられません!』 ほほう! やはり俺、今日は超ラッキーデイだな! 二枚目のカードは、杖を掲げた老婆の絵だった。『〝魔術師〟のカード。魔法に関する、ありとあらゆる制限が解除されます。すべての種類の魔法が、習得可能になるでしょう!!』 すげえええ! 魔法使いコースも選べちゃうな! 魔法万歳!『ハァ、ハァ、信じられない……すごいです! さ、三枚目……ひああっ!? そんな!』 また何か出たか! ふふ。俺、最強じゃん! 三枚目のカードには、天使が雲間から下界を見ているような絵が描かれている。『〝祝福〟のカード。このカードも持てば、どれだけ身を削られようと、首を刎ねられようと、時間をかけて復活することができます』 不死身? 死なない戦士の誕生か!? ……おいおい、ちょっとちょっと! もう勝ったんじゃない? これ、もう勝ったよ!『何に勝ったのかは知りませんが、とにかく凄まじい強運ですよ! ああ、4枚目を開くのが怖い……きゃああああ!? なんで! なんでこんなのまで出るの!?』 悲鳴を上げるほどのカードなのか? どれどれ……あれ? 意外と地味な絵だな……箱?『こ、これ〝倉庫〟のカード……! 無限に物を入れることができる、収納庫が使えるようになります。生き物以外なら、いくらでも、劣化する事もなく保管できます』 おっと! ここでストレージ系が来たか! やっぱこれは必要だよな!『しかもその〝倉庫〟のカード、全世界に一枚しかなくて、先代の所持者が手放したか、死んだ時だけ手に入る、101枚目の超レアカードなのですよ。つまり、今日の〝運命のカード〟は、もともと101枚あったのですね。どれだけラッキーなんですか、あなた……!』 マジで?! スゴいな、そんなレアなカードだったのか!『それだけではありません! そのカードを得た者には、それまで保管されていた物品も、そのまま引き継がれます。何が入っていようと、全てあなたのものです!』 ちょ!? マジですか! それじゃ、もし前の使用者が超スゴイ勇者とかだったりすると、魔王を倒せる伝説の剣とかが、入っちゃってるかもしれないの!?『その可能性はありますね』 まさか、ここまでチートを貰えるとは思ってなかったよ。 これはもう、ハーレムでスローライフで居酒屋大繁盛まちがいなしじゃんね?『……? お望みなら、可能なのではないでしょうか』 いや、まあそこら辺は、別に望んでるわけでもないんだけどさ。『さあ、それでは最後の一枚を開きましょう』 おっと、まだあったか! ふふふ。こりゃ流れ的にも、最後には、とびきりスゴいのが来るんじゃないか? さあ来い! 何が出る? 『……そんな!』 ん? なんだなんだ?  神さま、カードを持つ手が震えているぞ?『あ……ああ……! なんてこと?!』 うっすらと涙を浮かべながら、肩まで震えている神さま。 そこまで〝スゴい〟カードだったのか? 本当にツイてるなあ! 俺!『……これは〝 呪縛 ( じゅばく ) 〟のカードです。これを引いた転生者は、えっと、その……前世で最後に〝自分の命を奪ったもの〟に転生します』 ……はい?『獣に殺された場合は、その獣に。高所から誤って転落した場合は、その高所そのものに』 ……なるほど。たとえば〝トラ〟に食い殺されれば〝トラ〟に転生するのか。じゃあ〝高所〟ってどうなるんだ?『〝建物〟から落ちれば、それとまったく同じ作りの〝建築物〟に。〝高山〟で滑落して亡くなれば、その者は〝高い山〟に転生します』 えええええ?! ちょっと待って! それってかなりのハズレカードだよね?!   ……だいたい〝山〟とか〝建物〟に転生って、どういう状況?!『それ自体が動けないような物に転生した場合は、意識を保ったまま、その姿が塵になって消えるまで、ジッとしている事になります』 マジかよ!? やだよ! どう考えても、俺、トラックになるじゃん! どんだけスゴい能力をもらっても、誰かに運転してもらわなきゃ動けないじゃん!『……以前〝船〟に転生した人がいましたが、長い年月をかけて、やがて自力で動けるようになっていました。あなたもきっと、大丈夫ですよ』 そうなの?! むしろスゴいな、その転生者! ……うーん。でもさー? 〝トラックに転生〟ってどうなのかな? せめて動物なら、何かしらの生き甲斐も、見つけられそうな気がするんだけどなあ。『残念ですが、カードを引いてしまった以上、あなたに拒否権はありません。ここからの運命は、自らの力で、切り開いて行ってください』 ……仕方がない。せっかく生まれ変わるんだし、新しい〝人生〟……いや〝トラック生〟を楽しむとするか!『本当にあなたは……見事なほどに前向きですね……!』 まあ、くよくよしてても仕方ないしね。『ふふふ。それでは、新しい世界への扉を開きます。最初の3日間だけは、私と会話できるようになっていますので、安心してください。あなたの魂が、どうか健やかでありますように!』 にっこり微笑む神さまが、真っ白な光に包まれていく。 まぶしい! とてもまぶしくて、暖かい光が満ち溢れる! σσσ  σσ  σ  何も見えないし、何も聞こえない。 ……そうか、ここが俺の〝新天地〟か。 予想通り、身動きが取れない。大体さ、トラックって、本当に自力で動けるようになるのか?『……古津さん、聞こえますか? 古津さん?』 あ、神さま! 聞こえてますよ。『良かった。ちゃんと転生できまし……えええっ?!』 いやー、やっぱり全く動けないですねえ! 目もないから、周りがどうなってるのかも分からないし。まあ、トラックは鉄のカタマリだから、そう簡単に壊れたりとかは、しないでしょうけど。『ち、違います! 古津さん、あなた、その姿は……!』 え? 何が違うんですか? ……いやしかし、五感全部が無いって、本当に不便ですねえ。トラックだから仕方ないんですけど。『ふ、古津さん、あなた、トラックじゃない! トラックじゃなかったんです!』 はい? いえいえいえ! 俺、トラックに 轢 ( ひ ) かれて転生したじゃないですか。だったら〝呪縛〟のカードで…… 『違うんです! あなた、トラックで亡くなったんじゃなくて……』 ……え?『あなた、リンゴになってます! 真っ赤なリンゴですよ!』 なんですとおおおおおおおお?!