集団行動
集団行動
最後の試験は〝総合実技〟だ。「受験者5人のパーティに、試験官2人が同行する。もちろんだが、試験官は、よほどの危機的状況に 陥 ( おちい ) らない限り、受験者パーティには干渉しない。パーティを組むメンバーは、実力のバランスを考慮して、こちらで割り振らせてもらった」 昨晩、フレッサが〝探検に行く〟みたいな準備をしていたから、なんとなく分かっていたけど、どうやら実際に冒険をする事になるようだ。「では、パーティメンバーを発表する。人数的な問題から、第5班だけ6人パーティとなるが、実力的には公平である。なお、メンバーに関する異論は認めない」 ちなみに〝近接戦闘〟と〝遠隔支援〟のどちらかが40ポイント未満の受験者は、早々に帰されて、もうここにはいない。「今回は、同じ〝班員〟同士での、ポイントの奪い合いとなる。上限を設定して、その中から割り振る形だ。ただし協調性や連携、そして目標達成が採点のポイントとなる事を忘れないように」 仲間同士の足の引っ張り合いは、結局、自分の首を締めることになる、という事か。「……第2班の班長は〝リビース〟。試験官は〝アクティ〟と〝ニディア〟。どちらもAクラス冒険者だ」 並び立つ試験官の2人。 〝アクティ〟は、まさにガチムチの〝重戦士〟。きっと脳まで筋肉だ。 〝ニディア〟の方は、グラマラスなおねえさんだ。紺色のローブに、大きな水晶玉が付いた杖を持っている。『お兄ちゃんは、ああいうのが、すきなの……?』 どうしたんだ、グリダ?『お兄ちゃんは、その……あんなに、その……大きなほうが、すきなのかなって』 ははは。いや、そんな事はないぞ? いくら大きくてもダメだ。どちらかと言えば、俺はグリダの方が好きだな。『……ほんと?』 ああ、本当だよ。まあ人それぞれ、好みがあると思うけど、俺は断然、グリダだな。『……うふふ。お兄ちゃん、ありがとう! だーいすき!』 機嫌が治って良かった。そういうの、やっぱ気になるのか……? 実物は見れないけど〝倉庫のカード〟のリストに表示される杖〝グリダヴォル〟は、キレイな緑色の宝石が装飾されていて、派手さはないが、気品にあふれている。〝ニディア〟の持つ杖は、水晶玉こそ大きくて、一見派手だが、いざ戦闘となると、取り回しに不便そうだ。 やはり俺は、グリダの方が好みだな。『え? お兄ちゃん、なにか言った?』 ……ん? いや、グリダの方が好みだなってね。『んもおー! お兄ちゃん〝ねつれつ〟ねぇー!』 むう? そ、そうかな? ……何やらちょっと、かみ合ってない気もするが。「続いて第3班〝ザンバラウ〟〝フレッサ〟〝シルエラ〟〝スリーヴァ〟〝プルーヌム〟の5名だ」 お、フレッサは第3班だな。「第3班の班長は〝ザンバラウ〟」 班長は〝ザンバラウ〟か。あいつ、成績優秀っぽかったもんな。「……試験官は、Aクラス冒険者〝ホルマー〟とBクラス冒険者〝エルミチャ〟だ」 おっと、あれは確か、フレッサの知り合いっぽい〝ホルマー〟って男だ。冒険者だったのか。「ホルマーさん?!」「よう、フレッサ。よく総合実技まで残れたな」 あまり詳しいことは知らないけど、フレッサはこの〝ホルマー〟に許可をもらわなければ、冒険者試験を受けられなかったみたいだ。ふたりはどういう関係なんだろう。「まったく! ギルド加入がダメだと言ったら、勝手に見習いとして町を出てっちまうし、とんだお 転婆 ( てんば ) だよ、お前は」「……ぜ、絶対に冒険者になるんだから!」 なんだか、知り合いっていうより、保護者みたいだな。「ちょっとよろしいですか? 僕は〝スリーヴァ〟と言います」 革をベースに、金属で急所を補強した軽めの鎧に、羽のついた帽子をかぶった青年が、手を上げて言った。背中には、大きい弓を背負っている。「ん? どうした?」 ホルマーは、スリーヴァに向き直る。「私たちの班員に、試験官の知り合いがいるというのは、問題ではないのでしょうか」 スリーヴァの質問に、ホルマーは、少し考えたあとで答えた。「パーティメンバーと試験官が選出された時点で、俺がフレッサの知り合いであることは、ギルドマスターに報告済みだ。もちろん、採点に関しては、公正な立場をくずす事は絶対にない。むしろ……」 少し口角を上げて続ける。「万が一、私情を 挟 ( はさ ) むとするなら、不利になるのはフレッサだ。俺はこいつが〝冒険者〟になる事には反対なんだからな」 ……確かに、昨日のフレッサとホルマーの会話は、そんな感じだったな。「よく分かりました。ありがとうございます」 お辞儀をして数歩下がるスリーヴァ。それをよそに、ホルマーとフレッサが睨み合っている。「……ううう。ホルマーさんに、認めてもらえる様に、頑張る! リンゴちゃん、よろしくねぇ!」 おう。まあ、俺はお前に冒険者になってもらった方が色々と助かるしなあ。「……パーティ編成と、試験官の割り当ては以上だ。それでは、各班の目標を発表する。第1班〝虫食いの家〟。地下三階、東奥の小部屋の探索」 ありゃ。もう5班まで終わったか。「げぇー! 俺、虫嫌いなんだよ……」「〝虫食いの家〟の地下って、罠だらけでしょ? 大丈夫なの?」 虫系の魔物か? それとも普通の虫か? どちらにせよ、俺、リンゴだから食われちまうかもな。「第2班〝 引導 ( いんどう ) の森〟。教会跡の調査」「うわ。ちょっと待て、ウチの班、誰か〝対霊武器〟もってたか?」「聖水ならあるけど、ぜったい足りないぜ?!」 会話の内容から察するに、お化けが出るっぽいぞ。っていうか、この世界、心霊的な現象も普通にあるのかよ。「第3班〝 傾国 ( けいこく ) の 大穴 ( おおあな ) 〟。最深層の調査」 フレッサの目標は、洞窟か何かか?「お、おい〝傾国の大穴〟って、アレだろ? 中から出てきた魔物に、国がひとつ潰されたっていう……」「それ、発見された時に、入り口の 石碑 ( せきひ ) に書いてあっただけで、史実かどうかも怪しいんだってよ」「そうね。何年も前に、最深層までの調査が完了して、何も無かったらしいから、大丈夫なんでしょ?」 ふーん、国を滅ぼした魔物ねぇ。「第4班〝悪意の滝壺〟。ヒカリゴケの採取」「あの辺りの魚、だいたい人食いだろ?」「ヒカリゴケなんか、養殖で良いわよ。ねえ!」 人食い魚か。俺は平気だな! なぜなら以下略!「第5班〝死出の岬〟。赤い幽霊船の航海日誌を写本する事」「えー! 〝スカーレット・ゲオルグ〟って、討伐されてなかったっけ?」「違う違う。あれ、影武者だったってよ。おかげでその後、結構な数の商船や漁船が行方不明になっただろ」 幽霊船! バリエーション豊富だなあ……!「以上だ。即死や行動不能になる〝侵入制限〟がある者は今すぐに申告するように! 1時間のミーティング後、出発。三日後の日没までに戻るように!」 σσσ σσ σ 「しかし、さっきの魔法、スゴかったな! 〝リンゴ魔法〟って言ったっけ」 遠隔支援の試験。フレッサの得点は2回の失敗がひびいて、60ポイント。この総合実技で70ポイント以上取らなければ、不合格となる。「あの魔法、呪文も唱えてなかっただろ? どんな仕組みなんだ?」 俺が撃ったんだ。フレッサには説明のしようがないだろ…… 「このリンゴはですねぇ? いにしえの魔法使いが魔界の深部から持ち帰った土を使って栽培された物だと言われてるんですぅ」 言われてねぇよ! 説明できるのかよ? ……どこから湧いて出たんだその設定?「そして元となった種は、なんと天界に保管されていた、〝始まりの二人〟が口にしたと言われる、伝説の〝禁断の果実〟なんですよぉ! つまり〝神話級〟の価値があるリンゴなんですぅ!」 そうなんだ! だとしたら、その神話級リンゴ、あと54個あるから早く収穫したほうがいいぞ?「スゴいじゃないか! どおりでリンゴから〝 宮廷魔術師 ( きゅうていまじゅつし ) 〟レベルの魔法が出るわけだ」 3%で宮廷魔術師か。こりゃ、あんまり本気で撃ったらヤバイな。いや、俺がじゃなくてフレッサが。国絡みの色々に巻き込まれちまうぜ?「いえいえいえ! 私の〝リンゴ魔法〟の威力は、あんなものじゃないんですよぉ! リンゴ自体が、敵を粉々にするんです。この試験の間に、お見せすることになるかもしれませんねぇ」「それは楽しみだ! ワクワクするなあ!」 自 ( みずか ) ら巻き込まれに行くスタイル?! おいおい……できれば俺の〝体当たり攻撃〟は、誰にも見せたくないんだぞ。 σσσ σσ σ 『……見せたくないって言ってたのにね、お兄ちゃん』 まあ、こんな事だろうと思ってたよ。 だってここ、国をひとつ滅ぼした魔物が現れたっていう〝傾国の大穴〟なんだぜ?