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傾国の大穴

林檎転生 ~禁断の果実は今日もコロコロと無双する~ — novelup.plus · All chapters

傾国の大穴

マズいぞ。このままじゃ、フレッサたちのパーティは全滅だ。『お兄ちゃん、どうしよう!』 いや、パーティどころか……最悪、国が傾いちまう! やっぱあの時、無理にでも引き止めておけば……  σσσ  σσ  σ  ……数時間前。「おいおい! ひよっ子どもの行列かよ、目ざわりだな」「まったく。よりによって〝試験〟にハチ合わせとはな! ツイてないぜ」「小僧ども。邪魔しやがったらただじゃおかねえからな!」 ……このガラの悪そうな3匹が、穴に巣食う魔物だな? いょぉし! 〝必殺アップルファイヤー〟で消し炭にしてやる。『だめよ、お兄ちゃん。この人たち、かおはコワイけど、人間なんだから!』 あはは、そっかー! 人間か! こりゃお兄ちゃんウッカリだなー! ……ちっ。お前ら、グリダのおかげで命拾いしたな。「試験官さんよぉ! 坊っちゃん嬢ちゃんたちが余計なマネしねぇように、しっかり見張っててくれよな?」 試験官の二人は軽く手を振って、あしらう。 ……ランクや実力では、ホルマーたちの方が上なのだろうが、無駄なトラブルで試験の運営を妨げないようにとの判断だろう。「よし、行ったな。ああいう 輩 ( やから ) は、相手にしないのが一番だ」 さすがは、ザンバラウ班長。冷静だなあ。 他のパーティメンバーも、それに 倣 ( なら ) っておとなしい……と思ったら、フレッサが、ずっとしかめっ面で、さっきの男たちの背中を 睨 ( にら ) んでいる。お前、意外と血の気が多いのな。「では、侵入前にもう一度、任務と役割を確認しておこう」 ここは〝 傾国 ( けいこく ) の 大穴 ( おおあな ) 〟の入り口。 さっき話題に出ていた〝石碑〟がある。お、読めるぞ?『フルツお兄ちゃん、こんなむずかしい字がよめるの?』 ああ。実はな? 転生する時に標準でもらえる〝能力の底上げ〟に〝言葉の自動翻訳〟が含まれていたみたいなんだ。聞こえてくる言葉も、どんな文字も、俺の故郷の言葉に置き換えられて、聞こえたり見えたりしているんだぜ。『スゴぉい! べんりね! どんな言葉でも分かっちゃうの?』 ああ。たとえば、この〝石碑〟の文字は、いま使われている文字じゃないみたいだな。たぶん〝古代の文字〟とかなんだろうけど……俺は普通に読める。『ふわぁ! お兄ちゃん、がくしゃさんみたい! ……あれ? でも、なんかへんね?』 お? 気付いたのか。やっぱりグリダは賢いなあ!『うふふ。ほめられちゃった!』 さっきも言ったが、俺には、フレッサの魔導書や町の看板なんかと同じように、この石碑も、日本語で書かれているようにしか見えない。つまり、どちらも同じに見えてしまう。『そうでしょ? どれもおなじ文字に見えちゃうなら、お兄ちゃんはどうして、せきひの文字がこだい文字だってわかるの?』 それはだな。この石碑に〝とんでもない事〟が書かれているのに、誰もが涼しい顔で、大穴に出入りしているからだ。この文字が読めるなら、絶対に入らないぞ?『とんでもない……こと?』 そう。さっきの会話では〝この大穴から出てきた魔物が、国を滅ぼした〟とか何とか言っていただろ? 読み方によってはそう取れるのかもしれないけど……  俺が見ている文章はこうだ。 〝生き 餌 ( え ) が尽き、女王と兵たちは眠りについた。巣に近づいてはならない。女王は千の子を生むため万の民を食らい、千の兵を育てるため、億の民を欲する。人々は巣に引き込まれた。老いたるも幼きも男も女も、国がなくなるまで、食われた。やがて生き餌が尽き、女王と兵たちは、眠りについた。生き餌が再び世に満ちるまでの、長い眠りに。近づいてはならない。女王の目覚めを誘う、生き餌を近づけてはならない〟『これ……なにかの巣なの?』 ああ。とんでもないだろ? 国をひとつ滅ぼした〝何か〟が、眠って待ってるんだ。 生き餌 ( にんげん ) が増えるのを。『こわい……』 だろう? ここに入るって事はつまり、人間が増えましたよ! そろそろ起きて下さい! って、言ってるようなもんだ。 σσσ  σσ  σ  フレッサたちは、結構な 頻度 ( ひんど ) であらわれる魔物を倒しつつ、第3階層まで降りてきた。 〝フレッサ以外〟の優秀な人員の活躍のおかげで、特に危なげもなく進んでいく。俺の出番がないのは楽でいいが、俺が何もしていないイコール、フレッサも何もしていないという事だ。ポイントにはまったく 繋 ( つな ) がっていないだろう。「この階層も結構、人がいるな」 実はこの〝傾国の大穴〟は、冒険者の間では、かなりの人気スポットらしい。出現する魔物からは、高値で売れる素材が採れるし、無数にある小部屋には、多くの貴金属や装備品が、これまた多くの人骨と共に発見されるらしい。それゆえ、行楽地さながらの賑わいを見せているのだ。「俺たちの目的は、深層5階の調査だ。色々と惹かれるところではあるが、今回は脇目を振らずに先に進もうぜ」「そうだな。試験に合格して、正式な冒険者として後日潜ればいい」『フルツお兄ちゃん。どうしてほうせきとか、おかねとかが、落ちてるのかな?』 この巣には、何万人……? いや、国ごと丸々というなら、何十万人……何百万人か? とにかく、恐ろしい数の人たちが、引きずり込まれたんだ。その遺品が、この辺りの浅い層に運ばれて、放置されたのかもしれないな。 人骨 ( たべかす ) といっしょに。『ひぃ?! そ、そっか。ここにあるのは、まものにとってはゴミなのね?』 たぶんな。 そして、もしかしたら、やつらにとってはただのゴミである〝遺品〟を、こうやって入口付近にバラ撒いておけば、 獲物 ( にんげん ) が勝手に寄ってくることを、本能的に知っているのかもしれない。「いやったあああ! また新しい部屋を見つけたぜ! お宝がザクザクだ!」 ……歓声が、すぐ近くの脇道から聞こえてくる。 おいおい、あんまり騒ぐなよ? そのエサの先には、糸を垂らしたまま居眠りしてる〝釣り人〟がいるんだぜ?『お兄ちゃん、こわい。こわいよぅ』 大丈夫だグリダ。お前だけは絶対に俺が守ってやるから。『お兄ちゃん……』 ……そんな危険なやつらが〝食べ尽くしたから増えるまで待つ〟という理由で眠っている。ここに人が多く群がるのは、石碑の文字通り〝目覚めを誘う生き餌〟をチラつかせているのと同じことだ。 え? そんなに危険なのに、なんでフレッサたちを止めなかったかって? 俺だって、本当は怒鳴ってでも止めたかったんだよ。怒鳴れるならね。『お兄ちゃん、ずいぶん、がんばったんだよね……』 まあね。でも、転がろうが飛び跳ねようが、誰も分かってくれなかった。 ……分かるわけないか。あれじゃただの〝踊るリンゴ〟だ。「聞いてくれみんな。資料によれば、この3階層が一番広い。最も深い5階層の10倍近い広さだ」 ザンバラウ班長の声が、通路にこだまする。  それにしても、この穴の作り、どこかで見た事がある気がするんだけど、何だっけ? 一本の太くて長いトンネルがあって、そこからたくさんの部屋に、ひと部屋ひと部屋、細いトンネルが繋がれている。〝階層〟とは言っても、縦に長く続く通路があり、それを境に1階層、2階層と数えているだけだ。「お? クチバシの黄色い御一行様だぜ? ゾロゾロと役立たず共め」「おーおー〝新しい通路〟を見つけて、めでてぇって時に現れやがって。胸くそ悪い」「……チッ! 見てんじゃねーよ! この先の部屋にあるお宝は、ぜんぶ俺たちのモンだ。おいコラお前! 近づくんじゃねえ!」 出たよ。入り口で 遭 ( あ ) った、ガラの悪い3人組み。 ……どうやら、 財宝 ( えさ ) の詰まった部屋を見つけたらしい。一人が慎重に、壁を引っ掻いて通路の封を解こうとしている。「よっしゃ、やっぱ通路だ! これで俺たち大金持ちだ!」 壁が崩れ、暗い通路の奥を、 松明 ( たいまつ ) の明かりが照らす。 ……だが、そこにあったのは 財宝 ( えさ ) ではなく、得体の知れない、無数の目。「な、ちょ? え……何だ?! 何だこいつら?! う、うわあああっ……たすげグぎッ!」 通路をのぞき込んでいた男は、松明ごと〝何か〟に引きずり込まれた。 男の声が消えたあと、今度は、ゴソゴソという音が近づいてくる。とてつもない数だ。「ど、どうなってんだよ? 何なんだ、この音?!」 ……エサを見つけた、兵隊アリの足音だ。 そうか、この場所、なんか見たことあると思ったら、むかし観察したアリの巣にそっくりだ。