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後退戦

林檎転生 ~禁断の果実は今日もコロコロと無双する~ — novelup.plus · All chapters

後退戦

新しく見つけた通路の奥に眠っていたのは、財宝ではなく、魔物だった。「うわっ! な、何なんだよ、いやだっ! いやあああああぁぁぁ……」「い、痛ぁぃい! あ、足が! 俺の足ッ……お、お前ら! たすけぎゃああぁぁぁ……」  ガラの悪い残りのおっさん二人も、悲鳴をあげながら、穴の奥へ引きずり込まれていった。 ……もう少し詳しい〝ざまぁ描写〟をお望みの方もおられるとは思うが、あの三人も今となっては 仏 ( ホトケ ) さんだ。これぐらいで許してやってくれ。「何か来るぞ! 警戒しつつ下がれ!」 ザンバラウが、剣を構えながら指示を出す。 幸いにも、おっさん3人組が威嚇して、通路に誰も近づかせなかったため、フレッサたちのパーティは無事だった。 ……あいつらの〝突っ張った欲の皮〟に感謝だな。「待った! ストップ! さすがに異常事態だ。試験は一旦中断! 避難するぞ!」 少し離れた場所から様子をうかがっていたホルマーが、駆け寄り、叫ぶ。 通路の奥から、ゾロゾロと出てくる黒い魔物。 こいつは……間違いない。〝セデル〟と同じ種類の魔物だ。『お兄ちゃん。〝セデル〟って、このあいだやっつけた、あの?』 そう。〝Bクラス 名札 ( タグ ) 〟付きの人食い大アリ〝セデル〟だ。前にも言ったが、手足が長いせいで、アリには見えない。「な、なんて数だ! それにあの姿はもしかして〝人食い大アリ〟……?」「ま、まさか! 私が〝リンゴ魔法〟で倒した〝セデル〟と同じ魔物?! こんなにいっぱい……」 ちなみに、ここ数日間、見聞きした感じでは〝 名札 ( タグ ) 〟とは、討伐の必要性と危険度に合わせて、ギルドが指定する言わば〝指名手配〟のようだ。「おい〝セデル〟って、Cクラスだっけ?」「ちがう! Bだ。単体でも、俺たちの 敵 ( かな ) う相手じゃない! それが……あ、あんなに……」 フレッサたちのパーティは、なす術もなく後退を続けていく。ホルマーの言った通り、こうなってはもう、試験どころではないな。「ぎゃあああぁぁぁぁ!」「ひぃ? な、何だよこいつら!」 行楽地に、とつぜん軍隊が現れたようなものだ。〝傾国の大穴〟第3階層は、阿鼻叫喚の地獄と化した。「周りの事は気にするな! お前たちは、自分の生命を一番に、行動するんだ!」 ホルマーとエルミチャの、試験官ふたりは、アリを牽制しつつ、フレッサたちを逃がそうとしている。「ホルマーさん! 私も戦う! このフレッサちゃんの〝リンゴ魔法〟にかかれば、あんなやつら……!」「駄目だ。お前たちは、まだ素人だ。冒険者じゃない。ここはプロに任せて下がるんだ。良いな?」 ホルマーは、真剣な眼差しでフレッサに言い聞かせる。「……分かりました」 2階層へ続く縦穴は、逃げようとする冒険者たちで 溢 ( あふ ) れかえっていた。「おい! やめろ、押すな!」「ひぃぃ! 来る! やつらが来ちまう……」 スゴい人数だ。さすがは人気スポットだな。むかし行った海水浴場を思い出すぜ。 でも、これじゃ絶対に、全員は逃げ切れないぞ……?「ホルマーさん。このままでは……」「ああ、いざとなったら、こいつらを頼んだぞ、エルミチャ」 試験官同士で、なにやら覚悟を決めた様子だが、いくらこのホルマーという男が強くても、国をひとつ、まるまる食い尽くす様な奴らが相手では、どうする事もできないだろう。「ちくしょう……俺たち、ここまでなのかよ」 パーティメンバーの〝プルーヌム〟が、ボソリとつぶやいた。 暗い通路の奥からは、逃げ遅れた冒険者の悲鳴と、アリたちの、ギチギチという鳴き声が響いてくる。あの音が、ここまで来てしまうのも、時間の問題だ。「試験官どの! 提案があります!」「……なんだ、ザンバラウ」「このままでは、地上に出る前に、我が班は全滅します。ここでただ死を待つより、下階へ避難し、安全な場所を見つけて、やり過ごしましょう!」 さすがは優等生。良い作戦だ。 ……助けが来るかどうかは微妙だが。「幸い、食料と水は、かなりの量を用意してある。数日は持ちこたえられるだろう」 その数日の間に、助けが来る事を祈ろう。 ……食料が尽きたら、まず俺が食われちまうからな。「この混雑だ。我々が縦穴を登れるのは、早くても数時間後だろう。よし、その案でいってみるか。異議のあるものは?」 誰も手を挙げない。ここにいても絶対に助からないと、分かっているのだろう。「行きましょう。急がないと、下層への通路にも、アリが!」「そうだな。では、遠回りになるが、逆から回り込める通路へ向かう。ついて来い!」 σσσ  σσ  σ  必死でたどり着いた、第4階層へ向かう縦穴。「良かった。こっちには、まだアリは来ていないみたいね」 他の縦穴と同じように、ここにも、大きな木製の螺旋階段がひとつと、緊急用の縄ばしごが、いくつか設置されている。「先頭はエルミチャ、 殿 ( しんがり ) は俺だ。万が一奴らが来たら、可能な限り食い止める」 ……マジかよ。そこまで職務を重んじるとは。冒険者の鑑だな、尊敬するぜ。「心配そうな顔をするな。何もなければ、今から20分後に、俺も降りる。お前ら全員が下についてから5分待っても、俺が現れなければ、後ろの警戒を強めて、そのまま先に行け。気をつけて行くんだぞ!」 剣を構えて背を向けたホルマーを置いて、全員が階段を降りてゆく。 フレッサだけは、時折チラチラと、ホルマーの方を振り返りながら。 σσσ  σσ  σ 「よし、第4階層だ! 周辺に異常なし!」 ふう、なんとか逃げ切ったみたいだな。あとはホルマーを待って…… 「ボトッ」 ……上から、何かが落ちてきた。「うわっ、何だ?」「こ、これって……!」 〝手〟だ。 血まみれの、肘から上の部分が降ってきた。「エルミチャさん! この 手甲 ( てこう ) は……!」 間違いない。ホルマーの腕だ。「皆さんごめんなさい! 先に行って下さいぃ!」 フレッサが突然、階段を駆け上がろうとする。「待つんだ!」 ……その腕をつかんで、引き止めるザンバラウ。「はなして下さいぃ! 行かなきゃ! ホルマーさんが! ホルマーさんが死んじゃう!」「キミが行っても、どうにもならない! 残念だが、あきらめるんだ!」「いやああああぁぁぁぁっ! ホルマーさん! ホルマーさん!」 フレッサは、必死でザンバラウの腕を振りほどこうとする。「ダメだ! キミまで殺されてしまうぞ!」 ザンバラウが何とか止めようとする。『お兄ちゃん……!』 そうだな。もしかしたら、もう手遅れかもしれないが……  このままでは寝覚めが悪い。ひと肌脱いでやるか。