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ひとかじりの祝福

林檎転生 ~禁断の果実は今日もコロコロと無双する~ — novelup.plus · All chapters

ひとかじりの祝福

俺は、フレッサの手から離れ、ぴょんとホルマーの手に飛び乗った。 えっと、これで宣言するんだったな。〝祝福を与える〟っと。『ピロリロリン! 〝祝福のカード〟から〝 譲与 ( じょうよ ) 〟機能を発動します。3、2、1、準備が整いました。捕食されて下さい』 ……やっぱイヤなアナウンスだ。 さあ、遠慮なく食ってくれ! ガブッと! ほれ食え! さあ食え!「……なんで俺の手に、リンゴを乗せたんだ、フレッサ?」「あらぁ? リンゴさん?」 どうした? なぜ食わない。ささ、遠慮せず!『……お兄ちゃん?』 さあ食え! やれ食え! ドンと食え! ……ん? なんだグリダ。いまは食事中だぞ? 食われるのは俺の方だがな!『うふふ。えっとね、お兄ちゃんは、ホントにおいしそうなのよ? でも……』 でも?『ついさっきまで、すっごく強いアリをいっぱい殺したり、じぶんを治してくれたりしたリンゴを、いただきます! って食べる人は、いないと思うの』 あ、そっか。 うわうわ。どうしよう。絶対に食べないな、そんな〝怖そうでありがたい、やっぱ少し怖いリンゴ〟は。俺なら神棚に 祀 ( まつ ) るぜ。「これ……どうするんだ?」 手のひらに乗った俺を、不思議そうに見つめるホルマー。「……? さあ?」「おいおいフレッサ。〝さあ?〟って……このリンゴは、お前が操ってるんだろ?」「違うの。リンゴさんは自分の意思で自由に動くのよぉ。だから、この動きにも、なにか意味があるんだと思うんだけど」 ……いくらフレッサでも、リンゴが〝自分を食ってほしい〟と思っているとは気づくまい。さて、どうしたものか。『お兄ちゃんが〝食べてほしい〟って言えればいいんだけどねぇ』 そうだなあ。俺たち、しゃべれないもんな。 どうすれば伝わるか……態度で示そうにも手足がないと、可能なアクションが少なすぎるぜ。『あ、そうだ! お兄ちゃん、これを使ったらどうかな?』 ……おお、そうか! ナイスだぞグリダ! 頭いいな!『うふふ。またほめられちゃった!』 グリダが〝保管〟のカードから取り出してくれたのは、フレッサの私物である〝皿〟と〝フォーク〟と〝ナイフ〟。「今度はなんだ?」「……食器?」 俺はホルマーの手から離れ、地面に転がり落ちる。そして、いちばん美味しそうに見えるであろう角度を考えつつ、皿に乗った。やっぱ、盛り付けは食べる側の気持ちを考えて、愛情を込めないとな。 ちょこんと皿の上に乗った俺の左右には、フォークとナイフが添えられている。「フレッサ? もしかしてこのリンゴ……」「リンゴさん。ホルマーさんに〝食べて〟って言ってるの?」 分かってもらえたみたいだな。グリダ、食器を片付けてくれ。 こんな物 ( フォークとナイフ ) でお行儀よく食べられたら、リンゴの名折れだ。『はーい! ……へんなこだわりがあるのね、お兄ちゃん』 俺はもう一度、ホルマーの手に乗っかる。さあ、ひと思いにやってくれ!「……何だかよく分からんが」「ホルマーさん、きっとなにか理由があるのよ」 ホルマーは、軽く喉を鳴らしてから、恐る恐る、俺をひと口かじった。 ……いぎいいいいい?! い痛たたたたぁ! ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ! いだいいだいいだい! ぎゃああああああああああ?! ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!『お、お兄ちゃん?!』 なんだなんだなんだこりゃ! いででででで! ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ! いたいたいたいたいた! いだだだだだだ! ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!「リンゴさん! もしかして……痛いの?!」 いぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!! ゴロゴロゴロゴロ! 痛いなんてもんじゃない! どこかぶつけたとか、ヒビが入ったとかとは、次元が違う! コロコロコロコロコロ! ぐぎゃああああっ! 死ぬ! 死ぬうううう!! ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ! し、しかもこれ、ホルマーの消化が終わるまで続くんだろ?! コロコロコロコロコロコロコロ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! ヤバい! これはヤバいぞ! ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!「う、うう……ううう! うううううっ!」 痛みのあまりに転げまわる俺。 そんな俺を気にも止めず、虚ろな目をしたホルマーが、うめき声と共にガグガクと震えはじめた。「ホルマーさん?! リンゴさんも! 一体何が起きているの?」 あいでへぇえええええ! いでででででででで! ゴロゴロゴロゴロゴロ!「うううっ! ううう……! ううっ。ううううう!」 ぐぎゃあああああああっ! いぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢ! コロコロコロコロコロコロコロ!「……リンゴさん! ホルマーさん! どうしたの? どうしたらいいのぉ?!」 ホルマーが、カッと目を見開いて、フレッサの方を見た。「うううううっ! う……! ううっ! う、う、う……ま」「……うま?」 満面の笑みを浮かべ、ホルマーが叫ぶ。「 美味 ( うま ) あああああいっ! うまいぞおっ! こんなうまいリンゴ、初めて食べた!」 いだだだだだだだだ! いだだだだだだだだ! ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ! そ、それはよかったいたたたたたた!!! コロコロコロコロコロコロコロ! けど、俺はそ、そ、それどころじゃ……な痛い痛い痛いぃ!「もっと……」 いたい! いたい! いた……は?「もっと食わせ……」 ホルマーは転げ回る俺に、ジリジリと近付く。 ……え? あ、ちょ! ちょっとまっ!「もう、ひと口だけ! な? ほんの……ひとかじり」 血走った目で、襲い来るホルマー!  いやあああああっ?! やめてエエエエえぇぇぇっ!「ホルマーさん! ダメぇ!」 間一髪。転がる俺を拾い上げて、抱きかかえるフレッサ。 痛い痛い痛い……! た、助かった! これ以上食われたら、痛みでどうにかなってしまう!「フレッ……サ? それ、よこせ……? 食わせて……頼む……!」 にじり寄るホルマーと、後ずさるフレッサ。「ダメです! リンゴさん、すごく痛がってるのよ? かわいそうに……こんなに震えて……!」 ガクガクガクガク……! イヤだ……! 食べられたくない! 食べないで! かじらないで! ガクガクガク……!「よこ……せ……! リンゴ……おれ……の! 返、せ!」 充血した目で、じわじわと近寄るホルマー。「ホルマーさん……? おかしいよ。いつものホルマーさんじゃない!」 イヤだ……! やめて! 食べないで! 痛い! 痛い! 痛い! ガクガクガク……ブルブルブル…… 「リンゴ食わせろおおおおぉぉぉおお!」 飛びかかるホルマー!「ダメええええええっ!」 必死で俺をかばうフレッサ!『ピロリロリン! 〝譲与〟部位の消化・吸収が完了しました』 ……痛みが消えた! かじられた部分が、元に戻っていく!「……お、俺はいったい何を?」 た、助かった……! 急に我に返ったホルマー。そして次の瞬間、まばゆい光が包む。『ピロリロリン! 〝譲与〟成功。〝祝福のカード〟の効果が発動します』「うわっ! 腕が?!」 欠損していた、ホルマーの左手が、みるみる再生してゆく。これが……〝譲与〟か!「……リンゴさんを、食べたから?」 フレッサが、信じられないといった表情でつぶやいた。 そう。〝祝福のカード〟の効果で、失った腕はこれで元通り……って、おい、ちょっと待て!「……な、なに?! 俺の髪が……歯も?!」 ホルマーの髪が……ヒゲが……! バサバサと抜け落ちる?! 続いて、ポロポロと、歯も抜けてゆく。 ちょっと待て! これ、どういう事だ?『ピロリロリン! 日頃は 祝福 ( しゅくふく ) のカードをご利用頂きまして、誠に有難うございます』 お? 〝祝福のカード〟からのアナウンスだ。『大変申し訳ございません。当方の手違いで、先日のご案内の際に、いくつかの注意事項をお伝えしておりませんでした』 先日って、ついさっきだろ! ……注意事項? 何だろう…… 『まずひとつ目です。〝譲与〟を行なった際の、身体の欠損による〝痛み〟は、通常のお怪我と比べまして、数十倍から数百倍となります』 マジかよ! どおりで痛いわけだ。それは先に言っといてくれよ……!『ふたつ目です。あなた様の一部を〝譲与〟したお相手様は、摂取した部位を消化吸収するまでの間〝自我〟を大幅に失い、あなた様を求めて追加の〝強引な捕食行為〟に及ぶことがありますので、ご注意下さい』 それかよ! ホルマーが俺を食いたがったのは……! おかげでゾンビに襲われたみたいな気分になったぞ?! しかし、あまりにリスクが大きすぎだな。〝譲与〟は下手に使えないぜ。『みっつ目です』 まだあるのかよ……!『〝譲与〟により、祝福を受けた方は、 身体 ( しんたい ) が、その方の〝もっとも正常で健康で活力のある〟状態になります。ですので、例えば人間の場合ですと、もっとも生命力が満ち溢れた20歳前後に、巻き戻ります』 ……なん、だって?「ホルマーさん?! なんで、そんな……!」『なお〝身体能力〟や〝知識〟などが失われることはございません。また、お若い方が20歳前後に〝老化〟することもございませんので、ご安心下さい』 白髪は、ツヤのあるブラウンヘアーに生え換わり、古い歯はすべて抜け落ちて、真っ白で健康な新しい歯が生え揃った。顔に刻まれたシワは無くなり、ハリのある若々しい肌がよみがえる。『フルツお兄ちゃん……ホルマーさんが!』「本当にホルマーさん……ですよね?」 気づけば、40代のおっさんだったホルマーは、20歳ぐらいの、イケメンな青年になっていた。 ……これ、みんなに、どう説明するんだよ?!