ブルー・オン・ブルー
ブルー・オン・ブルー
アリの退治を始める前に、やっておく事がある。 ……今後のために、ぜったいに必要だ。『こんご?』 グリダ。〝 魔術師 ( まじゅつし ) のカード〟のアナウンスにあった〝 安全設定 ( あんぜんせってい ) 〟って、覚えてるか?『えっと……そういえば、たしか〝しようしゃ〟とか〝せっしょくしゃ〟とか……?』 そう、それそれ。 たぶん、味方や無関係の人に、魔法の影響が及ばないように、設定できるんだと思う。 安全設定のリストに〝接触者〟とあるから、俺に触れているフレッサは、俺やグリダの使う魔法で、ダメージを受けることは無いだろう。だが…… 『そっか! ホルマーさん……じゃなかった。ダティルさんは、ふだんお兄ちゃんに、さわってないから……』 そうなんだ。さっきも〝複数指定〟のチェックが、倒れているホルマーに入ってしまっていたし、うっかり味方を撃ってしまう可能性もあるだろ?『それはイヤなの……どうしよう、お兄ちゃん』 それなんだが……〝安全設定〟というからには、項目をイジれるんじゃないかと思うんだ。どうやるのか分からんのだが…… 『うーん。カードさんに話しかけるのかな?』 ……どれ、やってみるか。 あーあー、聞こえますかー? 〝魔術師のカード〟? 〝安全設定〟を、イジりたいんだけど……?『カードさん、聞こえますかー?』 聞 ( き ) こし 召 ( め ) せ〝魔術師のカード〟よ! われに〝安全設定〟を操作させたまえー!『まじゅつしさーん! あそびましょー? 出ておいでー?』 ふむ。ノーリアクションだな。『……おへんじ、こないね』 〝安全設定〟、ダティル! 〝安全設定〟、フレッサ! えーと、〝安全設定〟、ホルマー!『おねがい! ダティルさんとフレッサさんに、まほうが当たらないようにして下さいっ!』 ……ウンともスンとも言わないなあ。きっと、やり方が違うんだな。『むー、ちがうのねぇー』 さすがにこれは、取扱説明書がないと無理だぜ。 俺の魔法と……たぶんグリダの魔法はもっとだが、 尋常 ( じんじょう ) な威力じゃない。あの堅くてしぶといアリをも、一撃で倒せるんだ。人間なんか、かすっただけで致命傷だろう。 さっきみたいなゴチャゴチャした戦闘になったら、とっさに撃ってしまうかもしれないから、できれば安全な状態にしておきたいんだがなあ。『まじゅつしさんのカード、どうすればお返事してくれるのかな』 いつも、何かしらの言葉や行動に、反応するんだよな。 いやしかし、肝心な時に、何の反応もしてくれないんじゃ、先が思いやられるぜ。『お兄ちゃん。はやくしないと、フレッサさんたち、待ちきれなくて先に進んじゃうかも!』 ……まあ、なんとなくふたりとも俺の〝ゴーサイン〟を待っている感じだから、それはさすがに無いと思うが。 うーん。俺の取る行動が〝運命のカード〟を動かす切っ掛けになっているのは間違いないと思うんだけど。 ……あ、そうだ! それじゃ、試しに〝安全装置〟を、動作させてみるか!『え? どういうこと?』〝安全設定〟の対象になっている〝俺〟が魔法を受けたら、どんな反応をするのか、試してみるんだ。『えー? あぶないよ、お兄ちゃん!』 いや、大丈夫だろ。〝安全〟設定っていうからには〝使用者〟である上、ある意味〝接触者〟でもある俺に、魔法は効かない! ……だろ、たぶん。 さあ、グリダ。俺を魔法で攻撃してくれ。あ、でもちょっと怖いから、出力は1%で頼む。『ほんとうにいいの?』 へいきへいき。最悪、俺には〝祝福〟のカードがあるんだ。粉々になっても、すぐに元通りだぜ。『……うーん。こなごなは、イヤだけど……それじゃ、いくよ、お兄ちゃん!』 おう、どんと来い!『〝しゅつりょく1%〟で……お兄ちゃんに〝火のかせ外せたびびと〟』『ブッブー! その対象は、選択できません。安全設定を解除するには〝魔術師のカード〟の〝設定パネル〟を開いて下さい』 ブザー音と共に〝魔術師のカード〟からであろうアナウンスが聞こえた。『ふう。良かった! お兄ちゃんにまほうが飛ばなくて!』 ……心配してくれてありがとうな。『……お兄ちゃん、なにか分かった?』 いや〝魔術師のカード〟の〝設定パネル〟を開いて下さいって言われても。『ピロリン。〝魔術師のカード〟の〝設定パネル〟を開きます』 まんまかよ! 『わあ! 良かったねえ、お兄ちゃん!』 目の前に、半透明のパネルが浮かぶ。タッチパネルっぽいけど、俺でも操作できるかな? えっと〝魔法リスト〟〝安全設定〟〝デフォルト出力設定〟〝魔法解析〟〝魔法作成〟……色々と興味を引く項目があるけど、いま必要なのは〝安全設定〟だ。『ピロリン。〝安全設定〟』 お、音声というか、俺の〝心の声〟で操作できるぞ。助かったな。 なになに? 〝安全設定リスト〟〝全リストに追加〟〝全リストから削除〟〝魔法別設定〟〝高度な設定〟。 ……〝全リストに追加〟だ。『ピロリン。個別の対象を〝リストに追加〟します。対象を枠内に合わせて下さい』 パネルの中央に、十字のカーソルらしきものが表示された。なるほど。これを、ダティルに合わせるんだな……と。『ピローン! 選択された対象〝ダティル〟。追加しますか? はい/いいえ』 お? 名前が本当の名前であるはずの〝ホルマー〟じゃなくて〝ダティル〟になってるな。どういう仕組みなんだろう。 ……〝はい〟っと。『ピロリン! 〝ダティル〟をすべての魔法の〝安全設定リスト〟に追加しました。残り上限99』 ……上限があるのか。まあ、そんなに大勢、追加する事もないだろうけど。 えっと、フレッサもやっとかなきゃな。何が起こるかわからないし。『〝フレッサ〟をすべての魔法の〝安全設定リスト〟に追加しました。残り上限98』 ……これで安心だ。さあ、それじゃ、アリの駆除に行こうか!『お兄ちゃん、ちょっとまって?』 どうしたグリダ?『えっとね? 水のまほうは〝あんぜんせってい〟になっちゃっててもいいのかな?』 ……あ、そうだった! 〝最適化〟のせいで、悪影響が出るかもしれなくなったから〝水の魔法〟にも〝安全設定〟が付いたんだった。そのままだと、回復も出来ないぞ。 えっと、こういう場合は……〝魔法別設定〟かな? お、あったあった。〝水の魔法〟から〝ダティル〟と〝フレッサ〟を削除、っと。 これでオッケー!『これでもう、ダティルさんとフレッサさんには、まほうは当たらないの?』 おう。大丈夫だ……こんな 風 ( ふう ) にな!〝出力2%〟で〝火の枷外せ旅人〟『ピロリン。呪文確認。複数対象に対して魔法を発動します。〝出力2%〟』「リンゴさん?!」「なっ?! 何だ!」 俺から発せられた〝56の炎〟は、天井にはりついて、音もなく近付いていたアリを、すべて撃ち抜いた。『うふふ。なーんだ。お兄ちゃん、気づいてたのね!』 おう。やっぱりグリダも知ってたのか。アリどもめ、コソコソとしやがって!「い、いつの間に、こんな近くまでアリが?!」 ボトボトと天井から降ってくるアリを見て、驚いた顔のダティル。「び、ビックリしたぁ! ……い、いま、私とダティルの体を、リンゴさんの魔法がすり抜けていったような……?」 当たり判定なしだ。〝安全設定〟したからな。よーし! 準備完了だ。バリバリ駆除するぞ!