ふてれっさ
ふてれっさ
この部屋のアリは活動状態だ。 ……やはり〝管理者〟的なアリが複数いるんだな。 侵入者 ( おれたち ) に気付いて、あわてて兵士を目覚めさせて回っているのだろう。 だとすると、先に最深部に居るであろう、女王を倒した方が良いのかもしれないな。「きゃあああっ?!」「なんだ?! どうした、フレッサ……さん?!」 背後からアリが来たか?! グリダ、何か見えるか?「ううん。うしろには何もいないよ?」 え、じゃあフレッサは何に反応してるんだ? いまさら部屋にアリが何十匹居ようが、驚くことではないだろう。「あ、あ、あれ……! あれは!」 部屋の奥を指差すフレッサ。 ……ん? 鉱石 ( こうせき ) がどうしたんだ? 数十匹いるアリの向こうには、うず高く積まれた鉱石の山が四つ。こんなの、各部屋にいくつかずつあるだろ?「だ、だ、だ!」「フレッサさん、落ち着いて下さい! どうしたんですか?!」「ダイヤよ! あれ、ダイヤモンドの原石!」 マジかよ?! 暗くて遠いのに、よく見えるな、あんなの…… 「……脅かさないで下さいよ、フレッサさん」 イラッとした様子のダティル。「リンゴさん! 火の魔法はダメ! ダイヤが燃えちゃうぅ!」 あー、なんか聞いたことがあるぞ。石炭と同じ組成だとか、不安定で気化してしまうとか? ……諸説あり。 ……しゃーないな。さっきゲットした呪文のテストも兼ねて、眠らせてみるか。 〝闇は地の底より天を望む〟『ピロリン。呪文確認。魔法を発動します。〝出力5%〟』 黒い霧が、俺に集まってくる。お、なんかこう、悪意のあるリンゴっぽいな! 白雪姫が 噛 ( かじ ) るヤツじゃんね、これ!「うふふ。お兄ちゃん、なんでうれしそうなの?」 いやー、なんか最近、リンゴである事に誇りが持てて来たっていうか、楽しくなってきたっていうか、そんな感じだぜ? ほらほら、俺から黒い波動が広がっていくぞ、 悪 ( あく ) だな! 超悪 ( チョーワル ) いな、このリンゴ! くぅ~ッ!「リンゴさん?! それって、さっきのアリが使ってた魔法じゃないか!」 目を丸くして驚いているダティル。まあそりゃ驚くよな。「ふふふ……私のリンゴ魔法はね、受けた魔法を、使えるようになるのよぉ!」 お前は驚きもせずに、なんで言い当てちゃうんだよフレッサ。マジで俺とグリダの会話、聞こえてるんじゃないだろうな……?「お兄ちゃん、よく見えないけど、おとなりと、その向こうのお部屋のアリさんも、パタパタ眠っていくよ?」 お、意外と広範囲に効いたみたいだな。「ピロピロピロ! 警告! [37]の対象物に、魔法効果をレジストされました」 ……広範囲は良いんだが、ちょっと効きが悪いのか。「寝なかったヤツが、結構いますね、フレッサさん」 あー、そっか、もともとアリの使う魔法だ。耐性があるんだろう。 さて、どうするかな。「……あれ? まほうで燃えちゃっても、お兄ちゃんなら、元にもどせるのよね」 あ、そうだった。〝 覆水可収 ( ふくすいかしゅう ) 〟って能力を覚えたんだったな。 そっちもテストしておくか。グリダ、3%ぐらいで、盛大にやっちゃってくれ。 ……あ、でも念のために、部屋の中だけな? 壁の向こうのを3%で撃ったら〝 覆水可収 ( ふくすいかしゅう ) 〟を使う前に、ペシャンコになっちまうぜ。「はーい! いっくよー! 〝3%〟で〝火のかせはずせたびびと〟ぉ!」「ピロリン。呪文確認。複数対象に対して魔法を発動します。〝出力3%〟」 今度は、無数の炎がほとばしり、すさまじい勢いで部屋の奥へと飛んでいく。「えええっ?! いやあああっ! ちょっとぉ! リンゴさん?!」 やっぱり3%は、少しやり過ぎ感があるな。アリもダイヤもキレイに消し炭だ。 ……さあ、膝をついて口をパクパクさせているフレッサを、驚かせてやろうか。〝 覆水可収 ( ふくすいかしゅう ) 〟発動せよ! 『ピロリン! 〝 覆水可収 ( ふくすいかしゅう ) 〟を実行します。最終使用魔法〝闇は地の底より天を望む〟の効果を消去中。3、2、1、完了。コスト2・再使用時間10秒』 ……最終使用が、催眠の魔法? なんで?!「あー! 他お部屋のアリさん、起きちゃったみたいよ?」 眼の前のアリは、半数以上が消し炭のままだ。 ……倒す前に〝俺が眠らせた〟ヤツらだけ、燃える前の姿に戻って倒れているぞ。「……もしかして、元に戻せるのは、お兄ちゃんの使った魔法だけ?」 ああっ! そうか! 元に戻ったアリたちは〝俺の魔法が効いて、寝てしまっていたから倒された〟という判定なんだな?「寝てても起きてても、おんなじなのに、へんなの……」 不思議半分、不服半分といった口調のグリダ。 なるほどな。おかげで〝 覆水可収 ( ふくすいかしゅう ) 〟が、俺の魔法にしか適用されない事が分かったぜ。 ……グリダの魔法で灰になってしまったダイヤモンドの山は元に戻らなかったし、俺がせっかく眠らせた、他の部屋の蟻たちを、起こす事になってしまったけどな! 毎回毎回、説明不足だぜ、運命のカードは。「ごめんね、お兄ちゃん。ダイヤを燃やしちゃって……」 いや、良いんだグリダ。もともと俺の指示だし、色々と分かったしで、結果オーライだぜ。 ……消し炭になったダイヤを見て、マジ泣きで残念がっているフレッサは、ちょっとかわいそうだけど。「行きますよ、フレッサさん!」「ひいぃぃん! ダイヤが! 私のダイヤがあぁぁぁ!」 俺を放り投げて、うずくまって、泣いているフレッサ。そこから動こうとしない。「何やってるんですか。早く行きましょう」 ふくれっ面で、ぷいと向こうを向くフレッサ。 ……子どもか。「はいはい、じゃあもう、ここにずっと居て下さい!」 俺をひょいと拾い上げると、さっさと部屋を立ち去ろうとするダティル。 ……お母さんか。「フレッサさんかわいそう」 いや、こういう時には、甘やかしちゃダメだ。泣いてもわめいても無理な事もあると分からせなきゃ……って、何の話だよ。「ピピピピピ! 警告! 〝安全設定〟された〝フレッサ〟が、効果範囲から離脱しました」 ……なに?! 〝魔術師のカード〟から、アナウンスが!「こうかはんいから、りだつ?」 〝安全設定〟は、一定の範囲内だけ有効なのか……! そりゃそうだよな。設定したヤツみんな、無条件に無敵モードなんて、あり得ないわ。「あっ、こら、リンゴさん!」 俺はダティルの手を離れ、フレッサの元までコロコロ転がっていく。「ピロン! 〝安全設定〟された〝フレッサ〟が、効果範囲に入りました」 ふむ。ざっと20メートルくらいかな。覚えておかないと大変なことになるぞ。 ……さて、燃やしちまったのは俺のせいだし、謝っておくか。「リンゴさん……?」 コロコロコロコロ…… 俺はフレッサのまわりを何度も回る。 コロコロコロコロコロコロコロコロ…… 「……」 フレッサは、無言で立ち上がると、まだちょっと不機嫌そうに俺を拾い上げて、歩きはじめた。 ……すまん、フレッサ。次に見つけたら、ちゃんと無傷で収納してやるからな。 σσσ σσ σ ……ダイヤは今のところゼロ。 女王討伐を優先するために、途中の小部屋をスルーしたからだ。 おかげで、フレッサのご機嫌は、いまだにナナメだ。「……ダイヤ」 まだ言ってるし。やれやれといった感じのダティルが声を掛ける。「しょげてる場合じゃないですよフレッサさん! あれを見てください!」 ちらりとダティルを見て、うつむくフレッサ。「モンド……」 中村か! 「……お兄ちゃん?」 いや、すまんグリダ。何でもないんだ。〝必殺〟が好きな人だけに、伝わればそれでいい……!「……? 変なの」 いぶかしげなグリダと、いまだにブツブツと文句を言っているフレッサ。「リンゴさんが……私のモンドを燃やした……」 ……ダイヤと言え。そっちを燃やしたつもりなど無い。「ダイヤモンド……」「あーもー! 俺……僕が買ってあげますよ!」「……っ? ……むえぇ?!」「無事に帰れたら、買ってあげますから! ……あまり大きなのはダメですよ?」「……ゅ、びゎ」「はい? 何ですか?」「……指輪がいい!」「はいはい。分かりました! ……ほんと、小さいやつですからね?」「やったぁー! むふふふ! ……よぉーし! リンゴさん! あのでっかいの、サッサと殺っちゃってぇ!」 スゴいテンションだなフレッサ?!「はわわわ! フレッサさん、やるぅー!」 グリダも妙に嬉しそうだけど、何なんだよ。 ……それに、あれはちょっと、サッサと殺っちゃえない気がするぞ?「……そうね。すごくつよそうよ?」 ああ。見ただけで圧倒されるなあ。何なんだよ、あの立ち昇ってるオーラは! 部屋の奥には、側近であろう数匹のアリに守られた、淡く光を放つ〝化け物〟がいた。 ……あれが女王だな。