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女王

林檎転生 ~禁断の果実は今日もコロコロと無双する~ — novelup.plus · All chapters

女王

ドシンドシンと、足を踏み鳴らし、猛り狂うアリの女王。『ふうふう。とても……とても不愉快……わらわは、とても不愉快です』 ゆっくりとした口調で、心を落ち着かせようとしている女王。 逆上したまま襲い掛かってくるより、こういう冷静なタイプの方が厄介なんだ。『お、お兄ちゃん……こわいよう……』 グリダ、大丈夫だ。俺がついているから。 ……とは言ったものの、明らかに、あの女王はヤバい。刃物を突きつけられているような殺気。次元の違う強さに、俺の本能が全力で警鐘を鳴らしている。「リンゴさん。ちょっと甘く見てたよ。本当に勝てるのか? アレに」 ダティルが、俺に向かってぼそりと呟く。そうだな。正直、俺も舐めてた。 ……だが、勝てなきゃ、俺達といっしょに、地上の人たちもアリの餌食だ。『お兄ちゃん……』 グリダ。俺は大丈夫だから、ダティルとフレッサに回復魔法を掛けてくれ。『うん、がんばる!』 よーし! それじゃ、まずは俺から行くぜ! 出し惜しみ無しだ! 〝出力100%〟で〝火の 枷外 ( かせはず ) せ 旅人 ( たびびと ) 〟!『ピロリン。呪文確認。魔法を発動します。〝出力100%〟 』 とんでもない威力の炎が飛ぶ。 よっし! 命中! ……したよな?『 温 ( ぬる ) いのう。わらわは女王であるぞ。子らを相手にして、少しでも希望を持ったのなら残念じゃった。自らの愚かしさを呪いながら、さっさとあの世に逝くがよい』 ……レジストされたんじゃなくて、受け止めたのか? あれを……まともに受け止めて、平然としているのか?!『ああっ! お兄ちゃん、上に!』 上?!「速いっ!」 女王の巨体が目の前から消え、突然、頭上に現れた。 ダティルは右、俺は左に、あわてて飛び退く。 ズドン! 着地と同時に、女王は左手に持った杖の先をダティルに向け、体は俺の方に向き直った。『……どうやら、この木の実、勝手に動いておるようじゃの?』 ちっ……さすがに俺の方をマークして来やがったか。ちょっと目立ち過ぎたな…… 「くッ?! 隙がない……なんてヤツだ」 ダティルは剣を構えたまま動けない。 ……もちろん、俺も動けない。下手に動けば、一瞬で粉々にされるだろう。『我が子らの 仇 ( かたき ) が、このような小さき木の実とはのう……』 全身を、泡立つような危機感が襲い、全力で後ろに跳んだ。 俺の外皮をかすめて、女王の杖が通過する。 あ、危ない……! もうちょっとで粉砕されるところだったぜ!『怒りを通り越して……面白いのう。どういう理屈で動いておるのだ?』 なに?! まったく見えなかったぞ? ……跳んだ先に、もう女王がいた。何てスピードだ!『おほほほほ! ほうら、捕まえた』 ガッチリとキャッチされてしまった。 鷲づかみにした俺を、舐め回すように見る女王。『先程の魔法といい、ただの木の実とは思えぬ。もしや、悪魔が化けておるのか?』 悪魔なんかじゃないですから! ただの、いたいけなリンゴですって!『ふむ……割ってみれば、正体を現すやもしれんのう』 あ、やめろ! あいたたたた! おい、やめろって! いたた! ああいたたたたた! ……こ、粉々にされちまう! いたたたた!「うおおおぉおっ! リンゴさんを離せっ!」 女王の背後から斬りかかるダティル。『お前は、少し待つがいい』 女王に弾かれたダティルの剣が宙を舞う。その直後には、ダティルも弾き飛ばされて、転がり、動かなくなってしまった。『ほほ。少しは骨のある者かと思いましたが、その程度ですか』「ダティル……? いやぁ……ダ、ダティ、ル……?!」 フレッサの悲痛な叫び声が響く。『ダティルさん! ……〝水のふうきるぬすびと〟!』『ピロリン。呪文確認。魔法を発動します。〝出力2%〟 』 青い光がダティルを包みこんだ。ナイスだグリダ!『ふふ……面白い木の実よのう。本当に面白いのう』「ぐ……くぅっ……」 ゆらりと起き上がり、転がった剣を拾うダティル。傷が治っても、意識は 朦朧 ( もうろう ) としているようだ。 ……ヤバいな。このままじゃ勝てない!『お兄ちゃん! わたしのまほう、やってみる?』 そ、そうか……よし、水魔法100%だ!『りょうかい! 〝出力100%〟で〝水のふうきるぬすびと〟!』「ピロリン。呪文確認。魔法を発動します。〝出力100%〟 』 黒に近い、青い光が、女王を包み込んだ。頼む、効いてくれ!『んんんんんんあッ! 効くッ! こんなッ! こんな威力の回復魔法があるなんてっ!』 どことなく、恍惚とした表情の女王。 ……おおっ? これはもしかして有効打になったか?!『……最高に心地のよい魔法をありがとう。お礼に最高の死をプレゼントしましょうねえ!』『ああっ! きいてないのよ! 危ない、お兄ちゃん!』 手に持った杖を使い、床に転がっている俺を、ちょうどゴルフのスイングのような格好で振り抜いた女王。とっさに外皮を強化して防御したが、それが間に合ったのかすら、もう分からない。「リンゴさん?!」「いやああぁぁ?! リンゴさん! リンゴさああぁぁん!」 ああ。こんなになっても、まだ周囲がよく見える。リンゴって、ホントに高性能だよな……  殴られた部分はクシャリと潰されて、果肉がはじけ飛び、ふたつに千切れそうな体を、かろうじて赤い表皮がつなぎとめていた。『あ、ああ……お兄ちゃん……しっかりして?』 グリダ、大丈夫だ。俺には〝祝福のカード〟がついてる。これぐらいなら、まだ元に戻るさ。『うえぇぇぇん! お兄ちゃんが! お兄ちゃんが死んじゃった!』 ……何だ? オレの声、聞こえてないのか? っていうか、俺、生きてるのか?『お兄ちゃん! フルツお兄ちゃん! ひぐっ、んっ……ひぃぃぃん!』 ゴメンな、グリダ。泣かせちまって。 約束、守れなかったぜ……  ……クソっ女王が近づいて来やがる。 止 ( とど ) めを刺すつもりか。「うおおおっ! リンゴさんに近付くな! やめろおぉぉ!」 ああ、無茶だダティル。フレッサを連れて逃げてくれ……頼む…… 「これ以上……リンゴさんを傷つけさせない!」 女王の前に立ち 塞 ( ふさ ) がり、俺を 庇 ( かば ) おうとするフレッサ。お前まで……やめろ、やめてくれ! ああ……俺は何も! 何もできないのか?!『ひとつ、良いかな?』 ……は?『キミさ、なんであの二人を〝繋がない〟んだい?』 ……だ、誰だ? いったい何を言ってるんだ?『んー? あれー? もしかして、なーんも聞いてないってパターンかい?』 だから、何の事だよ?! さっぱり分からないぞ。『キミ〝箱の中〟なんて、ちょっとトリッキーな繋ぎ方までしちゃったから、私はてっきり、〝支配者側の魂〟だと思っていたのだけどねぇ……フルツさん?』 箱? つなぐ? 何を言ってるんだ?『ああ、私が誰かも分かってない? ……あ、あはは。そりゃそうだ! 私はね〝呪縛のカード〟。魂同士を繋ぎ合わせるカードさ』 ……呪縛の、カード……だと? お前、俺をリンゴにした〝呪縛のカード〟か!『ほらねぇ。やっぱ勘違いしちゃってる……! 私はね? 恨まれるような事なんか、しちゃいないんですけどね、これっぽっちも』 ……どういう事だよ?! 〝殺された物〟に転生してしまうカードなんて、恨まれて当然だろ!『ノンノンノン。私は本来、〝魂同士を繋ぎ合わせる力〟を持ったカードなんですよ。そんな呪わしいカードだと思われているのは心外の極みです』 はぁ?! だって俺、これこの通り、リンゴだぜ、リンゴ!『はい、そうですね。いまわの際……最期に関わった物を強くバインドしてしまうのは、神々の使用方法に問題があるからです。まあ、それを神々に伝えるのは、不可能なんですがね?』 ……さっぱり話が見えてこない。 ってこんな事をしている場合じゃない! フレッサとダティルが……な、何だこれは?!『特別サービスです。ナイショですよ? ちょっとあなたとお話しがしたくて、時間の流れをおそ~くしてるんですよ。ふふふ。ほんとにナイショですよ?』