呪縛
呪縛
『あ、ちょっとお待ちを』 何やら、ゴソゴソと、おもちゃ箱を引っかき回すような音が響いてくる。何か探しものか?『そうですか〝支配者側〟の方でないのでしたら、口調も少しだけ丁寧にしなきゃいけませんねえ……あった、これこれ。何でしょうねえ、このホコリは。フーッ! うわっぷ! ゴホゴホ!』 ……なにか、ホコリだらけの物を、探し当てたようだ。何だ何だ?『えっと、このボタンだったかな? ポチっと! ピロリロリン! あーあー〝呪縛のカード〟からのお知らせです。これでよしっと』 その音って、手動だったの?!『お待たせしましたね。一応、カードからのアナウンスがある場合は、鳴らす規則なもので。さて、どこまで話しましたっけ?』 ……〝呪縛のカード〟は、死因となったものに転生してしまうカードではない……という所だけど。『あー、そうでした! 神々は〝呪縛のカード〟を転生者に 宿 ( やど ) す時に、〝セルフコネクトモード〟のままで転生させちゃうんですよ』 ……セルフコネクト? 勝手につながる状態ってことか。『それでなくても、転生者は〝運命の 繋 ( つな ) がり〟が真っ白な、とても危険な状態なのに、そんな事したら、 良 ( よ ) かれ 悪 ( あ ) しかれ、運命の繋がりが残っている物に絡まってしまうのは当たり前じゃないですか! ねえ?』 ……ねえっていわれても。 よく分からないけど、なんで神様が〝運命のカード〟の使い方を間違えるんだよ。作ったのは神様なんだろ?『あー、そこからですかー。はいはいはい。えっと、そうですよねぇ……』 やんわりと、何かを隠しながら 喋 ( しゃべ ) ってるよな、さっきから。『まずは誤解の無いように申し上げますと〝運命のカード〟を作ったのは神様ではありません。そして、ご指摘の通り、使い方などを含め、製造者からの説明も、受けていません』 どういう事だ? そんな得体の知れない、ややこしい物を、転生者に渡しているのかよ!『そうですね! そうですねえ! お怒りはごもっともですよ。ただ、神様たちも、必要に迫られての事ですので、どうか許してあげてください……』 必要に、迫られ……? それってどういう…… 『おーっと! 申し訳ございません! その先のお話は、私の持つ〝権限〟を超えてしまいます……立場が弱いのって、本当につらいですよねぇ、フルツ様』 あーもう! 妙に共感できるトコを上手く突いてくるなあ。無理に聞こうとは思わないよ。いろいろと教えてくれてるだけでも、ありがたい事だからな。『ふふふ……お気づかいありがとうございます。そうですねぇ……これはお伝えしても問題ないでしょう。私のこの声、フルツ様にはお聞き頂けておりますが、一般の転生者はもちろん、神様にも、一切、聞こえておりません』 ……え?『運命のカードから、アナウンスが流れたり、様々な機能や、設定項目や、ボーナス特典がある事を、神様は、知らないのです』 ウソだろ?『……そう思われます? でーすよねぇ! 我々だって、一応、お声をお掛けしたり、選択肢を提示したりは、キッチリさせて頂いてるのですよ? でも、聞こえてないんですよ! ガン無視されっぱなしですよ! ポチッ。ピロリロリン! こーんなの、鳴らしても鳴らさなくてもおーんなじ!』 お、落ち着いて! 気持ちは分かったから! なんで押すかな、そのボタン!『こほん。申し訳ございません……つい日頃の 鬱憤 ( うっぷん ) が……!』 …… 驚愕 ( きょうがく ) の真実だ。それじゃ、神様も転生者も、こんなに便利でスゴい運命のカードを、まったく使いこなせていないのか…… 『お褒めいただき有難うございます。まったくもって、その通りでございます』 あ! そうか! もしかして〝呪縛のカード〟も?『はい。フルツ様が、私をお引き当て頂きました時にも、もちろん〝ピロリロリン! 設定画面から、動作モードの変更を行ってください〟。と、アナウンスをさせて頂きました』 だから、いちいち押さなくていいよ、そのボタン! ……っていうか、さっきそれ、探しまくった上にホコリまみれだったよな? 俺のとき、本当にアナウンスしたのか?『ほほう! さすがの洞察力でございます、フルツ様。その日はあいにくボタンが見つからず、私の〝 声帯模写 ( せいたいもしゃ ) 〟で急場をしのぎましたよ! 〝ピロリロリン!〟 ……ってね?』 いまの、声なのか?! 無駄にうまいな! もう常にそれでいいんじゃなかろうか! ……いやいやいや。そうじゃなくて。 それじゃ〝呪縛のカードの〟本当の使い道って、何なんだよ?『よくぞお聞き頂きました! 単刀直入に申し上げますと、それは〝魂どうしを 繋 ( つな ) ぎ合わせる〟ことなのです!』 魂を繋ぎ合わせる? そうすると、何が起こるんだ?『様々な事が起こります。繋ぐ魂によって、 千差万別 ( せんさばんべつ ) でございます』 んー。よく分からんなぁ。たとえば、どんなことなんだよ?『そうですね……ご存知のとおり、フルツ様とグリダ様が繋がりました時には……』 ……な? ちょ?!『……〝魔術師のカード〟の共有、魔力の自動回復〝倉庫のカード〟の共有と非接触管理など、便利で有用な能力が開放されたわけですが……』 まてまてまて! ちょっと待った!『……はい? 何か?』 何か? じゃないよ! ……グリダと俺が、繋がった? いつ? どこで?!『フルツ様。もしや、お気づきで無かったのですか?』 しらないよ?! 何も言ってくれなかったじゃんかよ!『〝呪縛のカード〟は、基本〝サイレントモード〟ですので……今後は、常時アナウンスさせて頂きましょうか?』 あ、ああ、頼む。 ……っていうか、なんでデフォルトがサイレントモードなんだよ。『それにしても、お気づきになられないのは、おかしいですね。サイレントモードとはいえ、魂の連結時には、そこそこに大きい〝連結音〟が響くはずなのですが……』 マジで? そんなの聞いてな……あ! それってもしかして〝ガチャ〟っていう金属音?『ああ、それでございます! 重い錠が掛けられますので、どうしてもサイレントというわけには……』 いや、だからさ。なんで秘密裏に進めようとするんだよ、そんな大事な事!『ちなみに、グリダ様との接続が、無自覚で行われたのでしたら、説明も練習も不要かと存じます。双方に〝命ある限り共に歩む〟という意思があれば、自動的にカードが発動して、外れ得ぬ鎖と錠で、魂同士を連結します』 あの時は、確かグリダに名前をつけて〝よろしく〟と言っただけなんだけど。『ふふふ。ご冗談を……! 記録によりますと、フルツ様はグリダ様を〝倉庫のカード〟から安全に取り出す方法を見つける、と約束されたはず』 ああ、そうだな。そのために俺は生きている。『ですよね? しかし! それはつまり! 常識的に考えて! 〝そんな方法、あるわけない〟ですよねえ! ですから〝永遠にその方法を二人で探し続ける〟という誓いを立てたと、独自の〝ポジティブな判断〟に到達いたしましたのですよ!』 うーん。ポジティブなんだか、ネガティブなんだか、分からんなあ。 ……まあ、それは置いといて。つまり、俺とグリダが〝呪縛のカード〟の力で繋がっただけで、色々な能力が身についたんだな?『はい! しかも、連結の初期段階なのに、これほどの強力な能力を発現なさるとは。これからの〝繋がりの深まり〟が楽しみですねえ!』 ……いちど繋がったら、それで終わりってわけじゃないんだな。『フルツ様。そこが〝呪縛のカード〟と言われる 所以 ( ゆえん ) なのですよ。覚えておいて下さいね? 魂の繋がりは、深まれば深まるほど、双方に有利な効果が得られます。そして……繋がりが浅くなれば、逆に、不利な効果が発現します』 そういう事か。なるほど、確かに〝呪縛〟かもしれないな。『おっと、少し長く話しすぎました。あと少しで、時の流れが正常に戻ります。フルツ様、あのお二人との〝魂の繋がり〟をおすすめします。きっとこの窮地を脱する能力を得られるでしょう』 ……どうやればいいんだ?『簡単ですよ。あのお二人と〝命ある限り共に歩む〟と、あなたが決意し、それをお二人も望めばいいだけです。さあ、繋がって下さい! ……あ、今回だけ特別に、体を元に戻しておきました。特別ですからね? ナイショですよ?』 周囲の視界が、じわじわと加速を始めた。『お兄ちゃん?! 良かった! お兄ちゃん……!』 グリダ、心配させてゴメンな。もう大丈夫だ。『うん! ほんとうに良かった! 良かったよう!』 ……正面には、俺を 庇 ( かば ) うように仁王立ちするフレッサ。その向こうには、剣を構えたダティル。そして、さらに向こう側から、ゆっくりと近付いてくる女王。 グリダ。俺はお前と一緒に生きていく。もう弱音を吐くのも諦めるのもなしだ。『うん! うん! ぜったいよ? やくそくよ?』 ああ、約束だ。 ……グリダ、フレッサとダティルのこと、好きか? 一緒に居たいと思うか?『……え? うん、もちろんよ! ふたりとも、大好きよ?』 ……じゃあ、問題ないな。やるぞ。 〝俺は、フレッサ、ダティルと、命ある限り共に歩む〟『ピロリン! 〝魂の連結〟を申請しました。しばらくお待ち下さい。許可待ち[002]』「ガチャ、ガチャ」 例の金属音が響いた。 ……と同時に、フレッサとダティルが、何かに気付いたように辺りを見回す。いまの音は聞こえたんだな?『お兄ちゃん、いまの音は?』 俺の魂に〝錠〟が掛けられた音だぜ。あとは、あの二人の返事次第だ。 ……俺はフレッサにコロコロと近付く。「ああ、良かった! リンゴさん、治ったのねぇ!」 足元の俺を拾い上げて、抱きしめるフレッサ。ダティルも、剣を構えたままジリジリと下がってくる。「リンゴさん、無事だったか、タフだなぁ! ……だが、ちょっとヤバいぜ、この状況」 そうだな。だから、二人の助けが必要なんだ。聞こえないのは分かっているけど……伝わってくれ! 出ない声を振りしぼって、力の限り、心の中で叫ぶ。 フレッサ! ダティル! 俺はお前たちと一緒に居たい! 力を貸してくれ!「……ダティル」「……フレッサ……さん?」 二人は、顔を見合わせたあと、俺を見てにっこり笑って言った。「もちろんよぉ、リンゴさん! 一緒に行きましょう、ずっと!」「ガチャ」「俺……僕は最初からそのつもりだぞ! 生きるも死ぬも一緒に決まってるだろう!」「ガチャ」『ピロリン! [002]の申請が許可され〝魂の連結〟を完了しました。能力の発現まで5、4、3……』 伝わった……伝わったぞ!!「これからもよろしくねぇ?」「さあ、そうと決まれば、あんなアリコロ、ぶっ倒してさっさと帰ろう! 魂の繋がりが、俺に力を注ぎ、二人に俺の力を伝え始めた……!