魂を繋いで
魂を繋いで
人には個性があって、それぞれ、得意な事、不得意な事があるし、それにあわせて、やりたい事、やれる事も、もちろん違う。『ピロリロリン! 〝呪縛のカード〟により、メンバー全員の〝基礎能力〟が向上しました! 新しい能力が発現しました』 ……力が! みなぎる!『ピロリロリン! 〝フルツ〟は〝 鎖縛 ( さばく ) 〟〝 耐性外皮 ( たいせいがいひ ) 〟を得ました』『ピロリロリン! 〝グリダ〟は〝 隔絶障壁 ( かくぜつしょうへき ) 〟〝 硬貨生成 ( こうかせいせい ) 〟を得ました』『ピロリロリン! 〝ダティル〟は〝 細胞操作 ( さいぼうそうさ ) 〟〝 疑似祝福 ( ぎじしゅくふく ) 〟を得ました』『ピロリロリン! 〝フレッサ〟は〝 林檎 ( りんご ) の王〟〝 死蔵抽選 ( しぞうちゅうせん ) 〟を得ました』 俺たちは、それぞれが、それぞれの能力、特性に影響し合うかのように、新しい能力を身につけた。 どういう能力か、イマイチ分からないのもあるけど。「お兄ちゃん、わたしにも、のうりょくが!」 ああ。これで、あの女王に勝てるかもしれない。「フレッサさん、これは!」「そうね! そうよね! これって!」 ……いや。〝かもしれない〟とか、そんな 曖昧 ( あいまい ) な感じじゃないんだ。何だろう、この 安堵感 ( あんどかん ) は。ダティルとフレッサも、ついさっきまでとは違い、口もとに、笑みまで浮かべている。「フレッサさん。聞こえた……というか、分かった?」「うん。なんだか不思議だけど、これは、リンゴさんがくれた力なのよねぇ?」 いや、俺も、すごい力をもらったみたいだし、お互いさまだからな? ……って、聞こえないか。『……え? フレッサさんたちに、お兄ちゃんの声、聞こえてないの?』 当たり前だろ? 俺、口ないし。『えー? でもでも! さっき、お兄ちゃんの声に、ふたりとも〝おへんじ〟してたよ?』 そうだな。伝わるはずのない、俺の〝心の声〟が、二人に届いたんだ。「ねえダティル、さっき私、リンゴさんの声が聞こえたわ! きっと、あれよぉ!」「ああ。間違いなく聞こえた! あの声に答えたから、きっと俺……僕たちはこの力をもらえたんだ」 ……つまり、奇跡だ。「なぜだろう。全然怖くない……」 ダティルは、むしろ、嬉しそうに笑っている。「本当に。この距離にいるのにねぇ」 それに合わせて、フレッサも微笑む。 女王が、目と鼻の先まで近付いているのに。『……観念したか? 弱き者ども』 そう。女王は既に、さっき俺が、杖でフルスイングされたぐらいの間合いまで、近付いていた。 ダティルの顔面に向けて、杖が振り下ろされる。「……おいおい、見えるぞ。〝細胞操作〟っ!」 ダティルの姿が一瞬だけゆらぎ、女王の杖は空を切る。その後に、アナウンスの声。『ピロリン! 〝細胞操作〟を発動しました。残り、59、58、57……』 ダティルとフレッサには〝呪縛のカード〟によるアナウンスは、聞こえていないはずだ。だが…… 「なんでだろう? これがどういう力で、どう扱えば良いのかが分かる……〝細胞操作〟は、筋肉繊維だけじゃなくて、全身の〝細胞そのもの〟を操作して、動く事ができるんだ。リンゴさんみたいに!」 不思議な事に、ダティルは自分に発現した能力を、把握していた。『何じゃと! こやつ、急に動きが良くなりおった?!』 ……そして、フレッサも。「私も分かるわ。〝林檎の王〟発動」『ピロリン! 〝林檎の王〟を発動します。周囲に誰もいないことを確認して下さい。発動まで、10、9、強い衝撃が加わります、離れて下さい、3、2、1……』フレッサは、俺を左手で抱え、 凛 ( りん ) とした表情で女王を睨む。 差し出した右手の少し先に、いつの間にか、〝リンゴ〟がひとつ浮かんでいた。「私がもらった能力は〝林檎の王〟。リンゴを自在に操る力……ふふ。本当に〝リンゴ魔法〟ねぇ!」 次の瞬間、フレッサの周囲にも、リンゴがポロポロと出現した。「最初は5個が限界みたい……〝硬化〟〝強酸化〟〝寄生種子〟」『ピロリン! すべてのリンゴを〝硬化〟〝強酸化〟〝寄生種子〟に品種改良します。3、2、1……完了しました』 ……やはりフレッサも、自分の能力を完全に把握しているようだ。『おのれぇ! ちょこまかと! 一体どうなっておる?!』「すごい……自分の体じゃ、ないみたいだ……!」 一方ダティルも、あの女王を相手に互角以上の戦いを繰り広げている。「ダティル! 避 ( よ ) けてぇ!」 フレッサの声に、ダティルはあわてて飛び退く。「いくわよぉ! 〝 林檎流星群 ( りんごりゅうせいぐん ) 〟っ!!」 フレッサの周囲に浮かんでいたリンゴたちが、ものすごいスピードで、一斉に女王めがけて撃ち出された。『なんじゃそれは……木の実っ?!』 女王は、杖を十字に構えて防御しようとする。 ……その防御をかわすように動き、すべてのリンゴは女王の胴体にめり込んだ。『ぐあァァァああ?! 小さき木の実ごときが何という重さ……ひいぃぃ! 熱い! 痛い! 何じゃこれは……?!』 ジュウジュウという音と、女王から立ちのぼる煙。そして周囲に、甘く、焦げたような……焼きリンゴのような匂いが立ち込める。「酸化も、まだちょっと弱いみたいねぇ?」 強い酸によって、女王の硬い表皮が焼かれ、侵食されていくのが分かる。『ぐぇぇぇっ! こ、これしき……のことで! わらわに勝てると思うでないぞ!』「あなたこそ、それで私の攻撃が終わったと思ったら大間違いよぉ?」 フレッサが、女王の言葉の意味を理解出来ているかのように言い放つ。 直後。女王に、更なる異変が起きた。『なっ! 何いっ?! 何かが、わらわの身体に入って……痛いっ! これは?!』「そのリンゴの〝種〟は、あなたの体に深く根を張って、体液を吸い尽くすわ!」 なにそれ怖い……! もう別の植物だろう。リンゴを何だと思ってるんだよフレッサ?『おのれ……おのれおのれおのれ! こんな物にわらわが! こんな事で……痛いぃぃぃ!』「無理に引き抜かないほうがいいわよぉ? もう神経とか血管に、根を張ってるから、ねぇ?」 怖い怖い怖い! 何よ、その生物兵器! ……皆さん! 普通のリンゴの種は安全ですよ? えっと……リンゴ酸も、身体に良いんですからね?「すごいなフレッサ! ……さん! よし、それじゃ俺……僕も!」『ピロン! 〝細胞操作〟の活動限界です。再使用まで、59、58、57……』「っておいいい……」 がっくり肩を落とすダティル。 どうやら、ダティルの〝細胞操作〟には、時間制限があるらしいな。 ……それじゃ悪いけど、いいとこ取りさせてもらおうかな。〝 鎖縛 ( さばく ) 〟発動!『ピロリン! 〝鎖縛〟を発動します。巻き込みに注意して下さい』 俺も、自分がもらった能力は完全に把握している。不思議だが、そういう物なんだろう。 俺からフレッサとダティルに伸びている 鎖 ( くさり ) 。〝呪縛のカード〟によって繋がれた鎖が、ジャラジャラと音を立てて 具現化 ( ぐげんか ) した。 ……これは、俺にしか見えない鎖。決して切ることのできない、絆の証。「リンゴさん、これって……」「そうか、俺たちとリンゴさんは、こんな風に繋がったのか!」 見えている? ……ははっ! そうか。二人はこれが見えるほどに、俺の事を想ってくれているのか!「リンゴさん、女王をやっつけて!」 俺をそっと床に置くフレッサ。「仕方ないなあ。 止 ( とど ) めはリンゴさんに 譲 ( ゆず ) るよ!」 ニッと笑うダティル。 ……よし、それじゃ行くぞ! これでフィニッシュだ! 〝 葬送鎖縛 ( そうそうさばく ) 〟っ!『ピロリン! 〝 葬送鎖縛 ( そうそうさばく ) 〟を開始します。 出棺 ( しゅっかん ) まで30、29、28、巻き込みに注意して下さい。繰り返します。巻き込みに注意して下さい。24、23……』 女王は、痛みにもがき苦しんでいる。こちらを気にしている余裕など無いようだ。『ひぎゃあああぁ! 痛い! 苦しい! 根が! もうこんなに根が!』 ……さあ、 葬送 ( おく ) ってやるぞ。 俺はジャラジャラと鎖を引きずり、コロコロと、女王に近付いてゆく。『あ、木の実……?! や、やめろ! 近付くな! わらわに近付くでないっ! やめ、て……』 女王はこちらに気付いて、怯えたように後ずさる。 ……俺は女王の周囲を、コロコロ、ぐるぐると回り、鎖を女王に巻き付けていく。『何なのじゃ? なぜわらわの周りを……?! やめろ! やめて! やめてぇえええ!』 俺たちの〝運命を共にする〟という誓いの鎖は、女王には見えていない。 ……お前はもうすぐ、俺たちの運命に巻き込まれて死ぬんだ。『ピロリン! 〝 葬送鎖縛 ( そうそうさばく ) 〟のお時間です。合掌。火葬場に同行される方は、バスをご用意しておりますのでお急ぎご乗車下さい……』 鳴り響くクラクションの音と共に、女王はピンと張られた鎖に巻き込まれて、粉々に砕け散った。