箱の中の箱
箱の中の箱
女王を倒したからといって、他のアリが消えて無くなるわけではない。ゲームじゃないんだし。「フレッサさん。これは……!」「死んでるのぉ……?」 アリは、全滅していた。 ……消えて無くならなかったのはラッキーだったよ。ぜんぶ、頂いて帰ろう。グリダ、よろしくー!『お兄ちゃん……なんでアリさんたち、みんな死んじゃったの?』 転がっているアリは、次々と消えていく。一瞬でこの数を収納するかー! やっぱグリダさまさまだなあ。 ……ん? ああ〝 葬送鎖縛 ( そうそうさばく ) 〟の効果だぜ。あの技は、かけた敵だけじゃなくて、その敵の〝死を 悼 ( いた ) む者〟の魂も、いっしょに連れて行くんだ。バスで。『……ばす?』 あ、いや、そこは気にしないで大丈夫。 ……〝女王〟と〝子どもたち〟という関係上、生き残っているアリは居ないんじゃないかな。『ちょっとこわいね……』 確かにそうだな。ある意味、無差別な大量殺戮だ。 ただ、今回の場合、どちらにせよ、この巣に居るアリは、全滅させるつもりだったんだけどね。 ……俺たちは、下層に避難したパーティーメンバーと合流するため、来た道を引き返している。「あぁ、ダティル。その服装のままじゃダメねぇ……」「やれやれ。どうしたものか……」「あと、口調も注意よぉ? 絶対にバレちゃ駄目なんだから!」「はいはい。フレッサさん。分かりましたよ」 〝ホルマーは死んだ!〟……という事にするため、彼は完全なる別人〝ダティル〟にならなければならない。「あとは、そうねぇ。フルフェイスの 兜 ( かぶと ) とか、 眼帯 ( がんたい ) とか?」「いや、それは逆に怪しいでしょう、フレッサさん」 ……つまりは、ほんの 僅 ( わず ) かな証拠も、残せないんだ。 そうだ、グリダ。〝倉庫のカード〟から、ダティルに合いそうなサイズの装備を出そう。『はーい! ……あ、あれ?』 どうした、グリダ?『お兄ちゃん、いつの間にか、わたしのとなりに、みたことのない箱があるよ?』 箱? お前のとなりって〝箱の中〟だろ? その中に、また箱? どういう事だ?『えーっと……よく分からない文字と、絵が書いてあるのよ? 〝おっきな箱〟に、何かを入れて? ……丸いキラキラしたものが出てくる、みたいな絵なの!』 んー? 何かを入れて、丸いキラキラ……? もしかして、グリダの新しい能力に関わる物かも知れないな。確か〝 隔絶障壁 ( かくぜつしょうへき ) 〟と〝 硬貨生成 ( こうかせいせい ) 〟だ。その〝箱〟の場合はたぶん…… 『〝こうかせいせい〟……かなあ?』 ……っぽいよな。 グリダ、その箱、他に何か 特徴 ( とくちょう ) はないか?『んーっと……あ、箱に、すうじが書いてあるよ? 100って』 数字……? 絵には〝何かを入れろ〟と書いてあったんだよな。グリダ、その箱に、なにか入れられるか? 例えば……アリの死体とか。いっぱいあるし、試しに放り込んでみてくれ。『うん! ……よいしょっと!』『ピロリン! ガシャガシャチーン!』 ……何の音だよ?! 『お兄ちゃん、すうじが、ひとつへったよ?』 ほう、面白そうだな……! 数字がゼロになると、何が起きるんだろう。ちょっと待ってくれよ。 俺は、フレッサの手を離れ、床をコロコロと転がる。「あらぁ? リンゴさん、どうしたの?」 いや、念のために、ちょっと距離を置かなきゃと思ってな? ……っていう俺の声、聞こえてないはずなのに、すこし離れて様子をみているフレッサ。こういう〝何となく伝わる〟所が、不思議だけど、有り難いと思うぜ。 グリダ、大変かもしれないけど、あと99体、その箱とやらに入れてみれくれないか?『うん。いっきに入れられるから、たいへんじゃないのよ? せーの、えい! っと!』 ……実際、グリダは箱の中で、どういう操作をしてるんだろう。ちょっと気になるなあ。『ピロリン! ガシャガシャガシャガシャガシャ……チーン!』 ……気になるなあ。『お兄ちゃん、見て、フレッサさんの前に!』 え……? なんだ?「き、金貨?! なんで急に金貨が?」 フレッサの目の前に、ふわりふわりと、100円玉サイズの金貨が浮かんでいる。これが〝硬貨生成〟なのか?『えー? お金を、作る〝のうりょく〟なの?』 いや、悪くない能力かもしれないけど、アリの死体100体分で、あのサイズの金貨一枚なら、死体のまま売ったほうが、 儲 ( もう ) かるんじゃないか?「……リンゴさん。これ、私にくれるのぉ?」 そっか。目の前に、金貨がいきなり現れた上に〝宙に浮いてる〟となれば、俺の 仕業 ( しわざ ) だと思うよな。 ……っていうか、なんでフレッサの前に現れたんだ? フレッサは、そっと金貨に手を伸ばす。指先が金貨に触れたその瞬間、今度は俺の能力が発動したようだ。『ピロリロリン! 〝 死蔵抽選 ( しぞうちゅうせん ) 〟を開始します』 ……いや、俺のじゃない! でも、この箱は? 目の前に、〝倉庫のカード〟で、収蔵品のリストから〝アイテムを選んだ時〟に現れる、無骨な〝箱〟が現れたのだ。『お兄ちゃん、これ、私の入っている箱だよ?』 そうだよな。何なんだ、突然…… 普通は、この箱に手を突っ込めば、自在にアイテムが取り出せるはずらしいのだが、俺には肝心の〝手〟がない。実はここ数日、何度かこうやって〝箱〟は出してみたが、どうあがいても、中身は取り出せなかった。「箱……ねぇ?」「箱……だな」 二人にも見えている?! 俺の〝箱〟は、能力としての、抽象的なというか、実態のない存在だぞ? なんで見える……? ……あ、そういえば、さっきのアナウンス!『〝しぞうちゅうせん〟をかいししますって、いってたよね?』 ……そういえば、よく見ると、いつもの箱と違う所がある。『何だろうね? あの穴……』 ……あれは、どう考えても、自動販売機に付いている、硬貨の投入口だぞ? 俺の世界の奴が見たら、たぶん全員が、そう思うだろうぜ。よく見たら、その下に、レバーと返却口も付いてるし。『じどうはんばいき?』 ああ。あれにお金を入れると、商品が出てくる仕組みなんだ。人の居ない〝お店〟だな。『わぁ! おもしろいねえ!』 そうだな。面白いけど、なんであの箱に、あんな物が付いてるんだ? ……あ!「……もしかして、ここに、この金貨を入れろって事なのぉ?」「そうとしか考えられませんね。リンゴさんの事だから、きっとまた何かスゴい事が起こるんですよ」 丁寧語 ( ていねいご ) がずいぶんと板に付いてきたな、ダティル。 ……まあ、俺は何が起きるか、さっぱり分からないんだけどな?「それじゃあ、入れてみるわよぉ?」「チャリン!」 金貨は、心地よい音を立てて、箱に転がり込んだ。『ピロリン! 〝 死蔵抽選 ( しぞうちゅうせん ) 〟スタート! ドゥルルルルルルルルル……』 ドラムロールが始まり、どこからともなく、派手で無駄なライトアップが、周囲を照らす。『ピーピーポポーピーピーピーポーポー! イェーイ! 今日はどんなアイテムが登場するのかなぁー? さーあ出るぞ出るぞぉー! 良いのが出てもそうでなくても、恨みっこなしだぜぇーッ! ブンチャカパラララン!』 なんでラテン系のノリなんだよ! ミラーボールっぽい演出とか要らねぇよ!「な、なになに? 何が始まったのぉ?!」「リ、リンゴさん! 何だよ、これ!」 俺も分かんねぇし! 何だ? 何が起きたんだよ?!『……ルルルルルルル……パーン!』 ドラムロールが終わり、ライトアップもピタリと止まる。 ……一瞬の静寂のあと、箱にスポットライトが当たり、フタが跳ね上がった。中から、大きな丸い球体が飛び出す。 ボトッ……コロコロコロ……パカッ! 地面に転がった球体が勝手に開いた。これ、なんか見たことあるぞ?!「パンパカパーン! おめでとうございます! 〝アイテムナンバー7904020481〟〝SSR〟〝ロガの 革鎧 ( かわよろい ) 〟が当たりました!」 いつの間にか、箱と球体は消え去り、キレイにプリントアウトされたような〝紙切れ〟と〝革でできた鎧〟が地面に置かれていた。「……ビックリしたぁ! 何だったのぉ? 〝エスエスアール〟ってなんなのかしら?」「〝ロガの革鎧〟? これがそうなのか?」 いまのアナウンスと演出、二人には、ぜんぶ見聞き出来たんだな。だんだん明けっ広げになっていくような気がするぞ〝運命のカード〟。 ……いや、そんな事より、今のは、もしかして! グリダ、この〝ロガの革鎧〟って…… 『そうよお兄ちゃん。それ、わたしといっしょに、この箱に入ってたヨロイ! 出せないほうのやつ!』 ……やっぱりそうか! グリダが作った特別な〝金貨〟で、フレッサがランダムに、箱から〝出せないはずのアイテム〟を取り出せてしまう……! グリダの〝硬貨生成〟と、フレッサの〝死蔵抽選〟って、こういう事かよ。今回一番のチート能力だぞ?!「見た感じ、普通の 革鎧 ( かわよろい ) ですね……」「でもぉ、おめでとう! って言ってたわよぉ? ……あら、何か紙切れが?」 そういえば、一緒に紙が出てきていたな。何なんだ? ……うわぁ! これ、この鎧の〝仕様書〟か? σ σ σ σ σ σ σ σ σ σ 〝ロガの革鎧〟〝SSR〟 異世界〝エ・ムエス・エクス〟の魔王〝ロガ〟の革で作られた鎧。 一見すると、獣の革でできた、ただの鎧だが、物理防御、魔法防御、ともに〝神話級〟。 装備した者の体型に、ピタリとリサイズされる。 ・物理防御 11316 ・魔法防御 10018 ・自己再生 ・耐性 火 ・耐性 冷 ・耐性 雷 ・耐性 水 ・無効 石化 ・無効 即死 σ σ σ σ σ σ σ σ σ σ まてまてまて! ……これ、ラスボス戦の最終装備じゃねぇか! えっと……グリダ。アリの死骸、全部金貨にかえてくれ。