帰還と報告
帰還と報告
ここは〝カラブーヤの町〟の冒険者ギルド。 第三班のパーティーメンバーと、試験官のエルミチャ、そしてフレッサに救われたダティルが、今回の件を説明するために、ギルドマスターの部屋に集められていた。「ご苦労だったな、エルミチャ。よくぞ無事〝新人たち〟を守り抜いてくれた」 この人が、ギルドマスターか。顔や腕、いや、きっと全身なんだろう。いたるところに傷の 痕 ( あと ) があり、いかにも〝歴戦の勇士〟って感じだ。「……惜しい男を亡くしたな。ホルマーの遺品はこれだけか、エルミチャ」 テーブルの上には、切り取られた〝ホルマーの腕〟が、布に包まれて置かれている。「〝ギルド員証〟もあります。これを……」 エルミチャが、 赤黒 ( あかぐろ ) い血の 痕 ( あと ) がこびり付いた、ギルド員証をギルドマスターに手渡す。「……まったく、 慣 ( な ) れんものだ」 じっと、ホルマーのギルド員証を見つめるギルドマスター。「これも、明日の葬儀で 棺 ( ひつぎ ) に入れるとしよう」 ギルドマスターは、テーブルの上……ホルマーの腕のとなりに、カードを置いた。「それでは、報告を聞こうか。 掛 ( か ) けたまえ」 ソファーに腰掛けるメンバーたち。座り切れなかったダティルには、部屋の 隅 ( すみ ) にあった木の椅子が手渡された。「それでは〝 傾国 ( けいこく ) の 大穴 ( おおあな ) 〟で遭遇した、今回の事件の一部始終をご報告いたします。まず第一階層と第二階層は……」 ……と、エルミチャが報告を始めたところで、急に窓の外が、騒がしくなってきた。「なんだよこいつ! なんで町中で、 亜竜 ( ありゅう ) が暴れてるんだ?!」「 調教師 ( テイマー ) がミスったんだよ! 捕まえろ、囲め囲め!」 ……どうやらトラブルらしい。ここからは見えないけど、動物が鳴く声……いや、きっと魔物だろう。何人かの男たちが、その魔物を捕まえようと四苦八苦しているような、騒々しい声が聞こえる。大丈夫なのか?「ああ、魔物が暴走したようだな。まあ、よくある事だ。〝 亜竜 ( ありゅう ) 〟程度なら、放っておいても大丈夫だろう。続けてくれ」 ……マジかよ。これが日常?! ファンタジー世界って、スゴいなあ! σσσ σσ σ 「以上が、アリに遭遇し、試験を中止、退却を始めるまでの件です」 エルミチャからの報告を聞き、驚きを隠しきれずにギルドマスターがつぶやく。「君たちが無事だったのは、本当に奇跡だな……」 通路を埋め尽くす、冒険者の死体の山を横目に見ながら、フレッサたちは、大きな怪我もなく、無事に帰還した。確かに、奇跡かもしれない。「ホルマーさんのおかげです。彼が居なければ、私たちは魔物の餌食になっていたでしょう」 エルミチャの報告は続く。「〝Bクラス 名札 ( タグ ) 〟付きの、人食い大アリ〝セデル〟と、ほぼ同じ姿、ほぼ同じ強さの魔物が大量に出現。地上への通路は、逃げようとする冒険者であふれ返っていました」 一概に言えないが、目安としてはBクラスの 名札 ( タグ ) が付いた魔物は、Bクラスの冒険者が1対1で戦って互角の強さらしい。なるほど、分かりやすい。「班長ザンバラウの提案で下層に避難する事になり、その移動中、ホルマーさんは私たちを逃がすため、アリと戦闘、死亡しました」 ポロポロと涙をこぼすフレッサ。相変わらず、すごい演技力だな……これなら誰もホルマーが生きているとは思わないだろう。「……ホルマーの死亡を確認したのは?」 全員がフレッサを見る。「キミか。しかし、はて……? 複数の強力な魔物に倒されたホルマーを見届けたあと、キミはどうやって逃げ延びたんだ?」 さあ来たぞ! ……って、まあ当然の疑問だけどな。「ホルマーさんは、私たちを逃がすため第三階層に残りました。私たちが第四階層についた直後、ホルマーさんの……」 チラリと、テーブルの包みに目をやり、更に続けるフレッサ。「腕……が、降って来たのです」 ……演技をしていると、まるで別人みたいだなあ。「私はパーティーメンバーの制止を振り切り、第三階層に戻りました」 それを聞いて、少し 眉間 ( みけん ) にシワを寄せるギルドマスター。「……それはまた勝手な行動だな。他のメンバーを危険に晒す事になるし、キミが引き返したところで 魔物 ( アリ ) のエサになるだけだろう? それに、キミが無事だった理由が分からない。〝Aクラス冒険者〟のホルマーが倒される程の魔物どもからキミはどうやって逃げ……」 と、ここで、またしても、外から大きな声が聞こえてきた。「な、なんで? なんで魔法が効かないんだ?!」「珍しいけど、加護付きなんだろ? 力づくで行くぞ!」 さっきの〝 亜竜 ( ありゅう ) 〟とやら、まだ捕まってなかったのか……?「まったく、手際の悪い……! 日頃の鍛錬不足だな」 イラついた表情のギルドマスター。 ……いや、どうも様子が変だぞ? なんだか〝悲鳴〟に近い声が聞こえるような……?「ひいぃぃ?! こ、こいつ違うぞ?! 亜竜 ( ありゅう ) じゃなくて、竜の子ども?!」「ウソだろ? そんなの手に負えるわけな……ぎゃああああ?!」 ギルドマスターの 眉間 ( みけん ) には、一層深いシワが寄る。「〝 幼竜 ( ようりゅう ) 〟……だと?! そんな物を市街地に持ち込んだのか……!」 ガタリと立ち上がるギルドマスター。 ……と同時に、フレッサも立ち上がった。俺をテーブルにそっと置き、そのままゆっくりと窓際まで歩いていく。「な? キミ……! いったい何を……」「……ホルマーさんに止められたんです。私たちは、まだ素人。冒険者じゃない。俺たちプロに任せろって。だから、これは使わずにいました」 フレッサは両手を 真横 ( まよこ ) に広げ、ぽつりと小声でつぶやく。「〝林檎の王〟発動」『ピロリン! 〝林檎の王〟を発動します。周囲に誰もいないことを確認して下さい。発動まで、10、9、強い衝撃が加わります、離れて下さい、3、2、1……』 現れたのは、フレッサの左右の手の上にひとつずつ、頭上に3つの、合わせて5つのリンゴ。「〝リンゴ魔法〟!」 ザンバラウの声。と同時に、息を呑む音が、チラホラと聞こえてくる。「リンゴ……? 何だね、その曲芸は?」 訝 ( いぶか ) しげに、フレッサの出したリンゴを見ているギルドマスター。っていうか、交互に、テーブルの上の俺もチラチラ見てるし。 ……仕方がないか。何もない所から、急にリンゴを出したりしたら、そりゃ曲芸だよなあ。「〝硬化〟〝高速回転〟」『ピロリン! すべてのリンゴを〝硬化〟〝高速回転〟に品種改良します。3、2、1……完了しました』 ……フレッサは、誰にも聞こえない程の小さい声でリンゴを変化させる。 目にも止まらない速さで、回転を始める5つのリンゴ。「それは?! どうなっているんだ!」 フレッサは、ニッコリ笑うと、窓の外で大暴れしている〝 幼竜 ( ようりゅう ) 〟を指さして言った。「〝 林檎流星群 ( りんごりゅうせいぐん ) 〟!!」 フレッサの周囲で高速回転をしていたリンゴたちは、そのまま凄まじいスピードで、撃ち出される。「ドドドドドグシャッ!」 さっきも言ったが、俺からは外の様子が見えない。 ……けど、さっきまでの騒ぎが、一瞬にして収まったところを見ると、 幼竜 ( ようりゅう ) には5つの風穴が空いて、すでに息絶えているのだろう。「ギルドマスター。確か〝 幼竜 ( ようりゅう ) 〟は、どんなに小さくて幼くてもAクラス 名札 ( タグ ) が付くんですよね?」 窓から一部始終を見ていたギルドマスターは、額の汗を拭って、こう言った。「ああ。卵から出てきたばかりの 幼竜 ( ようりゅう ) でさえ、確認され次第、Aクラスの 名札 ( タグ ) が付く」 ギルドマスターは 強張 ( こわば ) った表情のままで言った。「……キミのおかげで、ヤツの〝名前〟を考えずに済んだよ」