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剣で語らう

林檎転生 ~禁断の果実は今日もコロコロと無双する~ — novelup.plus · All chapters

剣で語らう

……あの時〝 傾国 ( けいこく ) の 大穴 ( おおあな ) 〟に 潜 ( もぐ ) っていた147人の冒険者のうち、生還者は、40名にも満たなかった。命を落とした冒険者たちの 葬儀 ( そうぎ ) は、明日、合同で 執 ( と ) り行われる事になっている。「き、キミの強さはよく分かった……!」 平静を装いつつも、ほっぺがピクピクと引き 攣 ( つ ) っているギルドマスター。 何はともあれ、分かってもらえたようで安心したよ。フレッサはちょっとやり過ぎちゃったけどな?「コホン。さて、今回の試験についてだが……」 ……そういえば、さっきギルドマスターは、少し気になる事を言っていた。『お兄ちゃん、気になることって?』 ああ。ギルドマスターが、フレッサたちの事を〝新人たち〟って言ったんだ。まだ合格していないのにな。という事はもしかして…… 「……第3班は全員合格とする。今回の〝非常事態〟を見事に切り抜け生き残った諸君を、正式なギルドメンバーとして迎えよう」 やっぱりね。俺の目から見ても、このメンバーは優秀だと思う。『みんな強いよねぇ』 ああグリダ、そうだな。 ……そしてさらに今回、彼らは〝死線〟をくぐり抜けた。これはなかなか経験できることじゃない。『しせん?』 百人以上が死んだ、 未曾有 ( みぞう ) の大惨事を生き延びたんだ。つまり、不謹慎だが……〝運良く〟得がたい体験をしたわけだな。ギルドにしてみれば、そんな彼らを何としても捕まえておきたい所だろう。「もちろん辞退してもらっても構わない。今回の事で多くの死を目の当たりにした今の諸君なら〝冒険者〟などという危険な仕事に〝関わらない〟という〝選択〟もできるだろう」 ……とか言いつつ、それを 既 ( すで ) に用意してあるか! やるなあ。 ギルドマスターは、メンバー全員分の〝ギルド員証〟を、テーブルに並べた。 全員、喉から手が出るほど欲しかった物だ。これをチラつかせておけば〝やめます〟という選択はしないだろうって事だよな?「さあ、手に取るがいい。それだけで諸君はもう冒険者だ」 ……ギルドマスターの言葉のあと、全員が何の 躊躇 ( ちゅうちょ ) もなく、テーブルの上の〝ギルド員証〟に手を伸ばした。「よろしい。これで諸君は正式なギルド員だ。他の班の帰還を待って、詳しい説明会を行う。希望者は今日中に参加を受付で申し込むように。それと……」 ギルドマスターが、ダティルの方をチラリと見る。「これから私は彼の話を詳しく聞こうと思う。3班の諸君らには直接関係ないが、これも何かの縁。同席したい者は残るといい。それでは解散!」 σσσ  σσ  σ  部屋には、エルミチャとザンバラウが残った。ホルマーの事を知るエルミチャはもちろん、頭のいいザンバラウも要注意。 ……つまりは、若干、面倒なメンバーだ。「お待たせした。キミは記憶がないそうだね」 ダティルに声を掛けるギルドマスター。「はい……ダティルと申します。名前と、戦い方以外は、何も思い出せなくて……」「ふむ。なるほど……おっと、自己紹介が遅れたな。私の名は〝パステーク〟だ。聞いていたとは思うが、この町のギルドを 総轄 ( そうかつ ) している。よろしくな」 怪しむという程ではない、しかし、決して信じたというわけでもない。そんな眼差しを向けるギルドマスター〝パステーク〟。「〝戦い方〟を覚えていると言ったね。キミは剣士と見たが、どうだ? ひとつ、私と手合わせをしてみないか?」「手合わせ……試合ですか?」 それはマズイんじゃないか? 会話ならまだしも、剣となれば、ホルマー時代の 癖 ( くせ ) が絶対に出るだろう。「記憶が戻るまで、どれぐらい掛かるか分からん。いや、最悪、ずっとそのままの可能性だってあるんだ。身分を証明する物が無いと、色々と困るだろう?」 パステークは、訓練用の木剣を、戸棚から取り出し、ダティルに差し出す。「私も、伊達や酔狂でここを任せられているわけじゃない。ある程度打ち合えば、相手の人となりは分かるつもりだ」 ニヤリと不敵に微笑むパステーク。「剣を交え、キミという人間を見極めさせてもらう。そして問題がなければ、私の権限で、キミにギルド員証を発行しようじゃないか」 冒険者になれるのか! この提案、降って湧いた天からの贈り物か、それとも……  ダティルは、しばらく考え込んでいたが、ゆっくりとうなずいた。「よろしくお願いします」 マジかダティル! 大丈夫なのか?「よし、それでは訓練場に行こうか。キミは、相当な使い手のようだからね、楽しみだよ」 σσσ  σσ  σ  つい先日〝 近接戦闘 ( きんせつせんとう ) 〟の試験会場だった、ギルド建屋内の地下練習場。 数人の記録係と、フレッサ、エルミチャ、ザンバラウ。少し離れて、偶然居合わせた野次馬が数名、見学席に座っている。「ほほう! 少し見せてもらっていいかな?」「……構いませんよ、どうぞ」 ダティルが腰から外した剣を、ギルドマスター〝パステーク〟が、珍しそうに眺める。「何とも古めかしい……しかし、良い剣だ」「ありがとうございます。でも僕は、その剣をどこで手に入れたのか……買ったのか、貰い受けたものなのか、まったく思い出せません……それは古い物なのですか?」 フレッサに負けず劣らず、ダティルもなかなかの演技派だ。「そうだな。少なくとも、百年や二百年以上は経っている……いや、この感じは? 1、2、3、4、5……8か! 驚いたな。この剣、下手をすると、もっともっと昔の物だぞ? 〝古代遺物〟クラスの掘り出し物かもしれん……!」 ちょいちょいちょい! この人、そんな事まで分かっちまうのか? ……思わぬ所でボロが出るとか、やめてくれよ?「この剣に〝8重〟にも織り込まれた〝劣化防止〟の魔法が消滅寸前だ。〝3重〟以上の物を見たのも、それがこんなに弱まっているのも初めて見た。掛け直してもらう方がいい」 にっこりと微笑み、元の位置に剣を置くパステーク。「あとで、腕の良い魔法使いを紹介してやろう」 良かった、変にツッコまれなくて。 ちなみにあの剣は〝傾国の大穴〟でアリの犠牲になったのであろう、見知らぬ〝誰か〟の遺品だ。 ……そりゃ古いはずだよ。せっかく石碑に刻んだ〝警告文〟が読めなくなってしまうほど昔の物なんだからな。「それでは、始めようか。準備はいいかな?」「はい。よろしくお願いします」 練習場中央で、向き合い、木刀を構えるダティルとパステーク。「ふむ? ……乱れているな。その迷い、記憶喪失から来る物か、それとも?」「……っく!」 ……構えを見ただけでアレかよ! パネェな、あのおっさん!「行くぞ! そりゃああっ!」 速っ! 俺が一瞬見失うって、どんなスピードだよ?!「はっ!」 パステークの剣をかろうじて 弾 ( はじ ) くダティル。「いかん、いかんぞ! 迷いが更に強くなっている! ……いや、これは迷いというより?」 激しく打ち込むパステークに、防戦一方のダティル。 いや、自分が〝ホルマー〟だと気付かれまいとしている事が、動きを鈍らせているんだ。しかも…… 「……ダティル君、キミが隠そうとしている物は何だ? ……悪いが、すべて見せてもらうぞ!」 この人、怖ぇよ! 見透かされてるじゃないか!「う、うおぉおおおおっ!」「はっは! そうだ! 見せてみろ、もっとだ! もっと来い! 無理な動きは、結局、すべてをさらけ出すことになる!」 ダティルの太刀筋を、ひとつひとつ、 紐解 ( ひもと ) くかのように受けては返すパステーク。「いまのは上段であるはずだ。ほら、次は下からの攻撃をわざと控えたな? ……いまのも不自然だ。突きを打ちたかったのだろう? 見えてくるぞ? 隠しても無駄だ!」「……ぐ、っくうッ!」 癖 ( くせ ) を押し殺しての攻撃を、すべて、本来〝したであろう攻撃〟に置き換えて、読み取られてゆく……これでは隠している意味がない。マズいぞ?「 袈裟 ( けさ ) に打つ踏み込みをわざと甘くしたな? おっとそれだ! その場合、キミは 躱 ( かわ ) すのではなく弾いていたはずなんだろう? どうした! なぜ右から出すはずの足を左から出す? ……ん、ちょっと待てよ? その動きは……?」 急に、驚いた表情を浮かべるパステーク。「そんな……?! な、なぜだ? お前は……!」「……ひっ? う、うわあぁぁっ?!」 バレた? こんなにあっさりと?! 何てこった……! せっかくの芝居が台無しだ!