世界樹
世界樹
『お待たせいたしました。ただ今戻り……ふ、 古津 ( ふるつ ) さん?!』 あ、おかえりなさい、神様。『一体どうなってるんですか! なんで古津さん、空中に? 鳥にでも襲われましたか?!』 ああ、これは人助けですよ。ほら、異世界転生の序盤でありがちな、イベントじゃないですか。『古津さん、たまによく分からない事を言われますね……?』 おっと。神様、いま落下中なんで、ちょっと待ってください。 うまく着地しなきゃ、粉々になっちゃう…… えっと、足は……無かったか。外皮の細胞を増やして、ぶ厚く、と。 あとは、着地寸前に、接地する面だけ、超・気合い入れればオッケーだな!『うふふ。お兄ちゃん、さいごの方は、てきとうなのね』 おうよ! こんなのはフィーリングで何とでもなるもんだ。 よし、着地するぞ! うぉりゃああ! ドォン! う……いたた、さすがにあの高さからはキツい。 えっと。どこも割れてないな。おっしゃ! 着地成功! な? なんとかなるだろ!『ほんとうだ! お兄ちゃん、やっぱりスゴい!』 まあな! はっはっは! おっと、それより、さっきの人、無事だったかな?『古津さん、その方は? それに、その死体は!』 あ、この人、そこに転がってるゴブリンに追われていたんです。『まさか……古津さんが助けたんですか? いったい、その体でどうやって……?』 女性に怪我はなさそうだ。どうやら座り込んで気を失ってるだけみたいだな。 ……まあ、目の前で緑色のおっさんが弾け飛んだら、そりゃ驚きもするさ。 とりあえず、意識が戻るまで、待っててやろうか。さっきのゴブリンが、戻ってくるかもしれないしな。『古津さん! 古津さんってば!』 ふふん、俺って、超ジェントルマンじゃん? アフターケアも完璧だなぁ。 ……はい? えっと、なんですか、神様?『もう! どうなってるんですか?! 教えて下さい、古津さん!』 ああ。世界樹のおかげで、周囲の物を見れるようになったし、動き方も覚えたんです。音も、ちゃんと聞こえてますよ?『いま私が、ちょっと離れたスキにですか? さすがにそんなことは……』 コロコロコロコロ…… ね? 動けるでしょ?『ええっ?! き、気持ちわる……』 はい? えっと、いま何て……?『い、いえ、何も! ……そ、それにしても一体、何をどうすれば、この短時間で動けるようになるんですか?! それに、動けるからと言って、リンゴの身で魔物を倒してしまうなんてこと……』 スゴいでしょ? 俺、全リンゴ類中、最強だと思いますよ。『何ですか〝リンゴ類〟って……』 いやあ、しかし〝力のカード〟が無かったら、危なかったなー!『古津さん、筋肉のないリンゴに〝力のカード〟が作用するはず、ないじゃないですか』 え? でもさ、なんかピロピロって効果音が鳴って、パワーアップしたよ? あと、新しい力を発見したからって、ボーナスとかもくれたし…… 『クスクス……またまた、ご冗談ばかり! 運命のカードにボーナスをもらえるなんて、聞いたことないですよ!』 えー? そうなの? じゃあ、俺の勘違いかなあ?『あ、そうでした! そんな事より、大変なんですよ! 〝グリダヴォル〟……世界樹の件なのですが』『え? わたし?』 な、何ですか? 世界樹がどうしたんです?『えっと、私には声が聞こえませんが〝グリダヴォル〟には、私の声が、聞こえているのですよね?』『うん! 聞こえてるよ?』 聞こえてるそうです。『良かったです。それでは一緒に聞いて下さいね』『はーい!』 どうかしたんですか?『世界樹は、 数多 ( あまた ) の世界に必ず一つずつ存在する、世界を支えるための木です。世界樹は、それぞれの世界の維持に必要不可欠なものなのです』『へえー?』 そうなんだ……ってまさか、この子の居た世界が、世界樹不在になって、崩壊しかけてるとかじゃないよな?!『いえ〝グリダヴォル〟は、世界樹の枝から作られた〝 分 ( わ ) け 御霊 ( みたま ) 〟的な存在です。本体はちゃんと存在しますので、それは心配ありません。ですが……』『ですが?』 ですが……何です?『一つの世界に、違う種類の〝世界樹〟が重複して存在するのは、とても危険なのだそうです。世界そのものの運営に、支障をきたす恐れがあるのだとか……』『へぇ、そうなんだ……!』 ひとつの車を、二人で運転するみたいなもんかな? 確かにあれは危ないぞ。もう二度とゴメンだ。『……今のは聞かなかった事にします。えっと、続けますよ? 〝グリダヴォル〟の作られた世界で、杖として使用されている間は、まったく問題なかったのです。同じ種類の世界樹が何本あろうと根は同じところに繋がりますので』 なるほど。『しかし、異世界となると話は深刻になります。〝倉庫〟で、杖として眠っているのでしたら問題はありませんが、万が一、外に出されて、何かのきっかけで、その世界に根など張ろうものなら……!』『はろうものなら?』 ゴクリ…… ど、どうなるんです?『その世界は、跡形もなく崩壊するでしょう。全ては無に帰ります。さらには、隣接する世界を、巻き込む可能性もありますね』 大惨事じゃん! 超こええよ!!『わ、わたしのせいで、そんな事に……?』『と、いう事で神界の上層部からは〝グリダヴォル〟を破壊してしまおうという案が……』『……ひっ?!』 ちょっと待ったぁ! 神様! そりゃ、いくら何でもあんまりじゃないか?! この子はワケも分からず杖にされて、こんな狭い……いや、広いのか……?『無限に広いですね』 ……もとい! こんな寂しい〝倉庫〟に入れられて、知らない世界に連れてこられたんだぜ? そんなヒドい目に遭わされた上に、危険だから壊すって、それが神様のやる事かよ?!『お兄ちゃん……!』『……古津さんは、優しい方ですね』 なあ、頼むよ! 俺はどうなってもいいからさ。この子、助けてやってくれよ! な? このとおりだ! って、下げる頭はないけど…… 『ああ……お兄ちゃん……!』 そうだ! この子を、もとの世界に帰してやれないかな? そこに居れば、万が一、根を張っても平気なんだろ?『古津さん。その倉庫の中の物が世界を 跨 ( また ) げるのは、あなたのように〝転生する者〟が、そのカードを選んだ時だけです。その上〝グリダヴォルが作られた世界〟へ行けるかどうかは、完全に運なのですよ。それは天文学的な確率です』 そ、そんな……! それじゃ、この子は……?『もういいよ。ありがとう、お兄ちゃん』 もういいって、そんな! あんまりだ! それじゃお前があまりに……あまりに!『古津さん、大丈夫。最後まで話を聞いて下さい』 何が大丈夫なんですか! このままじゃ、この子が! 世界樹が……!『〝世界樹を破壊してしまおう〟という案が出たのですが……直後に、私の出した報告で、保留になったんです』 ……え?『言ってやったんですよ〝倉庫の持ち主はリンゴだ〟って』『あ!』 あ! そうか! は、はは! そうだよ! 俺、リンゴだから、倉庫の中の物、出せないじゃん!『はい、ですから心配しないで下さい。〝グリダヴォル〟は、破壊されません。古津さんが自在に倉庫の中のものを取り出せる状態にならない限り、上層部は動かないでしょう』 ……よかったなあ! 本当によかった!『うん、うん、ありがとうお兄ちゃん!』『……だから、あまり目立つことはしないで下さいね? 例えば、手足があるかのように動き回る……とか』『……あ』 ……あ。