Episode 10
Episode 10
CIA in London(前)
※やや暴力的な表現が含まれます。ご注意ください。
MI6の膝元でやりあうことになるとは思いもしなかった。CIAエージェント オーガスト・ウォーカーは間接照明に照らされた部屋の中で、深く息をつく。
テムズに落ちた体をシャワーで清め、打ち身に顔をしかめつつ今日の成果を振り返った。米国で捕らえたソロモン・レーンという男──その奪還を英国は望んでいた。元国家諜報機関につとめていた男が他国に口を割る前に、どうにか始末したいのだろう。表では交渉を、裏では暗殺を企てているに違いない。
ウォーカーはその裏側を探るように命じられていた。その最中、かの高名なMI6エージェント007とやりあったというわけだ。工作員が有名人とは、英国流だなと思いながら傷の具合を確かめる。骨は無事だ。内出血が派手なだけで、大したことはなさそうである。
シャツとトラウザーズを羽織ったところで、部屋の呼び鈴が鳴った。カモフラージュに予約したスイートルーム。裏をかいて本日はそこに宿泊することにしたが、まさか来客があるとは思わなかった。
「ウォーカー様、お電話したキングスマンのテイラーです。シャツが早めにあがりましたので、お持ちいたしました」
若いはきはきとした声に、目元を覆う。同僚に勧められたテイラーで、数着シャツを頼んでいたのだ。まさかこんなに早くできあがるとは、そして滞在先のホテルに持ち込まれるとは思わなかった。電話、という言葉に眉をひそめて小さな板を眺める。たしかに伝言が入っている表示がある。
「少し、待ってくれ」
「はい」
返事の後に小さなくしゃみが聞こえる。ウォーカーは手早く部屋の中を片づけると、扉を開けた。そこには、全身ずぶぬれの野鼠のような子どもが立っていた。
「すみません、水まき中の方に思い切りぶつかってしまったんです」
商品は無事なので、どうぞ、と防水加工された袋を差し出してくる。肩にはSAVOYの文字が刺繍されたタオルがかかっていた。ハンカチで覆った持ち手をウォーカーが受け取ると、少年はぺっこり頭を下げて廊下を戻ろうとする。その姿があまりにみすぼらしく見えたウォーカーは、強い口調で引き留めた。
「部屋に入れ」
「え? でも」
「そんな姿のまま道ばたに放り出すわけにいかないだろう」
シャワーであたたまっていけ、と続ければ押しに弱そうな子どもはおずおずと部屋に入ってきた。扉のそばで不安げにあたりを見渡す彼に、ウォーカーはタオルとバスローブを持ってきてやりながら言う。
「ところで、俺はウォーカーだ」
「存じております。ウォーカーさま」
額に張り付いた前髪を分けながら、少年は嬉しげに頷く。自己紹介を促すつもりだったが、そうは受け取ってもらえなかったようだ。ウォーカーは数度頷いたあと、奥にあるバスルームを指さした。
「シャワーを使っていけ。今日は冷える」
「あの、でも本当に、大丈夫です。お店に戻れば、着替えもありますし」
押しつけられたバスローブのやわらかさに驚きながら、どうやったら部屋を辞すことが出来るのだろうと考える。
「子どもを放り出すわけにはいかない」
「……こども」
「いいから、俺に服をひんむかれたいのか?」
「い、いえ!」
力強い手のひらに肩を掴まれ、テイラーはバスルームに押し込まれてしまう。全身びしょ濡れなのでシャワーは大変にありがたい。しかし、客の宿泊するホテルでやっかいになってもいいものだろうか。
「あのう、やっぱり僕……」
「犬じゃないんだから、シャワーくらい一人でできるな? ん?」
ウォーカーの語調は完璧に子どもを諭す言い方である。テイラーは小さくため息を付いたあと、くちゃんくちゃんと二度連続で出てきたくしゃみに、あきらめて湯を借りることにしたのだった。
「ウ、ウォーカーさま! 僕のシャツやトラウザーズは……!」
シャワーからあがると、脱いだはずの衣服がない。広いバスルームに感激しきりでぼんやりしているうちに、どうやらウォーカーにとられてしまったようだ。
「さっき君の上司に連絡とったよ。直帰予定だったんだろ?ゆっくりしていくといい。君のシャツはクリーニングへ出した」
ソファに悠々腰掛けたウォーカーは、ショップカードを指先であそんでいた。XLサイズのバスローブをどうにか着込んで出てきたリヒトは、愕然とする。
「なんですって?」
「濡れ鼠のまま帰せないと思ったんだ」
「パンツまで?! 嘘だろ!」
「ああ……俺のを着るか?」
一緒にランドリーバッグにいれて出してしまった、と言われて目眩がする。フォローするように肩をたたかれ、ソファに座るよう促された。
「ところで、君の名を聞いていなかったな少年」
「……リヒト、リヒト・ハートです。もう成人してます。子どもじゃない……お使いはしますけど、僕もテイラー……職人です」
差し出された手を取って、力なく握手する。肉厚の手のひらは湯を浴びてきたリヒトよりもあたたかい。
「それは失礼した。君があまり――小柄だったものだから」
「……」
両手を広げて弁解する男を見上げ、リヒトはそんな体躯をしていたらそう思うかもしれませんねとごちる。嫌みのひとつやふたつ言いたくなるが、彼は顧客だ。シャワーに案内し、本人に確認をとらなかったといえど、濡れた服をクリーニングにまで出してくれた。礼をいうべきなのだろうな、と思う。
「シャワーを、ありがとうございます。それと服も……すぐに帰れなくなっちゃったけど」
「予定があったかい?」
「お客様に話せるような用事はなにも」
遠回しにプライベートにはつっこんでくるな、と牽制する。しかし、ウォーカーはその反応を楽しんでいる様子だ。
「用事は何も? なら、何も予定はないってことかな? 英国人のおしゃべりはこちらには理解が難しい」
ウォーカーはソファの真ん中に陣取り、肘掛けの方へリヒトを追いつめる。仰け反ったリヒトは、一体なんですかと問いながらウォーカーを睨みつける。太腿同士がふれあうほどまで近づくと、リヒトの肩口にある歯形とふっくらとした乳首がウォーカーの視界に入る。
「情熱的な恋人だな?」
いいながら、歯形の上を指先でなぞれば、リヒトはあわててバスローブをかきあわせた。気づけば、男の手は太腿にあり、その先に下着も何も身につけていないことを思い出す。
「ひとつ、聞きたいんだ。できあがったシャツについてなんだが」
「シャツ?」
リヒトは唐突に仕事の話に戻されて、面食らう。ローテーブルには三着のオーダーメイドシャツが無造作に広げられていた。ざっと見たところ、特に不備はないようだ。サイズが間違っていたり、何か不備があっただろうかと眉を寄せる。
「何か、ご質問がございますか? ボタンや襟のご指定が違いましたか?」
指示はクリーム色のオーソドックスなラクトボタンだったはずだ。貝は割れやすいから嫌いだ、とメモがあったことを覚えている。
「いいや、指定は間違っていない。見事な仕上がりだ」
「ありがとうございます」
男にのしかかられたまま、バスローブ姿で営業向けの笑顔を浮かべるのが滑稽だ。早くどいてくれないものか、と考えているとウォーカーは顔を曇らせた。
「ただ……ボタンがね、袖のボタンが少々問題だ」
「どちらですか?」
テーブルに並ぶシャツたちに手を伸ばそうとしたところで、男の手に阻まれる。そして、目の前に親指と人差し指でつまんだ小さな機械を見せられた。精密機械に取り付けられるチップに見える。
「これはいけないよ、テイラーくん……いや、MI6のエージェントくん?」
「へええ?」
思わぬ疑いをかけられた。リヒトは目を白黒させるばかりだ。ウォーカーは無言を肯定ととったのか、朗々と話し始めた。
「いやはや正直そちらがこんなわかりにくい位置発信装置を開発していたとは、驚きだよ。それも、街のテイラーと手を組んでシャツに紛れさせるとは」
俺でなければ気づかなかっただろうな、と不適に笑う。髭の下の口元が実に楽しげにゆがんでいる。リヒトは遅れながら首を横に振る。
「何かの間違いではありませんか。僕は、そんなものぜんぜん知らない」
「じゃあ君は生け贄というわけか。君の職場に諜報機関の工作員が紛れ込んでいるのかもしれない。まあ、そのところは知らないが……ほかに何か隠しているものがあるなら、いますぐ吐け」
「だから、知らないと言っているでしょう!」
ぐ、とクッションに肩を押しつけられ、リヒトは慌てる。護身術は定期的に訓練しているが、相手に隙がなければ使えないものばかりだ。ウォーカーはリヒトがMI6職員だと疑ってかかっている節もあり、骨が軋むくらい押さえつけられている。痛みに思わず涙がこぼれそうなくらいだ。
「い、たいです。ウォーカーさま、やめて、ください」
「君は子どもだから知らないかもな。情報を聞き出すには痛みを与えるのが一番手っ取り早いんだ。急所が一番キくな」
「ぐううっ!」
ウォーカーはリヒトの膝の間に入り込むと、問答無用で股間を膝で押し込む。次に小さな喉仏に手をかけられて、リヒトは涙をこぼした。彼の親指が少しでも力を加えれば、骨がひしゃげ、喉がつぶれるだろう。だんだんと呼吸が出来なくなっていくことは、苦しいに違いない。
「や、め、て、うぉーか、さまッ」
「それでは君が誰か、教えるんだ」
「ぼ、くは、テイラー。みせ、はっ、キングスマンっ……メイフェア、サヴィルロゥの十一番地っ」
「君の店が英国諜報機関の協力者か、覚えておくよ」
「ちっがいますっ」
ぐう、と喉を押しつぶされ、リヒトはしゃにむに暴れた。しかし、男にのしかかられて全身を押さえ込まれていては、微々たる抵抗にしかならない。男は詰問を続ける。
「なら何者だ。なぜ追跡機がシャツについている?」
「しらっ、ないっ、あなたが誰かも、わからないっ!ふ、ううっあ、やだ、やだあああ!」
忍び寄る死の気配に、テイラーは耐えきれず悲鳴を上げる。突っぱねていた手足はいつの間にかだらりと落ちて、ソファの付属品のようだ。ウォーカーはリヒトの瞳をのぞき込み、そこにあるのが恐怖だけだとわかると体を放した。リヒトは慌てて床をはいずるが、腰が抜けてしまって扉にたどり着くのすら危うい。ローブははだけ、腰の紐でどうにか体にくっつているようなものだ。
「落ち着いてくれ、君をそのまま廊下に出すわけにいかない」
「こ、ないでくださいっ、くるなっ」
そばに落ちていたクッションやスリッパを放り投げ、リヒトはずるずると鼻をすする。ウォーカーは児戯とばかりにそれらをよけて、抱き抱える。リヒトは完全にシロとは思えず、おびえているにせよこのまま返すわけにはいかないと思っていた。
「は、なして、ください」
力なく胸や顎を叩いてくる彼に、ため息を付く。なるほど、こんなに抵抗するならば、征服したとき大層気持ちいいだろう。ローブから見え隠れする歯形をつけた主もきっと楽しかったに違いない。
「作戦を変えることにしたよ」
「え?」
ぽん、とキングサイズのベッドに放り投げられ、リヒトは目を瞬いた。
「尋問その二だ。セックスは、すきだろ?」
同性相手は初めてだから、痛めつけたらすまない、と白々付け加えてウォーカーはバスローブを脱がせる。一糸まとわぬ姿にさせたあと、ぴゅう、と高く口笛を吹いた。
「何のつもり、ですか。ウォーカー、さま……っ」
「歯形の数を増やしてやろうとおもってね」
美しく整った白い歯を覗かせて笑うと、ウォーカーはリヒトの肌に顔を埋めるのだった。
両腕をシーツに押しつけられ、リヒトは顔をゆがめた。背中を受け止める高級寝具の柔らかな感触と、手首をきつく握られた痛みがちぐはぐで頭がショートしそうになる。抵抗しようにも、もがいたところで男の身体はびくともしない。唯一自由な口で抗う。
「やめて、ください。こんなことしても何にもなりませんっ」
怯えて潤んでしまいそうになる涙腺を必死でこらえて、リヒトはウォーカーを見上げた。自分よりもふたまわりは大きい体に、太い腕、膝を押さえつける足は隙をついて力をこめても動かない。まるで巨木にのしかかられているような気持ちになる。
「ああ、ここにも盗聴器があるじゃないか」
ウォーカーは青年の抵抗を露とも感じていないのか、余裕の笑みを浮かべる。そして厭らしくせせら笑うと、リヒトの胸の上に手のひらを滑らせた。緊張でわずかに頭を持ち上げた胸の先を、愉しげに指先でつまみ上げる。
「おかしい、こっちのは取れないな?」
「……っ!」
「シャツについていたものは簡単に取れたんだが?」
指先でカリカリとひっかいてきたかと思うと、ウォーカーは顔を埋め唇全体で包み込んだ。ぬろぬろとした舌の感触に、リヒトは危うく快感を覚えそうになり、背中を反らす。
「ふ、んぅうう、やぁっやめ、てっくださいっ、それは、ぼ、くのぉ」
「君の? なんだ?」
にやけ顔が間近に迫り、リヒトはきゅうと眉を寄せた。くん、と上に引っ張るように乳首をつねられて、更に高い声を上げる。普段、ベッドに入るといじられるそこを執拗にこねられて、反応してはいけないのに腰元に熱が集まってくる。
「や、めろっ、へんったい!」
普段は口にしない罵り言葉を吐き出して、どうにか抜け出せた右足で腹部に一発入れる。しかし、ウォーカーには蠅が止まったような感触にしか思えず、そのままぐいと裸の足を広げてしまう。
「変態は君のほうじゃないのか? 見知らぬ男を相手に、ここを反応させて」
ぴん、と指先で弾かれた屹立は僅かに立ち上がっていた。事実を見せつけられ、リヒトは耐えきれなくなり目尻から涙を零す。
「あなっ、あなたっ、なにが、したいんですかっ」
「これからすることに名前をつけるなら、そうだな……尋問で、セックスだ」
強要される行為を言葉で明示され、リヒトはひゅと息を飲む。幼い頃に乱暴された記憶が甦りそうになる。ハリーが教えてくれたのは違う、と自分に言い聞かせ青年は暴漢を睨みつける。
「セッ、クスは、こんな風にすることじゃないっ! あいを、確かめる、ッことだっ」
あなたは間違っている、とはっきりと言えば、男は怪訝そうに眉を潜めた。
「君、実はおとぎ話の登場人物か?」
「あなたは、最低なひとだっ」
からかう言葉にリヒトは言葉を重ね、プッと唾を吐いた。しかし残念なことに、日頃から下品な行為をしてこなかったため、青年が吐いた唾は四方に飛び散ってしまい、ウォーカーには届かない。目をパチパチと瞬きさせると、男は弾けるように笑い始める。
「い、いまのはっ、っく、もしかして、俺に唾を吐いたのか?」
「離して!」
羞恥に頬を真っ赤に染めあげ、リヒトは男の下でもがく。怖いだろうに、此方を睨めつける瞳は澄んでいて美しい。あまりに小さな抵抗とまっすぐな視線に、男の毒気も抜かれてきた。ふ、と険をそいだ顔つきになったウォーカーは、組み敷く身体を見下ろした。しなやかな若い青年の裸は、怒りのために上気してうっすらと桃色に色づいている。大きく開いた足の間の雄の証は、自分のものと色もサイズも違い別物のようだ。平らな胸の上で刺激を受けて赤く色づいた乳首から目が離せなくなる。じっと見つめていると、男の視線に反応するかのようにふっくらと膨らんでくるように見えてきた。咥内に唾液がたまる。こくりとそれを飲み込んで、男はリヒトを見やった。
「オーケー、わかった。路線を変更しよう」
「じゃあ」
一筋の光が青年の顔をよぎる。解放される、と思ったのだろう。しかし世の中は甘くないのだ。
「君に気に入られるようなセックスをしたい」
「え……?」
「愛を確かめる? 上等だ」
愛だなんて、ついぞ忘れていた感情だ。国家のために身を粉にして働き、その結果、裏切られ、己も裏切り、愛どころか自分の居場所すらウォーカーは失っている。彼を抱けばその片鱗が見える気がした。たとえそれが幻想でもいい。彼の言う愛情を確かめる行為へ興味がわいた。
「ただすこし、君はつらいかも知れないな」
いいながら、ウォーカーは兆し始めた一物をリヒトの腿に押し当てる。声にならぬ悲鳴が青年から零れるのがわかって、うっすらと笑みを浮かべる。
「キスからはじめればいいかな?」
男は徐に青年の顎を掴み、唇ごと大きく噛みつくようにして口づけをした。分厚い舌をねじ込み、咥内を侵せばリヒトは両手をばたつかせる。歯を立ててこないのをいいことに、上顎をしつこくなめてやれば、感じたのかびくびくと腰を揺らした。そのまま同じ場所をいじめ続ければ、男の身体の下で青年は脱力し、シーツへ身体を沈める。
「ん……ふぁ……はう、ん」
「……よさそうだな?」
はふはふと口で息をするリヒトに、ウォーカーは唇の端からこぼれた唾液を舐めてやる。まるで動物のような仕草に、リヒトはくすぐったいと小さく笑った。
「キスは好きか」
「ん……きらいじゃ、ないです」
とろりと快楽に浸り始めた青年の瞳が、ウォーカーを誘う。赤く熟れた唇を確かめるようにそっと指先でなぞる姿は艶やかだ。青年を驚かせないようにゆっくりと手のひらで腹をなで下ろし、鼠蹊部へ触れる。温かな男の手は先ほどよりも優しく刺激を与えてくる。リヒトは早く逃げなくては、と思うのに、身体がもっと快楽を享受したいとわがままを言う。こんなことじゃハリーに怒られちゃう、と思いながらも柔らかく屹立を握り込まれてリヒトは甘い声を零し始める。
「生憎と、男のものははじめてやるんだ。どんな風にしてほしい?」
「ん……どんなって……あなたがするように、して?」
オナニー、したことあるでしょ? と厭らしい単語を口にする青年にウォーカーはぞくぞくと背筋を這う愉悦を覚える。先ほどまで怯えていた青年が、今ではすっかりウォーカーに身を任せているのが優越をくすぐる。なんて心地良いのだろう、と思いながらゆっくりと普段自分で施すよりも、そして女を扱う時よりも格段に弱い刺激から与え始めた。
太い熱塊が後ろへあてがわれる。たっぷり三十分以上かけて全身を舐め回され、甘噛みを繰り返されたリヒトはせわしなく呼吸をしながら挿入を待ちかまえた。
「本当にここに入るのか?」
ベッドへ押し倒した時の乱暴な姿はどこへいったのか、ウォーカーは念入りにほぐした後だというのにおそるおそるといった様子で自身の屹立を後ろへつけては離している。ぐ、と縁をめくりあげて入り込んできたかと思えばすぐに引いていく剛直に、リヒトはじれったくなってくる。
「ん……じらすの、ってアメリカ人の作戦、ですか?」
仰向けに寝ころび、枕を掴んだままリヒトは足下のウォーカーを見やる。男のものは今にもはちきれんばかりに膨張している。あれで押し広げられたら、きっと息が詰まるほど苦しくてすごく気持ちいいだろうと思うと、気持ちが逸る。きて、といいながらそっと男の腰骨に足を巻き付けて誘い込めば、ごくりとウォーカーが喉を鳴らすのがわかる。
「君、本当にMI6の諜報員じゃないのか?」
「ど、して……?」
くちゅ、と音を立てて入ってきた先端に、青年は喘ぎながら問い返す。リヒトにとってスパイという言葉は身近であり、同時にとても遠い。ハリー・ハートという人が側にいながらも、彼の諜報活動は何一つ知らないのだ。MI6と聞いても、本拠地がロンドンにあると知っているだけでほかには何もわからない。物語のスパイの方が、彼にとっては身近である。
「っん……ぼくが、スパイだったら何か重要な、情報をくれるんですか?」
「まさか……っく、しめるなよ……」
ぐう、と内壁をおしやって入ってきたウォーカーに、リヒトは枕を強く握りしめて圧迫に耐える。丁度張り出したところが、前立腺をかすめて青年は高い声をあげる。
「はっ、ふぁんっ、おっき、あ、っそこぉっ!」
「ここだろう?」
半分ほどものを収めた男は、リヒトの腰を抱え上げ、遠慮なく動き始めた。はじめはゆっくりと、徐々に激しくなる律動に青年は身悶える。
「はぁんっ、あっあっあっ!」
ぱつぱつと肌が合わさる音と、スプリングが軋む音が二人の興奮を高める。リヒトの身体を押し曲げ、大きな体でのしかかったウォーカーは、胸の尖りに口づけ、舐め回し、さらには髭を押し当てる。
「あっあっ、だめっ、だめでっすっ! ウォーカーさまっ、あっ、ちくちく、い、いたいっ! やぁっ」
「はは、思った通りだ。イイんだろう?」
ざらりとした頬の髭を逆の胸にも押し当てられて、リヒトは涙を零す。細かな針で胸の尖りをなぶられる感触は始めてで、ぞくぞくと背筋を快感が這い上がる。思わず後ろを締め付ければ、ウォーカーが低く呻いた。
「そんなに、いいか?」
「んっ、あっ、やぁ、ち、くび、いじめ、ないでぇ」
ひんひんと鳴き始めたリヒトを見ると、更に刺激を与えたくなってしまう。たっぷりと唾液を含ませた咥内で、甘噛みをしながら乳首がふやけるほどに愛撫をするとリヒトは心地良いのかそっとウォーカーの頭をなでてくる。
「ん……ウォーカーさま……ぁん、き、もちい……」
涎をたらし、反対側も、と淫らに強請ってくるリヒトの唇に、ちゅと一つキスを落とす。その間も執拗に両胸の先を太い指先でこねくり回し、腰をゆるやかに揺らす。
「あっああん、ふぁあ!」
ウォーカーのものを中へ中へと引き込みながら、きゅうきゅうと絞りあげてくるのがたまらない。柔らかく髪の毛を撫で回す指の感触も心地良く、腰骨から溶けてしまいそうだと思う。リクエスト通り、ウォーカーは反対側の胸の先も丹念に舌で嬲る。硬く尖らせた舌先で乳頭を絡め上下に弄び、次に唇全体で包み込みバキュームしてやった。
「ひっ、あっん! ウォー、カー、さまぁん、ちゅうちゅうしたら、ん、や、あああ!」
吸い上げられる動作が好きなのか、ウォーカーを挟み込む太腿がきゅっとしまる。それに合わせて腰を軽く揺さぶって、奥をつけば、あ、あ、と声が漏れる。吸引を幾度か繰り返し、仕上げとばかりに腫れたそこを前歯で甘く噛みつけば、必死になってしがみついてくる。胸だけの愛撫でこれほど過敏に反応を返されるのは心地良い。ウォーカーは気を良くして更なる愛撫を与え続ける。
リヒトはねっとりと熱い咥内に敏感な部分を包まれ、早々に白旗をあげていた。もうだめ、と繰り返すが、男の愛撫は止まらない。散々弄くり回され、その後にふやけた胸の先を髭でザリザリと擦られると、目の前に火花が散る。リヒトは男のものを後ろに咥えたまま、高みに上る。
「はぁんっ、あんっああああっ」
「ぐ、うう」
きゅ、と両足でウォーカーを抱き込み、一際強く中のものをしめつけながら甘い絶頂の余韻を感じていると男が動き出した。ずるりと引き抜かれる一物に、ひ、とリヒトは喉をひきつらせる。
「あ、だめ、いった、ばっか、う、ごかないでぇ」
「嘘をつくな、だしてないだろう?」
「ひゃあああ!」
芯を持ち、桃色に熟れた屹立をウォーカーが指先でもてあそぶとリヒトは腰をくねらせて身悶える。せり上がった袋や後孔まで続く敏感な道を撫でられ、組み敷かれた身体がビクビクと痙攣する。再びの絶頂だが、男は何も出さずに達することを知らないため、遠慮なしに奥をつきあげる。
「はぁっ、だめ、だめぇっああっあああっ!」
「っく、キツイぞ、ゆるめろ」
「あああっ、ウォーカー、さまぁ、やあ、やめっ、んぁ、き、ちゃうっ! キちゃ、う、からぁ! あああん!」
図らずも無理矢理手込めにしているような状況になってしまい、ウォーカーは頭の芯がしびれるほどの快感を覚える。涙は滂沱と溢れ、朱に上気した頬をひたひたと濡らしていく。快楽に溺れ悶える青年を組み敷くのは、この上ない快感だとわかった男は、最早彼の制止の声を聞くことなく、己の欲求のまま腰を振る。逃げを打つ身体を引き寄せ、腰骨に跡が残るほど強く掴み、屹立を押し込む。熱い襞が全体を包み込む感触に、ほう、と息をつく。
リヒトは乱暴に押し入ってくる雄から逃れようと枕にすがった。マットレスの端を掴むがすぐに引き戻され、揺さぶられてしまう。
「あっあああっ、はげしっ、はぁっん、もっと、ゆっくり、ひ、てっあ」
ぐっぽりとはまりこんだ一物に、体内の奥まで刺激され全身が痺れる。動きを緩めるように求めても、男の仕草は乱暴になるばかりだ。鍛え上げられた腕を叩く手のひらが虚しい。ウォーカーは絶頂を目指して腰を振り、薄い膜の中へと放った。感じいったまま、目をつむり、ぐ、と更に奥まで屹立を埋め込む。どくどくと濃いものを吐き出すと、小さく腰を前後させ、荒い呼吸のまま青年を見下ろす。大きく足を開いて、されるがまま脱力したリヒトは目を腫らしてウォーカーを見つめた。屹立が出て行く感触に、ひくりと尻が動いて青年の中心から僅かに液が零れる。じんわりと腰から身体全体に快感が伝わっていき、リヒトは震えた。乱暴にされたのに、感じたことが悔しい。思わず小さく恨み言を零す。
「うぉーかー、さま、ひとり、よがりっ、へ、たくそ」
「……言ったな?」
すん、と鼻をすすったテイラーを引き寄せ、ウォーカーは再び自身をしごいて後ろへあてがう。新しいスキンも装着済みだ。あまりの早業と回復の速度にリヒトはうそ、と呟く。それと同時に熱い蜜壷へ入り込めば、再び心地良い喘ぎ声がこぼれてくる。
「今日は、君から及第点を取れるまでつきあってもらうぞ」
「あっ、あっ、ごめん、なさいっ! ウォーカーさま、あ、ああ!」
ぐん、と上半身を無理矢理に起こされ、対面の形にされる。急に当たる場所の変わったものにリヒトは息をのむ。ベッドサイドから足をおろした男の腿の上に座るようにして屹立をくわえ込まされ、リヒトは羞恥に頬を染めた。
「あっあっ」
「これなら、少しはゆっくり出来るだろう?」
「んむう……っ」
深く口づけをされながら、前も擦られれば抵抗できない。リヒトは再び訪れる快楽の波に深く深く沈められるのだった。
翌朝早く、酷い頭痛と目の周りの痛み、枯れた声に気がついて青年は呻いた。皮膚もピリピリと痛む。男にあちこちを噛まれたせいだ。隣には立派な筋肉に包まれた胸を上下させて眠る男がいる。黒々とした胸毛に指を絡ませれば、僅かに声が漏れる。
「こら、あそぶな……」
「あそんでません」
「なんだ? 言い訳を考えていたのか?」
するすると青年の滑らかな胸に触れた男は、一際色濃く残った噛み跡をなぞる。朝方まで彼がベッドにいたことに、男は僅かに安堵していた。
「ん……言い訳なんて、彼には通じませんから」
僕の服は? と問いかけられて、ウォーカーはソファの端を指さした。夜中のうちに届いたものだ。リヒトは透明のビニールがかかったそれを丁寧に取り出し、身につけていく。ウォーカーがシャツのポケットにつけた発信機には、気づかない。
「それじゃあウォーカー様、失礼します」
ぺっこりと深く頭を下げて、リヒトは扉に手をかける。ベッドでのことなどなかったかのような振る舞いに、ウォーカーは胸元に冷たい風が吹くのを感じる。思わず口が動いていた。
「また」
「はい?」
「また、シャツを頼んでもいいかな……」
「ええ、喜んで。お待ちしています」
かすれた声で接客用の言葉を述べると、もう一度軽く頭を下げてリヒトは部屋を出た。扉を出たところで膝が崩れて、よろよろとエレベーターへ向かったところは早朝だったために誰にも見られずに済んだ。また熱を孕みそうな体を叱咤し、背筋を伸ばしてボタンを押す。到着したエレベーターから出てきた従業員に軽く会釈をして、小さな箱に乗り込んだ。ホテルでの出来事はホテルに置いて行くのだ、と自身に言い聞かせる。地上階へついたところで、はて自分への嫌疑は無事晴れたのかしら、それに発信器なんていつ付けたのだろう、と昨晩の発端を思い起こしテイラーは首を傾げるのだった。
「……朝飯を食べていけばいいものを」
ふう、と息をついてウォーカーは下着姿のままスマートフォンを起動させる。地図上にはロンドンをゆっくりと移動する緑色の点滅が表示された。三十分もすれば彼の居所がわかるだろう。軽くシャワーを浴びて頭をはっきりさせておこうか、と腰をあげる。しかし、ウォーカーが洗面所へいっている間に緑色の点滅は消してしまった。シグナルは洋装店の近くで消えている。一体どういうことだ、とウォーカーが髪から雫を垂らしながらいぶかしんでいると、頼んでもいないルームサービスの声がかかった。
「……まったく」
男は手早く武器を整えると、誰かわからぬ敵とまみえるためバスローブ姿で扉の前に立つのだった。