LNCrawler

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Lover, Tailor, Soldier, Spy — www.pixiv.net · All chapters

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*新アーサー=ハリー・ハート、新ガラハッド=エグジー設定でお送りします。

ロンドンのサビルロウには多くの洋装店が軒を並べている。

その中の一店……Kingsmanという金文字がガラス窓に輝く老舗に、男たちは集められた。

Kingsmanのエージェント、ガラハッドことエグジー。

MI6の技術士官Q。

そしてベーカー街から来たジョン・ワトソン医師──

本来なら互いに接点のない三人である。

彼らは思い思いにソファに腰掛けているが、三人ともどこか落ち着かぬ様子だ。

一同の中で年少のスーツ姿の青年──エグジーが、まず初めに口を開いた。

「Q、こないだ貴方のところのエージェントに子犬っていわれてさ。納得がいかないんだけど」

呼びかけられた細面の男──Qが眼鏡をカチャリとかけ直す。

「へぇ、ボンドがそんなことを……かわいがられてるんですね。ちなみに僕は、前にボンドを古びた船と皮肉ったことがあります」

それを聞き、一体何の話をしているのかついて行けないワトソンは小さく手をあげた。

「あー、ねぇ僕ここにいる必要があるのかな?マイクロフトに連れてこられたと思うんだけど、彼はどこ?」

高級紳士服の店内を珍しげに見回す医師に、Qが鼻を鳴らす。

「マイクロフト? 違いますよ、彼の『友人』のアーサーの手配でしょう。それで、本題はなんですか?ガラハッド」

Qは正しくエージェントのコードネームを呼ぶと、眼鏡の奥から胡乱げな目つきを送った。

ピン、と空気がはりつめるのが他の二人にもわかる。

この場を仕切っているはずのエグジーは、その空気を壊すよう努めて、肩を竦める。

「あー、実は『今回の件』から手を引いて貰えないかなって」

「なるほど、しかし僕に頼まれても聞き入れられません」

冷たいMI6特有の声音ではねつけるQ。

やはりまだ事態を飲み込めないワトソンが、右に左にと視線を向ける。

「ちょっと待って、何の事件の話だい?グレッグが持ち込んできたやつかな、それともーー」

眉をしかめて尋ね始めたワトソンに、エグジーはうそでしょ、と衝撃を受けた様子だ。

エグジーのその表情は、はじめよりも随分幼い。

「え、貴方、探偵ホームズの助手じゃないの」

「助手、だと思うが──何分、色々事件を手がけているので、その……」

「シャーロック・ホームズのことです。大方、全容や標的をあなたに全て説明などしていないのでしょう。残念ですね、ガラハッド。此方からの返事は『ノー』。ワトソン医師は貴方の頼みごとを理解すらできない。ホームズ探偵に直接会いに行っても、恐らく答えはノーでしょう」

しゃあしゃあと言うQ。どうやらこの場で事を一番理解しているのは彼のようだ。

エグジーは、素早く思考すると次の案をあげた。

「困ったな……じゃあ、共同戦線は?!どうかな?」

「共同戦線、ですか。そういえば、先日此方のテイラーのお一人が映画館でThe Man from U.N.C.L.E.を観たと、はしゃいでいましたね……エージェント・ガラハッド、あれはお話ですよ?」

「へぇ、映画か。もう、暫く観てないなぁ。ところで気になっていたんだけど、君、名前はエグジーじゃなかったっけ?ガラハッドはミドルネーム?」

「今はガラハッドが俺の名前、かな。でも好きな方で呼んでワトソン先生。じゃあ標的と貴方たち、両方を敵に回して任務をこなすわけ? 骨が折れるなぁ」

「それが仕事でしょう?それでは僕はこれで」

「えーと、エグジー、シャーロックには、聞いてみるよ。協力出来るかどうか、だよね。連絡は、このお店にすればいいかな?ショップ・カード、貰っていくね?」

「貴方は偶に、すごく勇気がある人だと感心しますよ。ワトソン医師」

口を引き上げ、目を細める微笑みが、年長者であるワトソンへ向けられた。

「……えっと、今のは嫌味?それとも誉めてる?」

「ほめ言葉だよワトソン先生!ギークって回りくどい言い方をするのが趣味なんだ」

話が別の岸部へと乗り上げたところで、部屋にノックの音が響く。

「エグジー、もしかしてもう話は終わってしまった?」

ひょいと顔を覗かせたのは細身の青年──リヒトだった。ここKingsmanで勤めるテイラーだ。リヒトはそばかすの散った顔で穏やかに微笑み、言葉を続ける。

「お茶を煎れたんですけど……お二人、召し上がりませんか?手製のビスケットもよかったら」

彼が持つ銀のトレイには、ティーポットとカップ、そして少量だが焼き菓子が乗っていた。

アールグレイの芳しい香りに、三人は頬を緩めた。

「是非、頂くよ。わお、ビスケットもある」

「……折角ですから、いただきます。貴方の手作り?……へぇ」

ワトソンとQは、テイラーが注ぐ紅茶を受取り、ビスケットを一枚つまむ。

二人が紅茶に口を付けたところで、テイラーは人差し指を立て唇の傍に当てて軽やかに言った。

「あ、ちなみにね、紅茶にはとびっきりの魔法をかけてあるんだ」

それから、ふふふ、と僅かに悪戯っぽく微笑むリヒト。

「え?」

「今、なんて?」

探偵助手と、MI6のクオーターマスターが首を傾げる。

テイラーの青年は、少し気取って歌うように囁いた。まるでベッドタイムストーリーを子どもに読み聞かせるように。

「少しの間、眠くなる魔法──」

まるでそれは呪文のように、ワトソンとQの耳へ届いた。

二人の瞼がゆっくり閉じ、手からカップが滑り落ちる。テイラーは身体を乗り出し、危なげなくカップとソーサーを受け止めると満足気に微笑んだ。

「うわぁ、容赦ないね。すごい。もう寝ちゃった」

「ちょっとキツめにしておけって、アーサーが。さあ、エグジー、彼らのブレインと優秀な助手が眠っている内にいっておいで。気をつけて」

ティーポットを手に、実に楽しげに彼は笑うのだった。