Box in the dark
Box in the dark
※Attention!!
英国産高級車JaguarのCMから、キャラを捏造しています。
ご存じない方はぜひ、YouTubeでCMをご覧になってください。
※2頁目で「メン・イン・ブラック: インターナショナル」のエージェントH(演クリヘム)のお名前バレがあります。
ご注意下さい。
CMに登場する役者さんのお姿をお借りしたキャラ捏造遊びです。
弊アカウントのマイ設定満載です。
ほぼほぼ、創作です。
なんでもこい!という方は、どうぞ。
設定(※キャラ名を創作しています)
悪の組織(とは?)、Jaguar。
義賊的なことをしつつ、たまにMI6やKingsmanの人々の対立したり、獲物をかすめ取ったり。
国のために動いているのか、それとももっと別の視点で動いているのか……(特にスパイ任務描写はありません)
トMヒ=トム・アシュフォード
イメージは、英国高級車JaguarのCM出演時のトム・Hドルストン。Kingsmanの顧客。
高貴な出で、洗練された身のこなし。何台ものJaguarを乗りこなすが、どちらかというとクラシカルなものを好む。リヒトに恋心を抱く。他の人間とリヒトが親密にしていると、内心で機嫌が悪くなる。
ニCラス・Hルト=ニコラス・ホッジズ
イメージは、英国高級車JaguarのCM出演時のNコラス・ホルト。
組織のメカニック。フィールドにはあまり出ず、機械いじりを担当。好きな車のタイプはスポーツタイプ。やや引っ込み思案。
トム・アシュフォードの弟的存在で可愛がられているが、本人はアッシュフォードの尻拭い役を押し付けられているな……と思っている。
リヒトへの感情は「他組織(Kingsman)の半エージェント?テイラー?あやしいな……」という気持ち。リヒト=知人程度の認識。
Box in the dark
※運転手なオリキャラが出てきます。
夜11時、仕事がやっと片づいたリヒトは戸締まりをし、工房から繋がる外階段を上がった。昼間は春の陽気であたたかかったが、夜になると風が冷たい。トレンチコートの襟を立て、首を竦めて足早に家路につこうとしたところで軽くクラクションが鳴る。驚いて顔をあげると、道路脇に止まっていたタクシーから見慣れた顔が現れた。黒いニットカーディガンを羽織り洒落たタイをとめた五十路がらみの男は、丁寧に整えた髭の下に優しく笑みを浮かべている。夜も遅いというのに、彼のグレイの頭髪は朝一番と同じように整っていた。リヒトは自分のクシャクシャの髪に触れながら尋ねた。
「セバスチャンさん、どうして……」
「お送りしますよ。Mr.ハートから言付かっていましてね」
「すみません、遅い時間に」
「いいんですよ。残業代を弾んでもらっていますから」
どうぞと促され、後部座席に滑り込む。中はヒーターが利いていて、外の冷たい空気が嘘のようだ。人好きのする笑顔を浮かべたタクシードライバーは、キングスマン専属の運転手である。運転技能はもちろん、車に仕掛けられた銃器を使いこなすキングスマンには欠かせぬ相棒である。
「Mr.ハートのご自宅でよろしいですか?」
「いえ、僕のアパートへお願いします」
「承知しました。お疲れでしたらどうぞ休んでください」
彼にリヒト個人宅の場所を教えたことはないのだが、どうやらデータベースにしっかり入っているようだ。しっとりとしたジャズ音楽をスピーカーから流されると、リヒトはつい目を瞑り微睡んでしまうのだった。
「つきましたよ」
「ハッ、えっ! ありがとうございます!」
声をかけられ、勢いよく起きあがる。唇のまわりが冷たいことに気がついて、慌てて涎を拭った。恥ずかしい、と思っているとバックミラー越しに暖かな視線を感じる。良い執事の見本、とでもいうようにセバスチャンは何も言わずただ微笑みだけを浮かべてリヒトが車から降りるのを待った。
「どうぞお気をつけて」
「はい。セバスチャンさんもお気をつけて。おやすみなさい」
タクシーが角を曲がるまで軽く手を挙げながら見届けて、アパートまでの道を歩き出す。リヒトの借りるアパートがある地区は、少し前までは治安が悪い地域であった。だが、今ではアーティストや若者に人気で、運河やマーケットが近いため、観光客向けのユースホステルも見かける。通りに面したパブはこの時間でも賑やかだ。リヒトは自分もビールを飲んで、夕食代わりに何か食べていこうかなと思う。ふらふらと光に吸い寄せられるように歩いていると、突然足音が聞こえてきた。アスファルトをかける革靴の音は聞き慣れているが、ハリーやエグジーのものではない。思わず身体を固くし、身構える。目を凝らすと路地の方から長身痩躯の男が駆けてくる姿が見えた。
「と、むさま?」
見知った人の姿に思わず間抜けな声をだしてしまう。長い足を存分に広げて疾駆する姿は、豹か毛並みのいい馬のようだと思う。しかし、のんきに感想を浮かべている場合ではないようだ。いつになく真剣な顔つきをしたトムは後ろを振り返り舌打ちをすると、リヒトを背後にあった公衆電話に押しつけ彼と共に箱の中に入った。
「トムさま、なにして」
「シー、静かに」
男は慣れた仕草で受話器を持つと、リヒトを抱き込んだまま素早く番号をプッシュする。最後のボタンだけ力強く親指で押したかと思うと、ガタンと床板が大きく動いた。続いて、プ、プ、プと通信回線が繋がる音が足下から零れる。いったい何が起こっているのだとリヒトは困惑する。思わずトムの身体にしがみつくと、やわらかな苦笑が降ってきた。
「いや、すまないね。巻き込んでしまって」
夜闇の中、公衆電話の白い光を返すエメラルドの瞳が美しい。そっと目尻を撫でる仕草に思わずぽうっとなっていると、リヒトは僅かな浮遊感に気がついた。己が入った電話ボックスが下降しているとわかった時にはガラスの向こうが頭上へスライドし、見えなくなってしまう。電話ボックスの中がエレベーターになっていたのだ。この仕掛けは、まるで自分が勤める洋装店の試着室のようである。店のそれとは違って、此方は随分狭い。その上あたりも真っ暗だ。すぐそこに壁があるのかもわからず、薄気味悪い。リヒトはトムに抱きついたまま、頭上や周りを見回した。気づけば電話ボックスの明かりが遠く、小さくなっていた。
「そんなにしがみつかれると、変な気をおこしそうだ」
「ハッ、す、すいません」
耳元に吐息と共に囁かれ、慌てて離れようとするが今度はトムの腕が身体に回っていて身動きがとれない。訴えるように男を見上げれば、高い鼻が耳元をくすぐる。
「あと三秒だけ、こうさせて」
「ひえ」
腰に響くウィスパーボイスに、きゅ、と目を瞑る。トムの温かな体温に心臓を高鳴らせているうちにエレベーターは地下に到着した。どうぞと促され、リヒトはよろけながら扉をくぐる。外にでると左右に近未来映画を彷彿させるホワイトグレイのトンネルが広がっていた。大きさは地下鉄道くらいだろうか。側面についた細長いライトが通路を冷たく照らしている。
「あの、ここって」
リヒトが説明を求めようと声をあげたのと同時に、バルン、と小気味よいエンジン音が響いた。スポーツタイプの高級車が二人の側に滑るようにして走ってくる。停止するとフロントガラス越しにトムの同僚の姿が見えた。眼鏡の奥の瞳が、驚愕に見開かれている。
「なに、しているんですかっ!」
「ニコラス様?」
乱暴な仕草で運転席から出てきたのは、店の顧客でありトムの同僚のニコラスであった。リヒトが驚き口を開いていると、彼はうんざりだとばかりに大きく手を広げる。
「あなたは、本当、身勝手だ!」
「すまないね、いつも君には感謝しているよ」
「彼まで巻き込んで! ……まさか、彼も何か関わっているんですか?」
「いいや。たまたま箱の側にいたから」
「犬猫のようにポンポン拾ってこないでください!」
自分の頭上で交わされる会話に、リヒトは目を白黒させる。
「彼は『キングスマン』の従業員なんだ。別に巻き込んでもいいだろう?」
「勝手に判断しないでください。マークに何を言われるか」
「お叱りは僕がうけるよ」
ウインクをするトムに、ニコラスはため息をつく。そして眼鏡を押さえながら下を向き小さく首を振ると、リヒトへ視線を合わせた。
「後ろに乗って。狭いけど、我慢してね」
「ありがとう、ございます」
「それと、恨むならトムを恨んで」
「え……?」
運転席をずらしてもらい、後ろへ乗り込んだリヒトは不穏な言葉にずるりと手を滑らせる。後部座席へ強かに顔を打ち付けたリヒトに、ニコラスの固い声が被さる。
「ちゃんと座って。シートベルト締めて」
「はい」
「ごめんね、ニックは車についてはうるさいんだ」
助手席に乗り込むトムが小さく肩を竦める。これからどこへ連れていかれて、自分の身に何が降りかかるのだろう。こわごわしながらリヒトは黙ってシートに身体をくっつけるのだった。
The scent of his cologne
※ 新キャラ(クリhム エージェントH/MiBインターナショナル + Hugo Boss)が出張ります。
ヘンリー(エージェントH):イメージは、Hugo BossのCリス・Hムズワース。
陽気な調香師で、リヒトのことはからかう対象。
車の振動音と横目に見えるメーターから、かなりのスピードがでていると気がつく。長々続く灰色をしたトンネルの中は、ロンドン中心地からどれほどの距離を走っているのだろうかとリヒトを不安にさせた。以前、トムの屋敷を訪れた際には、住所がわからぬようにと厳重に遠回りさせられた。そのため、現在地の考察は彼らがよく思わないのはわかるが疑問を止めることが出来ない。止まない考えと疲れた身体にエンジン音は心地良く、船を漕ぎそうになる。客の前だというのにすっかり眠気の虜になったリヒトは気の利いた話のひとつも出来なくなってしまう。
「あの、トムさま、ニコラス、さま……」
「ああ、ごめん音楽でもかけようか」
トムが車内オーディオを操ると、小気味よい行進曲が流れてきた。今度コンサートに行かないか、とトムの誘いが聞こえてくるがリヒトは曖昧な相槌しか打てない。賑やかなシンバルの音に一瞬意識が覚醒するが、同じリズムの繰り返しに上と下の瞼がくっつきそうだ。
「ねぇトム。新作を試しても?」
「その必要もなさそうだけれど」
「念のためさ」
ステアリングを握るニコラスが、胸元のポケットから小さなアトマイザーを取り出してトムに渡した。スプレータイプのそれにはピンク色をした液体が入っている。
「これ少し濃いんじゃないか?」
窓から差し込む蛍光灯の白い光に瓶をさらす。さらさらとした液体は一吹きすればごく軽い催眠をもたらすと聞いたが、以前見た時よりも色が異なるように思える。
「じゃあ窓を開けておくよ」
「リヒト」
後部座席両側の窓がするすると半ばまで開いていくのを見ていたリヒトは、トムに呼びかけられてなんですかと顔を向けた。
「すまないね」
「えっ」
プシュ、プシュと小気味良い音と共に頭の上に噴射された霧に、リヒトは思わず目を瞑った。後部座席に背中をつけて額についた液体を拭っていると、ふわりと優しく甘い花の香りに包まれる。
「ん、なんですか、これ……ジャスミン?」
「リラックス効果のあるフレグランスだよ」
ニコラスは眉を高く上げて、バックミラーでリヒトの姿を見やった。リヒトは不思議と幸福な心地になりながら、鏡越しにニコラスと目を合わせとろんと瞳をとろけさせる。
「いいにおい」
舌足らずにそれだけいうと、リヒトは瞼を閉じてすとんと眠りの淵に落ちていった。リヒトがニコラスを見るうっとりとした瞳はまるで安心しきっていた。それを見て小さく胸が跳ねたのと、わずかな罪悪感を誤魔化すように運転手は咳払いをしアクセルを踏み込む。
「なぁニック。彼、とてもチャーミングだろ? 君にはあげないよ」
「なっ、なにを言って」
「ふふ」
笑いを含んだトムの言葉を急いで否定して、ニコラスは赤くなった頬を擦るのだった。
揺れ動く感覚に意識が浮上させられる。深い眠りから起こされる感覚は不愉快で、唸りながら抵抗する。子どものようにぐずりながら瞼を開けば、ダークブロンドの見知らぬ美丈夫がそこにいた。黒のシャツに黒のスーツとシンプルな組み合わせだが、襟の縁とポケットのシルク生地がアクセントになっている。タイはせず、ラフに第二ボタンまで開けたスタイルは、鍛えた体によく似合っていた。
彼はリヒトが目覚めたことに気がついて、にっこりと完璧な笑みを浮かべる。自分がハンサムだとわかっている笑顔だ。
「やあ、起きたか」
「……はっい?」
太い腕が自分を抱き上げていたことに驚いて、リヒトは身を固くする。耳元で聞こえる声は少しだけ掠れセクシーだ。寝起きには刺激が強い。
「どうだ? いい香りだったろ?」
「は……?」
目を点にするリヒトを置き去りにして、男は重厚な扉を荒々しく開けた。曲線使いが美しい家具と暖かな色のライトに包まれた内装には見覚えがある。
「あの、ここ……あ、あなたはだれ?」
「さぁて誰だろうな」
男は茶目っ気たっぷりに笑うと、窓際のベッドにリヒトをおろす。たっぷりとした生地のベッドカバーを乱暴に剥いでリヒトを転がし、自分もその上にのしかかった。リヒトの鼻先に感じるスパイシーな香水と間近にある男の熱にクラクラしてしまう。どうにかして高鳴る心臓を落ち着けようとするがうまくいかない。
「気分は?」
うっすらと碧眼を窄めて、男はリヒトを窺いみる。長い指先が頬や首元に触れる様子は心底心配しているようだ。なぜ、見知らぬ男がこれほど親身になっているのか、リヒトはわからず脳内には疑問符だけが浮かぶ。
「……き、ぶん?」
「気持ち悪くないかって聞いてるんだ。言葉はわかるよな?」
「……ふつうです。馬鹿にしてます?」
むっとして唇を尖らせれば、先ほどの格好つけたハンサム・スマイルとは違う人懐こい微笑みが返ってくる。思わず見とれて、男を押しのけようとした手が宙に浮いたまま固まってしまう。
「ならよかった。水を飲め。たーっぷり飲め」
男はぎしりとスプリングの音を立ててリヒトの上から退くと、栓を開けたミネラルウォーターを手渡した。ベッドに腰かけたリヒトは訝し気に思いながら、喉の渇きには勝てなくて水滴の浮かぶ瓶に口をつける。
ボトル一本を一息で飲み干すと、リヒトはぷは、と吐息を漏らし先ほどよりもしっかりとした目つきで男を睨みつけた。
「あなた、誰ですか。答えて」
「君はリヒトだろう? トムのお気に入り」
「あなたは、トム様のともだち?」
「友達……似たようなものかな」
ぱちりとウィンクすると、男はリヒトの手からボトルを取り上げる。そして、鮮やかな手つきで再びベッドに押し倒した。
「なにっ」
「なぁ、ムラムラしてきただろう? 一発抜いとく?」
あいつのお気に入りってのに興味あるんだ、と耳元で囁かれ、リヒトは渾身の力で男の肩を殴った。バキ、と響いた音は、おそらくリヒトの指の関節が立てたものだろう。しかし力いっぱい殴ったおかげで、男にも相応のダメージを与えたようだ。
「オウ……いいパンチ」
「ど、い、て。あなたが何者でもおもちゃになるつもりはない」
「人聞きが悪いな。親切心だ。あの催眠スプレー、副作用で寝起きのムラムラ促進効果もある」
だから、と言いながら男は筒状に軽く握った右手を上下に動かす。一連の仕草にリヒトは頬をひきつらせ、嫌悪感を丸出しにして眉根を寄せた。ハリー・ハートに教わった上品な所作とはかけ離れた行為だ。リヒトは精いっぱい嫌味をいうために、にっこりと笑顔を見せてやる。
「ご親切にありがとう。でも、ムラムラなんてしてない。結構です」
「ははぁん、そうくるか。その呆れた目もいいな」
「意味がわからない!」
顎を掬い取られ、キスをされそうになってリヒトは思い切り平手で男の鼻面を押し上げた。それを阻止するために男は両手でリヒトの手をシーツに縫い付け、僅かに動いた足を見逃さず体重を乗せて抑え込む。藻掻いてもぴくりとも動かなくなったところで、リヒトはくちゃりと顔を歪めて暴言を吐いた。
「放せ、ヘンタイッ!」
「いいね、上等」
乱れた髪をゆるりと振って、男は微笑む。いつの間にかノータイの胸元は第三ボタンまで開いている。シャツから飛び出た糸端にああボタンが取れてしまったのだとリヒトは気が付いた。
「ボタン、とれてる」
「気にするな」
「気にする。それに名前もしらない人とベッドにいるのも気にする」
きょとんとした男の隙をついて膝を繰り出そうとするが、僅かに太腿が上がっただけで押さえつけられた。
「ヘンリー」
「なに?」
「君はリヒト。俺はヘンリー」
男は甘く囁いて顔を近づけてくる。綺麗なブルーの瞳に見つめられ優しく微笑まれると、不思議とキスならいいかな、なんて思いかけてしまう。その時だった。
「ヘイ、エイチ」
ピュイと鋭い口笛が鳴ったのと同時に、目の前の大きな体が雷を受けたように震えだした。ガクガクと痙攣したヘンリーはリヒトの体の横にどさりと倒れる。
リヒトが驚いていると、聞きなれた声が降ってきた。
「ごめん! リヒト」
「トム様!」
ベッドのそばに大きな歩幅で近づいてくると、トムは手を差し伸べリヒトを起き上がらせた。ベッドの端に腰かけたリヒトの顔を両手で包み込み、そっと額を重ねる。
「目を離した隙に君が消えていて、びっくりしたよ」
まさか彼が来ていたなんて、と言いながら忌々し気にヘンリーを見下ろす。
「あの、エイチって……?」
「彼のコードネームさ」
「コードネーム?」
まるでスパイだ、と言いかけてリヒトは口を噤んだ。客のことには深入りしてはならない。それに、自分が所属する店の"副業"に関係しそうな話題は避けた方がいいと思ったからだ。
「ああ。彼、調香師なんだ。その時のペンネーム、と思ってもらえたらいいかな」
「調香師って……ひょっとして車の中で嗅いだ……」
「そう。あれはリラックス出来る香水だよ」
眠りにいざなうのだ、と先ほどヘンリーがした説明とは違うことを言う。どっちを信じるべきなのだろう、と困惑する。リヒトは優しく頬を撫でてくるトムに思い切って聞いてみることにした。
「トム様……あの、ヘンリー……ミスター・エイチは、他に副作用があるって言っていたけれど」
「副作用?」
怪訝そうに眉を顰めるトムに、リヒトは尻すぼみになりながら尋ねた。
「むら、むらしちゃうって」
「……」
「ほんと?」
問いかけが甘えたものになっているとはリヒトは気付いていない。青年の頬がほんのりと朱に染まっていることを知っているのはこの部屋でトムだけだ。
「それなら、僕の部屋で確かめてみようか」
「えっ? あっ、そうじゃなくて――!」
「そうじゃなくて?」
言いながら、トムはちゅ、と小さなバードキスを唇に落とした。柔らかい感触にリヒトはきゅと目を瞑る。
「君は本当に誘うのが得意なんだね」
「ちがうっ、ちがいますよ! トム様ッ」
さあおいで、と促され手を取られて別室へといざなわれる。ただ手を引かれているだけなのだから、逃げることができるのだというのにリヒトはなんだかんだと否定を重ねながらトムと同じ部屋に向かってしまう。
二人がいなくなった後ベッドに一人取り残された男は、テーザーガンから放たれた針を引き抜き天井を見上げた。呆然としたままシャンデリアのガラスを見つめ、ぽつりと呟く。
「…………当て馬にされた? この俺が? ハンサムでセクシーで百戦錬磨の、この俺が?」
深夜、大きな屋敷の中でくそうと吠える声が聞こえたとか。