第16章 好きらしい
第16章 好きらしい
夕食を終えたあと、カイルドは向かいに座るリオへ言った。「今日、魅了の検査を受けた」「魅了?」 リオが不思議そうに瞬く。「なんでですか?」「副団長に勧められた」「副団長さんに?」「ああ。最近の俺は、お前に魅了されているんじゃないかと言われた」「…………」 リオの目が大きくなった。「え」「何」「俺、魅了できてたんですか!?」 勢いよく身を乗り出す。「団長に!?」「落ち着け」「だって、俺の魅了、団長には全然効いてないと思ってたのに」「効いてなかった」「え?」「検査結果はゼロだった」 リオが止まった。「……ゼロ?」「ああ」「ちょっとくらいは?」「まったくない」「本当に?」「完全にゼロだと言われた」「…………」 リオはゆっくり椅子へ戻った。「なんだ……」 分かりやすく肩が落ちる。「一瞬、できるようになったのかと思った……」「残念だったな」「団長、他人事だと思って」「俺の検査だ」「そうですけど……」 リオはしょんぼりしたまま茶へ手を伸ばした。 少しして、ふと顔を上げる。「でも、なんで魅了だと思われたんですか?」「俺の様子がおかしいと言われた」「そうなんですか?」「ああ」「全然気づきませんでした」「俺もだ」「それで、魅了じゃなかったんですよね」「ああ」「じゃあ、何だったんですか?」 カイルドはリオを見る。「恋愛感情じゃないかと言われた」「……誰の?」「俺の」「誰に?」「お前に」 リオの手が止まった。 カイルドは真面目な顔のまま続ける。「だから、俺は君が好きらしい」「…………」 リオが固まった。「……らしいって何?」「今日初めて知った」「自分が俺を好きだって?」「ああ」「人に教えてもらったんですか?」「ああ」「……そんなことあります?」「実際あった」 カイルドは至って真剣だった。 そのせいで、リオもどう反応すればいいのか分からない。「好き、なんですよね?」「らしい」「また言った」「まだ今日知ったばかりだからな」「でも俺に言おうとは思ったんですか」「ああ」「なんで?」 カイルドが少し考える。「本人には伝えたほうがいいかと思って」「報告みたいに言わないでください」「違うのか?」「違うと思います」「じゃあ、どう言えばいい」「それを俺に聞かれても……」 リオは困って視線を落とした。 身体のことなら分かる。 どう触ればいいかも、どう誘えばいいかも知っている。 けれど、好きだと言われたときにどうすればいいかは、誰にも教わっていなかった。「リオ」「はい」「嫌か?」「何がですか」「俺がお前を好きなの」 今度はすぐに答えられなかった。 嫌ではない。 むしろ。「……嫌じゃないです」「そうか」 カイルドは素直に頷いた。 それで会話が終わりそうになり、リオが慌てて顔を上げる。「待ってください」「何」「それで終わりですか?」「他に何かあるのか」「好きなら……その、付き合うとか」「付き合う?」「恋人になるとか」 自分で言って、恥ずかしくなった。 カイルドは少し考える。「君は俺と恋人になりたいのか?」「俺に全部言わせるんですか?」「聞かないと分からない」「……そうですけど」 リオはしばらく迷ってから、小さく頷いた。「嫌じゃないです。団長となら」「そうか」 またそれだけだった。「団長は?」「俺?」「俺と恋人になりたいですか」 カイルドは今度は迷わなかった。「ああ」 リオの頬が熱くなる。「じゃあ……お願いします」「ああ」 二人とも黙った。 恋人になった。 たぶん。「……これでいいんですかね」「知らない」「俺も分かりません」 リオは少し笑った。「二人とも初めてですもんね」「ああ」「団長も本当に初めてなんですよね?」「そう言っただろう」「なんか意外です」「何が」「もっと慣れてそうなのに」「何に」「……恋愛とか」「したことない」「俺もです」 身体の経験ならある。 知識だってある。 それでも恋愛となると、二人とも何も知らない。 リオは少しだけ安心した。「団長」「何」「もう一回言ってください」「何を」 リオは少し迷ってから、目を逸らした。「……好きって」 カイルドは一瞬黙った。 それから、今度は迷わず言った。「君が好きだ」「……」 最初の「らしい」が消えている。 それに気づいた途端、顔が一気に熱くなった。「リオ?」「ちょっと待ってください」「何を」「今、恥ずかしいので」「そうか」「見ないでください」「無理だな」 リオはますます顔を伏せた。 恋人になった実感は、まだほとんどない。 それでも、さっきまでとは少しだけ何かが違っていた。