第19章 全部俺のもの
第19章 全部俺のもの
休日、リオはカイルドと王都へ出ていた。 特別な目的があったわけではない。 頼まれていた買い物を済ませ、昼を食べて帰る。 その途中だった。「あれ、カイルド様?」 聞き覚えのない声に、リオが振り返る。 三人の淫魔がこちらを見ていた。 カイルドは知っているらしい。「ああ」「久しぶりー」「最近ぜんぜん提供所来ないじゃん」「元気だった?」「ああ」 カイルドの返事は相変わらず短い。 一人が隣にいるリオへ目を向けた。「あ。この子?」「何が?」「今預かってる研修生」 どうやら話は知っているらしい。「そうだけど」「へえ」 三人から一斉に見られ、リオは少し居心地が悪くなった。 そのうちの一人が鼻をひくつかせる。「……というか、すごい匂い」「え」「カイルド様の精気じゃん」 また匂いだ。 最近、この話ばかりされている気がする。「お前、一人でもらってるの?」「まあ……はい」「やっぱり!」 別の淫魔がカイルドを見る。「最近ほんとに回ってこないんだけど」「俺たち、結構助かってたのに」「ねえ、ちょっとだけ分けてよ」 冗談めいた声だった。 それなのに。「だめ!」 自分でも驚くほど大きな声が出た。 三人が止まる。 リオも止まる。「全部俺のもの!」「…………」「…………」「…………」 言った。 はっきり言った。 何を言っているんだ、自分は。 顔が一気に熱くなった。「いや、今のは、その……」 三人の視線から逃げるように隣を見る。 カイルドだけが、妙に満足そうだった。「団長、なんでそんな顔してるんですか」「別に」「絶対別にじゃないでしょう」 三人の淫魔が顔を見合わせた。「あー……」「なるほど」「そういう?」「違っ……」「じゃ、お邪魔しましたー」「カイルド様、幸せそうで何より」「お前も頑張れよ」「何を!?」 三人は笑いながら去っていった。 リオはその場に立ち尽くす。「……最悪」「何が」「全部です」「俺は嬉しかったけど」「言わないでください」 カイルドは少しも悪びれない。 リオは熱い顔を押さえながら歩き出した。 ◇ しばらくして、ようやく羞恥が落ち着いてきたころ。 リオは隣を歩くカイルドを見た。「団長、本当に最近、提供所に行ってないんですか?」「ああ」「どのくらい?」「お前を預かってから、一度も」 リオの足が止まった。「……一度も?」「ああ」「なんで?」「必要ないから」「でも前は、何人にも分けてたんですよね」「そうしないと余ってたからな」「今は?」 カイルドがリオを見る。「君が持っていくだろう」「……」「十分足りてる」 確かに最近、カイルドが精気過多で体調を崩すことはない。 それでも、別の理由が胸に引っかかった。「俺がいなかったら、またあの人たちにあげるんですか?」「何でいなくなる」「例えばです」「考えたことないな」「考えてください」 カイルドは少しだけ眉を寄せた。「今はお前がいる。それでいいだろう」「……ずるい」「何が」「そういう言い方」「じゃあ言い直す」 カイルドは何でもないことのように言った。「俺の分は全部君にやる」「……」 また顔が熱くなった。「だから他にやる必要がない」 リオはしばらく黙って歩いた。 さっき自分が叫んだ言葉が蘇る。 全部俺のもの。 勢いで出た言葉だった。 けれど。「……俺だって」「何」「団長が他の淫魔にあげるの、嫌です」「ああ」「だから……本当にあげないでください」「分かった」「そんな簡単に」「難しい話か?」「……違いますけど」 カイルドの手が伸びてくる。 リオは少しだけ迷って、その手を握った。「全部俺のものって言ったしな」「それは忘れてください」「無理だな」「もう!」 そう言いながらも、手は離さなかった。