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第3章 王国一の提供者

落ちこぼれ淫魔の俺、絶倫騎士団長の専属になりました — fujossy.jp · All chapters

第3章 王国一の提供者

「カイルド様、そろそろじゃない?」 声をかけられ、カイルドは剣を止めた。 訓練場の隅。 午前の鍛錬を終えた騎士たちが次々と引き上げていく中、カイルドだけがまだ剣を握っていた。「何がだ」「精気。また溜まってるだろ」「まだ平気だ」「お前の平気は信用ならん」 副団長が呆れたように言った。「前に出したの、いつだ」「十日前」「今日行け」「分かった」「絶対だぞ」「ああ」 剣を鞘へ収める。 言われるまでもなく、自分でも分かっていた。 身体が重い。 動けないほどではない。剣も振れるし、仕事にも支障はない。 だが、本調子ではなかった。 精気が溜まりすぎている。 生きている限り、精気は身体の中で作られ続ける。 適度な量であれば、身体や魔力を維持するための力になる。だが、溜め込める量には限界があり、それを超えれば逆に身体へ負担がかかる。 倦怠感。 発熱。 集中力の低下。 ひどくなれば、魔力の制御にも影響が出る。 普通なら、そこまで溜め込むことはほとんどない。 日常生活でも少しずつ消費されるし、余剰分が身体を圧迫するほど精気量の多い人間自体が珍しい。 カイルドは、その珍しい人間だった。 身体能力も魔力量も、生まれつき人並みを大きく上回っている。 そして、なぜか精気まで同じだった。 定期的に外へ出さなければ、身体に支障をきたす。 それを知らずに一度倒れて以来、カイルドは王国の登録制度を利用し、淫魔へ余った精気を提供していた。     ◇「カイルド様!」 提供所へ入った途端、何人もの淫魔がこちらを向いた。「久しぶり」「今日、俺空いてるよ」「カイルド様、次は俺にしてよ」「俺も!」 受付まで歩く間にも声が飛んでくる。 カイルドはそのほとんどを聞き流し、受付に立った。「空いてるのは?」「何人?」「三人」「また三人?」「ああ」 受付の淫魔が帳簿を開いた。「一人ずつじゃなくていいの?」「そのほうが時間がかかる」「……相変わらず色気のない理由だね」「必要な量を渡せれば同じだろ」「カイルド様にとってはね」 誰でもよかった。 精気を受け取ってくれるなら、それでいい。 特定の淫魔を指名したことはほとんどない。 相性に問題がなく、その日の必要量を受け取れる者。 カイルドが求める条件は、それだけだった。「じゃあ、この三人」「ああ」「名前くらい確認したら?」「必要か?」「……いいです」 受付の淫魔が諦めたように肩をすくめた。     ◇ 大きなベッドに、カイルドと三人の淫魔がいた。 シーツはすでに半分乱れていて、カイルドはヘッドボードに背を預けたまま、シャツを脱ぐことすら自分ではしなかった。 指先が乳首へ寄ろうとした瞬間、カイルドの眉がわずかに寄る。「……そこは、いい」 くすぐったいだけで、気持ちよくはない。その感触を避けようと、カイルドは片手を伸ばし、いちばん近くにいる淫魔の腰へ触れようとした。 ぺしっ。 手の甲を軽く叩かれた。「だめ」 淫魔は笑っていなかった。目だけが少し細くなり、カイルドの手首をそのままシーツへ押し戻す。「僕がやるの。カイルド様は、おとなしくしてて」 もう一人が反対側からシャツの隙間へ指を滑り込ませ、ボタンを一つ、また一つと外していく。 三人目はカイルドの腿の内側へ顔を寄せ、布の上から膨らみを頬ずりした。「今日も、かなり溜まってるね」「そんなことも分かるのか?」「そりゃ分かるよ。すごいもん」「俺たち三人で足りるかな」「足りなかったら追加してもらえば?」 三人が楽しそうに話している。 カイルドは特に口を挟まなかった。 これも珍しいことではない。 一人の淫魔が一度に受け取れる精気には限度がある。 以前は一人ずつ相手にしていたが、それでは時間がかかるため、最近は複数人をまとめて相手にすることも増えた。「魅了、使うよ」「ああ」 一人の淫魔と目が合った。 その瞳の奥に、淡い光が灯る。 直後、魔力が触れた。 ぬるい熱が、身体の奥へじわりと染み込んでくる。 思考に薄い膜がかかったように、ほんのわずかに判断が鈍る。 意識ははっきりしている。何をされているのかも分かっている。 それなのに、身体だけが勝手に欲を拾い上げる。普段なら無視できる程度の刺激にまで、反応を引きずり出される。 理性を失うわけではない。 ただ、自分の意思より先に身体を動かされるような、この感覚をカイルドは好まなかった。 隣にいた淫魔も、カイルドへ身体を寄せた。「俺もかける」「一人でいい」「でも、今日かなり溜まってるし」「関係ない」 淫魔は少し意外そうな顔をした。「魅了、重ねたほうが楽じゃない?」「必要ない」 効率がいいことは分かっている。 だから拒みもしない。 だが、必要以上に受けたいとも思わなかった。 三人の淫魔が、代わる代わるカイルドへ触れる。 唇。 指先。 肌。 一人がカイルドの口を塞ぎ、深く舌を絡めた。 もう一人は腹から下へ降り、すでに硬く勃ったものを掌で包んで上下に扱く。 残る一人は胸に顔を埋め、乳首を舌で転がしながら吸い上げた。 接触が増えるたび、身体の中に溜まっていた精気が少しずつ流れ出していく。 一番手前の淫魔が腰を上げ、カイルドのものをゆっくり沈めていく。 濡れた内側が根元まで咥え込み、淫紋が淡く光った。 奥まで入ったところで腰を円く揺らし、精気を積極的に吸い上げる。「……やっぱりすごい」「ね、すっごく美味しい」 騎乗している淫魔の腹が小さく膨らむたびに、熱い精気が体内へ流れ込んでいくのが、本人たちには分かる。 なのにカイルドのものは一向に萎えない。根元は相変わらず熱く、脈打っていた。 カイルドにとっては、いつものことだった。 淫魔たちの淫紋は、精気を受け取るほど少しずつ色を濃くしていく。 騎乗していた一人が先に声を上げ、腰を深く沈めたまま身体を震わせた。 内側が痙攣し、カイルドの精気を一気に飲み込む。 それでも足りず、そのまま腰を振り続けた。 しばらくして一人目が先に身体を離した。「俺、もう無理」「早くない?」「今日のカイルド様が多すぎるんだって」 淫紋はすっかり濃く染まっている。「じゃあ俺、もうちょっともらう」 二人目がすぐ入れ替わり、今度は後ろ向きに跨った。 片手で自分の先を扱きながら、カイルドのものを奥まで咥え込む。 背中を反らし、淫紋を光らせて精気を貪った。「ずるい」「入るならいいだろ」 カイルドは身体を起こした淫魔を見た。「まだ入る」「なら好きにしろ」 欲しいというなら渡す。 受け取れるうちは受け取ればいい。 カイルドにとっては、それだけのことだった。 残った一人がカイルドの顔へ膝をつき、先を唇へ押し当てた。 カイルドは黙って含み、舌を動かした。 下では二人目がまだ腰を打ちつけ、上では三人目が喉の奥まで沈めてくる。 すでに限界で降りていた一人目も、まだ熱の残った身体のままカイルドの脛へ寄っていた。 硬さを完全には収めておらず、太腿の筋肉に自身を押し当て、前後に擦りつけながら小さく息を漏らす。 精気はもう十分受け取っているのに、カイルドの肌の熱だけは手放したくないらしかった。 上と下と、脚にまで。 三人同時にカイルドの身体を使っていた。 やがて二人目も限界を迎え、離れていく。 腰が止まらないまま何度目かの絶頂を迎え、精気を受けすぎて腕が震える。 淫紋は限界近くまで色を飽和させ、やっとカイルドから降りた。 最後の一人も十分な精気を受け取り、満足そうに息を吐く。 口を離し、残ったものを手で搾り取って自分の腹へ塗りつけるように受け止めた。 それでもカイルドのものはまだ完全には収まっていなかった。「……もういっぱい」「そうか」 カイルドは枕に後頭部を預け、天井を見上げた。 三人に分けても、体内にはまだ半分近い精気が残っている。 身体は多少軽くなった。それでも、内側に溜まった重さまでは消えていない。 だが、これ以上続けても三人のほうが受け取れない。 今日はここまでだ。 すべて渡す必要もない。 精気は減れば、また新しく作られる。そして、生成されたばかりの精気ほど質がよく、身体能力や魔力にもいい影響を与える。 だからカイルドは、ある程度まで溜まったところで淫魔へ提供し、空いた分だけ新しい精気を作らせる。 すべて空にしてから溜め直すのではなく、古いものを減らし、新しいものへ入れ替えていく。 それを繰り返すのが、もう何年も続いている習慣だった。「次も俺呼んでよ」 ベッドの端で水を飲んでいた一人が言った。「空いていれば」「指名してよ」「なぜ」「なぜって……」 淫魔が呆れた顔をする。 隣にいた淫魔が笑った。「諦めなよ。カイルド様、本当に誰でもいいから」「それはそれで傷つくんだけど」「俺たちの名前、覚えてる?」 三人の視線が集まった。 カイルドは答えなかった。「ほら!」「一人くらい覚えてよ!」「前にも会ってるんだけど!」「そうだったか?」「ひどい!」 賑やかな声を背に、カイルドはシャツを手に取った。 実際、誰でもよかった。 余った精気を渡す。 淫魔はそれを受け取る。 必要なのは、それだけだ。 誰が相手でも構わない。 だから今日も、カイルドは三人の名前を一度も呼ばなかった。     ◇ 数日後。 騎士団本部の執務室へ、一人の男が訪ねてきた。「久しぶりだな」 顔を見た瞬間、カイルドには昔の記憶が蘇った。「珍しいな」「ああ。今日は頼みがあって来た」 男は淫魔養成学校の試験官だった。 付き合いは長い。 カイルドがまだ騎士団長になるよりずっと前、自分の精気量が異常だと知らなかったころ、一度だけ限界まで精気を溜め込んだことがある。 訓練の最中、突然身体が動かなくなった。 高熱と激しい倦怠感。魔力まで不安定になり、周囲には原因すら分からなかった。 偶然その場に居合わせ、原因を見抜いたのがこの男だった。 精気過多。 処置が遅れていれば、魔力にも深刻な影響が出ていたらしい。 その後、登録制度を使い、定期的に淫魔へ精気を提供するよう勧めたのも彼だった。「それで、頼みって?」 試験官が一枚の書類を机へ置いた。 カイルドは目を落とす。 実地研修受入申請。「うちの生徒を一人、預かってほしい」「淫魔を?」「ああ」「なぜ俺に」「卒業試験に何度も落ちている」 カイルドはもう一度、書類へ目を落とした。「問題があるのか?」「魅了がほとんど使えない」「淫魔なのに?」「ああ。誘引香も弱いし、淫紋も薄い。淫魔としての素質だけ見れば、かなり厳しい」「それなら、なぜ実地研修に?」「それ以外は問題ないからだ」 試験官は椅子の背へ身体を預けた。「座学は優秀。実技も卒業水準を超えてる。魅了が使えないぶん、本人なりにかなり練習してきたらしい」「なら、何に落ちている」「精気充足率だ」「足りないのか」「ああ。何度やっても基準まで届かない」「原因は?」「魅了だと考えてる」「魅了?」「魅了が使えないぶん、精気を受け取るのに時間がかかる。提供者が先に限界を迎えてしまうんだ」「それで俺か」「ああ」 ようやく話が繋がった。 カイルドなら精気量そのものが多い。 先ほどの三人ですら、受け取れたのは半分ほどだった。多少時間がかかろうと、途中で精気が尽きる可能性は低い。「学校で相手を替えながら試験を繰り返すより、一人の提供者を固定して、一定期間様子を見たい」「分かった」 あまりにもあっさり返事をしたからか、試験官が眉を上げた。「受けてくれるのか?」「ああ」「……もっと嫌がると思ってた」「面倒ではある」「だろうな」「だが、あんたには借りがある」 試験官が黙った。「あのときの借りを返す」「……まだ覚えてたのか」「忘れる理由がない」 試験官は少しだけ笑った。「じゃあ、遠慮なく頼む」「ああ」 カイルドは申請書を引き寄せた。「名前はトア、二十二歳だ」「そうか」 それ以上、聞くこともなかった。 顔も知らない。 どんな淫魔なのかも、特に興味はない。 カイルドは署名欄へ名前を書いた。 自分の余った精気を渡す相手が、一人増える。 ただ、それだけのことだ。 どうせ定期的に誰かへ渡さなければならない。 その相手が誰であろうと、カイルドにとって違いはなかった。