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第7章 初めての本物

落ちこぼれ淫魔の俺、絶倫騎士団長の専属になりました — fujossy.jp · All chapters

第7章 初めての本物

二回目の研修が決まったのは、それから数日後だった。 ようやく騎士団の仕事が落ち着いたらしい。 ただし、指定された場所は前回と違った。 騎士団本部でも、学校の実習室でもない。 教えられた住所を訪ねたリオは、目の前の建物を見上げた。「……おっきい」 王国騎士団長の自宅なのだから、ある程度は想像していた。 それでも、実際に来てみると少し緊張する。 呼び鈴を鳴らす。 しばらくして扉を開けたのは、カイルドではなかった。「リオ様でいらっしゃいますね」 年配の男だった。 きっちりと整えられた服装と立ち居振る舞いに、リオは慌てて背筋を伸ばす。「はい」「お待ちしておりました。どうぞ中へ」「お、お邪魔します」 案内されるまま玄関をくぐる。 広い。 外から見ても大きな屋敷だったが、中へ入ると余計にそう感じた。 磨かれた床に、高い天井。廊下の先にもいくつもの扉が並んでいる。 自分の暮らす部屋とは何もかも違う。 きょろきょろするのも失礼な気がして、リオは前を歩く男の背中だけを見ることにした。「こちらでございます」 通された部屋で、ようやくカイルドを見つけた。「来たか」「はい」 私服姿のカイルドを見るのは初めてだった。 いつもの制服ではない。 それだけで、知っている人なのに少し違って見える。「今日はここなんですね」「ああ。問題があるか?」「ないです。専属研修なら、場所はどこでもいいって聞いてますから」 むしろありがたい。 前回のように仕事の途中で呼び出され、そのまま中断されるよりずっといい。「今日はもう仕事ないんですよね?」「ない」「じゃあ最後までできますね」「ああ」 リオにとっては研修の話をしているだけだ。 カイルドにとっても同じだった。 前回は途中で中断された。 今日は、その続きを最後まで行う。 それだけのことだった。「行くぞ」 カイルドに促され、今度は二人で廊下を進む。 いくつかの扉を通り過ぎた先で、カイルドが一室の扉を開けた。 寝室だった。 最初に目に入ったのは、大きなベッドだ。 前回の提供室にあった寝台とは違う。 ここでカイルドが毎晩眠っている。 そう考えると、ほんの少しだけ変な感じがした。「ここ使っていいんですか?」「そのために呼んだ」「ですよね」 リオはあっさり納得した。 提供するならベッドがあるほうが都合がいい。 それ以上でも、それ以下でもない。 体調を確認し、持参した簡易測定器で提供前の数値を記録する。 そして、魅了。 リオはカイルドへ意識を集中させ、教わった通りに魔力を流した。 数秒。 カイルドの表情は変わらない。 さらに少し待つ。 やっぱり変わらない。「……どうですか?」「前回と同じだ」「ですよね」 分かっていた。 適合率が百パーセントでも、ここだけはどうにもならないらしい。 リオは小さく息を吐いた。「次までには、もう少し何とかします」「そうか」「絶対、今どうでもいいと思ってますよね」「始めないのか?」「始めますよ」 これ以上やっても結果は変わりそうにない。 リオは魅了を切り上げ、カイルドへ近づいた。 最初に触れたのは、唇ではなかった。 リオは片手をカイルドの後頭部へ回し、短い髪の根元を親指でゆっくりと撫でた。 前回、カイルドにされたのと同じ場所だった。 あのとき、不意に触れられたそこが妙に心地よかったのを覚えている。 自分がされて気持ちよかったことは、相手にもしてみる。 それがリオのやり方だった。 教科書に書かれていることだけでは、相手が何を好むかまでは分からない。だから自分で試して、覚えて、次に使う。 髪の根元を撫でながら、リオはカイルドの表情を窺った。 嫌がる様子はない。 それを確かめてから、そのまま耳の後ろへ唇を寄せた。 熱を吸うように、短いキスをする。柔らかい皮膚の下で脈が打っている。 リオはその熱を唇に感じながら、舌先だけをわずかに滑らせた。 首筋の正面はなぞらず、うなじへ降りる。肩甲骨まではいかない。座った背中の、襟足だけを掌で温めた。 胸には、最初から寄らなかった。 カイルドは、リオの手が乳首の周囲すら通らないことに気づく。 一度しかしていない。 それなのに、嫌だった場所が最初から外されている。 代わりに口が重なる。 浅く触れて、それから深く入ってくる。舌は絡むが、前回ほど長くは吸わない。 カイルドが応えたところで一度離し、今度はカイルドの下唇だけを軽く噛んだ。 リオは口を塞がれたまま、鼻の奥で小さく「んっ……」と鳴いた。 唾液が細い糸を引いて顎へ落ちる。 リオは残った雫を舌先で舐め取ると、離れがたそうにもう一度だけ唇を重ねた。 精気は、そのころにはもう動き始めていた。 接触する場所から、溜まっていた熱がリオの掌へ、唇へ、細い道を作る。 魅了はない。 カイルドの頭は澄んだままだった。 リオの手が脇腹へ滑る。 前回、舌を当てて腹が引いた場所だ。 今度は舌ではなく、指の腹で肋骨の下を撫でた。カイルドの腹が、同じようにくすぐったそうに引っ込んだ。 リオはそこへ顔を寄せ、息だけを当ててから、熱を持った皮膚をゆっくり舐め上げた。 汗の味が薄い。 リオはそこを二度なぞると、ベルトへ移った。 金具、革、ファスナー。 手際よく脱がされていく。 薄い布地の上から顔を寄せる。 前回そうして熱を確かめたあと、カイルドの腿に力が入ったのは、カリと裏筋だった。 リオは下着を下ろし、熱を持って立ち上がったものを掌で軽く支え、先から滲んだ液を親指で伸ばした。 いきなり口はつけず、まず根元に指を添えた。「ん……」 吐息だけを先に当てる。 それから舌先で太い裏筋を、下から上へなぞった。 腿に力が入る。 カイルドの反応は、前回と同じ場所だった。 リオは小さく息を漏らして、そこへ口をつけた。 先を包み込む前に、裏筋だけを唇ではさむ。水音をわざとさせながら吸い付く。 舌の平らな面でその筋を何度も塗り、先がさらに濡れるたびに、喉の奥で精気の熱が増した。 やはり上手い、とカイルドは思った。 落ちこぼれと聞いた研修生が、反応にしっかり気づき手順に変えている。 自己中心的な動きはなく、嫌な場所を外し、効いた場所だけを残す。 丁寧だった。 精気の流れが太くなる。 行き先が決まった水みたいに、リオのほうへ流れていくのをカイルド自身でも感じる。 リオはようやく先を含んだ。「んむっ……」 喉が鳴る。 上下はゆっくりで、舌は一度も裏筋から外さない。 片手は根元、もう片手は袋を掌に乗せて、強くは揉まない。熱い袋を指の腹で転がし、茎を唇で浅く扱きながら、時折だけ深く沈めて喉の奥を絡めた。 濡れた音が、小さく立つ。 先端を攻めるより、カイルドの腿が強張る角度だけを繰り返した。 カイルドの指が、またリオの髪へ入る。 耳の後ろを親指でなぞる。 リオはそれを合図だと理解して、深く沈めた。「出す」「んぐっ……」 熱いものが喉の奥へ溢れる。 精気も一緒だった。 濃い熱が舌の根元を伝い、リオは零さないよう喉を鳴らして飲み込んだ。 射精の脈が止まるまで、口の中で優しく吸ったままリオは余韻を味わった。 口を離すと、リオは唇の端を指で拭った。 残った白濁を舌で軽く舐め取ってから、顔を上げた。 前回中断されたところまで来た。 今日は仕事もない。 時間も十分にある。 ようやく、その先へ進める。 リオもそのつもりだった。 ところが。「……」 急に動きが止まった。 カイルドは黙って待った。 リオが座る位置を変える。 何かを確認する。 少し足の位置を変える。 また止まる。「……」 もう一度、確認する。 さっきまでの手際のよさが嘘のようだった。 カイルドは眉を寄せた。 何をしている。 最初は、わざとかと思った。 ――焦らしているのか? そういう技術なのかもしれない。 リオなら知っていてもおかしくない。 だが、一向に進まない。 それどころか、本人の表情が妙に真剣だった。 遊んでいる顔ではない。 本気で困っている。「……リオ」「はい」「何をしている」「今、やります」「さっきからそう見えないが」「ちょっと待ってください」 また位置を確認している。 カイルドはそこで、ようやく別の可能性に気づいた。「まさか」「はい?」「分からないのか」 リオがむっとした。「分かりますよ」「なら、なぜさっきから止まっている」「分かりますけど」 一度、言葉を切る。「本物を入れるの、初めてなので」「……」 カイルドは黙った。「初めて?」「はい」「経験がないのか」「ないですよ」 あまりにも普通に返されて、カイルドはもう一度黙った。 てっきり経験があると思っていた。 キスも。 愛撫も。 口ですることも。 何一つ迷わない。 こちらの反応を見る余裕まである。 それなのに。「じゃあ、今までどうやって練習してたんだ」「玩具です」「玩具?」「学校でも習いますし、家でも練習してます。実習では……今まで、フェラより先まで行けたことがなくて」 それで、あの技術なのか。 カイルドは妙に納得した。 知識はある。 技術もある。 努力もしている。 ただし、実際の経験だけがない。「……そういうことか」「何ですか」「急に下手になった理由が分かった」「下手!?」 リオが勢いよく顔を上げた。「初めてなんだから、仕方ないじゃないですか」「責めてない」「玩具なら、ちゃんとできるんです」「分かった」「……今、下手だと思いましたよね」「実際、手間取っていた」「だから、それは初めてだからです」「分かってる」 リオは納得していない顔で口を閉じた。 ついさっきまで、あれほど迷いなくカイルドに触れていたのが嘘のようだった。 知識も技術もあるくせに、経験したことのないことになると途端に余裕がなくなる。 カイルドは小さく息を吐いた。「代われ」「え?」「俺がやる」 リオは戸惑った。「でも、俺の研修ですよ」「だから?」「俺がしないと意味がないんじゃ……」 淫魔は精気を受け取る側だ。 提供者を気持ちよくして、精気を引き出す。そのために魅了を使い、相手の反応を覚え、触れ方を学んできた。 少なくとも学校では、ずっとそう教えられている。「団長に任せたら、俺の実技にならないですよね」「今日は実技試験じゃない」「そうですけど……」「それに、俺は自分で動くほうが好きだ」 リオは目を瞬いた。「そうなんですか?」「ああ」 初めて聞いた。 これまでの研修では、ずっとリオが主導していた。カイルドも何も言わなかったから、それでいいのだと思っていた。「だったら、前も言ってくれればよかったのに」「君が研修してたからな」「……それはそうですけど」 なんとなく納得がいかない。 自分はカイルドを気持ちよくするために、反応まで必死に覚えていたのだ。 その相手から、実は自分で動くほうが好きだと言われてしまった。「じゃあ俺、今まで余計なことしてました?」「そうは言ってない」 カイルドは淡々と返した。「されるのが嫌なわけじゃない。ただ、自分で動けるならそのほうがいい」「……なるほど」 そういう人もいるのか。 教科書には載っていなかった。「それに、初めてなんだろう」「はい」「なら最初くらい任せろ」 リオは少し迷った。 淫魔なのに、提供者に任せてしまっていいのだろうか。 けれど、目の前の提供者本人がそのほうがいいと言っている。 相手の希望に合わせるのも、学校で教わったことの一つだった。「……分かりました」 今度は素直に頷いた。「お願いします」「ああ」 それまでずっと、触れるのも、気持ちよくするのも、精気を受け取るために動くのもリオの役目だった。 初めて、その立場が入れ替わった。 リオはベッドの上で四つん這いにさせられていた。 肘がシーツに沈み、開いた膝のあいだから冷気が入る。 自分で自分をほぐした夜とは、もう姿勢から違った。 カイルドは後ろに膝をつくと、ローションを掌で温めてからリオの入り口へ塗った。 指先が輪をなぞる。 リオは知識では全部分かっている。 角度、深さ、前立腺の位置。 なのに、触れられた瞬間に息が浅くなった。「指でほぐすぞ」「……はい」 一本目が入る。 自分の指より太い。長い。 内側を押し開く圧が、根本から違う。 リオの肩がすくんだ。「あっ……」 二本目を入れられたとき、リオはシーツを掴んだ。 圧迫感は、自分が三本入れたときと同じくらいある。 なのに内側は拒まなかった。 熱い粘膜が欲深そうに指を銜え込み、引き抜こうとするたびに絡みついて離さない。 ローションの音が濡れ、カイルドの指が奥へ沈むほど、リオの中はもっと、もっと、と吸い寄せてきた。 カイルドはもう一本指を増やそうとする。「もう一本入れるぞ」「大丈夫です……っ。普段、このくらい開いたら入れてます」 カイルドの手が、一瞬止まった。 差し込んだ二本を浅く開いて、熱い輪の緩みを確かめる。 指の腹に絡みつく粘膜は濡れている。 それでも入り口は、まだ自分を通すには狭い。「まだ狭い」 三本目が沈む。 ローションが糸を引き、内膜が熱く開かれていく。 リオの知識は「拡張」だと理解していた。 感覚のほうは、理解に追いついていなかった。 その指が、内側の少し硬い場所を押した。「――っ、あ」 背中がしなる。 腰が勝手に落ちて、リオは自分からカイルドの指へ腹を擦りつけた。 ピンクのディルドで全体を擦っていたとき、そこは「気持ちいいくらい」だった。 今は違う。 一点だけを、正確に、繰り返し当てられている。「もっとして……っ、気持ちいいです、そこ、好き……っ」 リオの白い尻が嬉しそうに揺れる。 淫魔は、提供者を悦ばせ、その対価として精気を受け取る。 だから自分から触れ、自分から動く。それが当たり前なのだと、カイルドは思っていた。 少なくとも、これまで相手にした淫魔は皆そうだった。 自分がされる側に回るより、カイルドの反応を確かめながら奉仕することを優先していた。 リオも同じなのだろうと思っていた。 けれど、今は違う。 四つん這いになったリオは、後ろから触れるカイルドの指を自分から求めるように腰を動かしている。 声を抑えようとする様子もない。 相手を悦ばせることばかり考えていた先ほどまでとは、まるで別人だった。 リオの痴態に、カイルドの股間がまた熱を持った。 一度出したあとだというのに、リオの喘ぎだけで硬さが戻る。 指を前立腺に固定したまま、小さく擦る。 集中的に。 リオの腰がへこへこと逃げた。 快感を散らそうとする浅い動きだった。 カイルドは片手でリオの腰骨を押さえた。 逃がさない。 開いたまま、同じ場所だけを責める。「ああ、だめ、そこばかり……っ。気持ちよすぎて、とけちゃう……んあっ」「逃げるな」 腰を固定されたまま、前立腺を指で転がされる。 リオの肘が滑った。 頭がシーツに落ち、尻だけが高く残る。 頭では、このまま続けられたら壊れると分かっている。 身体は、分かったうえで甘く崩れていた。 三本の指がさらに奥へ進む。 小さなピンクのディルドでも、リオは十分奥を刺激されているつもりだった。 根本まで沈めて、そこが限界だと思っていた。 カイルドの指は、その先をあっさり開いた。「うそ……まだ、先が……っ」「まだ指だぞ」 ローションの音がひときわ部屋に響いた。 指を抜き、カイルドは硬く、カリの段差のはっきりしたものをリオの入り口へ当てた。 熱い。 玩具より太く、脈を打っている。 リオは振り返れなかった。 当たっている先端の熱と太さに、ついさっきまで口で含んでいた形が重なる。 あれが、今から奥へ入ってくる。 想像しただけで、喉が鳴った。 ゆっくり沈む。 カリが熱い肉襞を押し分けるたび、リオの指がシーツの奥まで沈んだ。 自分のディルドの長さを超えたあたりで、リオの声が裏返った。「普段……っ、ここまでしか、入らないのに」 カイルドはリオの様子を見ながら進めた。 肩の力、呼吸の浅さ、腰の震え。 経験者の目で、一度止めてはまた沈める。 根元まで入ったとき、リオの腹の奥が熱い塊で満たされた。 精気が、どっと流れ込む。 前回の口だけとは量が違った。 接触が深いほど、熱いものがリオの内側へ注がれる。 腰を押さえられたまま、奥を開かれ、前立腺を実物の硬さで擦られている。 逃げられない快感に、足の指がシーツを蹴った。「好き、そこ……っ、全部、ください……んあっ、あっ」 カイルドは最後まで止めなかった。 腰を深く打ち、精気を渡し切る。 リオの内側が収縮してそれを飲み、白いものがリオ自身の先からもシーツへ落ちた。 しばらく、リオは動かなかった。 カイルドのベッドに身体を預けたまま、天井を見ている。「……おい」「はい」「大丈夫か」「大丈夫です」 返事はする。 だが、まだ天井を見ている。「どうした」「……全然違う」「何が」「玩具と」「それはそうだろう」「分かってましたよ」 リオがようやく顔を向けた。「分かってたけど、思ってたより全然違いました」 学校で習った。 本でも読んだ。 玩具を使って、自分でも何度も練習した。 それでも知らないことがあった。 相手が動くこと。 自分の予想とは違う触れ方をされること。 そして何より。「……すごい」 リオは自分の腹へ手を置いた。「精気か?」「はい」 かなり受け取った。 前回の比ではない。 身体の奥にあった空腹感が、ほとんど消えている。「こんなにもらったの、初めてです」 嬉しそうだった。 カイルドはその顔を見ながら、自分の身体へ意識を向けた。 こちらも相当な量を渡した。 普段なら、一人に与える量ではない。 一人では受け止めきれないからだ。 だから何人かに分ける。 それが今までの普通だった。 だが、リオは受け止めた。 途中で苦しそうになることもなく、最後まで。「……平気なのか」「何がです?」「これだけ受け取って」「はい」 リオは自分の状態を確かめるように身体を動かした。「むしろ、すごく調子いいです」「そうか」「団長は?」 聞かれて、カイルドも自分の状態を確かめる。「俺も問題ない」「よかった」 問題ない。 それどころではなかった。 身体が軽い。 いつもの提供後とは違う。 普段も、精気を渡せば身体は多少軽くなる。 だが今日は、それ以上だった。 身体の内側にいつもわずかに残っていた重さまで、きれいに抜けている。 これだけの量を一度に渡したからだろうか。 カイルドには、まだ分からなかった。 リオは満足そうにベッドへ転がった。「よかったぁ」「何がだ」「ちゃんと最後までできたから」 研修のことらしい。「これなら卒業に近づけますよね」「そうだな」「次もお願いします」「ああ」 即答した。 次も。 そうなると、また互いの予定を合わせ、リオをここまで来させることになる。 学校からこの屋敷までは近い。 部屋ならいくらでも余っている。 そこまで考えたところで、カイルドは口を開いた。「おい」「はい?」「これから、ここに住むか?」「……はい?」 リオが身体を起こした。「ここって」「俺の屋敷だ」「それは分かりますけど。なんで?」「研修のたびに来てもらうのも悪い」 今後も専属研修を続けるなら、そのたびに予定を合わせ、ここまで来させることになる。「学校もここからのほうが近いだろう」「まあ……そうですけど」「部屋は余っている」「余ってるからって、普通住ませます?」「問題があるか?」「問題っていうか……」 リオは少し考えた。 学校には近くなる。 それだけでも毎朝かなり楽だ。 それに――。「あ」「何だ」「バイト先も近くなる」 食堂へ行くにも、今の家から通うよりこちらのほうが近い。 学校にも近い。 アルバイトにも行きやすい。 研修の予定が入れば、わざわざ移動する必要もなくなる。 考えてみれば、かなり便利だった。「……俺、ここに住んだほうが楽かも」「なら、そうすればいい」「いいんですか?」「俺から言った」「それもそうですね」 リオはあっさり納得した。「じゃあ、お世話になってもいいですか?」「ああ」「ありがとうございます」 話がまとまったところで、リオはふとカイルドを見る。「……あの、団長」「何だ」「一緒に住むなら、一個お願いしてもいいですか?」「言ってみろ」「俺のこと、『おい』って呼ぶのやめません?」 カイルドが黙った。「ずっと気になってたんですよ。俺にはリオって名前があるんです」「知ってる」「知ってるなら呼んでくださいよ」「……」「これから一緒に暮らすのに、毎回『おい』じゃ変でしょう」 しばらく沈黙が落ちた。 それから、カイルドが口を開く。「……リオ」 名前を呼ばれただけなのに、リオは一瞬きょとんとして、それから嬉しそうに笑った。「はい」 その数日後。 リオは荷物をまとめて、カイルドの屋敷へ引っ越した。